―世界の、始まり― #17

誰もが幸せで

平等でいられること。

それは誰もが願うこと。

それでも、誰かの幸せは

誰かの不幸の上に立つの? 

ううん、違う……と思う。

誰かの幸せと誰かの幸せが重なり合えば、

どちらかがその幸せを手に入れるけど、

手に入れられなかったほうは

また別の幸せを探すのよ。


―世界の、

まり―
Vol.17
作:えみこさん



沈黙。

今のこの状況には

その言葉が一番似合うだろう。

そして……言い表せない感情。

「それが……レイが苦しんでいる原因なの……」

アタシはやっとその言葉を搾り出した。

渚カヲルは目を伏せたままうなずいた。

「そんな事って……だって……」

シンジもアタシも、そして当事者の渚カヲルもが

言い切れない気持ちになった。


――事の始まりは、ほんの三日前。

彼と彼女は寄り添いあった。

はじめての人間としての生活。

アダムとリリスであった彼ら……

いや、正しくはアダムとリリスの記憶の断片を持つ、

人工的に持たされた彼らが、

人間に生まれ変わり生活していく事。

以前であればなんでもないような出来事も、

人間となった今では違って見える。

不安、恐怖……そして喜び。

彼らは人間として生きていく事への

幸せを手に入れつつあった。

彼らとまた共にあった者の存在を打ち消して。

アダムであった頃の彼、彼には伴侶がいた。

伴侶の名はリリス。

しかし、リリスは彼のまえから姿を消した。

その後、彼の伴侶になった者、それはイヴ。

しかし、そのイヴとの生活も長くは続かなかった。

――禁断の果実

手をつけてはいけないそれに手を出したから。

楽園からの追放。

そして、彼らは記憶を封じ、生命さえも封じ

深い眠りについた。

セカンドインパクトが起こるまでは……。



「でも……どうしてイヴは発見されなかったの?」

アタシの問いかけに渚カヲルはただ首を振った。

「僕とレイ……いや、アダムとリリスはほぼ人工的に

作られたものだ。だから、レイの記憶にリリスだった頃の

物はなかった。それを思い出したのはサードインパクト直前だったからね。

おそらくサードインパクトを起こすのに3人も必要はなかった

……からかもしれないね」

「そう……残されたイヴの悲しみが今回の事を……」

「それも正確ではないよ」

「どういう事?」

「彼女は僕を恨んでいるんだろう、自分を裏切った僕をね……」

「裏切る? アダムがイヴを? だって、そんな事どこにも!」

「……あれは禁断の果実の……」

”ガタン”

渚カヲルのよく通る、けれど小さな声をさえぎる音。

白い肌をいっそう白くさせたレイが立っていた。

「!? レイ 大丈夫なの?」

レイの元へ駆け寄るアタシ達より数歩早く渚カヲルが

レイの細い肩を引き寄せる。

「えぇ……なにか、すっと楽になって……」

まだレイの額にはうっすらと汗がにじんではいるが

さっきまでのように苦しそうな感じはどこにもなかった。

「あっ、取りあえず水分を取ったほうがいいよ」

キッチンでシンジの汲んだ水を受け取り

レイは白い喉をこくんと鳴らして水を飲んだ。

「まだ横になってたほうが良いんじゃない?」

アタシの言葉にレイは軽く首を振る。

「もう、平気……」

そう言って力なく椅子に腰をかける。

「取りあえず、医者に見せるわけにもいかなそうだし……

今日のところはリツコに連絡して早く帰ってくるように言うわ」

「そうだね。今のところは大丈夫みたいだし、えと……話はまた今度って事で良いかな?」

「そうね。しばらく安静にしてなさいよ。渚カヲル、頼んだわよ」

「あぁ」

渚カヲルはどこか力なく微笑んだ。








「……イヴが恨んでるってどう言うことかしら?」

リツコのマンションのエレベーターの中で階数を示す

ランプを見上げながらアタシはつぶやいた。

「……」

シンジは黙ったままアタシと同じ所を見上げている。

「まぁ、取りあえずレイは平気みたいだし、詳しい話を聞くまではアタシたちじゃどうにも出来ないか」

ふっと溜息をつき、ドアの開いたエレベーターに

シンジの背中をぽんと押した。

外はもう大分暗くなっていた。

マンションから漏れる明かりと街頭のランプが、あかあかと

アタシたちの歩く道を照らす。

伸びた二つの影はとぼとぼと重い足取りを示している。

このままで終わるのか……それとも。

なにもわからないアタシたちには出来ることがない。

それがはがゆくて、焦燥感が募る。

けれど、一番辛いのは自分の意思とは違う

目覚めかたをして、苦しんでいるレイ達なんだ。

何も出来ないかもしれない、だけどそばにいることくらいは出来る。

それでほんの少しでも彼等が安心できるのなら

出来る限りの事をしてあげたいと思う。

だって、それが友達だもの。

「ね! 買い物していこう! 明日はどうかわからないけど

レイが学校に来られたら美味しいお昼食べさせてあげようよ」

ね? という表情でウィンクを作るアタシにシンジは笑った。

「うん!」

「早くしないと行き付けのお店が閉まっちゃう!」

「あ、もうこんな時間か。走ろう、アスカ!」

伸びた二つの影は不安を振り切るように走り出した。

これからの安息へ向かって……。

―続く―



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管理人のこめんと
 えみこさんからいただきました。「―世界の、始まり―」、第17話です。

 じんわりとなにかが忍び寄ってくるような気配が漂ってますね。
 しかもなんだか意味深な謎がまた増えました。禁断の果実。イヴの謎を解く重要な鍵みたいですが、肝心なところは語らずじまいでした。何だかすごく気になりますね。アダム=カヲルくんがイヴを裏切ったというのが解らないんですよねぇ。むぅ。
 ちゅことで、これからの展開に超! 期待です。

 とゆうわけで皆さん、相変わらず素晴らしい作品を送ってくださっているえみこさんに、これからもアスカらぶで頼むぜっ、とか、レイのことも忘れないでくれよっ、とか、感想や応援のメールをじゃんっじゃん送って頑張ってもらいましょうっ。

 えみこさんの連絡先は
 HPはこちら

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