『誰がために……』

 
作:SHOWさん
 
     プロローグ 『赤い海』


 ザアアァァァァン……
  ザアアァァァァン……ザアアァァァァン……

 赤い海が夜の空に浮かぶ光を反射して煌く。空には二つの月が浮かび、本来()るべき地上の光は、その片鱗すら見せることはない。何も無い世界。終わった世界。それが僕の目の前に広がっていた。
 誰もいない世界、そう、おそらく僕が望んだ世界。
 誰も傷つかず、何も恐れず、(おびや)かされず、苦しまない……ある意味理想の世界。
 その世界に僕はただ一人立っていた。
「……」
 原始の海に視線を向ける。そこは変わらず波打つのみで、何かが動く気配すらない。LCLの海。
 血の匂いをさせる、この世界の命を統べるもの。しかし、……僕は……
「……こんな世界のために、僕は……」

 ザアアァァァァァン……
  ザアアァァァァァン……ザアアァァァァァン……

 僕は目を(つぶ)っていた。人が神に対して祈るってこんな気分なのかな? 
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「人は一体何のために生きてきたんだろう? こんな結末しか無かったのかな?」
「その答えは君が自分で見つける必要があるね」
 声は僕の背後から聞こえてきた。この世界で僕以外の自己を持つ人間。その存在を僕は初めて知った。
「カヲル君……」
「久しぶりだね……シンジ君。覚えていてくれたんだ。嬉しいよ」
 そう。そこにはカヲル君が変わらない笑顔を浮かべて立っていた。僕と同じ第壱中の制服を着て。
 誰もいないと思い込んでいた世界で出会った他人。その不思議な容姿。銀髪に紅玉の瞳。
 僕が殺したはずの渚カヲル君が砂浜に、僕の後ろに、今は立っている。そのことを僕は当然のように受け止めていた。
「しかしシンジ君。君は答えを見つけたからこそ、この世界を望んだんじゃないのかい?」
「……やっぱりこの世界は僕が望んだ世界なんだ……」
 漠然と感じていた事が今事実となってつきつけられた。僕が望んだために、他の人の希望や夢は、無残にも砕かれた。その現実が僕の心を傷つけ始めた。その為カヲル君の疑問を浮かべた表情に気がつかなかった。
「君だけが望んだ世界って訳じゃないみたいだけどね。……」
「えっ?」
「この世界はボク達3人が望んだ世界さ」
「3人? 僕達? カヲル君、それって一体……?」
「出て来たらどうだい? 贖罪(しょくざい)は、シンジ君にするべきさ」
 そう言ってカヲル君は後ろの今にも倒れそうな電柱に声をかけた。いや、その後に佇む『人』にむかって。
「綾波……?」
「碇君…………」
 そこに立っていたのは紛れも無く綾波だった。忘れようの無い蒼銀の髪。そして紅玉の瞳。
 それは、僕をこの世界に導いた『リリス』ではなく、僕が初めて意識した女性の綾波だった。
「ごめんなさい……」
 綾波はそう言うと頭を下げた。僕に向かって。
「何で綾波が謝るの? それにカヲル君、さっきのことって、それに贖罪ってどういう……」
「今から説明するよ。全てをね。……とりあえず、ここでは座ることも出来ないよ。落ち着いて話を出来るところに移動しないかい?」
「あ……そうだね」
 そう言うと僕達はわずかに残っている陸地を歩き出した。

「もうわかっていると思うけど、この世界はサードインパクト後の世界。全ての人たちはLCLにまで還元されている。この世界で形を持つのは、異分子であるボクと、リリスの一部だったレイ。そして、この世界の中心のシンジ君。君だけだ。そしてこの世界は、リリスと言う巨大なレンズを使ってボク達の心を写しだした世界だと思ってくれていい」
「僕達の心……?」
「そう。本来なら依り代とされたシンジ君だけの世界になるはずだった。それがゼーレと君の両親の計画さ。ゼーレは進化を止めた人類に進化を促すために。君の両親は、君とまた一つになって幸せになるために。それぞれ目的は違ったが採った行動は同じだった。初号機と君を依り代にして、サードインパクトを起こす。リリスを使ってね。そのリリスを覚醒させる鍵がレイであり、君を縛る鎖がボクさ。まあ、ネルフはボクのような存在は予定していなかったんだけどね……」
 そう言うとカヲル君は自嘲するように笑みをこぼした。
 綾波はずっと下を向いたまま顔をあげようとしない。
 僕はカヲル君の言うことを理解するのに精一杯で綾波の表情に気づかなかった。
「多分計画は半ば成功している。全ての生物はLCLにまで還元された。いや、されるはずだった」
「半ば? ……」
 意外だった。サードインパクトは起きてしまったのだから。計画は成功して、僕は負けてしまったと思い込んでいたから。
「シンジ君。君は不思議に思わなかったのかい? 君だけがLCLになっていない事に……」
「そういえば……カヲル君。君はそのわけを知ってるの?」
「あぁ。そうだよ、シンジ君。その理由は僕達二人さ」
「カヲル君と綾波の……?」
「ごめんなさい……」
 綾波がまた謝る。その声は少し震えていた。まるで父親に叱られている幼子のように。そこで初めて僕は気づいた。綾波が、泣いていることに……
「何で綾波が謝るの?」
 僕は再度、尋ねた。
「……レイ、ボクから話そう。シンジ君。ボクはさっき『計画は成功している』と言ったよね」
「……うん……」
「おそらく計画はまだ終わっていないんだよ」
「えっ?」
 計画は終わっていない? どういうことだろう? 
「ここからは、彼等にっとて誤算になるんだけど、この計画に使われるボクらは意志をもたない人形になるはずだった。しかし、レイとボクは君に出会い、君に対して好意を持つようになった。レイの好意はリリスに働き、ボクの好意はエヴァシリーズに働いた。その結果、君はLCLにならなかった。ボクらが『シンジ君』という存在を望んだから。だから君はこの世界に『人』として存在しているんだ」
「? ……意味が……よく……」
「今この世界を形作っている意思は、君の意思も反映しているが、ボクらの意思も反映されていて、そのためにシンジ君は人として存在している。ということさ」
「いや、そうじゃなくて、それと『計画が終わっていない』というのとどんな関係があるの? それに、綾波の罪って一体何なの?」
「あぁ、そのことかい」
 そういうとカヲル君は表情を改めた。
「まず、レイの罪っていうのは『君とともに生きたい』と願ったことさ」
「……それはいけないことなの? カヲル君?」
「……願うべきでなかった……と思うよ。ボクはね。……」
「……私が願ったから碇君という存在は在りつづけているけど、それは、碇君という『人』の存在を否定してしまうことになったの……すべての『人』は『一つに』……その摂理から外れるには……『人でない』存在じゃないといけないから。……だから……今いる碇君は私達と同じ存在になっているの。……だから……ごめんなさい……」
「綾波たちと同じ存在……」
「レイはリリスと同化していたから、その意思は思っていた以上に強く反映されてしまった……その結果、君はボクらと同じ、『原初の子』になってしまったのさ」
「…………計画のほうは?」
 その時僕の言葉に綾波は肩を震わせた。
「……やっぱり……」
「違うよ。綾波を責めているんじゃない。だから無視しているわけじゃないよ。別に気にしてないよ。どういう『モノ』であれ、今の僕の存在は『碇シンジ』に間違いないから。だから、綾波が気にする必要はないよ。……さ、顔を上げて。泣かれるのは慣れてないから」
「碇君…………ありがとう……」
「僕のほうこそごめんね、何も気のきいたことを言えなくて」
 その言葉に綾波は首を振って……微笑んだ。
 まるで、蒼い海に浮ぶ銀色の月のように。優しく。
「……やっぱり君の心は好意に値するよ。その優しさが、少しでも僕に向いてくれると嬉しいけどね。まぁ無理な話か。君の優しさはレイに向いているからね」
「カ……カヲル君! からかわないでよ!」
「ハハハ……ごめんごめん。さて、レイ、シンジ君。話を続けていいかい?」
 その言葉に僕等は頷いた。カヲル君の雰囲気が変わっていたから。
「さて、ここからは『計画』についてだよ。……最初シンジ君は、この世界を望んでいなかったような事を言っていたよね」
「……うん。僕は誰も傷つかない世界を望んでいたから戦っていたわけじゃないから」
「やはり……そうするとシンジ君はほとんどこの世界に関係していないことになる。実際、今この世界はあまりにも不安定すぎる。……コレで確定したね」
 その言葉に綾波が頷き言葉をつなげた。
「碇君。まだ、チャンスは残っているわ。……この世界が碇君の心から望んだ世界で無いなら、世界は、まだその存在を決定しきれていないの。……だから、私達が望めば、世界はまた形を変える。歴史を、動かすことすら出来る。……碇君……」
「君は何を望むんだい?」
「アナタは何を望むの?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「僕は……みんながいる世界を望む。綾波が、カヲル君が、アスカが、ミサトさんが、トウジが、ケンスケが、マナが、洞木さんが、リツコさんが、加持さんが、父さんが、みんながいる世界を」
「そのために、また傷つくことになってもかい?」
「心の壁によって、理解できない、されないことがあっても?」
「うん。……みんながいない世界なんて、僕にとって、世界でないから」
「シンジ君。……分かったよ。君は新しい……いや、今までの世界を望むんだね。じゃぁ、今からボク達が言うこと良く聞いて。……」




NERV発令所
「……こ……ここは? ……」
 そう言って身を起こす影。
「一体……? 何が起きたのだ? サードインパクトが起きたのでは?」
 その影、冬月コウゾウの呟きにしたがい、発令所内で続々と動き出す影。
「どうなって……」
「何をしている? 冬月?」
「!!! ……い……碇!!」
 まだ意識がはっきりしない所に、冷やかに掛けられる声に冬月は心底驚いた。なぜならそこには居なくなっていた赤木リツコを従えた碇ゲンドウが入ってきたからだ。
「い……碇……生きていたのか。……それに赤木君も……」
「副司令もご無事だったようで……」
「冬月。何をしている? 闘いは終わったわけではない」
「碇。どういうことだ? サードインパクトは? シンジ君は衛星軌道上に連れ去られているのだぞ!?」
「副司令。今シンジ君は未来を得るために闘っています。私たちはそれを補佐するのが役目。それにシンジ君はもうすぐ帰ってきます。敵とともに」
「赤木君……」
「冬月。私とユイの子供は、シンジはそこまで弱くない。サードインパクトは起きてしまったが我々は敗れたわけではない」
「…………分かった。……青葉君。現状を可能な限り詳しく報告してくれ」
「り…………了解!!」
「マヤ。いつまで寝てるの? 早く起きなさい。シンジ君が帰ってくるわ」
「は……はい!! 先輩!!」
 このやり取りによって発令所はにわかに活気づいた。いたるところから、点検の結果と周囲の状況が報告されてくる。そんな中……
 プシュ――――
「日向君!! アナタも働きなさい!!!」
「か……葛城さん!! ご無事だったんですか!?」
「ミサト……遅刻よ」
「分かっているわ。その分はきっちり働くから」
 その間にも情報はあがってくる。
「戦自は完全に撤退」
「本部被害はターミナルドグマ付近に集中。本部の維持に問題ありません」
「!!! 弐号機に微弱ですが生命反応あり!! …………エントリープラグ内です!」
「……弐号機パイロットの生存を確認!」
「回収は!?」
「可能です!」
「すぐに手配して!!」
「了解!」
「衛星軌道上から高速で接近する物体あり!!」
「数は!?」
「…………速度が速すぎて測定不能! 後一分で本部の南400Mに墜落します!」
「……エヴァか……」
「あぁ。シンジが帰ってくる。また闘うために」
 発令所の最上段に陣取った二人の予想は外れなかった。

 こうして再び闘うためにシンジは帰ってくる。
 闘いの第二幕は再び第三新東京市で開くこととなる。

 運命を司る女神は勤勉で、
 闘いを司る神は、ある少年たちに全てを強要する。
 魂を打ち砕かんがために
 堕天使は再度降臨する。
 この闘いに神の慈悲は無く
 この闘いの先に神の子の未来がある。
 黒曜と、蒼銀と、白銀の心をもつ者達は
 紫の衣をまとい、全てを()して闘いの舞台に上がる。
つづく


(後書き)
 初めましてSHOWです。
 しっかし続いちまったよ……初めてなのに……読みきりにしようと思ったのに……何となく書き始めたのに……しかも何書いてんのかなぁ? 読みにくいし。ホントは学園物にしたかったんだけど、どこから始めるか迷っちゃって、結局アフター版ということに……さぁ困ったぞ。続きが思いつかないよ……最後だけ何となく見えてるだけで。
 一応主人公はシンジということで進めるつもりです。キャラの関係も白紙に近いからホント出たとこ勝負な話になりそう……まぁ『しょうがない読んでやるか』という心の広い方は、その心を更に広くして出来ましたら続きもよろしくお願いします。


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管理人のこめんと
 当サイト二人目の投稿者、SHOWさんの『誰がために……』、プロローグです。
 掲示板で「ヒマなら書いちゃえ」と無責任なことを言ったきたずみに、さっそく原稿を送ってくださいました。はじめてとは思えないほどセンスのある文章を書かれる方です。まだまだ不慣れで荒削りな部分も多いですが、この先の成長が楽しみですね。

 終わらなかったサードインパクト。
 レイの切ない願いによって、ヒトならざるものに変わってしまったシンジは、ふたたび戦いの舞台に上がる……。

 なんだか燃える展開です。逆行モノではないんですね。EOEアフターってヤツですか。
 LCLに溶けたはずのみんなが還ってきたのは喜ばしいけれど、そうなるとゼーレの連中も戻ってきてるんでしょうか? なんだか敵が現れるみたいですし、シンちゃんたちがどうなったのかとか、アスカが無事なのかどうかも不明で、とにかく謎が一杯です。
 先が読めないあたりが実に楽しいですね。色んな想像が出来て。どことなくLRSのかほりのする逆行スパシン系の予感? ……なんてね。そんなのまだ解りませんよ。
 ともかく、続きが待ち遠しいです。

 とゆうわけで皆さん、出たとこ勝負ではじめてのFFに挑んだSHOWさんに、こんな終わり方じゃ気になって眠れないよー、とか、頑張ってつづきをっ、とか、感想や応援のメールをじゃんっじゃん送って頑張ってもらいましょうっ。
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 このファイルは、きたずみが整形及びHTML化しました。それによって生じた問題はきたずみに言ってください。くれぐれも作者さんに文句を言ったりしないでくださいね。

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