座敷牢中夢地獄 46


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が、普段ならそうした場面では何よりもまず父親の意見を規範として行動するアキラが
その時は行きたい、行かせて下さいと言って譲らなかった。
聞けば以前、「名人の息子」についてちょっとした特集が雑誌で組まれた時に
プロを目指す若い才能に期待を寄せる旨のアキラ宛の葉書を編集部に送ってきた
相手なのだそうで、その後どういう経緯だったものか、編集のはからいで一度
アキラと昼食を共にしたこともあったらしい。
葉書の端正な文字や文章から教養ある常識的な人物であることは一見して知られたし、
碁に対する姿勢も真摯なものに感じられた。依頼を伝えてきた知人の話では
相当な社会的地位のある人物でもあり、人格者として周囲の信望も篤いらしい。
早いうちから彼がアキラの後援となってくれるなら、それに越したことはないように
思われた。
何よりアキラと既に面識がある人物と言うならば、金銭を受け取らず碁を打つため
私的に訪問させるくらいは差し支えなかろうという結論に先生は達した。
そして勉強中の身であるのを忘れないこと、プロ試験の残りを決して気を緩めず
過ごすことを条件に、アキラの願いを許したのだと云う。
「今思えば、それが間違いだった。・・・いや、遅かれ早かれ、いずれこういう問題は
起こっていたのかも知れないが・・・」
先生は重く溜め息をついた。

当初週に一度だった指導碁の訪問が週に二度になり、プロ試験が終わる頃には
三度になっていた。
学業と碁の勉強とを両立させてこなして行かねばならない息子が素人相手の
指導碁如きで時間を割かれているのでは、いかにも惜しい。
息子の考えで決めたことには極力口を挟まない主義の先生だったが、
さすがにある日アキラを呼びつけ、おまえはこれから幾らでも碁の勉強が必要な時期、
指導碁は週に一度までとさせていただくようにと申し渡した。
アキラは素直に頷き、先方にその旨を伝えるためその足で電話へ向かったのだと云う。



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