大人は判ってくれない? 9
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股間の物体を挟まないよう慎重にファスナーを上げ、ずれた眼鏡を直しながら、緒方は心の中で
滂沱した。
そして、諦めきったように力無く肩を落とす。
「ああ……好きなだけ乗ってくれ。思う存分な……」
緒方を睥睨するアキラは、満足そうに「フフッ」と薄く笑った。
期待に満ちたその瞳は淫靡な輝きを放ち、此見よがしに乾いた唇を舐める舌は妖しいまでに艶めかしく
濡れている。
その姿に緒方は激しい目眩を覚えた。
(そんな扇情的なキミに、オレは一生逆らうことなどできないわけか。フッ……アキラ君、キミには
悪魔すらも魂を売りに来るだろうよ)
「ああ、カクテルはちゃんといただきますから、そのつもりでいてくださいね、緒方さん」
アキラの言葉に頷き、へなへなと立ち上がる緒方の背中は心なしか丸い。
席を後にするその姿を、アキラは振り返りもしなかった。
「さて……と」
アキラは制服の胸ポケットから折り畳まれた一枚の紙を取り出した。
高ぶる気持ちを抑えて静かに紙を広げると、炯々とした眼差しで一カ所をじっと見据える。
それは、若獅子戦のトーナメント表だった。
(名前が並んでいるだけで、まさか対等になったと思っているんじゃないだろうな、進藤)
アキラは焼け付くような視線を印刷された『進藤ヒカル』の名に向けていた。
その息が微かに荒い。
やがて、アキラは熱い思いを込めて呟いた。
「相手が誰であれ、上に乗るのはボクだ。キミもわかっているだろうな、進藤」
塔矢アキラ、兎にも角にも乗りたい盛りの13歳だった。
【終】
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