断点-1.5 1 - 4


(1)

気付いたのはいつからだったろう。
ふとした時に視線を感じた。
それが最初だったかもしれない。

そしてそれは繰り返される。
気のせいではない、と告げるように。
無性に苛ついた。
腹立たしかった。
許せない。そう思った。

君は僕を馬鹿にしているのか?
気付かれないとでも思っているのか?
それとも、そんなものを僕が簡単に受け入れるとでも思っているのか?
何のつもりだと、何を考えているんだと、問い質してやりたかった。
そうやって君はそんなに簡単に壊してしまえるのか、と。

許さない。
絶対に、認めてやらない。


(2)

飢えていた事にも気付かぬほどに渇望して、ようやく手に入れることが出来たと思ったのに。
それを君はそんなに簡単に壊してしまうつもりなのか。汚してしまうつもりなのか。
僕がどれ程追い求め、焦がれていたかも知らずに。
至高の存在だと信じていた。
互いにとってなくてはならない、何にも侵し難い、純粋な絆だと、信じていた。
その透明な輝きが、少しずつ曇って、濁って、段々に薄汚れていくのを眺めているくらいならば、
いっそこの手で粉々に打ち砕いてしまう方がいい。

――だからといってそれがあんな事をした理由になるのか?
他にやり方はあったのか?

認めよう。
彼に欲情した事を。

素直に自分の感情を隠そうともしない彼を見ていたら無性に腹が立った。
それなのに僕のその腹立ちに気付きさえしない。
その素直さが妬ましかったのか?
そうかもしれない。

傷付けてやりたかった。
辱めてやりたかった。
僕の感じた怒りを、腹立ちを、苛立たしさをぶつけてやりたかった。


(3)

にこやかな笑顔の裏に本心を隠して、期待の極まったその瞬間に裏切ってやった。
なんだ、その顔は。僕が君にキスするとでも思ったのか?図々しい。
そんな風に嘲ってやった。
そして、呆然と驚きに見開かれ、今にも泣き出しそうな目に、そそられた。
嗜虐心が欲望に火をつけた。
もっと痛めつけてやりたいと思った。
恐怖と苦痛に歪み、泣き叫ぶ顔が見たいと思った。
屈辱と絶望にわななく唇を見たいと思った。
抵抗されればされるほど、嫌がれば嫌がるほど、燃え上がった。

どうしたらもっと手酷く痛めつけてやれるだろう。
そんな残虐な愉悦に僕は酔った。
身体ごと心まで引き裂いてやりたかった。
立ち直れなくなるくらいずたずたに引き裂いて、打ちのめして、起き上がろうとしたその足を払って、
踏み付けて、とことんまで貶めてやりたかった。

そんな薄ぼんやりした目で僕を見るな。
言ったろう?
欲しいのは戦う相手だ。
べたべたと甘ったれた馴れ合いなんかじゃない。
だから君はそんな縋るような目で僕を見るな。
そんな目は僕を苛立たせるだけだ。


(4)

それとも君は忘れたいか。
忘れてしまいたいか。
けれど君は僕から逃れられない。
どんなに逃げたいと思っても、君は必ず僕と向かい合う。
だから忘れたいなんて、思うな。
自分の傷を見つめろ。そしてその傷を付けたのが誰なのか、決して忘れるな。
そして君は、君を傷付けた僕を許すな。
僕に怒り、僕を憎め。
僕の暴力に、僕の理不尽さに、怒りを蓄え、憎悪を募らせろ。
欲望のままに君を陵辱した僕を、君は決して許すな。

なぜ僕があんな振る舞いに出たのか、君の何が僕にそうさせたのか、きっと、君は何もわかっていない。
けれどわからなくても構わない。
そんな事は僕にはどうでもいい。
僕が必要とするものを、望んだものを、もう一度取り戻す事ができるのならば。



それなら、僕には僕のことがわかっているのか?
きっと――わかっていない。
これが何なのか。
僕は知らない。認めてなんかやらない。
認めない。
絶対に。



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