断点-2 7
(7)
突然足先を蹴飛ばされた。
「!」
反射的にオレは塔矢を見てしまった。
「君は僕に、一体、何を期待していたんだ?」
氷のように冷たい視線が、オレを見ている。
「あれだけの目に合ってもそれでもあんな甘い言葉を期待していたのか?君は。」
その視線が、逸らされずにオレに近づいてくる。
「愛されるに足るだけの価値が自分自身にあるとでも?」
アイツの手がオレに伸びて、オレを握りこむ。
耐え切れなくて目を瞑ってアイツから顔を背けた。
それなのに、アイツの手の中のオレは塔矢の手に浅ましく反応する。
塔矢の指がいやらしくオレに絡みつき、追い立てる。
いやだ、と思いながらもオレはふと、盤上に鋭く厳しいい音を立てて石を置く白く美しい手を思い出す。
その手が、と思うだけでオレは膨れ上がり、あっという間にオレはイってしまった。
情けなくて悔しくて身体が震えた。
はあはあと息をつきながら(多分赤い顔で)アイツを見上げると、アイツは面白くもなさそうな目で
オレを見下ろし、視線が合うと、オレを鼻で笑った。
「ああ、手が汚れたな。」
そう言って塔矢は部屋の隅にあった小さな洗面台で手を洗って(ご丁寧にセッケンまで使って
やがった)、更に口をゆすいで、キュッと蛇口をひねった。
ポケットから出したハンカチで、多分あいつらしく丁寧に手を拭いてから振り返り、まだ動けずに
いるオレを見て唇の片端で小さく冷ややかに笑って、そうして部屋を出て行った。
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