『誰がために……』

 
作:SHOWさん


『碇の息子にあれほどの力があるとは……』
『少々甘く見ていたようだ』
『しかし、このままにしておく訳には行くまい』
『当然だ。我らが主の考えておられる事。それを実現するためにはネルフは少々邪魔だ』
『………新プロジェクトを発動しよう』
『おお、あのプロジェクトか!』
『碇………我々ゼーレシステムを敵にまわした事を後悔するがいい』

    第伍話 「堕天使」


「なあ、シンジ。何でこないな事になったんやろ?」
「僕に聞かないでよ…トウジ」
「……ケンスケの一言がこんな事態になるなんてね…恨むよ、ケンスケ」
 そうぼやくのはトウジとシンジとカヲルである。彼らが立っているのは、第三新東京都でも指折りのショッピングスポット、『ビッグモール』の中心にそびえる建物の3階。女性物の洋服売り場だった。彼等の手に握られているのは、いずれも有名ブランドの袋である。彼らが何故そんなところにいるかというと………

 ――――――数日前
「買い物〜?」
「そう、この間オープンしたビッグモールがバーゲンしているんだって! 相田がいってたわ。で、皆で行こうってことになったの。アンタは荷物持ちでついてきなさい!」
「何で僕なの?」
「イヤダッテ言うの?」
 アスカの目が細くなる。はっきり言って怖い。
「……………いいえ」
 所詮シンジである………。
「よ〜し! 決まりね! じゃぁ、今週の日曜ね!」
「………………誰が行くの?」
「アタシ、レイ、マナ、ヒカル、リンよ」
「…………………ケンスケ達は?」
「相田は行くって言ってたわ」
(……トウジとカヲル君に声をかけておこう。いくら何でも5人分は無理だ……)
 なかなか勘が良くなってきたようだ。まぁ、簡単に予想できたが…。
「日曜の10時に駅前でね!」
(……地獄だな……)
 こうして現在にいたる……

「彼の考えている事は分かるよ。私服姿を写真に撮るつもりなんだね」
 カヲルが疲れたまま話す。彼は濃紺のストレートジーンズに、緑のTシャツの上にデニムの半そでのシャツを合わせている。
「なんやと〜! そんなら、わいらは巻き込まれたっちゅうわけか?!」
 トウジが両手を握り締めて叫ぶ。彼はさすがにジャージではない。ベージュの半パンに、黒いパーカー姿だ。
「そうだね。でもここまで酷いとは…」
 シンジがうなだれる。シンジの格好は白いスラックスに赤と黒と白のチェックのシャツだ。
「で、そのケンスケは?」
「…………撮るだけとって逃げたみたいだね」
「あのやろ〜! 明日覚えとけよ〜!」

 その頃女性陣は……
 ――――――アスカの場合
 明るい茶色の髪を揺らしながら考え込んでいる。彼女が今日着ているのはブルーのワンピースだ。
「これも買っちゃおうかな? …う〜ん、悩むなぁ…」
 彼女の手にはすでにめぼしい物が握られている。今悩んでいるのは黄色いワンピースだ。当然ブランド物。
「うん! 買っちゃおう! どうせ持つのはシンジだし! でも、みんなを誘ったのは失敗だったかなぁ?」
 そういいながらも次のものを物色している。
「シンジと二人で来たかったなぁ…。ついつい、リンを誘っちゃったからなぁ」
 ぶつぶつ文句をいいながら、次のテナントを覗く。
「あ! これかわいい! う〜ん、でもなぁ、似合うかな?」
 そう言ってTシャツを前にして考え込む。
「う〜ん、これに合うズボンは持ってるけど、スカートには合わないなぁ…」
 考え込む。一体何着買えば気がすむのか……。
「う〜〜〜〜ん……。! そうだ!」
 何かに気づいた様だ。
「シンジに聞いてみよう!」
 ………………彼女はシンジを巻き込むことに決めたらしい…。
「アイツ、あれで美的センスはあるしね!」

 ――――――マナの場合
「ふぅ。ちょっと疲れたなぁ。レイ、大丈夫?」
 ベンチに腰掛けながら隣の少女に尋ねる。マナはプリント柄のシャツにサブリナパンツだ。小柄な彼女によくあっている。
「……大丈夫」
 答えるレイはブルージーンズに青いキャミソールを合わせている。
「そう。しかし、アスカも凄いわね。まだ買うつもりだし、シンジも大変ね」
「私たちの二倍……」
「シンジ一人だったもんね。荷物もち」
 そう。シンジが持っていた荷物は、全てアスカのものだった。ちなみにレイとマナのものはカヲルが、リンとヒカリのものはトウジが担当している。それでも、シンジが一番荷物が多い。
(はぁ。やっぱりアスカがいるとシンジを独り占めできないなぁ。一緒にいたいのに…)
 ぐうっと身体を逸らす。
(シンジもシンジよ! はっきりしないんだから!!)
 …というよりも気付いていないのだが…。普通は気付くのだが、筋金入りの鈍感のシンジゆえに、いまだ四人(カヲルをいれて五人)の気持ちに気付いていなかった。ここまで来れば立派である。
(よし! とにかくシンジのそばにいよっと!!)
「レイ、シンジのところに戻りましょう!」
 マナは勢いをつけて立ち上がった。そのまま目的地に向けて歩いていった。

 ――――――レイの場合
(………買い物、思っていたよりも……楽しい)
 マナの後ろを歩きながら、レイは考えていた。
(服……身を包むもの。でも、碇君は似合っているって言ってくれた。嬉しい)
 今朝の事を思い出すと自然と笑みがこぼれた。しかし、すぐにいつもの表情に戻る。
(………碇君は、どう思っているのかしら……?)
 世界を再建して以来、シンジのことがレイの頭の中から離れる事は無い。そればかりか、レイの基本方針はシンジを中心に構成されている。要するに『碇君がいいならそれでいい』というやつだ。そう思うようになってから、レイにはある不安がある。
(私には……碇君が必要。………じゃぁ、碇君は?)
 レイは、他人を必要とする事を覚えた。同時に、他人から必要とされているかを考えるようになった。
(聞いてみたいけど……………怖い。必要じゃなかったら………)
「シンジ〜!」
 マナの声で思考の海から引き戻される。目の前にはシンジの顔があった。

 ――――――リンの場合
「ヒカリちゃん。もういい?」
「あ、はい。大体済みました」
「そう、じゃぁ皆と合流しましょう。きっと待っているわ」
 リンが歩き出す。黒のロングスカートなのだが、身長があるので良く似合う。ヒカリはデニムのスカートだ。
「しっかし、ヒカリちゃんも大変ね」
「? 何がですか?」
「トウジ君、鈍感だもんねぇ。彼を振向かせるのって、シンちゃん振向かせるより難しいわよ」
「…………でも」
 リンが振り返ると、ヒカリは真っ赤になって立ち止まっていた。
「まさか、今のままでいいの?」
「…………そう思う事もあります」
 ヒカリはリンに対しては意地も張らないし、弱音も吐く。それはリンを信頼しての事だ。
「……ヒカリちゃん、けしかけるようだけど、それじゃいけないわ。ヒカリちゃん、トウジ君、相田君は直接戦闘に参加しないから、幸せになるよう努力しなくちゃ」
「え?」
「……私たちは、ある程度の覚悟があるの。まぁ、それもあってシンちゃんを振向かせようとしてるんだけどね」
「……はい」
「だ・か・ら、あなた達には後悔しないようにしてもらいたいわ………私たちの分までね」
 ヒカリがリンの顔を見上げる。その眼には真摯な光が宿っていた。ヒカリはそのとき漠然と理解した。
(同い年に感じないのは、その覚悟のせいなんだ……)
「ま、あたし達も簡単にはやられないわよ」
 リンは不安を振り払うように、笑った。
「そうですね。………じゃ、行きましょう」
「だから! シンジは私と行くの!」
「そんなのおかしいよ! アスカばっかりシンジを独占してさ!!」
「は〜…また始まっちゃった…」
 アスカとマナが口喧嘩をしている。その横ではヒカリが頭を抱えて呟いていた。
「…おいてったらどうや?」
「それも1つの手だね。それよりも早く帰りたいんだけど…どうする? シンジ君」
「う〜〜ん…」
「置いていっても罰はあたらないわよ」
 口々に意見を出す。最近はこういう事が多い。皆それぞれの意見を出して、シンジが1つを選ぶ。このパターンが染み付いてしまっているようだ。
「と…とにかく、移動しようよ。このままここに居ると…結構恥ずかしいんだけど…」
「なら、シンジ君が彼女たちを説得してくれ。ボクにはそんな勇気は無いよ」
「ワイもや。ああ、イインチョは口出さん方がええで。あの二人、何するかわからんからなぁ…」
「え? でもぉ…」
「そうねぇ。ヒカリちゃんは止めておいた方がいいわねぇ。………仕方ないか。私が止めるわ」
 リンはそう言うと笑いながら二人に近づいていく。それにシンジが続いていく。
「二人とも」
「なによ! リンは黙ってて!」
「そうよ! リン姉ぇは関係ないでしょ!!」
「……それ以上続けると、シンちゃんは私がとっちゃうよ?」
「「なんですってぇ!!」」
 …完全に目が据わっている……。この視線を受けて動じないのは、ネルフでも一握りである。リンはその数少ないうちの一人だ。ちなみに、シンジはその数に入っていないので、リンの後ろで顔を青くしていた。
「だって、あなた達そのまま続けていると本当に置いて行かれちゃうよ? 特に、レイちゃんは相当怒ってるから」
 不意に、二人の視線がレイに注がれる。シンジもつられて視線を移す。そこには今さっきから一言も喋らないで押し黙ったままのレイが居る。その瞳はいつもと変わらず紅いままだが、二人にはその視線が何を物語っているか分かった。
(碇君を困らせる人は許さない…)
 …静かなだけに不気味な迫力があった。
((相当怒ってるわね…))
 二人の額に大粒の汗がつたっていく。
「ほらね? 言ったでしょ? 謝っていた方が身のためよ。怒ったレイちゃんの怖さは、私なんかの比じゃないわよ」
「そ…そうね。マナ、一時休戦ね」
「わ…分かったわ」
「それじゃぁ、行きましょ。二人とも。シンちゃんも固まってないで、行くよ?」
「あ、うん」
 平和な日々である……。だが、状況は間違いなく変化していた。
 PiPiPiPi…
「………はい。………ええ、ここに全員揃ってます……。…はい、了解しました」
 リンが携帯をしまうと同時に、皆の顔がリンに向けられる。
「……非常招集……。トウジ君とヒカリちゃんは、すぐにシェルターへ避難して。みんな、すぐに本部に行くわ」
「……頑張って、みんな。気をつけて…」
「荷物はワイとヒカリにまかしとき。行ってこいや……気ぃつけてな…」
「うん。トウジたちも、気をつけて」
「……行こう。シンジ君」
 駆け出していく六人。その後姿をヒカリたちは見つめていた。

 ――――――本部・発令所
 ミサト以下、全ての顔ぶれが集結していた。慌しく情報が交わされる。
「チルドレン、全員搭乗終了」
「エヴァ、零から四号機まで、全機起動終了。問題ありません」
「敵、最大望遠で確認。映像、回します」
 メインモニターに、エヴァに酷似した気体が映るが、決定的に違う所があった。飛んでいるのだ。滑空ではなく、飛行している。その背中には六枚の輝く翼。
「……………エヴァ? リツコ、あれはエヴァと見ていいの?」
「……違うとは言い切れないけど…多分違うわ…」
「………まさかな。老人どもは正気か?」
「冬月先生、彼らは最初から狂っていますよ。葛城3佐、あれはエヴァではない」
 ゲンドウの声が発令所に響く。
「あれはエヴァの対極にあるものだ。恐らく、ゼーレはプロジェクトを発動した。『テトラ・プロジェクト』と呼ばれるものだ。知ってのとおり、エヴァには人の心がこめられている。しかし、あれにはそんなものは無い。だが、あれにはある種の精神が込められている。人間の殺意、憎悪、恐怖。エヴァの中で、人間を殺す事によって生まれた、殺人機械。あれはそのファーストナンバー『ウリエル』だ」
「………何故…そんなものを…?」
 かろうじてリツコが声を出す。
「『テトラ・プロジェクト』の目的は……『世界の浄化』……。四機の『天使』を使い、文明を破壊する事だ」
 発令所の中が静まりかえる……。当然である。そんな中…
「どちらにしろ、叩かねば私たちに未来はありませんよ、皆さん」
 ひどく落ち着いた声が響く。そこには特別の黒い制服に身を包んだリンとマナの姿があった。
「リンちゃん…」
「ミサトさん、敵の規模等、正確にお願いします。それに、あなたが作戦指揮を執らなければならないんですよ? しっかりしてください!」
「………リン姉ぇ。後五分………」
「………分かったわ、マナ。現段階よりチルドレン四名は作戦部、葛城3佐の指揮下に入ります。以降は葛城3佐の命令を基本とします。………では、ミサトさん。指揮お願いします」
「分かったわ」
「マナ、行くわよ」
「了解! 加持1尉も待ってるよ」
「? リンちゃん、何処に行こうって言うの?」
「ご心配なく、リツコさん。私達には私達の仕事がありますから」
 心配そうに尋ねるリツコに笑みを返す。
『いつまで待たせんのよ! ミサト! ちゃんと指示出しなさいよ?!』
『ア…アスカ。落ち着いて…』
『何よ! 私は落ち着いてるわよ! バカシンジ!』
『うるさいねぇ…まったく。別に叫んだからって、敵の移動速度が上がるわけでもなし…』
『な〜ん〜で〜すって〜!! カヲル! アンタ覚えておきなさいよ!』
『……うるさい。指示が聞こえない…』
『レイ! あんたねぇ〜!』
 どうやら痺れを切らせたみたいだ…。スピーカーからすごい音量の声が響く。
「漫才してないで! さっさと出すわ! エヴァ全機出撃!」
 モニターには4機のエヴァが映し出される。なみに、全機、カラーリングは変更されている。『識別しにくいでしょ』というのがリツコの意見だが、実際は『何でアタシの弐号機が紫色なのよ?! 絶対イヤ!』という意見が上がったからである。発言者は言うまでもなくアスカである。そのため、零号機は以前と同じ青に、四号機は銀のカラーリングになっている。まぁ、かなり揉めたのだが…。
「四号機と初号機を前衛! 零号機と弐号機は後衛にまわって!」
『『『『了解』』』』
「よ。二人とも、良く来たね?」
「シンジ達にばっかり危険な目にあわせるのはちょっとね…」
「急ぎましょう、加持さん。時間がありません」
「了解したが…、いいのかい?」
「…かまいません。司令の許可もあります。今しかチャンスはありません。敵が手を出してきた今しか……」
「……確かに、敵の動きを探るには千載一遇のチャンスだが…」
「大丈夫です。私はMAGIの方を担当します。加持さんの邪魔はしません」
「そうね。私と加持さんが動いた方が効率がいいわ。とにかく、新第三にゼーレの手が入っているのは間違いないし、やれることはやっとかなきゃ」
「……分かった。もう何も言わないよ。ただ、リン君、君は一人になるから…」
「…分かってます」
「ならいい。俺はシンジ君に恨まれたくないからな」
 加持とマナが走り去る。
「……ゼーレシステム……好きにはさせないわ」
 その言葉はリツコの研究室の前に残された。
 闘いは、再度その始まりを告げた…。

「きた……!」
 シンジの緊張した声が響く。
『シンジ君! 敵の能力が知れない以上、迂闊に手を出すのは危険よ! いいわね、中距離射撃で様子を見て! 見た感じ敵は武器を所持していないわ! でも、油断しちゃダメよ!」
「分かってます! ……カヲル君…」
『分かってる。シンジ君、敵を挟むよ。アスカ、レイ、援護の準備は良いかい?』
『いいわよ!』
『……問題ないわ』
「……行くよ!」
 シンジの合図で初号機と四号機が駆け出す。不気味な土色の『ウリエル』を挟んで同時にパレットライフルを撃つ。
「?! 効いてない?! …ATフィールドじゃない!」
『シンジ君! 特殊装甲だ! ライフルじゃ無理だ! レイ!』
 平然とした『ウリエル』から距離をとっていた零号機が、ポジトロンライフルを持ち上げる。
『……離れて!』
 レイの合図で初号機と四号機が後ろに飛んで距離をとる。同時に蒼い輝線が『ウリエル』を撃つ。
バシュウウウゥゥゥゥ!!
『直撃………』
「レイ! 油断しちゃダメだ!」
 シンジが叫ぶ。その時爆煙の中から無傷の『ウリエル』が恐ろしいスピードで駆け出す! 狙いは……零号機!
『な?! ……くぅ!』
 必死に回避する零号機。紙一重の差で『ウリエル』の腕をかわす。
『こんのおおおお!!』
 動きが止まった瞬間を狙って、弐号機がスマッシュホークを振り下ろす。
(タイミングは完璧! もらった!)
 しかし…。
カキィイイィイイン!
 澄んだ音をたてて、スマッシュホークが折れる。
『?! そんな?!』
 アスカの狼狽する声が聞こえる。
「アスカぁ!! 危ない!」
 一瞬の自失。『ウリエル』はそれを見逃さなかった。
『?! クウゥ!』
 『ウリエル』が弐号機の首を掴む。弐号機の足は地面から浮いてしまっている。
(なんて馬鹿力なの!)
『レイ! アスカを援護して! カヲルもよ! シンジ君はクラッシュキャノンを出すから受け取って!』
 ミサトの声が響く。それを受けて三機のエヴァが移動する。
『……アスカ、ショックに備えて…』
『ボクとレイで奴の腕に攻撃する! タイミングを合わせてくれ!』
『ぐううぅ……わ…わかったわ』
 弐号機の背後から四号機と零号機が距離を詰める。そして、左右に分かれて腕を狙ってプログレッシブナイフを振り下ろす。しかし、硬い音をたててナイフが欠ける。それでも力が弱まった一瞬を狙って、アスカが弐号機を『ウリエル』の手から脱出させる。
『助かったわ! しかし、こいついったいなんて固さしてんの?! 非常識だわ!』
『……全身を特殊装甲で覆っているのね。ポジトロンライフルを弾いたのは…』
『それはATフィールドよ。確認してるわ』
『とにかく、シンジ君のクラッシュキャノンが準備できるまで、奴をひきつける。まだどんな手を隠してるか分からないから注意して! 特にアスカ君! 無理は禁物だよ!』
『分かってるわよ!』
『二人とも…来るわ』
 『ウリエル』がカヲルの四号機との距離を詰める。
『武器も持たずにボクと張り合うのかい?! フッ! 笑えないね!!』
 カヲルの顔に笑みが浮かぶ。しかし、その目は危険な光を湛えていた。
(ゼーレ! ボクの心を愚弄した罪! 今こそ(あがな)って貰おう!)
 正面から『ウリエル』と組み合う四号機。その後方ではエヴァ本体ほどの長さを持つ大砲状の物を、初号機が抱えたところだった。
「?! カヲル君?! 正面から組み合ったらダメだ!」
 作業を中断しようとしたところに声がかかる。
『シンジ! こっちはアタシ達で何とかするから、早くしなさい!』
『…あの敵を倒すにはその武器が一番。碇君、早く』
「………分かったよ。…持ちこたえて…」
 その言葉を残して、シンジは組立作業に戻った。

 発令所は、外の戦況に目を奪われて声もない。その目には『ウリエル』と互角に渡り合う四号機の姿があった
「……何とか間に合いそうだな…、碇」
「…いえ、まだです。あの『ウリエル』だけが奴らの仕掛けとは到底考えられない。……おそらく、今回の『ウリエル』は囮。狙いは……、我々の力を削ぐことなら、頭脳であるMAGIでしょう」
「な?! 碇! それはまずいぞ!」
「問題ありません。手は打っていますよ」
「しかし、赤木君はあそこにいるじゃないか!」
「彼女にはシンジ達のサポートをしてもらわなければ。…今彼女がMAGIにかかりっきりになるのは、シンジ達のサポートができなくなるのと同義です」
「MAGIが攻略されたら、サポートも何もないんだぞ!」
「……大丈夫です」
 冬月がさらに何かを言おうとしたとき、発令所に警告音が響き渡る。
「?! 何が起きたの?! リツコ?!」
「マヤ?! MAGIに何かあったの?!」
「分かりません!!」
 一気に浮き足立つ。そこに発令所の最上段から声がかかる。
「落ち着け。赤木博士、葛城3佐、エヴァ各機の支援に戻れ。……御堂君、頼む」
 その瞬間、鳴り響いていた警告音が鳴り止む。
「……? いったい何が起きたの?」
 ミサトの言葉は発令所全員の気持ちを表していた。碇ゲンドウを除いて…。

「……プロテクト展開終了。ここからが問題ね」
 リツコの研究所内に声が響く。そこにはMAGIの接続端末があった。その端末の前に、リンが座っていた。
「………なかなか…」
 その端末の上には超高速でスクロールするデータの列があり、キーボードの上にはその情報を、恐ろしいほどのスピードで処理していくリンの手があった。
「……やっぱり…ハッキングされたのはドイツ支部ね…。全貌を見せてもらうわよ」
 それは一つの闘いだった。リンが操作するMAGIとゼーレとの情報戦。たった一人での戦闘だった。
「……堅いわね……でも、甘いわ。やっぱり旧世代の発明ね。……………! かかった!」
 その画面には不吉な赤い文字が浮かび上がっていた。
「……人格移植型OS……? …! まさか! ゼーレって!」
 端末の電源を無理やり落とす。そのまま発令所に向かう。
「なんてこと! 私たちの『敵』って!」
 その顔には焦りが浮かんでいた。

「じゃあ、加持さんは『ゼーレ』は実在しないって言うんですか?」
 戦闘が行われている場所からそう遠くないビルの屋上。そこでマナは加持に尋ねた。
「そうじゃない。『ゼーレ』は存在する。ただし、俺達が知ってる形じゃない。マナ君はどこまで知ってる?」
「え〜っと、十二人で構成された機関で、各国の暗部を握ってる老人たちの集まり…。それぞれの出身はバラバラ。狙いは自分たちが神になろうとする事」
「……と、今まで考えられてきた」
「違うんですか?」
「ああ。………サードインパクト。覚えているよね?」
「ええ」
 自然と表情に(かげ)りが出る。サードインパクト。その事実を知るものにとっては辛い現実である。
「その時に、『ゼーレ』の老人の意識は無かった、とレイちゃんが言っていた。レイちゃんたちは見つけられなかっただけだろうって言っていたがな」
「その言い方からすると、違う意見なんですね」
「ああ。……『ゼーレの老人たち』は存在していなかった。いや、『ゼーレの老人たちという人間』は存在していなかったというべきだろうな」
「? けれど、『ゼーレ』は存在した…? じゃぁ、今いる『ゼーレ』って?」
「……おそらく、MAGI……」
「?! 人格移植型コンピューター?!」
「それがここ数年の調査結果さ」
「………リン姉ぇ…」
「彼女はそれを知らない。しかし、今回の事で気づくかも知れん。それに……」
 不安をもらす加持。加持は知っていた。この少女が他人の気持ちや感情に酷く敏感な事に。それ故に、彼は一切の隠し事をしなかった。
「大丈夫です。リン姉ぇはそこまで弱くありません。それに、シンジがいます」
 そこにあるのは全幅の信頼。かつて、大人たちに刷り込まれた強迫観念を克服した、彼女たちの得た最強の力。未来を掴むためにこそ、彼女たちは存在し、その彼女たちの願いを叶える為に彼は存在する。
「そうだな。よし! お仕事も終了した事だし、ココに俺達がいたら、シンジ君も全力を出せまい。帰還しよう」
「ハイ!」
 そう言ってビルを後にする二人。その後には完全に行動不能に陥っている、ゼーレのエージェントが2ダースほど転がっていた。

『シンジ!』
 目の前にウィンドウが開き、リンが焦った表情で名前を叫ぶ。
「? どうしたの?」
『……敵が分かったの』
「そう……。……で?」
『予想通りよ。…カヲルは絶対に勝てないわ!』
「やはり…か。まさか加持さんが言っていた『最悪の現実』が実現するなんてね…」
『どうするの?』
「………父さん」
 焦っているリンとは対照的に、シンジは落ち着いていた。敵が自分の想像した通りだった事。敵の強大さを、肌で知っていることが彼を落ち着かせていた。
『…なんだ?』
「ここからは僕の好きなようにやらせてもらっていいかな?」
『なっ?! ちょっと! シンちゃん?!』
 ミサトから抗議の声があがる。
「ミサトさん。『奴等』にはこの武器は通用しませんよ」
 そう言って準備していたキャノンを投げ捨てる。
『……構わん。好きにしろ。だが…』
 発令所が息を呑む。それは司令からの免罪符。これから起こす惨劇の許可。
『…逃がすな。『()る』と決めたら、迷うな』
「………了解」
 父から子へ。暗黙の了解が交わされる。そして、お互いにそれを勘違いする事も無かった。
「いいのか? 碇…」
「先生…。私はダメな人間です。しかし、それでも人間なのです。子の犯す罪は、親の責任で行わなければならない。人間として。それだけは譲れません」
「この世の中で最大の罪であったとしても……か…」
「それが親の務めです。……何一つできなかった、無力な親のね…」
「………………ゼーレの敗因は、お前達親子の力と覚悟を読み違えた事だな…」
 彼が、いや、彼らが犯すであろう最大の罪。『原罪』すら凌ぐ罪。それ、即ち『神殺し』……。神がヒトを創ったとすれば、これ以上の罪は存在し得ない。しかし、ゲンドウは正しく理解していた。彼の息子に宿っている魂を。
「……神か……。神が滅びを(もたら)すならば…我らは抗おう。……それに『再度』神に弓引くのだ…。今更和解できるとも思えん…。ならば、私はこの世で最強の堕天使と共に血塗られた道を歩もう。シンジの心に、輝く12枚の翼がある限り」
「……堕天使『ルシュフェル』…か」
 日本に根付くことのない名前。神の右腕と称されながら、初めて神に弓引いた者。その背には6対12枚の輝く翼を持つという……。
「……神にこそ『罰』を……」
「『神罰』……いや…《真罰》……か」
 サードインパクトにより、全ては神話の中に突入する。神々が都合のいいように語り、地上の愚かな権利の亡者が作り上げた寓話ではない、大地に刻まれた真実の『神話』―――《真話》。その結末に向かい……未来は動きだす。それを自覚しての、冬月の一言…。
「しかし、それを成し得るのは……」
「あの子達です。ユイもそれを望むでしょう…」
 その視線の先には戦況を凝視するリンと、帰ってきたばかりのマナの姿があった。
「……カヲル君」
 初号機の視線の先には、凄まじい妖気を湛える四号機があった。
(…相手が12体のスーパーコンピューターでなければ、あそこまで自分を失うことも無いのに……)
『碇君? どうしたの?』
 零号機から戸惑いが伝わってくる……しかし、既に『シンジ』に答える事はできない。その意識はシンジでありながらシンジでない。その意識は新たな敵の接近にも気づいたが、目立った動きを見せなかった。そして、レイが気づいた。
『?! アスカ…! 新手!』
 焦ったレイの声が響く。その視線の先には、四号機の闘いに手を出しあぐねていた弐号機がいた。
『ちっ! カヲル!』
 アスカの叫びが聞こえる。その目は西の空から急速に接近する、超高高度の三機のステルス型輸送機が見えた。
『レイ……セカンド…、いったん戻れ。『槍』を準備する』
『『了解』』
 そのやり取りを聞いてもシンジは動かない。……待っているのだ。自分に敵対するものを。

「いい加減に! 壊れろぉ!」
 四号機の拳が『ウリエル』にヒットする。しかし効いた様子は無い。
「くそおおぉ!」
 カヲルの口から叫びがほとばしる。
(許せるものか!)
 不可侵の『自分』を犯したゼーレ。そして、『自分』を使われた『ウリエル』。許せなかった。それ故に、普段の冷静さが失われてしまっていた。
「キミ達は要らないんだよおおぉ!」
『カヲル!』
 アスカの声が聞こえる…。狂熱をも吹き飛ばす、否、焼き焦がす純粋な太陽を持つ少女の声が聞こえる。
『いい加減にしろぉ!』
 その叫びが耳朶を打ち、無理やり彼の心を引き戻す。
「? ボクは…」
『カヲル……新手よ。西から三機。残りの大天使よ』
「………………」
 『ウリエル』に視線を送りながら状況を確認する。確かに、西からの敵の増援はすぐそこに迫っている。目の前に『ウリエル』。自分よりも西よりに、槍を携えた零号機、弐号機。そして……、自分の後方に佇む初号機。
「? シンジ君?」
 敵の接近も、確かに看過できない。数の上で、危険度が増すのだから。それでも、初号機に意識を奪われた。しかし、『ウリエル』もまた、意識を初号機に集中させていた。
 その時、空が割れた……
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!
 魂を揺さぶる叫び。かつて、使徒を捕食した時を凌ぐ力の声。あの時は『器』の覚醒。しかし今は……。
「シンジ?」
「碇君?」
「シンジ君?」
 新しく降臨した御使いも一様にその動きを止める。
 それは『魂』の覚醒。銀髪、紅玉の瞳を持つ、金の気配を纏う者は、その全てを開放した。
 かつて、自ら封印したもの。楽園に住む者たちを作り変えるといった神に反抗したときにすら、使う事の無かった力。
 しかし、封印はとかれた。彼の血を受け継ぐ、『碇シンジ』によって。
 それを促したのは、『ゼーレ』。
 彼らはいずれ思い知る事になるだろうが、今はそのときでない。『彼』は覚醒しただけだ。『決心』した訳ではなかった。
『こんな事は予想だにしていないぞ!』
『どういうことだ?! なぜ、『セラフ』は動かん?!』
『あの機体は! あの子供は! 何なのだ!』
『うろたえるな!』
 01のモノリスが叫ぶ。その声は有無言わさぬものがあった。
『我らの創造主は、あやつらごときに遅れをとらぬ! それに、未だ『セラフ』が敗れたわけではない!』
 その声は自分の絶対的優位を確信した声であった。
 しかし、それが(くつがえ)るのに要した時間は5分……
 彼等は認めざるを得なかった。その強大な力を。

「……大丈夫?」
「…アンタの方が真っ白よ、リン」
 アスカの病室。さして傷を負ったわけではないが、戦闘後、無理やり検査に付き合わされたのだ。
「……ま、あれを見ちゃったらね……。レイは?」
「隣。マナが付いてるわ。まだ目を覚ましてないから……」
「カヲルは?」
「副司令にお説教されてるわ」
「そう……」
 沈黙が降りる。肝心の事が聞けない。声に出ない。聞きたくて、堪らないのに…。聞けない。恐怖が心を締め付ける。それは本能からくる恐怖。力というものに対しての恐怖。
「……シンちゃんも、無事よ」
「………………」
 嬉しい。それは間違いない。彼女の想い人。その彼が無事で嬉しくないわけが無い。しかし、彼女は『恐怖』してもいた。もともと、他者の力に酷く敏感であるがゆえに、シンジの内包する『力』に恐怖した。
「……エヴァの力だったら……どんなに…よかったか…」
「…そうね」
 リンはこの時、アスカの心の中を見透かしていた。そして、なにか言いたげだった。
(力に苦しむのは…貴方じゃない)
 リンはその気持ちを口に出すことができなかった。
(シンジ……)
 慈愛の気持ちを、胸の内でこぼす。
「……じゃ、行くね?」
「うん……」
 リンは立ち上がる。今は、シンジの容態が気がかりだった。

「シンジ……」
 リンが声をかける。
「起きないよぉ……。リン姉ぇ…」
 マナが泣きそうな顔で訴える。彼女もまた、レイの意識が戻るとシンジの病室に来ていたのだ。
「……マナ…」
「もう、体には…問題ないって…。でも、起きないの。……薬も…切れてるのにぃ…」
「マナ…」
 そう言うとリンはマナを抱きしめた。小柄なマナは、リンの胸に顔を埋めて、泣いた。
 彼女は、喪失感を味わっていた。スイスで再会して、常に彼を見てきた。好意を込めて。レイの気持ちも、当然気づいていた。それでも、気持ちをとめられなかった。ほとんど押しかけたような形で、彼のもとに逃げ込んだ。逃亡生活にも疲れていたし、何よりも、彼が約束してくれた。
『マナ、君が望むのなら、僕はできる限り、君を守るよ』
 その約束は、今の彼女を支えている。どんな時でも彼女が明るく振舞えるのは、シンジの笑顔が後押ししてくれるからだ。しかし、今はその支えが無い。
(アスカが居ないのはマナにとっても、私にとっても救いね…)
 リンの心のうちに安堵の溜息が漏れる。リンには今の彼女たちの関係が、ほぼ正確に把握できていた。それが、冬月に自分の後を継がせようと思わせた原因だろう。当然、シンジに対してのそれぞれのスタンス、ライバルに対しての態度、そういったものも掴めている。
(いま、シンジの心に誰が居るかは分からないけど、アスカの心の中には間違いなくシンジが居る。そんなアスカが、今のマナを見て何も言わないはずが無いしね……。独占欲が人一倍強いから。そして、今のマナに、それを受け止めるだけの余裕も無いしね)
 そして、ベットの方を見る。そこには銀と金の入り混じった髪を持つ少年が、その瞳を閉じたままだった。
(シンジ……早く起きて…、支えきれないよ…)
 リン痛感していた。自分の無力さを。普段であれば、姉のような立場にあるものとして、周りの人たちをケアする事もできる。しかし、それはシンジが居るという前提があった。シンジが居るからこそ、リンはリンで居られた。
(……シンジ…)
 マナをその胸に抱いたまま、リンは祈るような瞳でシンジを見続けた。

「………何だ? この雰囲気は?」
 加持が発令所内で呟く。そこには張り詰めた空気が横たわっていた。
「……触らぬ神に祟り無しです。……赤木博士が激怒しているんですよ…」
 青葉が原因を耳打ちする。
「りっちゃんが?」
 加持が目線を親友に固定する。そこには普段の表情のままだが、五割増ほどの冷気を発散しているリツコの姿があった。
「…後片付けがどうとか…ってわけじゃなさそうだな」
 その表情から原因を読み取ろうとする。
「はい。どうやらシンジ君のことが心配らしいんですけど……葛城さんが…」
「……止めて仕事を押し付けたわけか…」
「はい…」
 青葉が同僚に視線を移す。一人は上司が残した大量の書類の山に埋もれ、一人は上司の発散する雰囲気に飲まれて、固まっていた。
「……こりゃまいったね…」
 加持が溜息を漏らす。そして決断した。
「ま、後は頼むわ」
「あ! ちょっと!」
 長居は無用。
「それじゃ」
 加持の背後でドアが閉まる。
(……アレを見せ付けられたあとじゃ……精神が乱れるのも無理は無いか…)
 そして、数時間前に繰り広げられた惨劇を思い起こす。

―――――発令所
「……いったい」
 ミサトの呟きが、沈黙を破る。
 発令所の中に居るもの全てが、『堕天使』の降臨を目の当たりにした。その瞳に映るのは、紫の巨体に、6対12枚の翼を持つもの。エヴァンゲリオン初号機。
「シンジ君?」
 リツコの疑問は報われる事は無かった。
 スクリーンの中で初号機が行動を開始した。惨劇の幕が上がる。
フオオオオオオオオオオォォォン!!
 強烈な咆哮を上げ、『ウリエル』に肉薄する。『ウリエル』は距離を開けるとその右手を振るう。そうすると、『ウリエル』の右手に槍状の物体が出現する。
「くっ! グングニルか!」
 ゲンドウの叫び声があがる。しかし、初号機は全く気にもせずに、再度『ウリエル』に突進する。『ウリエル』が槍を構え、そして、初号機が消える。
 発令所内にどよめきが広がる。あのMAGIがその動きをトレースできなかったのだ。そして、再度捕捉したときに、彼等は目を疑った。そこに映ったのは、初号機に背後から胸を突き破られた、赤色の翼を持つ機体。『ミカエル』だった。初号機はあれほど苦しめられた『ウリエル』と同等の力を持つと見られた敵を、いともたやすく撃破して見せたのだ。
 その初号機が、腕を引き抜く。そこからは真っ赤な血液が噴出し、初号機の翼をも染める。そして、初号機は嬉しそうに、自分の手の中の物を見つめる。それは、心臓。
「うっ! うえぇぇ!」
 マヤの嘔吐が響く。
「な…なんてこと…」
 発令所の混乱をよそに、初号機は次の獲物を、蒼い機体、『ガブリエル』に定めた。
 初号機が飛ぶ。『ガブリエル』は、その翼を広げると、上空の初号機に向かって羽ばたかせる。そうすると、何万本もの羽が初号機を切り刻もうと殺到する。しかし…
「?! また?! 初号機ロスト! ……いえ! 敵後方200mに出現!」
 上空から掻き消えたかに見えた初号機は、『ガブリエル』の後方に現れる。そして、再度掻き消え…
ドンッ!!
 『ガブリエル』の頭部が爆発する。
「………敵……沈黙…」
「『ガブリエル』すら歯牙にかけんとは……。碇、本当にシンジ君なのか?」
「分からん。……パイロットと回線を繋げ」
「了解!」
 メインスクリーンに初号機のエントリープラグ内の映像が映る。そこにはまぎれも無く、シンジが居た。しかし……その瞳は紅では無く、金色。
「シンジ君!」
 ミサトが叫ぶ。その声に気づいたのか、こちらを向く。
「………うるさい…」
 その声は地の底から響くようだった。魂を凍らせる冷気と、その身を押し潰しかねない重圧。それが今のシンジを纏う者の気配だった。
「………後2体…『セラフ』のフェイク……」
 その意識は、既に残る2体に向けられている。土色の『ウリエル』と、緑色の『ラファエル』。
「………未だ神に(くみ)する愚か者…この『ルシュファー』に刃を向けた事を、混沌の果てで悔やむがいい……」
 『ウリエル』と『ガブリエル』が、怯えたかのように後退する。しかし、初号機はその身に生える12枚の翼を羽ばたかせる。
「逃がしはしない…」
 そして、姿が消える。その瞬間……2体の天使が四散した……。言葉の如く、後に残すのは、何処までも紅い液体のみ。その中で、黒く染まる初号機…。
 この間五分……。

「その後、初号機は活動を停止。エントリープラグからはサードチルドレンを救出。その後から現在にいたるまで意識不明…。本当にアレはシンジ君だったのか?」
 加持が自分の考えに整理をつけるように呟く。
「医療部は彼をシンジ君と断定…。生物学的に見て、彼は『碇シンジ』である事は間違いない…か。しかし…」
 シンジの病棟に向かいながらさらに考え込む。
(あの時の彼は、仲間の事を全く無視している。そのせいで、弐号機、零号機がダメージを受けたからな。…参号機の時の事から考えて、シンジ君が、自分から仲間を傷つけるような行動をとるとは考えにくい)
 参号機のとき、シンジは見知らぬ誰かを傷つける事より、自分が傷つく事を選んだ。彼の弱さであり、強さを垣間見せた出来事である。ちなみに、零号機と弐号機のダメージとは、初号機が音速を超えた時の衝撃波によるものだ。簡単に言えば、吹き飛ばされたのである。
(とすれば……あれはシンジ君ではない…。では誰だ?)
 一つの結論。その結論は、ほぼ真実だ。
(鍵は……『ルシュファー』……だな……。出来過ぎだな…)
 結果的に加持が取れる行動は一つ。
「この件は、俺の仕事だな」
 全ての真実を探る事だ。
「やはり、シンジ君は面白い」

 新たな敵。新たな力。
 未来を築き上げるために、シンジが選んだ道。
 真のサードインパクト。
 シンジが求めた生活。
 全ての『現実』が交錯し、一つの未来に収束する。
 その時、女神たちのとる行動は……
つづく
(作者言い訳の場)
作者 「う〜ん、かなり久しぶりになりますね……、いかがお過ごしでしょうか?」
アスカ「何いってんのよ!! それは前話でやっときなさいよ!! それに、その前にやる事があるでしょうが!!」
作者 「ひいいいいいぃぃぃ!! すみません!! こんなにも続きが遅くなってしまって、申し訳ありません!!」
アスカ「最初からそう言えばいいのよ」
カヲル「まあまあ、抑えて抑えて」
作者 「そうそう。次は大丈夫(大嘘)」
アスカ「どうかしらね……。それより、何でアタシ達二人しか居ないのよ?」
カヲル「みんな2スタに行ってるよ」
アスカ「2スタ? ああ。あの子達に会いに行ってるの……」
作者 「そうそう」
カヲル「しかし、今回も何だか訳がわからないね」
作者 「もう少し分かり易くするつもりだったんだけどね。書いてるうちにズルズルと…」
カヲル「そうかい。ところで、シンジ君争奪戦。途中経過は?」
作者 「…………(ここはヤバイッて)」
カヲル「そうだったね、でも……。聞いてないよ」
作者 「ほぇ? ……いつの間に消えたんだ?」
カヲル「『もうすこし〜』のところから」
作者 「そう。……でも教えない。意見が少ないから、私情たっぷりだし…」
カヲル「そうかい……2スタのカオルはいいねぇ……。ボクと代わってもらいたよ」
作者 「小さい子に恨まれる勇気があるんならね」
カヲル「辞めておくよ」
作者 (即答かい…)
カヲル「そうそう、今後の展開は?」
作者 「戦闘シーンも書いたしね、また日常編。個人個人に注目するつもりだよ」
カヲル「進行状況は?」
作者 「プロットのみ」
カヲル「…………………」
作者 「睨まないでええ!」
カヲル「ボクが見張っててあげるから、速く書きなよ」
作者 「誰を?」
カヲル「アスカく……」
ドゴンッ!!
作者 「(………いったい何処から降ってきたんだ? 相田ケンスケ……)……スポークスマンも居なくなったし、続き書くか……。それでは皆さん。なるべく早いうちに…」
第伍話終幕

1コ前へ   INDEX   
管理人のこめんと
 SHOWさんの『誰がために……』、第5話です。
 今回もほのぼの日常編かと思いきや、平和を打ち破る強大な敵の登場です。しかもおじいちゃんたちってば人格移植OSとなってたりしてます。困った人たちですな。そこまで煩悩にまみれんでも。

 前回から思ってたんですが、何となく、アスカとシンジの距離が離れていっている気がします。同居というアドバンテージをレイとマナに奪われた上、ミサト化しているのが響いてるんでしょうか。代わりにカヲルくんとの距離が近くなってきていて、私的にはちょっと嬉しいんですけど(^-^)
 そつのないリンちゃんというライバルも登場したことですし、今までみたいにワガママ放題やったり、マナと喧嘩ばかりしていると、簡単に隙をつかれてしまいそうですね。レイもだんだん油断できない存在になりそうですし。
 まあ、シンちゃんがとにかくにぶちんなので、今のところは助かってるって感じですが。
 それが彼女の魅力と言い切ってしまうにはあまりにも精神構造がお子さまなので、もう少しくらいは成長して欲しいですね。少なくとも、簡単に人を蹴り飛ばしたりしない程度には(笑)

 さて、強大な敵を一蹴してのけたシンジ君。というより別人格なんでしょうね。『ルシュファー』ですか。シンちゃんの変貌ぶりも、その辺に理由がありそうな感じです。
 これからの展開がますます楽しみですね。

 とゆうわけで皆さん、カヲルくんとケンスケの貴い犠牲のもと、今回は誰からも攻撃されることなく無事に執筆に入れたSHOWさんに、何とか頑張って生き延びてねー、とか、死にそうになってもとりあえずつづきをっ(をひ)、とか、感想や応援のメールをじゃんっじゃん送って頑張ってもらいましょうっ。

 SHOWさんのメールアドレスはこちら
 このファイルはきたずみがHTML化しました。問題があったときは私に言ってください。

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