てんし【天使】
(1)ユダヤ教・キリスト教・イスラム教などで,神の使者として神と人との仲介をつとめるもの。エンジェル。
(2)やさしい心で,人をいたわる人。「白衣の―」 (新辞林 三省堂)
Angel Song
7.
手塚は一晩病院に泊まって、精密検査を受けて翌日のうちに家に戻ってきた。
過度の練習と左肘の古傷があいまって炎症を起こしている、という話だった。今は無理さえしなければひとまずこれ以上悪化することはないだろうと判断された。しばらく投薬し、通院を続けて様子をみることとなった。
だが、それは左肘に無理な負担をかけなければ、と言う話だ。テニスそのものが腕にとっては負担となるのだ。
当然激しい運動は……部活動も禁止とされた。入院した日は体調を崩して学校休んだことになっていたから、数日間部活に直接参加しなくとも、これといって大きな疑惑を起こさなかった。
病院の夜から、不二は左肘の話題をことさら避けていた。
そして手塚の願い事も。
手塚が、不二の申し出を拒んだ事に対しても何も言わなかった。
お互いにぎくしゃくした空気を残したまま、それ以前の生活に戻りかけていた。
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クリスマスまで、もう10日を切っていた。
通院のために病院に行って帰ってきた手塚を、不二は部屋で待ち構えていた。
「……お帰り」
不二はとくに何も聞かなかった。病院でのことも、何も。
ただ、普段と変わらぬ顔で微笑んでいる。
その様子を見て、手塚は心が痛んだ。
手塚の願い事を一つ、叶える為に不二は自分の元にやってきている。
そして左肘を故障した手塚に、不二はその完全な治療を願い事にするように申し出た。
だというのに、手塚はそれを拒んだ。
不二が居なくなるのは嫌だ、と言う理由で。
手塚自身、自分がどんなに本末転倒なことを言ったのか解っている。
心配してくれている不二の気持ちは理解している。
そして自分にしろ、願ってもないチャンスのはずだった。
だが、不二にいて欲しいと思うのは、紛れもない手塚の本心だった。
多くのことを求めている訳ではない。一緒にいて、くだらない話をしたりするだけでいいのだ。
だがそもそも、そんな風に思うこと自体がおかしい。
不二は仕事で手塚の下にやってきただけだ。
仕事の達成を拒み、不二をここに引き止めておくような行為は、ただ不二の邪魔をしているだけだ。
不二だって困惑しているに違いない。だから自分から何も言い出さないのだ。
全ては自分の我侭なのだ、と手塚は理解している。
それでも。
「……どうしたの?」
不二の問い掛けで、ようやくはっと我に返った。
「ああ……何でもない」
「まさか」
不意に不二は視線を鋭くした。
「病院で何か……」
「いや……そうじゃない。本当に、何も……」
歯切れ悪く手塚は答えた。病院では得に変わったことは言われなかった。いつもどおり左肘にが極力負担をかけないようにと言われただけだ。
だが不二は、まだ訝しげな視線で手塚の方を伺っていた。しかし本当のことは不二には言えなかった。また不二を困らせるだけだと思ったからだ。不二の追及を拒むように、手塚は荷物だけ室内に置くと、すぐに身を翻した。
「何でも、ないんだ」
「……」
短くそれだけ答えると、手塚は夕食のために階下に降りて行った。
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夕食を終えて風呂に入り、一段落ついたところで部屋に腰を落ち着けた。
机に座り、明日の予習のためにノートを開く。
不二の様子を視界の端でうかがうと、相変わらずベッドの上で何か本を読んでいた。
お互いに無言のまま、別々の行為を行っていた。
その時、不意に不二が言葉を発した。
「……ごめん、手塚」
突然不二がそう言ったので、手塚は怪訝そうな顔をした。
いったい、不二の側に何を謝る必要があるのだろう。
謝らなくてはならないのはこっちだというのに。
だが、数学のノートから視線は離さずに、それに応じた。
「何だ?」
「……」
不二が自分の方を見ているのは解っていたが、視線を合わせる自信がなかった。
手塚が自分の方を向かない方が話しやすいのか、不二は淡々とした口調で言葉を続けた。
「君のとこに僕が居られるのはクリスマスまで……12月25日の午前零時までなんだ。……そう、上から指示が出てる」
「……!」
手塚の表情がわずかに歪んだ。
驚いて、身を捻って不二の方を向く。ベッドの上で身を起こした不二はわずかに俯いていた。そのため、表情は解らなかった。
顔には余り出てはいないが、手塚は内心では非常に動揺していた。
そんな話、今まで聞いていなかった。
問い詰めようとしたが、それより先に不二が口を開いた。
「今まで……黙ってて、ごめん。でも何にしろ、もう、時間がないんだ」
「…………」
何か言いたかったが、言葉が喉につかえて出てこなかった。
黙り込んだまま、手塚は不二の謝罪を聞いていた。
「……もう決めよう。左肘、治してあげるから」
「それは……」
「今日だって……病院で何か言われたんじゃないの? だからさっき様子がおかしかったんじゃないの? ……それでなくても爆弾を抱えたままテニス続けられると思ってる? ……そんなの無理だ」
「……そうじゃない……そのことは……」
手塚の反論を不二は聞かなかった。
「どっちにしろ、でも、……結局、お別れなんだから、もう……」
不二は俯いた首の角度を深くした。
そして冷たい声で鋭く呟く。
吐き出すように。
「……期待させないで」
「……?」
不二の口調に、手塚は狼狽した。
言っている意味がよく解らなかったからだ。
「何のことだ……?」
だが不二は手塚の言葉を聞いているのかいないのか、堰を切ったかのように言葉を紡ぎだした。
「……どんなに待ったって、君の答えなんて、どうせ最初から決まりきってるんだ。時間だって限られてる。だからもう悩まないでよ。僕だって無駄な期待なんかしたくないんだ」
手塚の顔を見ないまま、不二はさらに続けた。
「……あんなこと言われたら、期待してしまう。どうせ、ずっと一緒に居れるわけなんかないのに。僕がここに来たのだってただの偶然だし、それに……こんなことがなかったら、君は僕のことなんか一生知らないままだったんだ」
体の横で握り締めた不二の拳が震えていたのに、手塚は気付いた。
声も、微かに震えが混じっている。
泣き出す直前のような。
「結局……期限がなくたって、……どんなに悩んだって、君は僕より腕を治すほうを選ぶだろう?」
「…………」
手塚は何も答えなかった。
二人の間を沈黙が支配する。
「……そうじゃなきゃ……君じゃないよ。……テニスの出来ない君なんて君じゃない……って……」
俯いたままの不二の言葉を途中で遮って、手塚が口を開いた。
結局、不二を引き止めているのは自分の我侭だと解っている。
解っていても、今はこう言うしかなかった。
「……すまん……待ってくれ」
「…………」
「まだ、クリスマスまで時間はあるだろう? 腕だって……完全に治る可能性がないわけでは無いんだ。もう少し……考えさせてくれ」
不二はそれ以上何も言葉にしなかった。
ただ、仕方なさそうに、こくりと首を縦に振った。
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24日、イブの日は朝から曇天だった。
学校はもう冬休みに入っており、部活は休みになっていた。その日は通院日で、竜崎にあれからの検査結果を報告するため、手塚は帰り道に学校に寄っていた。
昼の時間が一番短い季節だった。それでなくても昼から空には灰色の雲が目立っていた。学校を出る頃にはすでに辺りはかなり暗くなっていた。学ランの上にコートを羽織り、首にはマフラーを巻いて寒さに備えた。この様子では夜には雪になるかもしれない。
校門のところで不二は手塚を待っていた。
自分の姿を確認すると、不二はわずかに微笑んだ。
「帰ろう」
手塚は無言で不二の隣に並んだ。
そのまま帰り道を行き始める。
「……空だいぶ黒いよね、ホワイトクリスマス、なんて出来すぎてるけどさ」
「そうだな……」
「……あのさ」
とりとめもない話をしながら歩いていると、不二が小さな声でそう言った。
だが、躊躇ったのか、そこで言葉を止めた。
「……どうしたんだ」
「……馬鹿みたいだとか思わないでね」
そう前置きして、不二は溜息とともに話した。
「……こういう風にね、校門で待ち合わせて一緒に帰るのとか、ちょっと憧れてたんだけど……」
そう言われて、手塚は初めて不二が自分を迎えに来た日のことを思い出した。
あの日は確か、途中で大石や菊丸達と合流したのだ。
もちろん、不二の姿が見えるのは自分だけだったのだが。
「……正直さ君たちのこと、羨ましかったよ」
その時も、不二は同じようなことを言っていた。
「……すまない」
思わず謝罪すると、不二は再び大きな溜息を吐き出した。
「……別にいいよ。ってか前もこうやって謝ったよね、君。はっきり言ってそれ逆効果なんだけど。自分がなんか惨めで」
「す、……すまん……」
「ああもうだから謝らないでって言ってるの。いいんだよ、こうやって夢も達成できたし」
「…………」
不二は前を見てわずかに笑った。
その顔を見て、手塚は呟くように言った。
「……俺は、青学を率いて全国に行きたいと思っている」
突然話題が変わったので、不二は戸惑いながらも、首を縦に振った。
「うん、知ってるよ」
「……大和部長から託された。今年も実現できなかったが……来年こそは、きっと」
「だから、……それまでにちゃんと完治させないとね」
そこで手塚はふと下を向いた。次に何を言おうか考えているようだった。
「……お前がいれば」
「え?」
不二は不思議そうに首を捻って手塚の方を見た。
辺りはもう暗い。手塚の表情はよく見えなかった。
手塚は視線を遠くにやりながら、ゆっくりと言った。
「もしもお前がうちに……青学に来ていれば」
「……手塚?」
「随分戦力になっただろうな……そう、思う」
その言葉を聞いた不二の顔が、泣き笑いのように歪んだ。
「……何、言ってるんだよ……そんな、ありえない話……」
「……本心だ」
「……ッ……」
不二は顔を隠すように、手塚から視線を反らした。
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帰り道がいつもと違っていたことに気付いた不二は、途中で手塚の顔を不審そうに見た。
こっちの道だと住宅地ではなく駅前に向かう。逆方向だ。
もうかなり暗いのに、寄り道でもするつもりだろうか。だが、今まで手塚は一度も寄り道などしたことはなかったと言うのに。
「……帰らなくていいの、心配してるよ……?」
「連絡はしてある。今日は友人と会うから遅くなると」
心配したように言った不二の言葉を、手塚はきっぱりとした声で返した。確かに今日はイブだ。パーティだの何だの言えば両親も納得してくれるだろう。もっとも、手塚とクリスマスパーティなんて全く不釣合いな気が不二にはしていたが。
町内はクリスマス一色だった。商店街は赤と緑のリボンやイルミネーションで飾られていた。だが手塚はその人込みを掻き分けるようにして、別の場所へと向かっていた。
「……?」
黙って跡をつけながら、不二は手塚が何処に向かっているのか見当がつかず、首を傾げた。
そもそも、今日中には手塚の願い事を聞かなくてはならないのだ。
もっとも、願い事なんてすでに決まりきっているというのだけれども。
なのに手塚は今日になっても、一向にそのことに触れなかった。
さすがに不安になった不二は、いい加減にそのことについて問い詰めようとした。
駅前の商店街も抜け、周囲の人の量もかなり減っている。
当の手塚は何も言わずただ歩を進めている。
「手塚、あのね、そろそろ……」
声をかけた瞬間、手塚はすっと角を右に曲がった。
慌ててその跡を追うと、その先にあったのは街中にある大きめの公園だった。公園、というよりは住民のためのスポーツ施設といったほうがいいかもしれない。
確か、あまり人気にはないがナイター用のテニスコートも備えている。そのことは不二も知っていた。
「……手塚っ!?」
慌てて引き止めた。幸いなことに、クリスマスだからか内部に人はいない。街灯があるとは言ってもそれほど明るくもない。
「ちょっと待ってよ、何する気だよ君……!! 練習は禁止されてるだろ……」
だが手塚は引き止められたまま、少し歩を止めただけだった。
「手塚……?」
不二が不思議そうに問うと、手塚はぽつりと答えた。
「……最近、まともに練習していなかった」
「当たり前だよ! 君、言っとくけど怪我人なんだからね!? 悪化したら本当に二度とテニス出来なくなっちゃうんだよ!? 君からテニス取って何が残るんだよ!?」
「それは解っているんだが……人気のない場所を考えていてな。ここしか思い浮かばなかった」
声を荒げる不二に対し、手塚は対照的に冷静だった。
回れ右をして不二の方を向く。不二は手塚から数歩あとずさった。
お互いに、正面から向き合う形になった。
ちょうど街灯の下だった。だが、不二の目から手塚の表情は伺えなかった。
視線を下に向けて、黙り込んでいる。不二もそれ以上言う言葉が見つからなかった。
ふわり、と、二人の間に小さな粒が舞い落ちてきた。
軽く空をうかがうと、白い粒が黒い空一面に散っていた。
雪が、降り始めたらしい。
「手塚……」
左肘を冷やしてはまずい、帰ろう、と不二は提案しようとした。
だが、手塚はそれを遮った。
「……テニスが出来なくなっても、自分は自分だと、そう、思っていた」
「……手塚?」
「病院で初めてその危険性を聞かされたとき……万が一テニスができなくなったら、それはそれで仕方ないのだと、そう自分には言い聞かせていた。もちろん、肘が壊れるのは……部長との約束のために非常に困るのだが……だが、それでも、テニスが自分の全てなどだとは思っていない。それはさすがに否定したかった」
「…………」
手塚が何を言いたいのか解らなくて、不二は返事を躊躇った。
左手を前に出して、ぐっと握り締めながら、手塚は瞳を閉じた。
黒いコートの上に、雪の結晶がちらほらと降りかかる。それは溶けずに黒い布を少しずつ、白く覆っていった。
「だが……こうやって、たった10日間ほどラケットを握っていないだけだと言うのに……」
固く握り締めた手塚の左拳が、わずかに震えていた。
不二はそれを見て、一度大きく息を吸うと、力強い声で言った。
「だから言ったでしょ? 『テニスの出来ない君なんて君じゃない』って」
手塚は目を見開いた。
不二の方を見ると、彼は少し俯いていた。
不二には雪すら積もっていなかった。もともと全身白い服なのだからわからないだけかもしれないが、茶色の頭を避けるように雪は地面に落ちている。
「……最終的に、君が腕を治すことを選ぶなんて、僕には解りきってたんだし。遠慮しなくていいよ。罪悪感も……持たなくていい。だって」
わずかに躊躇ったように少し間をおくと、不二は思い切ったように顔を上げた。
まっすぐに手塚の方を見ている。
その口が笑みの形になった。
「……僕だって、テニスを選ばない君なんて見たくないんだ」
「……不二」
「僕が好きになったのは、そういう君なんだから」
不二は微笑んでいた。
腕を後ろで組んで、手塚に向かって微笑みかけていた。
「……すまない」
手塚はゆっくりと数歩歩いて、不二のもとに近づいた。
左手を不二の前へと差し出す。
それが手塚の願い事だった。
不二は満足げな笑みを浮かべると、手塚の近くによって、その肘を両手で優しく包み込んだ。
クリーム色の光が肘を包む。
それだけで、肘にあった違和感が嘘のように消えていった。
光が消えると、治療は終わったようだった。
そこで不二は軽く一息ついてから、背中の羽根をふわりと揺らした。
体が雪の舞う宙に浮かぶ。
不二はそのまま、倒れこむように手塚の首に両腕を回した。
その身体を手塚は両腕で抱きとめた。
左手を動かすときに微かに恐怖心があったが、不二の体を支えても、何の痛みもなかった。
耳元で不二が囁く。
「会えて良かった」
「………………」
手塚は言葉の代わりに、不二を抱く腕に力をこめた。
不二は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに再び微笑む顔になった。
「……全国に行けるように、祈ってるからね」
お互いに正面から顔を合わせた。
「さよなら」
唇同士がかすかに触れあう。
天使の唇もやはり、熱を持たない、暖かくも冷たくもない奇妙な感覚だった。
心地よくて手塚は思わず目を閉じた。
不意に、腕の中に抱いていたものの感触が無くなった。
慌てて目を開けると、目の前に不二の姿はもう無かった。
ただ少し後を示すようにぼんやりと白い光が残っていたが、やがてその光も掻き消えていった。
暗い黄色がかった街灯の光の下で、手塚はしばらくぼんやりとしていた。
暗い空から落ちてくる雪の粒が、天使の羽根のように見えた。
まだ不二の唇の感触が残っている自分の口に指をやる。
それが最初で最後のキスだったのだと、今更ようやく気付いた。
:*:・。,☆゚'・:*:・。,★,。・:*:・゚'☆,。・:*:
年末年始を挟んで次の通院の時に検査してもらうと、左肘の炎症はきれいに治っていた。医者が驚くほどだった。
実際、腕を動かしても本気で試合をしても、もう何の違和感もなかった。
念のため、通院は続けることになった。
だが、手塚自身が誰よりもその必要がないことを一番よく解っていた。
「……一時は、どうなるかと思ったけど」
病院からの帰り道、付き添ってくれていた大石が、安堵の溜息とともにそう言った。
息を吐くと白くなる。だいぶ冷え込んでいた。空も重い曇天だった。
だが、それに引き換え、大石の口調は明るかった。
「よかったよ、こんな短期間に順調に回復して。叔父さんも驚いてた」
「……そうだな」
「安心したよ。皆にも心配かけずにすんだし。大和先輩や竜崎先生も喜んでる……」
「ああ……」
自分に比べ、肝心の手塚の表情が思った以上に暗いので、大石はわずかに慌てた。
「ど、どうしたんだ……? まだ何か、違和感があるのか……?」
「……いや。……治りそうで良かった、と思っている」
そう答えるしか手塚にはどうしようもなかった。
クリスマスからまだ一ヶ月も経っていない。心の中には何か少しぽっかり穴が開いたような気分が続いていた。
だが、大石に言っても通じない事だ。
結局、不二が自分の部屋にいない生活も、すぐに慣れた。もともとの暮らしに戻っただけなのだから当然でもある。
実際、手塚自身、腕の調子が元に戻るに連れて、全ては幻だったのではないかと思うことがあった。死んだはずの人間が天使になって、自分のもとに願い事を叶え来たなんて。誰に話したって信じてもらえる話ではないだろう。
馬鹿馬鹿しいにも、ほどがある。
しかし。
「……あ」
ふと、大石が空を仰いだ。つられて手塚も空を見た。
灰色の空に、雪が舞っていた。
「曇ってるなと思ったら……」
大石が困ったように言った。
手塚は軽く左手を持ち上げた。
手袋に落ちた雪の白さが、天使の羽根を連想させた。
「……どうしたんだ?」
そんな手塚を見ていた大石が、驚いた顔で不思議そうに問い掛けた。
だが、手塚も、何に対して問いかけられたのかわからなかった。
「何がだ?」
「いや、手塚、笑ってたから……」
そう言われた手塚も驚いた。
自分自身、笑っているという自覚はなかった。
「……そうか」
わずかに目を細めて、手袋の上の雪の結晶を見ながら、手塚はそう答えた。
そんな訳で、不二塚天使編(……)でした。クリスマスネタなのに……長々とお付き合いありがとうございました。
いろいろともう少し突っ込んで(秋季大会とか肘とか)書きたかったんですけどね……。
まあ、うん……書きたい台詞とかちゃんと書けたので満足です。うちの不二も塚も普段告白台詞言わないので……。
しかし天才様のいない青学テニス部とか裕太とか書くのすごい難しかったですよ……ごめん……
兄貴が居なかったら裕太が学校どうするかは疑問なんですが(青学で普通に頑張ってそうだ……)
今回は別の学校からルドルフに転校したって設定で。ご都合主義です。
ちなみにタイトルは結構前の曲ですが
the brilliant green「angel song―イヴの鐘―」より。BGMでもありました。リピートしっぱなし。
別に天使が歌ってないのにこのタイトルなのも天才様が気持ち悪いほど乙女仕様になってるのもこの歌のせいなのですね……(責任転嫁)
それでは、長い話でしたが……ここまで読んでくださってありがとうございました。
で、……ついでにこんなところにオチがあります……。笑えないギャグ仕様ですが……
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