座敷牢中夢地獄 41


(41)
――鉄格子?俺はまた夢を見ているのだろうか。
見慣れない風景に目を彷徨わせながら熱を持った指先に力を込めると少し動いた。
そのまま肘をゆっくりと持ち上げ、錆びついた鉄格子に見える「それ」の正体を確かめ
ようと手を伸ばした俺は、不意に額に舞い降りたひんやりとした感触に動きを止めた。
「緒方さん。・・・目が覚めましたか」
アキラの声が、柔らかな残響を伴って聞こえる。
視線を動かすと、蒼ざめた顔をせつなげに綻ばせたアキラがこちらを見ていた。
「体質に合わなかったのか、熱が出てしまったみたいですね。体もまだ動かしにくい
でしょうけど・・・もう少ししたら、元通りになりますから」
俺の額に当てていた手を動かして、アキラは労わるように俺の前髪をそっと撫でた。
その白い指をゆっくりと捉える。指がはっとしたように動きを止める。
俺の無表情な目に見つめられて、アキラの全身に緊張が走った。

動揺の色も露わに顔を背けたアキラは、だが俺の意図を理解してはいなかった。
俺は別に怒っていたわけでも何でもない。
いやそれ以前に、自分が今どういう状況に置かれているのか追究しようとする気持ちすら、
どこかへ吹き飛んでしまっていたのだ。
――欲しい。もう一度キミが欲しい。
熱に浮かされたように、俺の自由の利かない手はアキラの指から手首、肘、二の腕へと
緩慢な動作で勝手に移動していき、やがて怯えるようにびくりと肩を竦めたアキラの
後頭部を捉えると、力を込めて自分のほうへと引き寄せようとした。
「――お、おがたさ・・・?」
一瞬戸惑った声を上げ首から上を強張らせたアキラだったが、俺の視線がその美しい顔の
一点にじっと注がれているのに気づいて、漸くこちらの望みを察したらしい。
ほんの少し瞳を揺らしたあと瞼を閉じて、俺の手に促されるままゆっくりと顔を近づけてきた。

だがふとある状況に気がついて、その待ち望んだ柔らかな唇を味わうことを、俺は断念
しなければならなかった。
「どうした?私に構わず続けたらいい」
――錆びた鉄格子の向こう、深い闇の中で、先生が俺たち二人を見つめていた。



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