座敷牢中夢地獄 42
(42)
すぐにはこの状況が呑み込めなくて、俺はアキラの黒髪に手を差し入れたまま
顔だけ横に向けて先生と視線を合わせた。
先生が喉の奥で笑う。くぐもった響きが空気の中に残る。
「続けろと言っているのだよ。・・・昨夜のように」
言葉の意味を理解した瞬間、さっと全身が冷え、次いで先ほどよりも更に強い熱が
襲ってくる。
昨夜俺たちが何をしたか、この人は――
「知っ、て・・・」
「ああいう時はな、緒方くん。布団くらい敷きたまえ。可哀相にアキラは畳が膚に擦れて
痛かったそうだ」
思わずアキラを見ると、アキラは頬を上気させ泣きそうな顔をして項垂れた。
何故だ。
昨夜のことを父親に話したのか?アキラくん。
今朝、風呂場でもそんな素振りは一つも見せなかったのに。
項垂れるアキラの顔をこちらに向かせて問い詰めたい衝動が湧き起こった時、
アキラの肩から全身にかけて小刻みな震えが走っているのに気がついた。
――そうだ、あれほど父親を慕っているアキラのことだ。父親に問い詰められれば
何でも白状してしまうに違いない。アキラは言いたくなかったのに、この男がアキラに
言わせたのだ。きっとそうだ。
そう自分に納得させて、震えるアキラの黒い髪からそっと手を抜いた。
そして改めて、闇の中の先生と見つめあった。
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