tournament 9
(9)
久しぶりに彼に会えるという喜びを胸に、姫は供の者も連れず、一人と試合会場へ赴いた。
姫は愛する騎士の勝利を信じて疑わなかった。
だから、勝負の終わる頃にゆっくりと現ればいい。
そして勝利を掴んだ騎士の手をとり、この先、共に戦える喜びを分かち合いたい。
試合を観戦するためでなく、愛する騎士の勝利を確認するために、姫はこの場所まで足を運んだ。
と、姫に声をかける者があった。年長の騎士・クラタであった。
姫はにこやかな笑みを浮かべ、クラタとたわいのない会話を交わしながら、軽い緊張と期待を胸に、
ゆっくりと試合会場へと歩を進めた。
彼の勝利を疑いはしない。けれど、この目で結果を確認するまではわからない。
姫は緊張に胸が高鳴るのを感じた。
会場に近づくと、観戦者のざわめきが聞こえてきた。観戦者たちは試合の様子に興奮し、高い声を
抑えきれずにいた。その言葉のひとつが姫の耳に届き、姫の足が止まった。
「…でも、惜しいですね。」
「もったいないな、コイツ、これだけ打てるのに―」
姫の顔色が変わった。
まさか。
それまでの冷静さをかなぐり捨てて、姫は愛する騎士の下へ走った。
心の中で彼の名を呼ばわりながら。
息を切らして駆けつけた姫がそこに見たものは。
何かをこらえているようなシンドーの蒼い顔。
必死に喰らい付くようなヤシロの形相。
手順の予想もつかぬ盤面。
果たして、勝負の結果は…
WJ連載『ヒカルの碁』第165局「2手目天元」 より曲解
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