座敷牢中夢地獄 50
(50)
手紙は日付順に開封していった。
親子ほども年の違う子供――しかも男の――を追い回し、あるまじき悪戯を仕掛けた挙句
自殺までするような人物の手紙とは一体どのようなものかと思っていたが、
最初に開けた数通の内容は拍子抜けするほど健全なものだった。
以前見た葉書と同じ端正な文字で、アキラの体調や仕事のことを気遣ったり
自分の趣味や日常の出来事を紹介したり、先日の何々戦での誰それの棋譜はどうだった、
この間アキラが好きだと言っていた本を読んでみたらどうだったというような
他愛もない話が、延々と書き綴られている。
日記のように細々と書かれた近況報告には時折、男が色鉛筆で自筆したのだろう
少し稚拙な小さな挿絵が付されていて、そんな男の手紙から先生は無邪気で微笑ましい
印象すら受けたという。
「例えるなら小学生くらいの子供が家に帰るなり母親にまとわりついて、一日の間に
あった出来事を嬉しげに報告するような――そんな印象と言えば分かってもらえる
だろうか」
だが消印の日付が進むにつれ、その無邪気さの中に不協和音が混じり始める。
毎晩のように電話で話せた頃とは違い、手紙ではアキラの反応がわからない。
自分と会っていない間アキラが誰といて、何をしているのかもわからない。
そのことが男の精神を急速に不安定にしていったようだった。
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