無題 第3部 7
(7)
「打掛にして下さい。」
その声が響いてヒカルは顔を上げた。
そして、アキラの方をふりむいて、びっくりした。
アキラがこちらを見ていた。思いがけず視線が合ってしまってヒカルはどぎまぎしたが、
心の動揺を抑えながら、声をかけようとした。
「とう…」
だが、その呼びかけを断ち切るようにアキラはヒカルから視線を逸らし、立ち上がってヒカル
に背を向けて部屋を出て行こうとした。
「塔矢…!」
ヒカルはその背にもう一度声をかけ、振り返ったアキラの表情に次の言葉を飲み込んだ。
無表情な冷たい目。まるで知らない人間を見るような無感動な表情。
だがそれにもめげず、ヒカルはアキラに話しかけた。
「あの…あのさ、一緒にメシ食いにいかねぇ?」
「…悪いけど。対局の途中では食事はとらないんだ。それに一人でいたいから。」
冷たい声で応えて、そのまますたすたとアキラは立ち去った。
「何だよ進藤、元気ねぇじゃねぇか。」
そんな風に声をかけて来た和谷にも曖昧な返事を返す事しか出来なかった。
突然変わってしまったアキラの態度にヒカルは困惑していた。
―オレ、アイツになんか悪い事しただろうか。
どうしていきなりオレの事無視するんだろう。
それとも、それとも、オレがアイツの事をどう思っているかバレてしまって、それでオレの事、
嫌いになったんだろうか…?
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