Happy Little Wedding 5 - 6


(5)
そのまま何か話しかけてアキラの気持ちをほぐしてやるようなことが出来ればよいのだが、
緒方はそういうことが得意ではなかった。
それは自分が大人になってしまったからなのか、
それともまだ大人になり切れていないからなのか分からないが、
とにかく基本的に子供は苦手なのだ。
行動の予測がつかないし、小さな頭の中で彼らが毎日何を考えて生きているのか分からない。
普段アキラが機嫌良くお喋りしてくる時なら相槌を打つのにもさほど苦労はしないのに、
こういう時に限ってかける言葉が見つからない。
アキラが言葉少なにしているこんな時こそ、年長者の自分がリードしてやらねばと思うのに――
「・・・・・・」
アキラはしばらく緒方の顔を見上げたまま、じっと話しかけられるのを待つ風にしていたが、
緒方が何か言いたげにアキラを見つめるばかりで結局何も言葉が出て来ないのを見て取ると、
またそっとクマのぬいぐるみの上に顔を伏せてしまった。
それは当たり前と言えば当たり前の反応だったが、
何かアキラに見切りをつけられたような気がして、かなりの挫折感が緒方を襲った。
――つまらない奴と、思われただろうか。
それ以上に、折角開きかけたアキラの心が目の前で再び閉じていくのを
見す見す許す自分のふがいなさが腹立たしかった。

だが次の瞬間、腿の横辺りに羽が触れるような感触があった。
見ると、ちんまりとした頭が遠慮がちに緒方の脚に寄り掛かっている。
視線を感じたのかアキラは少し心配そうにちらっと緒方を見上げたが、
何も文句は言われないと判断すると、さっき父親にしたようにそのままゆっくり
小さな体重を預けてきた。
「・・・・・・」
手を動かして、いつも並んで歩く女よりはかなり下方にある未発達な肩を抱いてやった。
アキラが幾分明るい声で、
「いちごのアイスって、お代わりしてもいいのかなぁ〜・・・?」と呟いた。


(6)
宿の亭主が運転する数人掛けの小さな送迎バスで到着したのは
周囲の緑によく調和する、白い壁に黒い枠木の建物だった。
小ざっぱりと明るい廊下を抜けて、各自の部屋に荷物を置いてから食堂へ向かうと、
食卓には白いレースのクロスが掛けられ、色とりどりの花をまるく活けたバスケットが
置かれていた。
「およめさん・・・」
アキラがぽそりと呟いた。
「お嫁さん?何言ってんだアキラ」
「けっこん式のおよめさんだよぉ」
先ほどの緒方との不器用な遣り取りの成果か、単に目が覚めてきただけなのか、
アキラはもうほとんど普段の元気を取り戻していた。
「この間、親戚のお姉さんの結婚式に行ったのよね。アキラさん」
「ン・・・そう」
席についても相変わらず膝の上からクマを離そうとはしないアキラだったが、
母親のフォローに嬉しそうにコクンと頷いてレースのクロスの端を持ち上げ、
パタパタしてみせる。
「あのね、これが、およめさんみたいでしょ?それからお花も」
花嫁のベールとブーケのことを言っているのだろう。
「へぇ、アキラ結婚式に行ったんだ!オレまだ行ったことないよ。何かご馳走出たか?」
「うんっ。聞きたい?あのねぇ、ケーキでしょ、キャラメルのアイスでしょ、ねえぶるでしょ、
メロンでしょ、それから・・・」
「おいっ、それ、全部デザートじゃん!」
「ほんと、アキラさんったらお菓子と果物ばっかり好きで困るわ。
結婚式でもご馳走はほとんど食べないし、おうちでだって、
お母さん毎日一生懸命お料理してるのにちっとも食べてくれないんだもの」
明子夫人が拗ねたように横目になって柔らかな頬を横からふにふに指で押すと、
アキラはくすぐったそうに首を捻りながら子供特有の、
人間の声帯から出ているとは俄かに信じがたい超音波のような声を出した。



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