バレンタイン小ネタ1 1 - 5


(1)
「市河さん、甘いの好きだったよね。これどうぞ。」
アキラは学校の帰りに碁会所に寄り、女の子達から貰ったチョコの一部を
市河に差し出す。
「ボク、1人じゃ こんなに食べれないし。市河さんが貰ってくれたら
助かるけど。」
「・・・あ、ありがとう。でもねえ、アキラくんが食べたほうがいいと思う
のだけれど」
「ボクそんなに甘い物 好きじゃないから気持ちだけ受け取ればいいかな
と思って。」
・・・それは そうなんだろうけど。同じ女として市河は複雑な気分になる。
わあっ、コレなんかゴディバのチョコよ。今の中学生は高級志向ねえ。
「若先生、あいかわらずモテますねえ」
北島は碁を打ちながら、アキラに話しかけた。
「そんなことないですよ。北島さん、よろしければ お一つどうですか?」
「へっ? い、いやっ そんな貰えないですよ!」
「でも毎年、食べ切れなくて困っているんですよ。ハイ、どうぞ」
悪げもなくアキラはチョコを北島に渡す。そんなアキラを市河と他の客は
ヤレヤレ・・・と渋い表情で見る。


(2)
「ただいま」
「アキラさん、お帰りなさい」
「お母さん ハイこれ」
「まあ今年も沢山チョコを頂いたのね アキラさん。女の子にモテて
お母さん嬉しいわ。アキラさんは、好きな女の子いないの?
ぜひ家に連れてきて欲しいわね」
・・・女の子じゃないんだけどね・・・。
一瞬、ヒカルの顔が頭によぎりながら「・・・ボクは今は碁のほうが大事
だから」と、母親の手前 誤魔化す。
「ふふふ アキラさんらしいわね。今年は このチョコどうやって
食べましょうか?」
「去年みたいにチョコレートババロア・チョコクッキーとか作れば
家でする研究会のとき、芦原さんが喜んで食べてくれるよ。
芦原さん甘いの好きだから」
「それもそうね。こういうとき、芦原さんがいると助かるわね」

「うん? なんだ なんだ。誰か俺の噂でもしてるかな?」
碁会所で指導碁をしていた芦原が大きなクシャミをした。


(3)
次の日、ヒカルはアキラと碁の研究会をするために学校の帰りに碁会所に
寄る。が、早めに着いたらしく、アキラの姿が見当たらない。
「進藤君、いらっしゃい」
「あっ、こんにちは市河さん」
「ちょっと遅くなったけど、コレどうぞ」
市河は綺麗にラッピングされたチョコレートの包みを2個ヒカルに渡す。
「えっ、いいの? ありがと市河さん」と、ヒカルは少しテレ気味に
チョコレートを受け取る。
「あれ? でもなんで2個もくれるの?」
不思議そうに自分を見るヒカルに対し、市河は苦笑する。
「・・・もう一つはアキラくんのなんだけど、案の定ものすごい数のチョコ
貰ってたから渡しにくくて。だから進藤くんが貰ってくれると嬉しいわ」
ちょうど その時、碁会所にアキラが姿を現した。
「進藤君、ホラ早く しまっちゃって」
小さな声で市河はヒカルに言いながら、
「アキラくん、いらっしゃい」と、笑顔でアキラに向ける。
ヒカルは そんな市河に何か言おうとしたが、一応言う通りにバッグに
チョコレートの包みを急いで入れる。
「ごめん進藤、学級委員の用事が長引いて少し遅れた。さあ、始めようか」
「ああ・・・」
受付に立つ市河に複雑な視線を送りながらヒカルは碁盤に向かう。

研究会が終えるとヒカルはアキラに一緒に帰らないかと誘った。
・・・進藤がボクに そんなこと言うの初めてだなあ・・・とアキラは最初は
驚きの気持ちが強かったが、次第に別の期待が頭の中を占領する。


(4)
2人は碁会所を出て、碁会所前の道に立つ。
「進藤、なにかボクに用があるのか?」
一応冷静に振舞ってみるが、段々と胸の鼓動が高鳴っていくのをアキラは
感じる。ヒカルは自分のバッグからチョコレートの香りが漂う包みを一つ
取り出してアキラの胸にグッと押し付けた。
「えっ・・・!?」
・・・これは どう受け取ればいいのだろうか!?
バレンタインは とうに過ぎているけど、もしかして進藤は
ボクのことを──。
「それ市河さんからのチョコだよ。受け取れよ塔矢」
「──へっ?」
「オマエが沢山チョコを貰っているから迷惑になるから渡せないって
俺にチョコ2つくれたんだよ。コレちゃんと受け取れよ」
・・・なんだ、進藤からじゃなくて市河さんからなのか。
都合の良いように想像していた自分が急に恥ずかしくなりアキラは
赤面する。そんな自分を慌ててゴホゴホと咳き込んで誤魔化す。
そして胸に押し付けれたチョコレートを受け取る。
「市河さんも水臭いなあ。そんな気を使わなくてもいいのに」
「なんか俺、チョコの臭い かいでたら腹へってきた。
ちょっと食っちゃお」
ヒカルは自分の分のチョコレートの包装を取ると、早速摘んで口に入れ
頬張る。
「うわあ〜、コレうまいなあ」
「しっ、進藤! 道端で物を食べるなんて行儀悪いっ!!」
「そう かたいこと言うなよ塔矢。ホラ、オマエも食えよ。」


(5)
ヒカルはチョコレートを一つ摘んでアキラの口元に運ぶ。
アキラは そんなヒカルをジッと見て、何を思ったのかチョコレートを
摘むヒカルの指ごとパクッと くわえた。
一瞬ヒカルは目が点になったが、大声を上げた。
「オッ、オマエ何やってんだああっー!?」
慌てふためくヒカルに冷めた目で見ながら、ゆっくりヒカルの指から舌で
チョコレートを口内で受け取る。そしてヒカルの指を離し、口内から
開放する。
「何やってるんだって見れば分かるだろ。
チョコレート食べているんだよ。ご馳走様。
じゃあ、今度の研究会は来週の水曜日だから忘れるなよ進藤」
そう言いながらアキラはヒカルに冷ややかな視線を向ける。
「おっ、おう・・・・・・またな・・・・」
アキラの姿が遠くなるのをボーと眺めながら・・・アイツと一緒にいると 
どうも調子が狂うなあとヒカルは思う。

アキラは歩きながらヒカルのことを考えていた。
ヒカルの何気ない行動に一喜一憂する自分が嫌でならない。

・・・少しくらい困らせるくらいでいいんだ進藤は。人の気も知らないで
無邪気に土足で人の心にズカズカと踏み込んでくるのだから──。
少しムクれた表情でアキラは家路を急いだ。
                        (終わり) 



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