鏡妄想 6 - 10


(6)
俺は優しすぎるアキラたんにじれったくなって来た。
「アキラたん。もっと厳しく指導碁してくれないか?」
「え?厳しく?」
「うん。・・・ほら、越智君に指導した時みたいに『だからそんな手はあり得ないんだ!!』
とか『やる気があるのか!!』とか、あと『ふざけるな!!』って言って欲しいな」
「でも、それは・・・・」
アキラたんはそう言うと困ったように左手を顎の下に持って行った。
「分かりました。出来るだけやってみます」

それからのアキラたんは確かに厳しく指導してくれたが、俺が余りにもヘボなために
とても激昂するまでには至らなかった。
6子置きから9子置きになり、最後には12子置きで対局は続いた。
恐らく久し振りの対局にアキラたんは心底楽しそうだった。

だが、俺はアキラたんを見詰めながら囲碁どころでは無かった。
あのアキラたんが俺の目の前にパジャマ姿で座っている。しかもここは俺のベッドルームだ。
ちゃんと生きている証拠に、息をする度に胸と肩の部分が僅かに動いている。
サラサラの黒髪が石を打つたびに揺れて、思わず触れてみたくなる。
意志の強さが伺える目元は涼やかで憂いを帯びていて引き込まれそうになる。
考えている時には、形の良い唇が僅かに動き、俺は勝手に誘われた気分になる。
すらりと伸びた白魚の様な指先で一体どんな事をするのだろう・・・・・・。
───このアキラたんはどのアキラたんなのだろうか?
俺はついそんな事を考えていた。
───このアキラたんはヒカルたんとヤリやられしているアキラたんなのだろうか?
それとも兄貴に開発されてしまったアキラたんなのだろうか?社を子分として便利に
使っているアキラたんなのだろうか?若手研究会のメンバーに犯されてしまった
アキラたんなのだろうか?座間や芹澤や和谷や芦原や尹先生との関係は?


(7)
楚々として儚げなアキラたんに対してとんでもない事を考えていたら、俺の中心部に
血液が怒濤のごとく集まり存在を主張し始めたのを感じた。
俺はTシャツにトランクス姿だ。
もぞもぞと身を捩り、アキラたんに悟られないように何気なく左手を下半身に添えた。

楽しそうに碁を打っていたアキラたんの表情が真面目な顔に変わると、いきなり碁盤を
横にどかして、潤んだネコ目で俺を見詰めてきた。
「側に行っても良いですか?」
アキラたんは拒否を許さない威圧感を持って俺にそう言った。
俺はいけない事を考えていたのがばれてしまったのかもしれないと動揺していた。
だが、側に来たいというアキラたんを拒否する理由なんてあるわけがない。
俺は返事の代わりに、自分からアキラたんに近付いて、上体を屈めてアキラたんの目を
覗き込んだ。その目は俺の大好きなキリリとした潤んだネコ目だ。
自分でも大胆だと思ったが、次の瞬間俺はアキラたんの唇に自分の唇を重ねていた。
それは、アキラたんが望んでいる事だと勝手に察したからだ。

アキラたんの唇は想像通り、柔らかくて気持ちが良かった。
軽く唇を重ねた後、俺はもう一度アキラたんの目を覗き込んで様子を窺った。
だが、アキラたんは目を瞑ったまま何も言わずに俺の次の行動を待っていた。
俺は堪らずアキラたんを抱き締めてアキラたんの黒髪に顔を埋めた。
それは俺が何度も夢見た行動だ。
アキラたんを抱き締めて黒髪に顔を埋めてアキラたんの香りを聞く。
絶対にあり得ない夢想が現実の物となっている。
俺は大きく息を吸い込んでアキラたんの香りに酔いしれた。
それは甘酸っぱくて爽やかな濃厚さで、子供と大人の狭間の成長期の香りがした。
アキラたんの体はしなやかで想像通りだったが、スーッとしていて、熱い体温を
感じることは出来なかった。


(8)
俺が力一杯抱き締めると、アキラたんは、
「ん・・・・」
と言って体の力を抜いて俺の首に手をかけて来た。
俺が顔を滑らせて項に軽く唇を当てると、アキラたんは体をビクッと震わせて、
「ぅん・・・・ん・・」
と反応してきた。

思った通りだ。
アキラたんは人肌に飢えている。
そう思って次の行動に出ようとした瞬間、アキラたんの手がいきなり俺の愚息を
確かめるように掴んできた。
「!!??」
もちろん俺の理性は吹き飛んだ。
アキラたんを押し倒すと夢中でアキラたんの唇を貪った。
強引に舌を進入させると、アキラたんはそれに応えて舌を絡ませてきた。
アキラたんの口の中は乾いていて、アキラたんの舌は俺から水分を補給するように
チョロチョロと動き回っていた。

俺はアキラたんの上に体を移動させて右手でアキラたんの頭を押さえつけ、左手で
パジャマのボタンをはずしながら角度を変えて思う存分アキラたんの口腔内を蹂躙した。
俺の下腹部にアキラたんの熱り立った分身が触れる。

俺でアキラたんがその気になった事に俺は興奮していた。
唇を離すと俺はアキラたんのパジャマの上着とズボンを勢い良く剥いだ。
2人ともすでに息が上がっている。
俺の目の前にアキラたんの雫を垂らした分身が姿を現した。軽く舐めると、
「あぁぁッ!・・・・・ん・・・」
と体を捩ってアキラたんが喘いだ。


(9)
俺はもうとても我慢できなかった。
一度体を離してアキラたんの上気した頬に軽くキスをすると、俺はアキラたんに聞いた。
「いいの?俺でいいの?」
アキラたんは薄目を開けて俺を見ると、すぐに目を閉じて呟いた。
「だって、あなたは碁が打てるし・・・・それにボクの事が好きなんでしょ?・・・・
今はそれで十分です」
寂しそうに呟くアキラたんが愛しくて可哀想で仕方なかった。
本当なら全く相手にならない俺でも、今のアキラたんにとっては縋りたくなる存在
なのだろう。
俺は聞きたい事が山ほどあった。
───どうして鏡の中の世界に居るのか、いつから居るのか、お水とか食料はどうして
いるのか、ここから抜け出す方法はないのか、一人で寂しくないのか、俺に出来る事は
何なのか・・・・・・

だが、俺を求めているアキラたんを前にして、それを聞いている余裕は無かった。
早くアキラたんの善がり声を聞きたい、喘ぎ顔を見たい、震える体を感じたい。
疑問は後でゆっくり聞くことにして、俺は逸る気持ちを押し殺してアキラたんの体を
慈しむように抱き締めて心を込めて愛撫した。

じっくり事を進めようとする俺に、アキラたんはじれったそうに、
「お願い・・・早く入れて・・・・・」
と懇願してきた。
「えッ?!でもちゃんとほぐさないと・・・・・」
ちゃんとほぐさないとお互いに辛い。俺はそう思ってアキラたんを見ると、アキラたんは
首を振りながら、切羽詰った声で、
「いいから、早く・・・・・して」
と言って、俺に体を絡ませて来た。


(10)
アキラたんの言動に俺は頭に血が上って前後不覚になり、夢中でTシャツとトランクスを
脱ぎ捨てると、アキラたんの脚の間に割って入った。
アキラたんの細くて白い脚を思い切り持ち上げて、アキラたんの秘門に俺の張り詰めた
愚息を宛がった。

その時だ。
ベッドが大きく揺れてガタガタと音がした。
「地震だ!」
俺はアキラたんを庇う様に抱き締めて部屋を見回した。
こんな時になってようやく気付いたが、鏡に映らない部分はぼやけていてベールがかかった
ようになっている。背中になっていたので今まで気が付かなかったのだ。
驚いてアキラたんを見ると、俺の腕の中に居るはずのアキラたんが薄くなっている。
「アキラたんっ!!!アキラたんっっ!!!!」
俺は叫びながらアキラたんを抱き締めようとするが、俺の手が薄くなったアキラたんの中を
すり抜けていく。
「何でだよっー!!どうなってるんだよ!!アキラたん!!アキラたー・・・・・・・」

2日後、俺は全裸で、倒れて大きく割れた鏡の下敷きになって気を失っている所を会社の
同僚に発見された。
マグニチュード7.2、震度7の地震だった。

                      完



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