座敷牢中夢地獄 5
(5)
「ボクのこと・・・ご存知なんですか」
どう答えたものか迷いながら、抱き起こして砂を払ってやった。
アキラは幾分落ち着いてきた様子で手の甲で涙を拭っている。
「もう大丈夫です。ありがとうございました」
はにかんだように笑んで礼を述べた後、アキラは自分と同様ずぶ濡れの俺を見て
困った顔をした。貼り付いたシャツの腕の辺りをちょっと引っ張ってみて言う。
「ごめんなさい。ボクを助けようとして濡れちゃったんですね。どうしよう・・・」
これくらい大丈夫だよ、と言いかけた時、鋭い声が辺りに響いた。
「アキラ!?そこで何をしている」
振り向くと厳めしい表情を浮かべた和装の熟年男性が、行燈のようなものを提げて
立っていた。アキラがぱっと明るい表情になって立ち上がる。
「お父さん」
先生はずぶ濡れで砂まみれの息子の姿を見て一瞬顔を強張らせたが、
すぐに俺もまた同じ状態であることに気づき何らかの事情を察したらしい。
「アキラ、これはどういうことだね。そちらの方は?」
「ボク、海の中で探し物をしていて・・・結構深いところまで入っちゃってたんです。
そしたらこの方が助けに来てくださって・・・」
「そうだったのか。息子がご迷惑をおかけしたようで、申し訳ない」
深々と頭を下げられて返答に困る。
このまま帰すわけにはいかないときっぱりとした口調で宣言されて、
俺はその夜先生とアキラが暮らしているという家に招かれることになった。
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