Shangri-La第2章 52 - 55
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考え事をしながら眠りについたアキラが目を覚ますと
すこし窮屈で、すこし重たくて、すごく温かで――
そして眠りについた時とは違い、自分に廻されたヒカルの腕は
無意識なのか、それとも一度目を覚ましてのことか分からないが、
いずれにしても、その全てが嬉しい事には変わらない。
それにしても、額の一点が、妙に涼しい。
確かめようにも、しっかりとヒカルに捕らえられていて、難しい。
少しだけアキラが身をよじると、ヒカルの手にちょっと力が篭る。
ヒカルから離れないように、そして起こさないように
慎重に慎重に身体の向きを変えてやっと、
アキラは冷たい辺りに手を伸ばすことが出来た。
額の一点が生温く濡れ、前髪も局地的に湿っぽい。
(これって、もしかして……、よだれ?)
咄嗟にアキラは首だけでヒカルを振り返ったが、暗いうえに
角度が悪かったため、ヒカルの姿を目で確認することは出来なかった。
しかし何をしても、何があっても起きそうにない
今のヒカルなら、涎の一つも垂らしながら眠っていたとて
そうおかしいことではない。アキラは苦笑いを浮かべた。
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疲れているだろうに、その眠りの中でも求められる存在でいられる。
アキラの望みは今、ここにこうして叶えられている。
その証たるヒカルの手の上に、自らの手をそっと重ねると
ヒカルは親指でアキラの手を探し始めた。
アキラはその指にすり寄るように手を動かして、ヒカルの手を宥めた。
(さて…これから、どうしようか?)
まだ外は暗い。殆ど動かせない身体で、視線だけで時計を探したが
角度が悪く、時間を確かめるまでには至らなかった。
外は物音すらしていないことから考えて、まだ未明であろう。
時間から考えると、もう一度眠ってしまいたいが
睡眠は十分に取ったどころか、どちらかというと寝過ぎた感すらある。
―――無理もない。なにせ、ヒカルが眠ってしまったことで
夕食もとらず、早々に寝てしまったのだ――
とりあえず前髪をどうにかしたいし、ヒカルは何時に起こせばいいんだろう?
起きたらきっと、昨晩の夕食の分もお腹が空いたと言い出すに違いない。
何か食べるものがあっただろうか?
眠れそうにないことから、早々に二度寝を諦めるしかなくて、
何をしようか考えながら、アキラはとりあえず
布団を出てしまう決心だけを固めた。
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ヒカルを起こさないよう、アキラは少しずつ動いたが
動くたびに、ヒカルはぴくり、ぴくりと手に力を込めるので
相当に苦労して、ようやくアキラは布団を出た。
起こしてしまったかと何度も思ったが、抜け出てみると
ヒカルはどう見ても起きそうになかった。
ヒカルが眠っていることを確認すると、アキラは名残惜しく部屋を出た。
いつまでか分からないが、ヒカルと一緒にいられる時間には
限りがあると分かっている。分かってしまったからこそ、一秒でも早く
ヒカルの元に戻りたい。大切な時間を、離れて使いたくない。
浴室で、少し勿体ないような気もしながら
身体中を、とにかく大急ぎで、しかし念入りに洗った。
手早く済ませて、慌ただしくヒカルの眠る自室へと戻り
音を立てぬよう襖を開けて忍び入ると、ヒカルはアキラの代わりか
枕を抱いた妙な体勢でまだ眠りこけていて、その姿が愛らしく思える。
そんなヒカルの側にしゃがんで、そっとヒカルの前髪をかき分けると
隠れていた楽しそうな寝顔が現れた。
ほうっと一息つき、髪から滴り落ちる水分を拭うと
静かにヒカルの頬を撫で、髪を撫でた。
さらさらとした感触が心地よい。
頬の温かさが、これは夢ではないとアキラに教えている。
嬉しくて、何度も何度も、飽かずヒカルを撫で続けた。
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と、急に手首をつかまれて、はっとしたアキラは思わず手を引きかけた。
「ん…、なんだよぉ……」
「あ…ごめん、起こしちゃった?」
ヒカルの手が緩んだのをいいことに、アキラはまたヒカルの髪を梳いた。
まだ目も殆ど開いておらず、まだかなり眠そうだ。
「まだ眠いよね?いいよ、寝てて。まだ早いから…」
静かに囁くアキラの頚を、ヒカルはぐいっと抱き寄せ、
アキラはバランスを崩して、引かれるままヒカルの上に崩れた。
「塔矢、冷てー…」
ヒカルを置いて風呂に入った後ろめたさから、アキラは必死で否定した。
「ごめん…だって、眠いだろ?だから―――」
「ち、がう…髪、つめてー…」
「え?あ、だって、それは、キミがボクに涎たらしまくってたから…」
「よだれぇ…?んなん、してねー…」
「いや、もう凄くいっぱい垂らしてたじゃないか!
ボク前髪べたべたで、本当にひどかったのに!」
力の篭ったアキラの言葉に、ヒカルは返事が面倒に思えた。
「んー………寝よ?」
浮かべた笑顔すら眠そうなヒカルに、逆らう理由もない。
「うん、いいよ、寝ようか」
緩められた腕からすり抜け、アキラはヒカルの隣に再び収まった。
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