座敷牢中夢地獄 49
(49)
「・・・発端になった葉書は成り行き上、私の目に触れることになってしまったが、
以降の封書を読む気は私にはなかった。どんな相手からの手紙であれ、それはアキラに
宛てて書かれたものだったのだからね」
ただ、いざと言う時に備えて先方からの手紙は処分しないようにとだけアキラには
言ってあったのだと云う。
だが相手の通夜も済んだある日のこと、アキラが文箱いっぱいの封書の束を
父親のもとに持って来た。
これはもう必要ないだろうし処分してしまいたいけれども、自分では処理の仕方が
わからない、捨てるなり焼くなり、まだ保管しておくなり、お父さんの良いと思うように
して欲しいと言う。
「――だが、それらの手紙は一通も封が切られていなかったのだ」
アキラが自室に戻ってしまった後、先生は悩んだ。
息子に宛てられた手紙は読まないという姿勢を貫くなら、これはこのまま燃やすか
シュレッダーにかけるかして処分してしまうべきである。
だが恐らくは息子とのことで思いつめて自殺までしたのだろう相手が、人生の最後の
数週間に綴った手紙を、誰の目にも触れないまま闇に葬るというのはひどく憐れに思えた。
下世話な好奇心も手伝ったことは否定しない、と前置いてから先生は、それでも
アキラが読みたくないのなら代わりにこれを読んでやることは、男の死に関わった者の
父親としての自分の責務であるように感じたと語った。
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