Shangri-La第2章 48 - 51
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暫くそのままでいたが、小さく掛け声をかけながら
思い切りぐいっと、折られた膝まで一息にジーンズを下ろした。
相も変わらず細い腰が、下着一枚だけでこちらに突き出されている。
前に、ヒカルを風呂に入れて、全身洗ってやったときの感覚が
ふと頭を掠めて―――奇妙な動悸がする。
慌ててぎゅっと目をつむって首を振り、深呼吸すると大きく叫んだ。
「進藤!寝間着ぐらい自分で着てくれ!
布団にぐらい自分で寝られないのか!!!」
とは言っても、後半は掠れて声にもならなかったのだが…。
少しして、ヒカルは答えるように唸りながら
仰向けにころりと転がって、
そしてまた一人、瞼の奥の世界へ引き返してしまった。
何度呼んでも、最早ぴくりとも反応してはくれない。
そんな様子に、アキラは荒く吐息をつき
思いっきり唇をつきだしながら、ジーンズを脱がせて
難儀しながらパジャマのズボンを無理やり履かせた。
さらに上着のボタンもかけてから、
無理やりヒカルを布団の中に押し込んだ。
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「もうっ!何だよ何だよ何だよっ!!!」
顔も目も、耳まで真っ赤にしてアキラはヒカルに怒鳴りつけた。
(…ったく、人の気も知らないで……)
それでも変わらず、気持ちよさそうに眠っているヒカルの目には
唇をこれ以上ないほどに尖らせて、
泣きそうなほどに潤んだ瞳で睨みつけるアキラが映るはずもない。
アキラはしばらくそのまま立ち尽くしていたが、
どうにもならず、結局、先程までヒカルのいた座椅子に座り、
傍らに置かれた、冷めきったお茶の入ったカップを取った。
別に、何がしたかったわけでも、何をして欲しかったわけでもない。
そう思ってはいるのだが、やはり目の前に居ると
色々と期待せずにはいられない。
「あーあ、ボクももう寝ちゃおうかなぁ…」
眠るにはあまりに早い時間だったが、ヒカルが眠ってしまった以上
する事もないし、ただここでこうしていても、もやもやするばかりだ。
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アキラは手早く仕度を済ませて、部屋の電気を消すと
ヒカルのいる布団に端から潜り込みながら、
大の字で眠るヒカルを押しやり、自分の場所を作ると
ヒカルにしがみつくようにして、アキラはそっと目を閉じた。
色々と思うところはあるが、それでも、
明朝、目が覚めた時にヒカルがここにいるなら、
それで十分なような気もする。
これからのことは、明日起きたら二人で少し考えよう。
まだ眠るには早すぎて、眠れないまま色々なことを考えていたが
ずっと二人で会えずに居た日々と、隣にヒカルがいる今とでは
明らかに考え事の方向性が違うことに―これまで頭の中を巡った
苦しい、つらい思考など、一つも浮かんではこないということに―
アキラ自身も気付いてはいなかった。
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寝返りを打とうとしたが、妙に狭くて、ふっと目が覚めた。
薄目を開けても周囲は真っ暗だ。
(―――ああ、塔矢か…)
二人でただ並んで横たわっているだけというのが、不思議だった。
アキラの首の下から腕を通して、頭をかき寄せると
髪になじんだシャンプーの匂いがふわりと鼻先を掠めた。
(あー、いー匂い…温ったけー………)
もう一度、アキラを抱き寄せるようにして
ヒカルは気持ち良く目を閉じた。
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