<偶然がきっかけを>

「ふわぁ…」

紅茶が壁にいっぱい。

そしていい匂い。

はっ、また自分の世界に入っちゃった(汗)

どこに座ればいいのだろ…

きょろきょろと店内を見てると、マスター(といっても若いお兄さん)がやさしく声をかけてくれた。

「ここにどうぞ。」

指示されたカウンター席の隣に見たことあるいろ…

「おや?」

こちらに気づいた綺麗なブロンズの髪…

「グ、グスタフ先輩!」

さっき楽器店でわかれたグスタフ先輩だった…

あ、あう…

また顔が熱くなる。

なんなんだろ…

ど、どうしよう。

でも他に空いているような席ないし…

おとなしく、隣の席についた。

「お知りあいですか?」

マスターが先輩に聞いている。

「学校の後輩ですよ。」

あたしは黙ってうなずく。

「なんにしますか?」

「あ、あの。あまり匂いのきつくないの有りますか?あんまり紅茶に詳しくないので…」

「わかりました。」

にっこり微笑むとマスターは一つの紅茶を選んでいれ始めた。

「お一人なのですね?」

先輩がやさしく声をかけてくれた。

「は、はい。で、でも私、バスを間違えちゃて…あわてて、このバス停で降りたらここがあって…」

あう…

なに余計な事を話してるのだろ…

でも、先輩は穏やかに微笑んでいる。

最近、あたし。グスタフ先輩になんか過剰反応してるような…

気のせいかな?

変なの。

「そうですか。それは大変ですね。」

先輩はそう言った。

「そ、そんな事!私、バスの路線図ってよくわからなくて…」

あたしは慌てて否定した。

あたしがおおぼけをかまして、バスを間違えて降りた所にあった喫茶店にはいるといたのが…

「私もまだよくわかりません。日本のバスはわかりにくいですね。」

微笑みながら話す、グスタフ先輩だった。

あたしは首をぶんぶんと縦に振る。

先輩の紅茶が出てきた。

一口口に含んだ先輩はにっこりと「おいしいですね。」とマスターに言った。

「このお店ははじめてですよね?」

「え?は、はい。」

どうすればいいのかわからなくて、黙ってたあたしに先輩が話しかけてくれる。

でも妙な緊張でどもりがち…

「そうですか。私もさっき自転車で来た時にふと止まったんですよ。この店の前で。」

「そ、そうなんですか?」

あうあう…

決まりきった返事しかできない(涙)

先輩もここがはじめてなんだ、ということは…

「素晴らしい偶然ですね。今日は。」

先輩が微笑んだ。

「そ、そうですね。」

ものすごい偶然なんだけど…

うわーん、やっぱり外人だと、緊張しちゃうよぉ。

でも、これだけ喋れるのはかなりの進歩なんだけど。

会話が続かない…

そのうち、マスターがあたしの前に紅茶を置いてくれた。

いい匂い♪

「熱いから気をつけて。」

そうアドバイスを受けてふぅ〜って息を吹きかけて、一口口に入れた。

「わっ。お、おいしいです。」

ふわぁぁって気持ちが楽になる。

熱くなってたかおがすうっと熱が引いてく。

「おいしいですよね。」

隣でにっこりと微笑みながら先輩が言う。

すると、あれ?あれれ?

せっかく落ちついた顔の熱いのが復活してる。

なんなんだろ…?

「そういえば、リードはどうしましたか?」

先輩は話題を変えてくれた。

「あ、先輩が進めてくれた。これにしました。」

バックのなかから楽器店の袋を引っ張り出した。

それからリードや楽器の話題になった。

楽器の事だから比較的ちゃんと話せたはず…

紅茶のおかげもあったけど。

でも、ほとんど先輩が話しかけてくれてた。

「ゆかさん、今度乗るバスの時間は大丈夫なのですか?」

時計を見ながら先輩が言った。

ほぇ、あわてて時計を見ると…

ふにゃ、10分前だ…

「あっ。もうこんな時間。私、行かないと。」

「そうですか。じゃぁ、マスター、ごちそうさま。」

帰り支度を始めたあたしの隣で先輩も席を立とうとしている。

「えっ?グスタフ先輩…」

「私もそろそろ行かなくてはならないのですよ。」

もたもたしてるあたしよりも早く席を立つと先輩は会計を済ませてしまった。

しかもあたしの分まで。

「この間のクッキーのお礼です。」

先輩はお財布を持って、おろおろしているあたしにそう言った。

あうあう…ど、どうしよう。

先輩は「また来ます。」とマスターに行って店内を出て行こうとしている。

「わ、私も!」

あたしは慌てて、そのあとをついていった。

 


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