無題 第3部 43
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アキラを抱く緒方の腕に力がこもった。
だがそんな事をする勇気も、度胸も、持ち合わせていない事はわかっていた。
先を行っていたヒカルがついてこない緒方を振り返った。
心配するな、コイツはもうおまえのものだよ。ヒカルにそう言ってやりたかった。
いや、それとも、と緒方は思い直した。
コイツが、オレのものだった事なんて、無かったのかも知れんな。
目で、先に行くようヒカルに促して、その後ろからアキラを抱えて歩き出した。
ヒカルの背中に小さく笑いかけて、そして、腕の中のアキラをもう一度見下ろし、アキラの
閉じられた瞼にそっと唇で触れた。
待っていたタクシーにアキラを押し込んで、発進するのを見送りながら、緒方はまた煙草に
火を点けた。
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