座敷牢中夢地獄 9
(9)
海水で濡れた服を体から剥がすようにして脱いでいく。
そうしながら俺は、この奇妙な状況についてつらつらと考えてみた。
――海で探し物をしていたアキラ。
俺を知らない先生とアキラ。
俺の知らない先生とアキラの事情。
それらを合理的に説明するどんな理由も浮かばなくて、そうか、もしかしたらこれは
夢なのかもしれない。と思いついた。
夢だとしたらどこからどこまでが夢なのか。現との境目はどこだったのか。
・・・・・・
どうせ夢なら、いつか覚めてみればわかることだ。
ならば終わりが来るまで、夢の中の展開に身を任せていればいい。
肌着から首を引き抜いた拍子に布の端が口に入り、海の塩辛い味がした。
そう言えば夢のアキラは何を探していたのだろう。
あの、塩の味がする水の中で。
衣服を全て脱ぎ終え眼鏡も外して、脱衣所から風呂場へと全裸で足を踏み入れようと
した時、背後でカラカラと引き戸の開く音がした。
振り向くと先生が立っている。
眼鏡を外しているせいで先生の表情はよく見えない。
何か言ってくるのかとしばらく待ったが、先生はただそこに立ったままこちらを見ている。
よくわからないが、全身をじろじろと隈なく眺め回されているような気もする。
「・・・あの。何か?」
さすがに不快さと羞恥を感じて俺が声を発すると、先生は我に返ったように言った。
「ああ、すまないね。風呂の使い方を言いに来たんだ」
湯加減の調節の仕方とシャワーの出し方を手短に説明すると、先生はまたカラカラと
引き戸を閉めて戻っていった。
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