<こくはく>
しばらくすると呼び出しのチャイムがなった。
おば様はにっこり微笑んで玄関の方に向って行った。
なんだろう。
誰が来るんだろ?
すっかり落ちついてきたあたしはこれからの事を考え始めてた。
警察のお世話になったほうがいいのかな?
迷子みたいなもんだし…
どたどたとドアのむこうで音がしてる。
なんだろうと思ってたら勢いよくドアが開いた。
ドアからはいって来たのは…
「せ、先輩!」
いきを乱れさせながらあたしを見てる。
な、なんで?
思わず立ち上がったあたしはすっかり固まっていた。
先輩がゆっくり近づいてくる。
怒ってるような表情じゃない。
でも、すごく心配かけたってことはわかる。
あたしが謝ろうとしたら…
「心配しました。よかった・・・・。」
そういって抱きしめられた。
「せ、先輩…。」
え、え、うにゅ〜
驚いて固まったまま。
「すみません。動揺させるようなことを言って。すみません・・・・でも、よかった。」
先輩に心配かけたあたしが悪いのに…
黙ってみてた、おば様が何か先輩に言った。
そしたら先輩慌ててあたしから離れた。
「す、すみません!結花さん。」
「先輩、謝ってばかりですね。」
先輩にそう言ったけど…
一番謝らなくちゃいけないのはあたしの方なのに…
先輩が謝る必要はないのに…
おばさんと先輩がなにか話してたと思ったらおば様が部屋を出て行った。
先輩はおば様から受け取ったタオルで汗を拭きながらあたしの隣に座った。
汗びっしょりだ・・・あたしを探してたんだ・・・・
こんなに迷惑かけちゃった。
「しかし、心配しました。」
先輩がいつもの口調で言った。
「いったいどこにいったのかと・・・。でも、まさかここに来るとは思っていませんでした。」
先輩の知り合いだったんだ・・・すごい偶然。
「ご、ごめんなさい。」
やっとあたしは謝った。
でも、これだけじゃだめたよね。
何か言わなくちゃ…
「でも・・・私、なんだかわけがわからなくなって・・・。先輩にあの話を聞かされて、告白されて・・・嬉しかったのに。
でも、なんだか納得がいかなくて・・。わけがわからなくなって・・・。」
とにかく浮かんだ言葉を並べた感じになっちゃった。
「それは・・・すみません。でも、私はエリーのことを知っておいて欲しかったのです。」
「じゃぁ、何で、告白する前に言うんですか?何で前の恋人のことを私に話したりしたんですか?どうしてなんですか?」
先輩の言葉にあたしは尋ねた。
何もかも尋ねてしまいたかった。
こころに何かが引っかかってた。
先輩とエリーさんの思い出が一番詰まったあの場所。
エリーさんの思いが詰まってる。
当然、先輩のエリーさんへの思いも…
そう思ったら先輩の言葉が信じられなくて。
沈黙が流れてた。
あたしは先輩の返事をひたすら待ってた。
「エリーのことを話すのは、失礼なことだとは思ったのです。
でも、私にとってはどうしても話さなくてはならないことだったのです。
エリーのことを振り切らないと、私は先に進めないんです。
振り切るという言い方はおかしいかもしれないですけど、でも、彼女のことを知っておいて欲しかった。
私は、今、結花さんが好きです。
それはエリーよりももっと好きです。
だから、知っておいて欲しかったのです。
それが、私の心の中の大きな部分を占めていた束縛だったから。
そして、その束縛をはずしてくれたのは結花さんだったから。
もう一度、人を好きになる勇気をくれた人だから。だからなんです。」
あたしはゆっくり話す先輩の言葉を聞いていた。
あたしが?
先輩の束縛をはずした?
エリーさんよりも好き?
あたし・・・あたし・・・そんな大きなことしてない。
先輩のこと好きで・・・お話ししたり会ったりするだけで嬉しかっただけなのに。
「だから、結花さんに話したのです。でも、迷惑でしたね。」
「め、迷惑じゃないですっ!」
先輩の迷惑という言葉にあたしは大きな声で否定した。
言ったあと恥ずかしくなっちゃって・・・
「迷惑だなんて、思ってません。」
もう1度小さな声で言った。
迷惑だったらオーストリアまで来ないもの。
迷惑だったら近づかないもの。
迷惑かけてるのはあたしのほうかもしれないのに。
先輩がその後に続く言葉を待ってるようだけど・・・
おば様が戻ってきた。
先輩が通訳役で3人でお話をした。
とっても楽しかった。
でも、どこかで引っかかってた。
きちんと気持ちを伝えなくちゃ・・・素直に。
もう時間ということで先輩の家に戻る事になった。
「マタネ。」
おばさんがにっこり言った。
「は、はい。」
「それでは。」
先輩が挨拶をして歩き出した。
あたしは先輩の後ろをついていった。
先輩のうちに着く前に、ちゃんと言おうと決意して。