<おもいひそかに>

 

写真の入ってない写真立て。

中学合格のときにお母さんから貰った。

合格祝いと思ってたけど、そのときに言われた言葉。

『結花、中学生になるのだから一つや二つの恋はすると思うの。

そのときに写真を入れるのに使いなさい。

 あなたが写真を入れようと思うのはどんな人なのかしら・・・』

そのときはよくわからなかったのだけど今なら少しわかってきた。

「ゆ〜か〜、ほい、これ♪」

月曜日の朝、亜都ちゃんがうれしそうに何かを差し出した。

かわいい封筒だ。

「何?亜都ちゃん。」

「まあ受け取ってえな♪」

「…?うん。」

にこにことうれしそうに言うので受けとって、開けてみる。

「!…こ、これどうしたの?」

あたしは覗いただけですぐに亜都ちゃんを見た。

「ん?ちょっとしたルートで手に入れたんよ。大丈夫。ばれるような事はないから♪」

封筒の中には…先輩の写真が入ってた。

それも先輩一人だけのスナップ写真。さすがにカメラ目線じゃないけど。

…亜都ちゃん、いったいどこから手に入れてきたんだろ。

「いらんの?」

いたずらっぽく亜都ちゃんが言う。

「…いらないわけないもんっ。でも、本当に大丈夫?先輩にばれない?」

心配になってきた。

「ほんまに大丈夫やって♪」

亜都ちゃんが自信を持っていった。

なら、大丈夫なのかな?

「これであの写真立てに入れられるやん♪」

「そうだね…ってまた、亜都ちゃん何言わせるのよぉ!」

「だって〜♪結花の反応おもろいんだもん。」

そうゆう問題なのかな?

「そういやもうじき1ヶ月になるんやろ?家庭教師はじめて。」

「うん。昨日もあったよ。」

「なんとかなってるん?」

「なんとかなってるよ。あ、先生きたよ。亜都ちゃん。」

席につきながらそっと封筒をかばんにしまった。

亜都ちゃんがほとんど強引に先輩にあたしの家庭教師を頼んでもうじき1ヶ月がたとうとしてた。

すこしづつゆっくりと教えてもらってる。

本当にゆっくりだからわかりやすい。

それに、先輩からせっかく教えてもらえるんだもん、ちゃんとやらないと。

「…これで、よしと。」

うちに帰ってすぐに写真立てに写真を入れた。

少し眺めているうちに恥ずかしくなってきた。

はう…

だめだ。

あたしはそれを引き出しにしまった。

どきどきしちゃって、部屋に飾れない。

「結花さん?」

「は、はい。」

次の日曜日、いつものように先輩に教えてもらってるときふと先輩が尋ねる。

「机の上の写真立て…今日はないのですね?」

えっ?

な、なんで先輩、写真立ての事…

そりゃいつも机の上においてたけど。

一気に顔が熱くなる。

「あ、あれですか。あれはちょっと…」

最後の方はごにょごにょしてしまった…

だって、まさか先輩の写真入れてますなんて言えないもん。

しかも、恥ずかしくて飾れないからしまってあるなんて…

絶対に言えないもん!!

それで先輩が迷惑と思ったらと考えると…

だから本当の事は言えないもん!!

「そうですか…」

先輩はそのまま黙ってしまった。

あたしは恥ずかしくて先輩の顔を見ることができなかった。

少しの沈黙のあと。

「さて、今度はここをやりましょうか。」

いつもの口調で先輩がプリントを出す。

「あ、はい。」

あたしはそのままプリントに集中した。

…先輩に気づかれてないよね?と思いつつ…


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