Happy Little Wedding 3 - 4


(3)
「オレも、先生たちと一緒でいいです」
「そう?それじゃ五人分、今から電話でお願いしちゃうわね。
アキラさん、そこねぇ、とっても美味しい苺のアイスクリームもあるんですって」
「いちごのアイス・・・」
「そう。だからちゃあんと目が覚めて、ご飯をたくさん食べられたら、
デザートに頼みましょうね」
さすが母親は我が子の扱いに慣れている。
眠そうに開いたり閉じたりを繰り返していたアキラの目が、急にキラキラキラと輝き出した。
「うんっ、ボク、たくさん食べる!」
アキラの母である人は、息子の反応にニッコリと頷いて電話を探しに去っていった。

宿からの送迎バスを待つ間も、アキラはずっとクマのぬいぐるみを抱きしめながら
その耳元に向かって何やら囁いていた。
内緒話のつもりなのだろうと思って、気づかれないように耳を澄ますと、
「いちごのアイスだって〜。おいしそうだねぇ?・・・」
と聞こえる。
もともと動物好きで、動物の形をした人形や菓子などにも深く思い入れる質の子供だった
アキラだが、去年の冬に師匠が買い与えたそのぬいぐるみは特にお気に入りおもちゃの
殿堂入りを果たしたらしく、最近では見るたびにそれを抱いていた。
単純に今まで持っていた中で一番大きなぬいぐるみを買ってもらって嬉しかったということも
あるのだろうが、どうやらそれだけではない。


(4)
明子夫人が困ったように打ち明けた事情によれば、四月に幼稚園の組替えがあってからずっと
アキラは他の子供たちと馴染めず、いじめとまではいかないまでも仲間外れのような状況に
立たされているらしい。
いったん異物と見做した者に対する子供の残酷さは、緒方もよく知っていた。
近頃では、幼稚園へ行っても朝から帰りまで一言も他の子供から口を利いてもらえずに
しょんぼりと帰ってくることすらあるという。
アキラがクマのぬいぐるみを片時も離さない背景には、そんな寂しさがあるのかもしれなかった。

――詳しい事情は知らないが、去年の秋頃にはアキラが幼稚園で色々なことを覚えてくると、
夫人がころころ笑いながら語っていたくらいだったのに。
緒方は何となくアキラの横に移動して、寄り添うように立った。
その気配を察したアキラが、振り向く代わりにピタッと秘密のおしゃべりをやめて、
もじもじとクマのぬいぐるみを抱え直す。
最近緒方が忙しくなってあまり話せない時期が続いたせいもあるのか、
今日のアキラは少しこちらの出方を窺うような、緊張した雰囲気を漂わせている。
久しぶりに会ったら喜んで駆け寄ってくるかと思っていたが、
睡眠不足のアキラは道中ずっと目を閉じて、小さな寝息を立てていた。
「アキラくん」
「ン・・・?なに」
真っ直ぐに切り揃えられた素直な髪の向こうで、アキラの小さな手が緊張を誤魔化すように
クマの手をいじっている。
「・・・昼メシ食ったら、いっぱい遊ぼうな」
膝の先でちょっと突付きながらそう言ってやると、アキラは今日初めて緒方を振り向き、
はにかむような笑顔で「いいよぉー、」と答えた。



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