誕生日の話 9 - 10


(9)
 2人が脱兎のごとく出て行った後の開けっ放しのふすまからは、冷たい12月の
空気が容赦なく入ってきます。しばらくはコタツの掛け布団を引き上げて我慢して
いたお父さんですが、とうとう立ち上がりると、ふすまを閉めて振り向きました。
「明子。私はサンタクロースの電話番号を知らないんだが…。知ってるか?」
「いいえ、知りませんわ」
 お母さんはフフと笑って紅茶を一口飲みました。
「そうか……」
 お父さんは落胆したように肩を落とし、コタツの上の食べかけのケーキに視線を
落としました。アキラくんのケーキはまだ大分残っています。
「まあ、いいじゃありませんのアナタ。緒方さんが何か考えてらっしゃるんでしょ」
「彼もなかなかに策士だからなあ」
 コタツに潜り込み、スプーンを手に取ったお父さんは唸るように呟きました。
 一番大きなサイズのケーキを買ってきてしまったので、お父さんのケーキもあと
少し残っています。
「それで、お父さんサンタは何をプレゼントするつもりかしら?」
「……一緒に考えてくれ……」
 いくら愛していても、まだ3歳のアキラくんが欲しいものなど見当もつかないと
いうのが本音のところです。お父さんは苦りきった顔で低く呟きました。
「私にもプレゼントくださる?」
「善処しよう」


(10)
 お母さんがお父さんのブレーンとなることを了承してくれたので、お父さんは安
心して紅茶を口に含みました。
 隣に座っていたアキラくんのお皿の上に綺麗に並べられたサンタさんやウエハー
スのおうちなどは手もつけられておらず、今までの経験から、それらはあと数日は
大事に保存されることになりそうな予感がします。今食べたほうが絶対おいしいと
思うのですが、どうやらそれはアキラくんのこだわりなので、お父さんは何も言う
つもりはありませんでした。
「あら、帰ってきたわ」
 どたどたと足音が聞こえてきて、2人は顔を見合わせてくすくすと笑います。
「――おかえりなさい。寒かったでしょ」
 お母さんがこたつ布団をめくり上げると、走ってやってきたらしいアキラくんは
そこに頭から入り、コタツの中をくぐってお父さんの隣から顔を覗かせました。
 ぷはあと大きく息を吐いたアキラくんの脇に手を入れてひっぱりあげると、お父
さんはアキラくんを膝の上に乗せてケーキのお皿を引き寄せます。
「サンタさんにお願いできたのか?」
「うん! ボクね、サンタさんとおはなししちゃった!」
「そうか」
 寒いのと暖かいのの相乗効果で、アキラくんのいつも赤いほっぺたは一層真っ赤
になっています。
 一体緒方さんがどんなマジックを使ったのか、いまいちよく解りませんでしたが、
アキラくんがご機嫌に笑っているのでお父さんはそれでヨシとしました。



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