無題 第3部 41


(41)
何本目かの煙草を揉み消して、緒方はやっと腰を上げた。
非常階段に通じるドアが開いていた。
ゆっくりと、緒方はその階段を降りていった。

一番下の踊り場で、壁にもたれて、二人の少年が座っていた。
一人は目を閉じてもう一人の肩に頭を乗せている。
もう一人の少年は、その少年を慰めるように、いたわるように、その少年の背を抱いていた。
それは二匹の子犬が寄り添ってうずくまっているような、ありふれた、微笑ましい風景だった。
緒方は深い息をはいて、しばしその光景を眺め、それからゆっくりと彼らに近づいた。

片方の少年が彼に気付いて顔を上げ、小さく笑った。
「緒方先生、塔矢、寝ちゃったよ。」
「良かったよ。今、オレの顔を見たくはないだろうからな。」
緒方はヒカルに微笑み返して言った。
「今日はおまえの家にでも泊めてやってくれ。そこが一番安心して眠れるだろうからな。」
静かな口調で語る緒方を見て、ヒカルは胸が痛んだ。
もしかして、この人は何もかも全て知っていて、こんな事を仕組んだのだろうか?
「緒方先生…知ってたの?」
「何を?」
アキラの気持ちを、か?知らないで、こんな猿芝居が出来るとでも思うのか?
だが、そんな言葉は口にせず、ただ、わかったような笑みをヒカルに返した。
「殴って、ごめん…なさい。痛かった…?」
「痛くなんかないさ、このくらい。」
笑ってヒカルの頭を軽く小突いた。
「タクシーを拾ってきてやるよ。」
そう言って緒方はその場を後にした。



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