新世紀エヴァンゲリオン別版
心の壁
第壱話
使徒、来日
「助けて下さい、助けて…」
「あらら、そんなに怖がらなくてもいいのよ。」
異様に露出度の高い服を着た妙齢の女性が、学生服を着たメガネの少年ににじり寄る。
少年は徐々に後ずさったが、公園の隅に据え付けられたベンチに足を引っかけ、そのままそこに座り込んでしまう。
これだけなら、ただの年下趣味の女性が少年の貞操を奪おうとしているだけだが…(いや、それも犯罪だが)
彼女の顔の左側は、返り血で真っ赤に染まっていた。
そして、彼女の背後には…若いカップルや酔っぱらった中年男性などが、全て頭を消し飛ばされて死んでいる姿があった。
「(何だよ、この女…おかしいよ!こ、こんなこと、人間にできるわけがない…)」
「大丈夫よ、殺さないわ…お姉さんはね、君みたいな若い男の子が大好きなの。だからちょーっとだけ付き合ってね?
運がいいわねぇ〜…死なずに済むし、童貞も卒業できるし、気持ちいいこともできるし。ま、外だし蚊に刺されるぐらいは勘弁してね。」
「た、助けて…」
「だ、か、ら、大丈夫だって。君が逃げたりしなきゃ絶対殺さない。まぁ、若いんだし5回ぐらい余裕でしょ?」
女性は、ニコリと微笑んだ。
その微笑みの美しさと、背後の殺人現場のギャップが凄すぎる。
「じゃ、いただきま〜す」
女性が、少年のズボンのベルトに手をかけた瞬間。
「おい、そこで何してるんだ?」
若い男の声が2つ。年は…おおよそ20前半。
「来るな!来ちゃあ駄目だ、殺される!」
「何…殺されるだと?おい、我々は警察だ!その子を離せ!」
2人の刑事が、公園の中に入ってきた。
一人は、ごく普通の顔だが、もう一人は、暗闇でも爛々と光る赤い瞳と、銀髪が印象的な明らかに「異質」な存在。
「何よ、これからって時に…ええい、死にな!」
女は、掌を刑事の頭部に向ける。
すると、女の掌から光り輝く槍のような物が伸び、数mは離れた刑事の眼前に迫った。
「サキエルか…」
「私の名前を知っている…!?」
銀髪の刑事は掌を目の前で合わせると、赤色の障壁を創り出した。
障壁は女の伸ばした光の槍を受け、中心部が少々歪んだが…銀髪の男には全く被害はない。
それどころか、男の障壁は歪んだ部分から光の槍を取り込み、その場に固定した。
「サキエル、君を殺人容疑と強制猥褻罪で逮捕する。ちなみに君は人間じゃないから裁判もこの場で行ってしまおう。」
「こ、このフィールドの力は…ラミエル!?」
「外れ。残念だけど、君の槍ではラミエルのフィールドどころか僕のフィールドも貫けないみたいだね…
じゃあ、判決を言おう。死刑。」
銀髪の男が右腕を振り上げた。
そして一瞬、フィールドの力が弱まった瞬間…
光の槍が立ち消え、かわりにサキエルは左腕を銀髪の男の奥にいる黒髪の男に向けた。
「死ね!」
再び光の槍が伸びる。
しかし、黒髪の男は銀髪の男と同じように手を目の前で組むと、オレンジ色の障壁を展開した。
そして、オレンジの障壁は光の槍を止めはしたものの、銀髪の男の障壁の2倍ぐらい歪み、光の槍は黒髪の男の鼻先を掠めた。
「あ…あんたも使徒!?2対1じゃあ流石に勝てないねぇ…んじゃ、さよなら!」
サキエルは、両膝をそろえて一瞬しゃがみ込み、思い切り地面を蹴って跳躍した。
両足の形にへこんだ地面をさらに銀髪の男の放った「何か」が薙ぎ払い、公園の地面に一瞬にして巨大な凹凸を創り出してしまった。
「逃がしたか…」
銀髪の男が見上げた先には、電線を伝ってシャカシャカと逃げ去るサキエルの姿があった。
「渚…今のが「使徒」かい?」
黒髪の男が、鼻先から流れる血を気にしながら訪ねた。
「ああ、あれはサキエル。光の槍が唯一にして最大の武器さ…まぁ、あの運動能力も驚異ではあるけどね。」
「それより、人が死んでるから早く連絡しないと。」
「おお、そうだったね。」
渚と呼ばれた刑事は、懐をゴソゴソと漁り出す。
その間に、黒髪の刑事…碇は、ベンチに座ってガタガタ震えている少年に近づく。
「ヒッ!」
「怖がらなくていい、僕達は君の味方だ。ついでに言うと刑事だ。」
「い、今の女は何なんですか!?お、俺はこ、これからどうすれば…」
「落ち着いて。まず、僕達も仕事を進めなきゃいけないからね…君は殺人現場の目撃者だ。名前を教えてほしい。」
メガネの少年は、未だに呼吸が収まらずにひいひい言っている。
「あ、相田。相田ケンスケです…」
「相田君か、僕は碇。あっちは渚刑事だ。…今見たとおり、僕達2人はあの女に対抗しうる超能力を持っている。
子供向け特撮番組のような話になって恐縮だが、あの女は人間ではなくてね。あ、いや、厳密に言えば人間というか…
ああ、こんな話聞いてもしょうがないね。まずは仕事だ。あの女の詳しい話を聞かせてくれないかい?
できれば署で、さらにできれば今がいい。明日でも構いはしないが…」
「あ、いえ…今でいいです。」
「うん、ありがとう。」
「はい、コロシです。間違いなく。被害者は合計3人、若いカップルが一組と、中年男性が一人。
はい、全員頭を撃ち抜かれて死んでいますね。先日と殆ど同じ。
あ、そうそう…目撃者の少年が一人居ますんで今から話聞くことにします。はい。それでは。」
渚が無線を切ると同時に、碇は署に向けて車を走らせた。
9月13日
第3新東京市に突如現れた、使徒と呼ばれる謎の人型生命体。
特徴として人間の形態を取っていることが非常に多く、また、男性型なら女性を、女性型なら男性を非常に好む性質がある。
また、使徒は例外なく全ての物理的攻撃を遮断する絶対障壁を持ち、いかなる攻撃も一切受け付けない。
性格は残虐極まりない場合が多く、殺人を楽しむような個体も現れている。
警視庁では住民に最大限の注意を払って行動するよう注意を呼びかけると共に、
事件の解決に向けて最大の力を傾けるよう発表した。
つづく
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