Sullen Boy 6 - 7


(6)
「……そういえばアキラ君、この前、キミが棋院の壁を破壊したという噂を耳にしたんだが」
 反撃とばかりに、緒方は再びフェンスに腕を掛けながら、皮肉っぽい笑みを浮かべて尋ねた。
「…………?」
 アキラは目を丸くして、緒方を見つめる。
「若獅子戦さ。進藤が来ないことに腹を立てる気持ちは分かるが、物に当たるのは感心しないな」
「あれは……」
「相当鬼気迫るものがあったと聞いている」
「……だから、あれはっ!!」
 アキラが反論しようと声を上げた瞬間、その唇に緒方は人差し指を立てた。
「集合住宅のベランダで、こんな深夜に大声を出すのも感心しないぞ、アキラ君」
 気勢を殺がれたアキラは唇を噛み締めると、目で緒方に抗議する。
「フン……。進藤のこととなるとキミは人が変わるから、まあ仕方ないな」
 緒方は半ば呆れた様子で、だがどこか楽しそうにそう言うと、灰色の雲が浮かぶ上空を見上げた。
「……実際、進藤が現れてからのアキラ君は随分変わった……」
「……ボクのどこがどう変わったっていうんですか?」
 イライラしているのか、アキラの口調にはどことなく刺がある。
「そうだな……、目が釣り上がってきた」
 上空を見上げたまましれっと言ってのける緒方に、アキラは憤懣やる方ないとでも言わんばかりの
表情を浮かべる。
「……そんなことありません……」
「乱視か、アキラ君?眼科へ行った方がいいぞ」
「……だから、そ・ん・な・こ・と・あ・り・ま・せ・んっ!!」
 つい力を込めて否定するアキラの唇に、緒方は笑いながら再び人差し指を立てた。


(7)
「『おがたくん、プリンぷっちんしてっ!』なんて言ってた頃は、大きな目がクリッとしてて
可愛かったのになァ……。それが今や、こんなに険のある目つきになって……」
 緒方はニヤニヤ笑いながら、指先でアキラの両目尻をキュッと引っ張り上げた。
アキラは怒りに震えながら緒方の手を払い除けると、大声で怒鳴りたいのを堪え、静かに口を開く。
「……昔の話をしたがるなんて、緒方さんも随分老けましたね……」
 「老け」の部分を露骨に強調するアキラに、緒方は思わず苦笑した。
「老けたんじゃなくて、貫禄がついたのさ。一応タイトルホルダーだからな」
 そう言って「ハハハ」と笑うと、緒方はアキラの肩に両手を置き、その顔を見据えた。
先程とは打って変わって真剣な表情の緒方をアキラも神妙な面持ちで見つめ返す。
「碁聖戦も制すればオレも二冠だ」
「……勝てますか?」
 そう尋ねるアキラの口調はどこか嬉しそうだった。
「当然だ。なにせ、アキラ君からバランタイン30年をプレゼントしてもらえるんだからな。
気合いの入り方が違うぞ」
 真剣だった表情を一気に和ませながら、アキラの両肩をポンポンと叩いた。
そしてアキラの肩から手を離し、再びフェンスに腕を掛けると、緒方は自分自身に言い聞かせる
ように呟く。
「是非とも勝利の美酒に酔いしれたいものだ……」
 そんな緒方をアキラはしばらくの間、少し羨ましそうに見つめていた。



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