無題 第3部 8


(8)
対局予定表を見た時から、気分がズッシリと重かった。
いつもよりも遅く行ったのもヒカルと顔を会わせたくなかったからだ。
それなのに、対局部屋に入った時には、無意識に彼の姿を探していた。
対局しながらも、意識の半分は斜め前にいるヒカルの事ばかり気にしていた。
そうして彼を見ていたところを突然振り返られて、目があって、心臓が止まるかと思った。
だが、ヒカルの真っ直ぐな視線が、アキラには痛かった。
ヒカルの明るさに惹かれる反面、その真っ直ぐさに負い目を感じてしまう自分がいた。
彼が示す素直な好意が嬉しい。だが自分はそんな真っ直ぐな好意を受け取る資格なんか無い。
そんな風に感じて仕方がなかった。

彼に触れたい。あの細い身体を思い切り抱きしめたい。
けれど、触れたら彼を壊してしまう。汚してしまう。
屈託のない明るく無邪気な笑顔が、アキラには眩しすぎて、正視する事が出来なかった。
気付かなければ良かった。こんな事。
知らなければ良かった。こんな気持ち。
けれど、気付いてしまったら、もう知らなかった時には戻れない。
「…疲れたな、今日は」
アキラは小さく独りごちた。
なんだかすごく疲れてしまったのに、これ以上悩んだりするのはもう嫌だ。
ベッドの上に仰向けになって転がって、天井を眺めた。



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