バレンタイン小ネタ1 6
(6)
(おまけ)
都内一流ホテルのバー。
一面硝子張りの透明な壁は、外の風景が一望出来る造りになっている。
夜景を飾る鮮やかなネオンの数々は、眠る事のない東京の夜を静かに
物語る。室内は暗い照明で ほの暗い。
暗闇の中に浮かび上がる かすかな明かりは、かえって安らげる空間を
そこに造り出す。音楽はジャズが流れていて、ひっそりとした店内に
それは相応しく感じる。
「悪かったな、最近なかなか会えなくて」
緒方はカウンター席に座り、自分の左隣のセミロングの女性に
話しかける。
「フフ・・・。てっきり忘れられたかと思ったわ。
アナタ 本当に自分勝手な人だもの」
「今日は、今までの無礼を埋め合わせするつもりだがな」
「あら、そうなの? じゃあ、例えば どんなことをしてくれるのかしら?」
「つい先日、知り合いから30年前のワインを手に入れたんだ。
幻の名品だ。ホテルに部屋を取っているが、そこですでに冷やして
もらっている」
「えっ、もしかして数十年前に沈没した船から出てきたワインのこと?」
「そうだ」
「・・・相変わらず、小憎らしいほどの演出ね。そういうところも好きだけど」
「あとコレなんかも どうだ」
緒方はジャケットのポケットからブランド物の小さな包みを女性に渡す。
|