<がいこくへ>

「え、お母さん明日出かけるの?」
「そう、お父さんとね。」
土曜日のよる。お風呂から上がるとお母さんが明日でかけると言う。
「先輩くるよ。お母さんいないなら明日はお休みにしてもらった方がいいよね。」
「別に大丈夫よ。お母さんが習うんじゃなくて結花が習うのだから。」
「そりゃそうだけど。」
「大丈夫♪グスタフ君は変な事しないわよ♪」
また、お母さんの意味深な発言。
「?何?変な事って?」
「結花はいいのよ。あ、正基もお留守番だからよろしくね。」
「はーい。」
この事に関しては何回聞いても教えてくれないから追求するのやめた。

翌日。
リビングでぼーっとしてたら正基がにこにこしながらやってきた。
「お姉ちゃん!きたよ〜」
うれしそうに報告してきた。
先輩がきたんだ。
あたしはパタパタと玄関に向った。
「こんにちは、先輩。」
「こんにちは、結花さん。」
先輩が穏やかな笑顔でいった。
あたしはふと足元を見て驚いた。
玄関にはおもちゃが散乱してた。
正基が妙におとなしかったのはここにいたからなんだ…
もぉぉぉっ
「ど、どうぞ。」
あたしはどもりながら先輩に言った。
先輩があがろうとするのを見つつ、リビングの入口にいた正基を見た。
「駄目じゃない。あんなに散らかしてっ!」
あたしはちょっぴりきつめに言った。
そうしないと正基またやっちゃうもん。
「だ、だって・・・」
正基は何かいいたげだったけど、もう1度きつめに言った。
「ちゃんと、片づけなさいっ!」
そのとき。
「結花さん、その辺で・・・。」
先輩が声を掛けてきた。
そうだ!先輩がいたんだ。
はうぅぅぅ。変なところ見られちゃったよう。
恥ずかしくて顔が熱くなる。
「あ、お姉ちゃんの顔、真っ赤だよぉ!」
正基が隣でうれしそうに言う。
「う、うるさいっ!」
あたしは恥ずかしさでますます顔が熱くなる。
正基は隣でずっと「まっかだよぉ。」と言いつづけてる。
このままじゃまずい〜
「あ、ど、どうぞ。」
あたしは先輩を部屋に案内した。
「それじゃ、お邪魔します。」
正基に小声で、「ちゃんと片付けなさいよ!」と言って部屋に入った。

「今日はこれでおわりにしましょう。」
先輩のその声であたしは気を緩めた。
自分で言ってはなんだけどだいぶ英語の成績はよくなってきたはず。
授業は前は先生が言ってる事ちんぷんかんぷんだったけど今わ少しづつわかるようになってきた。
「それで、夏休みの宿題なのですが、ここにプリントがありますからこれをやっておいてください。」
先輩はそう言うとかばんから紙の束を出した。
ほぇぇぇ。
すごい量、しかも全部手書きだぁ。
「こ、これ、先輩が全部作ったのですか?」
あたしが驚いて聞くと先輩は「そうですよ。」と穏やかに言った。
よく見るとちゃんと要点別にきちんと整理されてるプリントだ。
あたし、先輩のお手製プリントって好きなんだ。
ちゃんとあたしの苦手なところを重点的に書いてあるから。
先輩日本語も上手なんだよね〜
それに先輩の直筆だもん♪
今までのだってちゃんとファイルしてある。
「ありがとうございます…」
あたしはにこにことお礼を言った。
「そうそう、うちに来るという話はどうなりましたか?」
思い出したように先輩が聞いてきた。
「えっ?あと…パスポートはもう取ったので…。飛行機の時間とかは亜都ちゃんに任せてありますから…。」
あれ?先輩知らないのかな。
あのあとすぐに亜都ちゃんに付き合ってもらってパスポート申請してほんの2、3日前に受け取ってきてる。
「あ、来るんですね。よかった。」
先輩がほっとしたように言う。
「あれ?私が行くという話は亜都ちゃんから聞いてないんですか?」
あたしがたずねると先輩はえっ?っという表情をした。
「はい。聞いてませんよ。あれから連絡がなくて・・。」
困った顔をしながら先輩が言った。
連絡してない〜?
亜都ちゃん、あとは任せとき♪なんて言っといてぇ〜
「ええっ。亜都ちゃん、うちから連絡しておくわ〜って言っていたのに・・・。」
先輩に連絡しなくちゃどうしようもないのに…
「あの、私はあと1週間くらいであっちに戻るのでそれまでには細かい事を教えて欲しいのですが。」
先輩が申し訳なさそうに言った。
「は、はい。わかりました。」
ふぇぇぇ…
先輩に悪い事しちゃったよぉ。
「お願いします。」
先輩はそう言って立ち上げる。
「あ、送ります。」
あたしはいつも通りバス停までいっしょにいこうと立ちあがった。
「いえいえ、いいですよ。正基君を1人にするわけにいかないでしょう。」
先輩がそう言うから驚いた。
あたしお母さんたちが出かけてる事一言もいってないのに。
「き、気がついていたんですか?」
「ええ。」
いつもと少し違った表情で先輩が言う。
玄関に行くと正基がいちよう片付けたらしくておもちゃが端っこに山ずみにされた。
あとでいっしょに片付けないとな…
先輩が靴をはき、振り向いた。
段差のせいで目線が同じだから先輩の顔が目の前にある。
「それでは、また明日、部活で。」
そういったあと先輩が何かを見てる。
…?
それがあたしの事だとわかって顔が真っ赤になった。
「は、はい。またです、先輩。」
あたしは真っ赤になりながら答えた。
先輩は笑顔で帰っていった。
な、なんだったんだろう…

先輩が帰ったあと、あたしは亜都ちゃんに連絡をとった
。 お母さん達が帰ってき次第、近くのファーストフードのお店で会うことになった。
亜都ちゃんいわく夏休みだからなかなかチケットが取れなくて、しかも直行便を取ろうとしてたからなかなか大変だったらしい。
「ごめんなぁ〜結花。でもな、苦労したかいがあって直行便の往復チケット手にはいったで♪」
亜都ちゃんが両手を合わせてごめんなさいポーズをする。
「もー、大変だったんだからね。それでいつなの?」
「10日後や♪それから一週間オーストリアや♪」
うれしそうに亜都ちゃんが言う。
「一週間もいて大丈夫なのかなぁ?」
あたしが心配そうに言うと。
「大丈夫やと思うねん。うちの親が連絡したときちゃんと話しつけてたらしいもん。」
「そっか。」
「それにな♪」
さらににまにまと亜都ちゃんが笑う。
「何?」
「うちはだしやもん♪」
「だし?なにそれ。」
「ダグラス先輩ほんまは結花にきてほしいんやと思うよ♪」
え、えええええっ!
「そ、そんなわけないよ!」
あたしは即座に否定した。
そんなわけないもん。
「そうかなぁ〜うちそうだと思うんやけど。」
そうだったらどんなに嬉しいかわからないけど…
先輩そんな事思ってないよ…
「と、とにかく亜都ちゃん先輩に連絡しといてよ。」
「結花がすればええやん♪先輩喜ぶで♪」
あたしは顔を真っ赤にした。
「そんなことないってばっ!連絡してね!」
「わかった♪」
亜都ちゃんはにっこり答えた。
その後、連絡を取ったらしくて着々と準備が進んでいった。
あたしはその間も宿題のプリントを少しづつやってた
。 学校の方の宿題はエスカレーター校のせいかあんまり多くなかったから、亜都ちゃんと二人で出発前にほとんど終わらせる事ができた。

「ふにゃ〜飛行機って疲れるんだね。」
あたしはため息をついていった。
「そやね〜。直行便やから乗りっぱなしやもんね。」
順調にあたしたちはオーストリアの空港に到着した。
「先輩、どこで待ってるって?」
「入国ゲートの出口あたりで待っててっていわれたん。」
「そうなんだ。あ、あれかなぁ?」
人が沢山いる出口に向って歩く。
周りは外国人ばっかりで緊張する…
先輩とはだいぶなれたとはいえ、いまだに外国人は苦手。
どきどきしてる。
亜都ちゃんは何回か外国に行った事があるらしくて結構なれてる。
それが本当に助かる〜
それにしても人が多いなぁ
「結花さん、亜都さん。」
聞き覚えのある声。
「あ、先輩!」
「ほんまや、ダグラス先輩やん♪」
先輩が手を振っていた。
あたしと亜都ちゃんは先輩のもとに行った。
「長旅ご苦労様でした。」
先輩がにっこりして言った。
「ほんまつかれた〜」
亜都ちゃんが本当に疲れたような表情をした。
「結花さんもご苦労様でした。」
「あ、いいえ。」
久しぶりだからな?なんか緊張するなぁ〜
やっぱり先輩は外国人なんだなぁ…周りに溶け込んでるもん。
まあここオーストリアじゃあたしの方が外国人になるわけだけど。
「先輩の家はここから近いんですかぁ〜?」
亜都ちゃんが聞く。
「ここからそう時間は掛かりませんよ。」
「よかったぁ〜はよ、休みたいわ〜」
亜都ちゃんはとたんに元気になって出口に向って歩き始めた。
「そうだね。」
あたしも一緒に歩き始める。
「…結花さん?」
先輩があたしに声をかける。
「はい?」
あたしは振り向いて先輩を見た。
なんだろ?って顔したら先輩がなにかいいたそうな表情をした。
「先輩?」
「結花〜ダグラス先輩、はよう〜!」
亜都ちゃんがあたしたちを呼んでる。
「あ、いえ。いいんです。亜都さんが待ってますね。行きますか。」
先輩はそう言って歩いていった。
…?変なの。
あたしは先輩の後ろについて歩き始めた。


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