Sullen Boy 6


(6)
「……そういえばアキラ君、この前、キミが棋院の壁を破壊したという噂を耳にしたんだが」
 反撃とばかりに、緒方は再びフェンスに腕を掛けながら、皮肉っぽい笑みを浮かべて尋ねた。
「…………?」
 アキラは目を丸くして、緒方を見つめる。
「若獅子戦さ。進藤が来ないことに腹を立てる気持ちは分かるが、物に当たるのは感心しないな」
「あれは……」
「相当鬼気迫るものがあったと聞いている」
「……だから、あれはっ!!」
 アキラが反論しようと声を上げた瞬間、その唇に緒方は人差し指を立てた。
「集合住宅のベランダで、こんな深夜に大声を出すのも感心しないぞ、アキラ君」
 気勢を殺がれたアキラは唇を噛み締めると、目で緒方に抗議する。
「フン……。進藤のこととなるとキミは人が変わるから、まあ仕方ないな」
 緒方は半ば呆れた様子で、だがどこか楽しそうにそう言うと、灰色の雲が浮かぶ上空を見上げた。
「……実際、進藤が現れてからのアキラ君は随分変わった……」
「……ボクのどこがどう変わったっていうんですか?」
 イライラしているのか、アキラの口調にはどことなく刺がある。
「そうだな……、目が釣り上がってきた」
 上空を見上げたまましれっと言ってのける緒方に、アキラは憤懣やる方ないとでも言わんばかりの
表情を浮かべる。
「……そんなことありません……」
「乱視か、アキラ君?眼科へ行った方がいいぞ」
「……だから、そ・ん・な・こ・と・あ・り・ま・せ・んっ!!」
 つい力を込めて否定するアキラの唇に、緒方は笑いながら再び人差し指を立てた。



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