誕生日の話 5 - 6
(5)
紅茶とケーキで改めてアキラくんのお誕生日を祝っていると、緒方さんはふと思い
出したようにフォークをお皿の上に置きました。
「アキラくん、サンタさんに欲しいもの教えてあげた?」
お父さんにもらったケーキの飾りをお皿に並べていたアキラくんは、きょとんとし
た表情でふるふると頭を振りました。
「欲しいものはちゃんとサンタさんにお願いしてなきゃならないんだよ。…そうです
よね、先生?」
「あ、ああ。そうだぞアキラ」
お父さんはコクコクと頷き、『何が欲しいのか、言ってみなさい』とストレートに
訊ねました。
「ヤ。ないしょだもーん」
スプーンで掬った生クリームをぱくんとお口の中に入れながら、アキラくんはなん
ともつれない返事を返します。
「アキラ……!」
お父さんはひどいショックを受けたようでした。唇を震わせて、お父さんはそのま
ま絶句してしまいました。
「じゃあ、オレがサンタさんに電話してあげようか? 電話が繋がったら、アキラく
んは欲しいものをお願いすればいいよ」
「………」
(6)
何か胡散臭いものを感じたのか、アキラくんは横目でちらっと緒方さんを見ると、
またすぐに視線を戻して『アキラくんおたんじょうびおめでとう』のチョコレート
をモグモグとかじりました。
「大丈夫だよ、オレは聞かないから」
「……ほんと?」
アキラくんがまたちらりと横目で緒方さんの顔色を窺います。
本当だよ本当だよ。緒方さんはアキラくんの目をまっすぐに見つめ、できるだけ
誠意を込めてこっくりと頷きました。
「緒方君…本当にキミはサンタクロースの電話番号を…」
「先生には内緒ですよ。さ、アキラくんサンタさんに電話だ!」
「でんわだー!」
緒方さんがアキラくんの背中をポンと叩いて立ち上がると、アキラくんもあわて
てチョコレートを口の中に入れて立ち上がります。
そしてアキラくんは緒方さんに抱きかかえられるようにして居間を去っていきました。
「緒方君……!」
お父さんはまたもや絶句してしまいます。お母さんがそんなお父さんの肩にそっ
と手を置くまで、お父さんはスプーンを持った手の震えを止めることができなくなっ
てしまいました。
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