Trap 6 - 10
(6)
男の手がブリーフにかかった。
「――嫌だっ!」
初めてアキラが声を荒らげた。
自分がこれからナニをされるのか理解してしまったのだ。
男逹の手から逃れようとアキラは必死にもがいた。
「こら、暴れるな。お前ら、しっかり押さえてろよ」
4人の男達に押さえ込まれながらも、死にもの狂いで抵抗する。
「コイツ!おとなしくしろ!!」
と、上半身を取り押さえていた男の一人の腕に、アキラの指先があたった。
爪が男の皮膚に鋭い引っ掻き傷を残す。
「…このっ!」
声と共に、バシンッ、鋭い音が辺りに響き渡った。
一瞬、その場の空気が静まり返る。
アキラの動きが止まった。
「――」
傷を負わされた男が逆上し、その手がアキラの頬にとんだのだ。
痛烈な平手打ちを横面に受けたアキラ。
……他人に手を上げられたのは初めてだった。
アキラは茫然と宙を見つめた。口の中に血の味が広がる。
現実という痛みを、今、知ったような気がした。
(7)
「…おい、あまり乱暴なことはするな。依頼人はそれを望んではいない」
少し離れたところから厳しい声が聞こえた。
僅かに訪れた沈黙はリーダー格の男によって破られる。
アキラの意識も、その声に向いた。
――『依頼人』。
それは一体、誰なのか。
こんな卑劣な真似をする人物……たぶん囲碁関係者だ。
ボクを快く思わない人、もしくは父を恨んでいる人かもしれない。
アキラは唇をかみ締める。
リーダーである男は、そんなアキラをジッと見つめていたが、
ふと自分の腕時計に視線を移すと、
「時間は有限だ。さっさとパーティの主役を楽しませてやれ」
――男の言葉に、アキラは目の前が暗くなっていくのを感じた。
この状況は本当に先程までいた世界の延長線上にあるのか。
信じられなかった。信じたくなかった。
アキラは静かに目を閉じた。
思い出す。
ひんやりとした碁石の感触。
パチパチと石を打つ音が聞こえて…。
瞼の裏、懐かしいヒカルの笑顔が浮かんで消えた。
(8)
――下された命令に男達は行為を再開した。
アキラのブリーフが剥ぎ取られる。
ひんやりとした外気に晒され、アキラはぶるっと小さく身震いをした。
「へぇ、ちゃんと付いてるじゃん。まだ使い込んでる感じはしないな?」
アキラの先端を、男が指先ではじく。
「…ッ!」
その衝撃に、アキラは思わず目を開いた。
出来るなら、こんな現実は見たくなかったのに。
ずっと目を閉じて、悪夢が去るのを待ちたかった。でも、きっとそれは許されないことなのだ。
前が全開のシャツ一枚と靴下だけという格好で、男達の好奇の視線に晒されるアキラ。
普段、日に焼くこともない肌は乳白色。
すらりと伸びた足の間にはまだ大人になりきれていないモノが、その存在を示している。
羞恥に堪えるように、アキラは眉を寄せて、宙を見つめていた。
その表情が妙に悩ましげで、男達の興味をそそることなど、アキラは露とも気づかない。
整った顔立ちは征服欲を掻きたてられる。
少年とも少女ともつかない中性的な色香を纏ったアキラの裸体に、男達がゴクリと喉を鳴らした。
「こいつは上玉だ。この間の女よりそそられるぜ」
「毛も生え揃ってないし、可愛もんだ」
「まさかオナニーもしたことありませんってことはないよな?」
男達の下卑た会話に耳を塞ぎたかった。
しかし身体の自由は完全に奪われている。
もう自分は男達のされるがままになるしかないのだ。
だがアキラは諦めなかった。
…ボクはボクなりのやり方で抵抗してやる。
さっきリーダーの男は言った。時間は有限だ、と。
つまり、終わりは必ずやってくるのだ。
幸い『依頼人』は暴力を好まない紳士的なところがあるようだ。
−こんなことを企んだ輩を紳士と呼ぶのも滑稽だが。
金銭目的の誘拐ではないから、殺意は存在しない。恐らく目的はボクを辱めることなのだ。
ならば、ボクは思い通りになんてならない。これからナニをされても絶対に感じるものか。
――心も身体も、こいつらの好きになんてさせない。
(9)
パシャッ。
突然、発せられた閃光。シャッターをきる音。アキラはハッとした。
カメラを持った男が、アキラの恥体をファインダーに収めていた。
それが合図になった。
ふいにジッパーを下ろす音がして、アキラはその方へ視線をチラリとやった。
剥き出しなったグロテスクな男のイチモツが目に入って、嫌悪の眼差しを送る。
アキラの口元にその男のペニスが近付けられた。
「しゃぶれよ」
だがアキラは顔をそむける。と、男がアキラの鼻をつまんで、顔を上に引き上げた。
「!?」
これにはさすがのアキラも堪らず、口を開く。そこに男は自分の欲望を差し入れた。
「ん、ううっ…」
深く付き入れられて、吐き気が込み上げてくる。
「おら、しっかり咥えろよ。噛むんじゃねぇぞ」
息苦しくて、アキラの目じりにうっすらと涙が滲む。
「――っ」
呼吸を妨げられていた指が離された。
窒息は免れたが、生臭い異物に口の中を占領されて、アキラは必死に舌で追い出そうとする。
だが、その行為が男のモノに刺激を与え、膨張を促してしまう。
フラッシュとシャッターの音が連続して続いた。
他の男達もおとなしくしているわけがなかった。
アキラの両足を左右に大きく開かせると、一人がアキラの股間に顔を埋める。
「――ッ!」
ペニスの先端を舌で一舐めされると、ビクッと内腿が痙攣するように震えた。
……ダメだ。何か他のことを考えるんだ。意識をそっちに集中させろ!
今日、碁会所で打った進藤との一局。あの棋譜を思い出すんだ。
アキラは自分に言い聞かせた。
口の中を犯され、下の方を弄られ、肛門の周りをなぞり始める指先、乳首に吸い付く唇。
身体のあちこちを攻められ始め、必死にアキラは堪えようとする。
床に押さえつけられたアキラの腕。
その指先が、まるで碁石を掴むようなカタチになっていることに気づくものはいない。
こんな状況下でも、アキラは対局していたのだ。快楽という名の相手に勝とうと必死に――。
(10)
しばらくして、
「…ちっ、コイツ、なかなか勃たねぇよ」
アキラのモノを舌先でなぶっていた男が、不愉快そうに吐き捨てた。
「なんだなんだ? テメーにテクがないだけじゃねぇの?」
他の男が軽口を叩く。
「うっせぇよ!コイツが強情なんだよ!」
ギュッと、男がアキラのペニスを握り締めた。その痛みにアキラが眉を寄せる。
と、「いてっ」アキラに口で奉仕してもらっていた男の声が上がる。
どうやらアキラがさっきの拍子に歯を立ててしまったらしい。
「てめぇっ!」
男はアキラの口からイチモツを抜くと、アキラの髪を引っ張って、顔を正面に向けさせた。
威嚇してやろうと、アキラの目を見た瞬間、男は言葉を失った。
――冷静に何もかもを見透かすような、そんな瞳だった。
ゾッとした。惹きこまれそうな、けれど全てを拒絶した眼差し、こんなものを今まで見たことがなかった。
押し黙ってしまった男を不審に思い、他の男達が声をかけようとした時、
「…仕方ないな」
その様子を見ていたリーダー格の男が呟いた。そして。
「おい、アレを持ってこい」
写真を撮っていた男に命じた。
男達の視線が一斉にそちらを向く。
すると程なくして、命じられた男はどこからか黒のアタッシュケースを持ってきた。
「なぁ、こんなガキに使っても大丈夫なのか?」
「量を調節するさ。一、二時間で抜けるくらいにな」
不穏な囁きが交わされて、アキラの隣にケースが置かれた。
――カチッ。静かに止め具が外され、フタが開いた。
中から姿を現したのは、ピンクの液体の入った小瓶が数個と、注射器だった。
それを見たアキラの顔色が変わる。
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