座敷牢中夢地獄 46 - 47
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が、普段ならそうした場面では何よりもまず父親の意見を規範として行動するアキラが
その時は行きたい、行かせて下さいと言って譲らなかった。
聞けば以前、「名人の息子」についてちょっとした特集が雑誌で組まれた時に
プロを目指す若い才能に期待を寄せる旨のアキラ宛の葉書を編集部に送ってきた
相手なのだそうで、その後どういう経緯だったものか、編集のはからいで一度
アキラと昼食を共にしたこともあったらしい。
葉書の端正な文字や文章から教養ある常識的な人物であることは一見して知られたし、
碁に対する姿勢も真摯なものに感じられた。依頼を伝えてきた知人の話では
相当な社会的地位のある人物でもあり、人格者として周囲の信望も篤いらしい。
早いうちから彼がアキラの後援となってくれるなら、それに越したことはないように
思われた。
何よりアキラと既に面識がある人物と言うならば、金銭を受け取らず碁を打つため
私的に訪問させるくらいは差し支えなかろうという結論に先生は達した。
そして勉強中の身であるのを忘れないこと、プロ試験の残りを決して気を緩めず
過ごすことを条件に、アキラの願いを許したのだと云う。
「今思えば、それが間違いだった。・・・いや、遅かれ早かれ、いずれこういう問題は
起こっていたのかも知れないが・・・」
先生は重く溜め息をついた。
当初週に一度だった指導碁の訪問が週に二度になり、プロ試験が終わる頃には
三度になっていた。
学業と碁の勉強とを両立させてこなして行かねばならない息子が素人相手の
指導碁如きで時間を割かれているのでは、いかにも惜しい。
息子の考えで決めたことには極力口を挟まない主義の先生だったが、
さすがにある日アキラを呼びつけ、おまえはこれから幾らでも碁の勉強が必要な時期、
指導碁は週に一度までとさせていただくようにと申し渡した。
アキラは素直に頷き、先方にその旨を伝えるためその足で電話へ向かったのだと云う。
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だがそれ以後、家には頻繁に先方からの電話が掛かってくるようになった。
長い時は深夜過ぎまで、寒い玄関先で小声で話すアキラの声が聞こえる。
心配した夫人が電話機を暖房の入る居間に移すと、電話の時間はめっきり減少し
代わって分厚い封書の手紙が週に何通と届くようになった。
一回の指導碁の時間も長くなり、休日などは昼過ぎに先方に向かったアキラが
夜まで帰宅しないこともざらだった。
同時に夫人が――本来は朗らかな人なのだが――気遣わしげに何か考え込んでいる
ことが多くなり、わけを問うとこの間息子の着替えの最中に襖を開けてしまったところ
一瞬しか見なかったけれども体にたくさんの痣のようなものが見えた、学校で苛めでも
受けているのでは――と言う。
即刻学校に確認したが苛めの事実はなかった。
そんなある日、指導碁が長引いたアキラが一晩先方に泊まりたいと連絡を入れてきた。
先生は明日も学校がある身で朝帰りなどもっての外、先方が車を出してくれないのなら
タクシーを使って帰宅するようにと一喝し、深夜になってアキラはおとなしく帰ってきた。
だが、帰ったアキラの様子がどうもおかしい。
両親の目を避けるように帰宅の挨拶もそこそこに自室へ引っ込もうとし、
歩く姿勢がどこか覚束ない。
夫人を居間に待たせてアキラの部屋で二人きりになり、衣服を脱いでみせるよう命じた。
ためらいながら裸になったアキラの体は、――古い痣と真新しい痣とが混じり合って
見るに堪えなかった。
そればかりか、アキラがなかなか脱ごうとしない下半身を幼い頃尻を叩いた時のように
膝に横たわらせて剥いてみると、肛門から紐のようなものが垂れている。
引っ張ってみると何やら電動式で振動する、奇妙な玩具めいたものが現れた。
更に前には革製の器具が根元を締め付けるように取り付けてあり、先生はそれらの用途は
よくわからないながら、何かとても淫靡で不快な思いがしたと云う。
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