家路編 1 - 3


(1)
彼と別れて家路を歩いていくうちに段々と頭が醒めてきて、一体ボクは何をしていたんだろう、と、
思い出したらあまりの恥ずかしさに立ち止まってしまった。
今がもう夜でよかった。いくら街灯の灯りがあるにしたって、昼間よりは、この、多分真っ赤になって
しまっている顔は目立たずに済む、筈だ。きっと。

一体ボクは何をしていたんだろう。ボクと、進藤は。
あれがあのまま続いていたら、(ボクが中断させてしまったけれど、)どうなっていたんだ?
あの続きは、要するにセックスというやつだよな。ボクと、進藤が?
(と言うか、本当に男同士でできるものなのか?どうも彼の言うことは今ひとつ信用できないような
気がするが…)

そもそも、よくよく考えてみたらおかしくないか?
一体、進藤は何を考えているんだ?
あんな事、普通はするもんじゃない。
あんな風に触れて、触れられて。
いや、その前に、そもそも最初は昼休みに彼がキスしてきた、それからおかしかったんだ。

だって、嫌じゃなかったんだ。
嫌じゃなかったんだ、全然。
彼にキス、されても、嫌だなんて全然思わなかったんだ。


(2)
…どこかおかしいんじゃないか、ボクは。
そりゃ、昼の時はびっくりしたけど。突然だったし。
でも二度目は、自分でも予感がしてた。やっぱり、って思って、昼間のは勢いとかだけじゃないって、
ちゃんと意味があるんだって、それを確認するみたいにもう一度キスされて、ほっとした。
(ほっとした?それがまず変じゃないか。どうかしてる。)
それなのに、キスだけじゃ済まなくて。
まるで熱にうかされたみたいになって、二人とも妙な熱と空気に流されてどうかしてたとしか言いよう
が無い。
進藤が突然な事をするから、びっくりして、熱が醒めてしまったみたいに感じてたけど、よくよく思い
出したら、全然醒めてなんかいなかった。かなり、意地になっていたような所もあった気もするけど、
思い返してみれば、まるで自分じゃないような大胆な事をして、大胆な事を言ってしまった気がする。
あんな、うわ、だめだ。ああ、なんて事をしてしまったんだろう、ボクは。
顔から火が出そうだ。あんなことをしてしまって。彼にどんな風に思われてしまっただろう。

……いいじゃないか!進藤にどう思われたって。
ずるいって言うからお返しをしてやっただけだ。それなのに自分は平気でしたくせに、いざボクが
しようとしたら慌てて拒もうとしやがって、進藤の奴。ずるいのはどっちだ。相変わらず身勝手で
自分の事しか考えてない奴だよ、キミは。
キミみたいにずるい奴は見たことが無いよ。いつも勝手な態度でボクを振り回して。こっちがどう
思ってるかなんて考えちゃいないんだろう、キミは。

でも、だからってあそこまでする必要は…意地とは言え、何であんな事をしてしまったんだか、
自分でもよくわからない。
その後は、照れ隠しもあって、なんでもないようなフリをしたけれど。
(それなのに進藤と来たら!何が「勝手に服着てるんじゃないよ」だ。いつまでもハダカでいる方が
変じゃないか。大体キミは恥ずかしいとかそうは思わないのか。デリカシーのないやつだ、全く!!)


(3)
それでも別れ際には当たり前みたいにまたキスをして。
まるで恋人同士みたいじゃないか。
「恋人同士」?ボクと、進藤が?馬鹿な。

でも結局ボクは最後まで意地を張り通して、たいしたことなんて何もなかったように装ってしまったけど。
彼はどう思っただろう。
可愛げのない奴だと思われただろうな。
いや、だから何だって言うんだ。進藤に可愛いなんて思われたいわけじゃない。
思われてたまるか。「可愛い」なんて(そう言えば昼にもそんな事を言われた気もするけど)、侮辱だ。
そう、そうじゃないんだ。そんな事はどうでもいい。
大切なのは。
これから先はどうなるかはわからないけど、彼は「もっと打ちたい」と言ってくれた。
それでもういい。
とにかく、明日は碁会所で待っていれば彼が来る。
明日だけじゃなく、それから後も。
もうずっとずっと、キミを待ってた。
キミを待ち続けていた。
初めてあそこでキミと打ったときから。
誰と打っていてもキミの事ばかり考えていた。
ずっとキミを待っていた。
でも明日からは、もう不安な気持ちを抱えたまま待たなくていい。
やっとキミが応えてくれた。
今はもう、それだけでいい。
それから先のことは、また後で考えよう。
おやすみ、進藤。また明日。

(終わり)



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