アナタ達は幸せ?
日の元に出られ
自由に飛びまわる。
アナタ達は幸せ?
私は……
「どうしたんだろう…?」
シンジは教室をぐるっと見渡しつぶやく。
「何が?」
「カヲルくんたちがまだ来ていないんだ。いつもはもっと早い時間に来ているのに」
「ま、あいつらだって寝坊くらいするでしょ」
昨日からシンジは変だ。
レイたちの事をずっと気にしている。
そして、アダムとイヴを…。
イヴ…確かにシンジに言われて見れば
アダムとリリスがいて、イヴがいないのは
変かもしれない。
でもアタシはエヴァがそれだと思っていた。
でもそれもシンジの言うとおり「イヴが何人もいる」のは変だ。
「……」
アタシは席を立ちあがり教室を後にする。
「あ、アスカ!! どこに行くの? 授業始まるよ!!」
「自主休講!!」
「自主休講って・・・大学じゃないのに・・・」
「すみません」
アタシは司書に声をかける。
「昨日ここにあった”bei allem, was heillig ist”って言う
本を探しているんですけど・・・」
「…ちょっと待ってね」
聞きなれない言葉に少し戸惑いながらも
司書はPCにカタカタと本の題名をうちこむ。
「えーと…あぁ、その本なら国立図書館に返却されたわ」
「返却?」
「えぇ、どこからか紛れ込んだのね、きっと」
「どう言うことですか?」
「あの本はこの図書室の本じゃないのよ。図書ナンバーを
みたら国立図書館の本だったの」
「…そうですか。ありがとうございました」
アタシはペコッと頭を下げて図書室を出た。
―なぜ国立図書館の本がシンジの机に・・・? ―
国立図書館から本を借りる事なんて出来ることじゃないのに・・・。
あそこにある本は研究用がほとんどで一般の人間が入ることは
出来るけれど規制も管理も厳しくそこから本を持ち出すなんて・・・。
そしてそれをわざわざシンジの机に入れた。
一体誰の仕業・・・?
やっぱりシンジの言うようにレイ達に何か関係があるんじゃ・・・。
アタシは教室まで駆け出した。
アタシは教室のドアを勢いよく開け叫んだ。
「シンジ!!」
授業中の静まり帰った教室にアタシの声が響く。
クラスメイトの視線が一斉にこちらを向く
アタシはそれを振り払う。
「急用!! 急いで!! 先生、アタシたち早退します!!」
アタシはそう言うと自分のカバンを机から引ったくり
シンジの手を引いて教室を出る。
「ア、アスカ、急にどうしたんだよ」
「アンタの言うとおりやっぱりレイ達に何かあるのかもしれない」
「えぇ? どう言うこと!?」
「話は後!! まずはリツコのマンションに行くわよ!!」
「ねぇ、アスカ。一体どうしたって言うの?」
エレベータの中、シンジが不安の混じった怪訝な顔をする。
「あの本…昨日シンジが読んでた」
「あの本がどうかしたの?」
「あれは誰かが意図的にシンジに見せたものなのよ」
「え…? どう言うこと?」
「あの本は学校のものじゃなかったの。持ち出しの出来ない場所の本。
言ってみればネルフの極秘調査書みたいなもんよ」
「どうしてそんなものが…?」
「だから、誰かが意図的にやった事なのよ」
「なんのために?」
「それがわからないからここに来てるのよ」
開きかけたドアをアタシは押しのけるように手で押した。
―赤木リツコ 渚カヲル・レイ―
アタシは表札を見上げインターフォンを押した。
「何やってるのかしら、早く出なさいよ」
再びインターフォンを連打する。
「落ち着いてよアスカ。そんなにすぐには出ないよ」
シンジの言葉を無視して5度目のインターフォンを
押そうとした時、扉は開いた。
「やぁ、シンジくんに惣流さんじゃないか」
「渚カヲル…アンタ平気なの?」
「平気…とは、どう言うことだい?」
いつもと変わらない渚カヲル。
だけど、ポーカーフェイスの中にもなにか
いつもと違ったものを感じる。
「レイは…?」
アタシの言葉に一瞬渚カヲルの瞳が曇る。
「…お邪魔するわよ」
渚カヲルを押しのけアタシは奥へと進む。
「レイ? どこにいるの? レ…」
アタシの目に映ったのはぐったりと横たわり
息を弾ませているレイの姿。
「ちょっと! アンタどうしたのよ!!」
横たわるレイを抱き起こし声をかける。
レイは息を弾ませるだけで返事をしない。
風邪なんかとはちがう、レイのぐったりとした体。
イヴの件がアタシをいっそう不安にさせる。
「カヲル!! 渚カヲル! ちょっと、どう言うことよ!!」
まだ玄関先にいる渚カヲルに大声で呼びかける。
アタシの呼びかけに渚カヲルはのろのろと顔を出す。
「これ…イヴが関係しているんじゃないの?」
イヴと言う言葉に渚カヲルの体が一瞬ビクッとする。
「なぜ…君がそれを…?」
「カヲルくん…レイは一体どうしちゃったんだよ」
不安な顔でシンジはレイに歩み寄る。
アタシはレイの体をシンジに預け、渚カヲルと向かい合う。
「説明…してもらえるわよね?」
渚カヲルは小さく頷き目を閉じた。
アタシ達はリビングに移動した。
隣の部屋で息を弾ませているレイが
気になるけど今はどうしようもない。
「君達はなぜイヴのことを…?」
「昨日ね、シンジの机に本が入っていたの」
「本…?」
「うん。聖書のようなものでね。それを読んでシンジが
イヴの事を言い出したの」
「うん…カヲルくんとレイがアダムとリリスならイヴはどこに?
と思って…」
「それでね、アタシもちょっと気になってその本を読もうとおもって
図書室に行ったんだけど…」
「けど…?」
「その本、無かったのよ。なんでかって聞いたらその本は国立図書館の
ものだって言うの。あそこにある本を普通に持ち出せるはず無いでしょ?」
「良くは知らないが、そう言うところらしいね」
渚カヲルは茶色の髪をかきあげた。
「そうなると、誰かが意図的にシンジに見せたように思うのよ。
イヴの存在を知らせるために…」
「なるほど…それで君達がここへ来たって言う事か…」
「詳しいことを聞きたいの…イヴについて」
カヲルは黙ったまま顔の前で手を組んだ。
「カヲルくん…」
シンジは不安そうなまなざしを渚カヲルに向ける。
「話をすれば、君達を巻き込むことになるかもしれない」
「…!?」
「イヴは怒りに我を忘れている。
そこに君達をまきこむわけには行かないだろう」
「そんな……」
「そんなこと関係ないよ!!」
アタシの言葉をさえぎりシンジが口を開いた。
「シンジ…」
「カヲルくんやレイが困っているのを黙ってみてなんていられないよ!」
「…そうよ。アタシだってそう思う」
だから、すべて話して欲しい。アタシもシンジもそう思った。
渚カヲルはためらっていたけど、覚悟は出来ている。
命を捨てても良いなんて思わない。
だけど仲間を見捨てることなんて出来ない。
精一杯戦って、そして無事にみんなで笑い合いたいだけ。
「ありがとう…すべてを話すよ」
そう言って渚カヲルは事の起こりを話し始めた…。