tournament 8
(8)
今回の親善試合の事を始めて耳にして、シンドーは新たな好敵手と戦えるであろうと、喜び勇んで
姫にその話をした。だが、姫は一人、最初から国際親善試合に出ることは決定していて、残りの2つ
の席を、その他の者どもで争わねばならぬと聞かされて、彼は真っ先に「不公平だ」と思った。
なぜ、姫だけが一人、特別扱いされるのかと、口を尖らせて、不平を言った。
それを聞きつけたキタジマは頭に血が上った。
特別であるべき姫を、普通の人間のように扱い、自分と同等であると信じて疑わないシンドーを、
高貴で口を利くのも恐れ多い姫と、乱暴な口を利きながら無邪気に戯れるシンドーを、キタジマは
許せないと、ずっと思っていた。けれど姫の心情を配慮して今まで大目に見ていたのだ。
それなのに姫が特別扱いされるのがおかしいだと?姫が特別でなくてなんだというのだ。
それともそこまで、自分も特別な存在だとでも言いたいのか?
怒りの余り、キタジマは彼を弄り、こんな言葉を投げつけた。
「姫様と対等ぶるなんて百年早いぜ!」
その言葉は騎士の若き自尊心を酷く傷つけた。
姫からならともかく、こんな奴にそこまで不当に貶められる謂れはない。
一度二度ならいざ知らず、キタジマの言動はいつもいつも彼を苛立たせていた。
シンドーとて、もう、我慢の限界だった。
「もう来ねぇよ!」
そんな捨て台詞を残して、彼は城を出て行き、その言葉の通り、それ以来城にやって来ることはなかった。
その結果に最も心を痛めたのは、他でもない姫自身であった。
本当は追い縋って彼を引き止めたかった。けれど周りのギャラリーの目が、それを許さなかった。
残された姫に目もくれずに出て行ってしまった騎士のことを思うと、悲しみに心が引き裂かれそうだった。
けれど。
彼が「来ない」と言ったのは期限付き。永遠に会えないわけではない。
彼が戦いに勝って、公にも姫のパートナーの座を獲得しさえすれば、彼を不快に思う臣下でさえ、もう
あのような口の利き方はできまい。その時が来るのが待ち遠しかった。
姫は、最愛の騎士、シンドーの勝利を、信じて疑わなかったから。
だが実は、臣下の目を盗んでちゃっかり二人が会っていたという事を、キタジマは知らない。
シンドーにとって姫と、姫の打つ碁はやはり憧れの対象であり、姫の対局を何度も観戦しに行った。
対局を終えて、そこにシンドーの姿を目にしたときの姫の心中や、その後の二人の行動などは
未だ明かされてはいないが、推して知るべし、と言う所であろう。
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