断点-2 8
(8)
あいつがいなくなってようやく、オレは動けるようになった。
もそもそと服を元に戻しながら、オレは馬鹿馬鹿しくなって笑い出してしまった。
笑いながら涙が出てきた。
オレはおかしい。どうかしてる。
アイツの歩く姿に、振り返る身のこなしに、仕草の一つ一つに、なびく髪の一筋にさえ、見惚れて
しまうなんて。
こんなみっともない格好を晒したまま、それでもアイツに見惚れてしまって動けないなんて。
オレはヘンだ。
なんで、あんな事をされて、あそこまで言われて、それでもアイツを嫌いになれないんだ?
オレは塔矢が怖い。
怖いんだけど、でも、それでも目が離せないんだ。
震え上がりそうなほど怖いんだけど、でも、いや、だからこそ余計に、アイツは綺麗で、冷たい目
でオレを嘲る塔矢は凄みをまして綺麗で、オレは目を離せなくなる。
怖くて、綺麗で、近づいたら切り裂かれるってわかってて近づいていってしまう。
オレはアイツの目に逆らえない。
アイツの何を考えているかわからないような目で見つめられて、「これは毒だ。だから飲め。」と
言われたら、震えながら、怯えながら、それでもオレは飲んでしまうだろう。
アイツが、塔矢自身が、その毒なんだ。
オレはもうその毒を飲んでしまった。一旦口にしてしまったら、その味を知ってしまったら、どんな
に毒だってわかっていても、毒だからこその、その甘美な味から、もう離れられない。
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