『誰がために……』

 
作:SHOWさん


「しかし意外ですね」
「何が?」
「先輩がレイちゃんを引き取った事ですよ」
「あぁ。その事」
「だって、あんまり思いつかない組み合わせですから」
「でも、隣はシンジ君もいるし、マナも一緒だから」
「あ、マナちゃんも引き取るんですか?」
「ええ。一応副司令が身元引受人にはなっているわ。でも、副司令は『女の子をこんな老人のとこに置いておくのはあまりにもかわいそうだ』って言われて、それで引き受けたの。ミサトの所に置いておくのは、良心がとがめるし、司令は『シンジをつける。それで問題ない』ですって」
「へぇ。シンジ君は司令が引き取るんじゃなかったんですか」
「手元に置いておくと仕事をしなくなるから、副司令がやめさせたのよ。それに、私の仕事も手伝ってもらうから」
「シンジ君が…ですか?」
「三人ともよ」
「え?」

    第四話  『日常〜学校へ〜』


 赤木家の朝は早い。午前六時にはキッチンから音がする。そのキッチンに立つのは………何故か隣の住人であるはずの碇シンジである。制服に青いエプロンをつける独特の姿は変わっていない。しかし、料理の腕は上達を続けているらしく、彼の手から生み出される料理は、すでに一般の域を超越し、芸術の域に達している。
「え〜っと……リツコさんは今日も本部か……じゃぁ弁当は二食分作っとこうかな……」
 居間に下がっているホワイトボードを確認している。そこには綺麗な字で『本部・技術開発部・私のみ』と書いている。
「今日の晩は三人分か……でも誰か来るだろうな……う〜〜〜〜〜ん、今日は中華でいこっかな…」
 そんな事を言いながらも手は休まず、瞬く間に弁当が5人分出来上がる。その傍らで朝食の準備をすすめていった。
「おはよ〜…」
 そう言いながら居間に出てきたのは、茶色の髪と瞳を持つ霧島マナだ。
「おはよう、マナ。シャワー浴びてくれば? まだ少しかかるから」
「うん。そうするね」
 トタトタトタっと風呂場に向かう。
「あ、マナ! 洗濯終わってるから乾燥機のスイッチ入れといて!」
「はーい」
 ………どうやらハウスキーパーはシンジであるようだ。進歩が無いというか、シンジらしいというか…。ちなみに、シンジは既に一回目の洗濯物はベランダに干していた。
「おはよう。シンジ君」
「あ、おはようございます。リツコさん」
 午前七時。この家の責任者、赤木リツコ起床。彼女はどんなに疲れていても朝は、七時±五分に起きてくる。シンジはこの時間に朝食を合わせている。日曜でも、である。恐ろしく健康的で、規則正しい生活である。この規則に合わないのはただ一人。
「レイは? まだ起きていないの?」
「いつもの事ですから」
 そう、綾波レイその人だ。彼女はこの生活をはじめて二ヶ月になるが、一度たりともリツコより先に起きた事が無い。だいたい………
 どげしゃあああぁぁぁぁ!!!!!
 …………………この音の後に起きてくる。
「………マナも手加減無しね。あ、シンジ君。コーヒーくれるかしら?」
「はい。…でも、いつもの事ですから」
 そう苦笑しながらコーヒーカップを差し出す。ちなみに、この家はコーヒー、紅茶には事欠かない。個人の特製ブレンドが数十種類存在するからだ。コーヒーはリツコとシンジが、紅茶はレイとマナが凝っているからである。おまけに、小物類も凄い数存在する。それが気にならないのは、シンジの家事能力とマナのセンスのおかげである。実用品はシンジが整理整頓し、置物などはマナが人の目線を考えて配置するからである。
「起きてきたみたいね……。マナ。今日は何をしたの?」
「あはははは…揺すっても起きないから、ちょっと肘をレイの上にね…」
「痛かったわ……」
 そう言いつつも微塵も痛そうにしない蒼銀の髪の少女。綾波レイが起きてきた。どうやらこのやり取りも、朝の決まりみたいな物らしい。全員笑っている。
「はい、出来ましたよ。レイも座って………それじゃ」
「「「いただきま〜す!!」」」 「いただきます……」
「うん。今日も美味しいわ! さすがシンジ!」
「そうね。…あら? お味噌変えたの? シンジ君?」
「ええ。前使ってたの会社が変わったらしくて、味が落ちたんです。それで、ほかの所のものに変えたんです。どうですか?」
「そうね。……これくらいが私にはちょうど良いけど、マナ達には少し薄いかもね」
「私はこれくらいで良いよ。レイはどう?」
「………碇君の作ってくれるものは、何でも美味しいわ」
「じゃ、問題無しよ、シンジ」
「そう。良かった」
 シンジに笑顔がこぼれる。この家の食事は、まずシンジの確認にみんなの意見交換から始まるようだ。それをきっかけに話が弾む。
「そうそう、シンジ君。今日は遅くなるから。晩はいらないわ」
「分かってます。お弁当二つ作ったので持って行って下さい。そうでもしないとリツコさんはご飯抜いちゃうから。あんまり仕事しすぎないで下さいね。体に毒ですから」
「ありがとう」
 そう言って笑いあう。
「リツコさん。MAGIはどうなってます? 今日の仕事って、私たちは行かなくていいんですか?」
「………システムチェックは終わったはずだけど……まだ仕事があるの?」
「今日のはMAGIとは関係ないわ。エヴァのチェックと新開発の武器の中間報告よ」
「あ、忘れてました。リツコさん。この前頼まれた『仕事』、終わりましたよ。コンピュータールームの方にMOがあります。ラベル貼ってるんで分かると思います」
 コンピュータールームとはこの家の一室の事で、MAGIとリンクできる端末が四台存在する。ちなみに、各人の部屋には一般回線の端末が一台ずつある。リツコ曰く『これくらいは当然よ』だそうだ。
「あら、もう終わったの? いつも早いわね、シンジ君」
「げ! シンジもう終わらせたの? う〜ん、私のほうはまだ半分も終わってないのに……」
「…………ワタシも似たようなものよ」
「シンジ君は特別よ。私も終わってないんだから」
「そうですか?」
「そうよ。でも、ホントに助かるわ。貴方達が手伝ってくれるおかげで、技術部も徹夜が減ったしね。MAGIのバージョンアップも予定の期間の三分の一ですんだわ」
 そういって、肉じゃがに手を伸ばす。食卓に並んでいるものは純和風の食事だ。ただ、味が一般家庭では味わえないものとなっていた。シンジとマナとレイは、すでに食事を終えてお茶を飲んでいた。どうやらリツコの食事のスピードが一番遅いようだ。
「おっと、マナ、レイ。そろそろ時間だよ」
 時計は七時三十分を指していた。
「そうね。レイ、準備は出来てるの?」
「ええ。出来てるわ」
 そう言って部屋からカバンを取ってくる。
「リツコさん。片付けお願いします」
「ええ。分かっているわ。気をつけていってらっしゃい」
「はい。行って来ます」
「いってきま〜す!」
「………行って来ます」
 こうして穏やかに一日が始まる。

 葛城家………もとい、加持家の朝は遅い。最初の人が起きてくるのは午前七時過ぎである。起きてくるのは、この家の最後の砦、加持リョウジである。起きてきた時にはいつものスーツ(ネクタイ無し)である。それに赤と白のチェックのエプロンをつける。そしておもむろに机の上の『掃除』を始める。ぎりぎりの線でこの家が『家』として機能しているのはこの男のおかげである。いや、男たちというべきか……。
「おはようございます」
「クワワッ!」
「おう、おはよう」
 そう言って入って来るのは隣の住人渚カヲルと、この家の住人であるはずのペンペンである。……二人(?)とも洗濯物を抱えている。ちなみにこの家は一応『葛城家』である。しかし、本来隣の部屋でカヲルと同居しているはずの加持がここにいるのには、当然訳がある。この家の本当の住人、葛城ミサト、惣流・アスカ・ラングレーは基本的な生活能力が欠如していた。加持が帰ってくるまでは一週間に一度、作戦部一の苦労人、日向マコトが掃除にきていたのだが、現在、ミサトに押し付けられた仕事でのオーバーワークがたたり療養中である。それでも自分の仕事はこなしているあたりはさすがだが、この家には手が回らなかった。そんな時に加持が帰ってきたのでこれ幸いと、この家を加持に押し付けたのだ。それに巻き込まれたのがカヲルである。
 ちなみに、現在四人のチルドレンは、この様に分けられている。
――――綾波レイ、碇シンジは赤木リツコが担当。特別保護指定、霧島マナも同じく赤木リツコが担当。住居は三者とも赤木家。
――――惣流・アスカ・ラングレーは葛城ミサトが担当。渚カヲルは加持リョウジが担当。住居は前者が葛城家、後者が加持家。
 その為か、この五人は作戦部に在籍するとともに、レイ、シンジ、マナは技術情報部に。アスカは総務部に。カヲルは諜報監察部にも籍を持っている。レイたちはリツコ直属で、カヲルは加持直属である。ちなみにアスカは何故か冬月直属になっていた。
 そして、住居は、葛城家はコンフォート17にあり、その隣が加持家になる。赤木家は、本来シンジとは別々になるはずが、本人たち(リツコ含む)の希望があり、コンフォート17より、少し離れた所のマンションの最上階を全て一つの家として住んでいる。さらに、引っ越す前にリツコがアレコレと手を入れたため、とんでもなく多機能な住宅と化している。逆に、葛城家は『埋立地』となっていた。そこで、加持とカヲルがなるべく、葛城家に来て掃除しているのだった。
「ゴミはまとめといてくれ。明日捨てとくから」
「ふう。しかし、毎日の事とはいえ、これがリリンの住む環境なのかい? 脅威に値するよ」
「ペンペン、掃除機かけてくれ」
「クワ?!」
「うん? かけないとメシ食えないぞ?」
「クワ〜〜〜……」
 しぶしぶ廊下に出て行く。その間にカヲルが手早くゴミをまとめていく。そしてゴミ袋に詰め始める。その横で、ペンペンが掃除機をかけ始める………………追い詰められればペンギンでも『掃除』を覚えるらしい。
「おっと、俺はミサトを起こしてくる。ちょっと料理見といてくれ」
「分かったけど、掃除終わってませんよ?」
「今日一日じゃ無理だ。週末にやるぞ」
「また大掃除かい…………シンジ君の話だと年に一回しかやらないはずなのに、この家では週に一回なんだね」
「まぁ、そう言うな。んじゃ頼むぞ」
 加持が出て行くとカヲルがキッチンに立ち、ペンペンがゴミをまとめ始める。これが毎朝のパターンで………
「うるさあああああああああい!!!!!!」
 どかああああああああぁぁぁぁぁん!!!!
「………ペンペン、隣から救急箱と予備の目覚まし時計。まだ十個はあるはずだから……はい鍵。救急箱は急いでね」
「クワッ!!」
 ぺたぺたぺたとペンペンが走っていく。カヲルはその間に加持を救出に行った。
 こうして時間は過ぎていく。ちなみにこの後は、アスカがシャワーを浴び、食事をするのでカヲルとアスカが家を出るのは八時前である。
「どうして何時もこんなに遅いのよ!!!!」
「ボクのせいじゃないのは確かだね」
「じゃあ、あたしの責任だというの!!! ふざけないでよ!!」
(ふざけてないんだが………自覚が無いのかい? アスカ君?)
 口には出さない。一度出して、たっぷり三十分は遅刻した事があるからだ。ちなみにこの二人、恐ろしいほど足が速い。まぁアスカは子供の頃からの訓練の賜物であり、カヲルにいたっては人間じゃない。その為、周りからは、そのスピードのせいでかなり変な目で見られているのだが、本人たちは全く気にしていなかった。
「くうううううううう!!!! これじゃぁ今日も出遅れ確定じゃない!!」
「………マナちゃんやレイはいいね…シンジ君と一緒で。ま、このスピードで行けば校門のところで追いつくよ」
「その前の時間分、完璧に出遅れてるじゃない!! 冗談じゃないわ!!」
「そうだね、最近シンジ君、君に取り合っていな……」
「なんですっって!!!!」
(……しまった………)
 ぼぐしゃあああああぁぁぁぁぁ!!!!
「ハウウウウ!!!」
 見る見るカヲルが小さくなっていく。後悔先に立たず………。そんなカヲルに見向きもせず、凄まじいスピードで走り去るアスカ。朝のひとコマである…
 こうして慌しく一日が始まる。

――――第壱高校 正門前
「? 今日は襲撃が無いわね? レイ、何か仕掛けた?」
「いいえ。仕掛けていないわ」
「おっかしいわね〜」
「? マナ、何の事?」
「シンジは知らなくて良い事よ」
「ふ〜ん、そう。………あ、ケンスケ!! トウジ!!」
「おう、碇。霧島に綾波も。おはよう」
「おはようさん。…ん? 渚んやつはどないしたんや? おらんやないけ?」
「惣流もいないな……。………まさか……霧島」
「何? 相田?」
「今朝の『儀式』は…」
「…まだよ」
「わるい。急用を思い出し……」
 ひゅるるるるるるるる……どがぁぁぁぁん……
「………進歩のないやっちゃ……これで十五回目の直撃や。………渚、ケンスケ、生きとるか?」
「あたたたたた……他人を投げるなんて、まったく、彼女は本当にリリンなのかい?」
「カヲル君。大丈夫かい?」
「やあシンジ君。今朝もいい朝だね。こんな清々しい中で君に会えるなんて、ボクはシアワセだよ」
「………渚君? …相田……死んじゃうよ?」
 マナの言葉に、カヲルがケンスケの上から降りた。哀れである……
「おっと失礼。さあ、シンジ君。今日こそは……」
「ちょっと! カヲル!! 何してんのよ!! シンジから離れなさいよ!」
「やれやれ、人の話に割り込むだなんて、アスカ君、失望に値するよ」
「なんですって!!!!」
 周りの人間が集まってくるが、ある一定距離は離れている。この二ヶ月で彼らが学んだ、絶対安全距離(相田ケンスケ推奨)である。その影からシンジとトウジはケンスケを引っ張りながら、マナはレイと一緒に話しながら抜けていく。『第壱高校名物、朝の儀式』である。
「懲りない人………」
「レイ、彼らは楽しんでるのよ。っと、シンジ、相田生きてるの?」
「うん。もう少ししたら復活するよ。……ほら」
「あたたた…ん? また巻き込まれたのか俺?」
「そうや。いい加減覚えなあかんで」
 笑いながら靴箱に来る。
 ドサドサドサドサドサドサッッ!!
「……多いのう。今日は」
「うん。………拾うの手伝ってくれる?」
「おっしゃ! まかせとき!」
「シンジ、私のと混ざっちゃうよ! レイ、踏んでるわよ、一枚」
「……興味ないもの」
「そう言う風に言っちゃダメ」
「ダメなの?」
 小首を傾げる。レイの疑問を現すポーズだ。
「ダメ」
「……分かったわ」
 こうして、レイはマナから色んな事を学んでいった。マナもこういう時は姉のように真面目に接していった。スイスにいる間に確立された関係である。
「碇、何通だ?」
「んっと…………二十五通…かな」
「…………女の子から来るのは慣れたけど、中学生の物も在るのは何故かしら?」
「………手紙……用事などを書いて他人に送る文章……でも、ワタシは用はないわ」
「こいつらも相変わらずだな…」
「あっちもや…」
 反対側の靴箱(人数の関係上Aクラスは二つの靴箱に分かれている)ではアスカとカヲルの声が聞こえる。
「ばっかみたい!! 何で面と向かって伝えないのかしら?!」
 …その後に続く音はゴミ箱に叩き込まれる音だろう。
「ふう。懲りない人たちだね。ボクはシンジ君一筋なのに」
 …同じ音が続く。
「ほらな……」

――――1ーA
「おはよう。みんな」
「おはよう、ヒカリ」
「なんや、イインチョもうきとったんか? おはようさん」
「…………おはよう」
「おっはよ〜!」
「おはよう。洞木さん」
「おはよう。委員長、今日週番?」
「おはよう。ヒカリ君はいつも早いね。尊敬に値するよ」
 ……いっぺんに話されると混乱してしまう。
「? どうしたのヒカリ? 顔が赤いよ? ………ああ。毎朝毎朝、アンタも良く飽きないわね」
 そう言って自分の後ろに立つ人物に視線を向ける。
「な…何よアスカ?!」
 アスカの顔には『小悪魔』と表現するのがぴったりの表情が浮んでいる。対してヒカリの顔は真っ赤になっていた。理由は一つ。トウジである。もっとも、シンジ並に鈍いトウジは欠片も気づいていないのだが…
「ま、いいわ。そんな事より、マナ!」
「? 何? 私何かしたかな?」
「今日こそは……」
「なんだ……まだ言ってるんだ? 無駄だと思うけど。お昼休みにね」
「逃げるんじゃないわよ!!」
「はいはい。ところで………」
 マナは教室から抜け出そうとする人影を見つけた。
「渚く〜ん? 相田〜?」
「「(ぎくうううう!!)な………何かな?」」
「どこ行くのかな?」
「「いいいいいや、……べべべべべつに」」
「そう。じゃ、後に持っている写真。出しなさい」
「「な………何の事かな?」」
「レイ。命令」
「了解」
 その一言に反応して、レイがカヲルとケンスケを一瞬にして床に殴り倒す。そして後ろ手に持っていたアルバムを奪う。
「はい」
「ありがと、レイ」
 この一連の行動も毎朝起きている。ちなみに没収された写真は、シンジのものだけレイとマナがアスカに黙って山分けしたりしている。
「ああ。今日も負けるんだね。これがボクの運命なのかもしれないね」
「あああああああああああ!!! 売上がああああ!!!」
「まったく、懲りない人たちね」
 ヒカリの一言である。

 昼休みには、彼らは屋上で食事をするのが日課になっていた。
「う〜ん、相変わらず凄いわね。碇君たちのお弁当……」
 ヒカリが自分のと見比べながら話す。ちなみにケンスケ以外は全員弁当である。レイ、マナの弁当はシンジの、カヲル、アスカの弁当は加持の、トウジの弁当はヒカリの作である。トウジはヒカリのおかけで、二時間目の後に自分の弁当を早弁するようになっていた。
「そうかな? 洞木さんのも美味しそうだけど」
「でも、やっぱり碇君のほうが凄いわ。これ一体どうやってるの?」
「これは…………こうして……………これをいれて……」
「あ、そうするんだ。へえ〜」
 料理講座が始まる。その横では…
「今日こそは頂くわよ! シンジの弁当!」
「まったく、懲りない人ね。それじゃ、いくわよ…」
「「じゃん・けん……ぽん!!!!」」
 出されたのはパーとチョキ。
「はい。私の勝ち。これで二十戦二十勝〇敗。いい加減に諦めたら? アスカってじゃんけん弱いんだから」
「…………キ―――――――――!!」
 と唸っているアスカを無視して、マナは弁当を食べ始める。その横では……
「……………」
「……………」
 トウジとレイが一心に自分の弁当を食べていた。一言も話さない。二人とも自分の弁当箱に集中していた。その横では………
(今月の売上はどうだい?)
(霧島に奪われた分が多いけど、先月の二割増。やっぱ、『銀髪のツーショット』と『紅い瞳のスリーショット』がダントツだよ)
(まぁ、シンジ君なら当然だね。それで?)
(私服姿の要望が多いんだ。そこで何とかしたいんだが………)
(誰のだい?)
(まず、私服は一番が惣流。次に綾波。次に彼女が入って、で、シンジ、霧島、カヲルって順かな? あ、委員長の希望も多かったな)
(最近変わってきたからね、彼女は。恋する乙女のパワーか……素晴らしいね)
(トウジもそろそろ気づいてあげないと、委員長が可哀想だね)
(…………じゃぁ、こんなのはどうだい? …………………………)
 ……………男二人が顔を寄せ合って話しているのは気味が悪い。しかも、カヲルの顔とケンスケの顔なので、周りの女子からきつい視線が送られていて。

 放課後、彼らは馴染みになった喫茶店で時間を潰すようになっていた。何故馴染みになったかというと……
「いらっしゃ〜い。あら、皆早かったわね?」
 そう言いながらカウンターの奥から出てきたのは、シンジ達と同じ年頃の女の子だ。純黒の墨のような光沢のある髪を腰のあたりまで伸ばして、大きな黒い瞳をしていた。この彼女が理由である。
「今日はシンジ達もゲームしなかったからね」
「アスカ君が急かしたんじゃないか。まったく、今日こそはケンスケに勝てると思ったのに…」
「何か言った? カヲル!」
「いや!!! 何も言ってないよ!!!」
「………無様ね」
「レイ、リツコさんの真似はやめなさい。あなたが言うと怖いわ」
「そう?」
「相変わらずね。で、注文は?」
 そう言って注文を取っていく。
「リンも大変よね。学校の後にここ手伝っているんだから」
「そうかしら? 叔父さんの手伝いだし、けっこう面白いよ」
「それで、御堂さんは料理もうまいのね」
「ヒカリちゃん。持ち上げないでよ」
 『御堂リン』シンジ達と同じクラスの女の子である。身長は女の子の内では高い方だろう。170を超えている。そして落ち着いた性格から、このグループでは姉のような位置にいる。あのヒカリが尊敬してやまないのだ。
「シンちゃん。いっつも大変ね。はい、カフェオレ」
「ありがとう。ま、慣れればね……。そういえば、リンは今日学校休んでたよね?」
「うん。本部に用があったから」
「しっかしうらやましいよな〜」
「何が? 相田君。あ、コーヒー入ったよ」
「お、サンキュウ。御堂さんってネルフの幹部候補生だろ?」
「そやったな。でも、なんでその年で?」
「それは私の兄のせいさ。ハイ、トウジ君。アスカちゃん。チョコレートパフェ」
 そう言って奥の厨房から出てきたのは、白髪混じりの男だった。特徴は目が細くて、身体全体も細い事だろう。この人がこの喫茶店のオーナーである。
「兄? マスターって兄弟おったんか?」
 パフェを受け取りながらトウジが聞く。ため口であるがそれを気にした様子も無い。
「ああ。コウゾウ兄さんが手伝いに欲しいって言ってたからな。紹介したんだ」
「…………副司令?」
「そうよ。はい、レイちゃん。レモンティー」
「……ありがとう」
「へ〜。あの冬月先生がね、意外だわ」
「マナちゃん、そう言う言い方は無いと思うわ。はい、シナモンティー」
「あ、ありがと。でもさ、スイスにいる間お世話になったけど、他人に仕事を押し付けるような人には見えなかったけど…」
「そうよ。わたしがお願いしたから。押し付けられたわけじゃないもの。あ、ヒカリちゃん。ケーキ、ちょっと待っててね。すぐ用意するから」
「うん。でも、皆大変ね」
「ま、仕方ないさ。誰かがやらなければならない事だからね。ところでマスター、ボクのアイスはまだかい?」
「あぁ。リン、ケーキと一緒に頼むよ」
「分かったわ」
 そう言うとリンは厨房に入っていった。
「でもさ、シンジ。そうするとネルフは将来どうなるんだ? こんな子どもばっかりが重要な位置にいるんだろ?」
「う〜ん、父さんは全てが終わったらネルフの研究機関を継げって言ってるけど、どうなんだろう?」
「でも、シンジ君。それは全てが終わってからさ。まだ終わったわけじゃない。ボクらの未来はまだ決まっていないよ」
「そうね。カヲルの言う通りよ、碇君」
 一瞬、カヲルとレイの顔が険しくなる。
「ま、先のことさ。とにかく、ボクとしてはシンジ君が早くボクの気持ちに気づいてくれる事を願うだけだよ」
「……アナタは要らないわ………」
「ガアアアアアアアアン!!!! レイ、君はボクとシンジ君の仲を認めてくれないのかい?」
「……誰も認めていないわ」
「そうよ!!! カヲル! アンタ抜け駆けするんじゃないわよ!!」
「あ〜あ、また始まった。シンジ、今日のご飯どうする?」
「あら、また始まったの? はい、ヒカリちゃん。ケーキセット」
「あ、ありがとう。でも、いつもの事だから」
「そうね、シンちゃんも大変ね。そうだ、うちに来る? 良いわよ楽で」
「え? え? え?」
「リン姉ぇ。いくらリン姉ぇとはいえ、シンジを誘惑するのは許さないわ!」
「あら、マナ。恋愛は自由じゃないかしら?」
 そう言って口喧嘩を始める。
「……なんでシンジばっかり………」
(トウジ、お前はまだ良いよ………ハァ。俺の春は何時になったら来るんだろう?)
 恐らく来ないであろう春を待ちわびるケンスケの姿は、哀愁が漂っていた。

―――――――ネルフ本部・技術室長室。別名『リッちゃんの実験室』(命名・加持リョウジ)
「あれ? 先輩、お弁当ってお昼にも食べていませんでした?」
「今日遅くなるっていったら、シンジ君が作ってくれたのよ。わざわざ、夜までもつように考えて作ってくれているの」
「へえぇ。噂には聞いていましたけど、シンジ君が料理うまいってホントだったんですか?」
「あら? マヤは食べた事無かったのかしら?」
「ハイ。何度か差し入れしてもらった事があるんですけど、発令所だったんで力負けしちゃって…」
「……彼らは女性でも手加減無しね。……そうね、今度食べに来る?」
「え?! 良いんですか?! 行きます! 行きます!!」
「分かったわ。シンジ君に伝えててあげる。どうせ、ミサト達も来るでしょうけど…」
 お茶を入れながら話す。弁当は食べ終わったらしい。
「でも、シンジ君達も凄いですねぇ。パイロットとしても大変なのに、他の部署まで受け持っちゃって」
「司令のアイデアよ。全てが終わって、ネルフが必要なくなったとき、研究部署を基本にして新しいネルフを作る時に、シンジ君を中心にして一新させるつもりらしいわ。そのための配慮ですって。でも、実際シンジ君達が来てくれたおかげで随分仕事も楽になったわ」
「そうですね、技術部の仕事は、半分以上先輩たち四人がこなしているし、監察部のほうでは加持さんに次ぐ能力をカヲル君が発揮しているし、総務部のほうでも、リンちゃんが日向さん並みの処理能力を副司令の下で発揮していますしね」
「何もしていないのは、あのぐうたらぐらいよ。で、マヤ。仕事の進行状況は?」
「ハイ。本日の分は終了しました」
「あら、早かったわね。まだ九時よ」
「以前、シンジ君が初号機の、レイちゃんが零号機の整備計画書を出していて、それを基本にしようって事になりました。実際良く出来た報告書だと思います。新開発の武器ですが、マナちゃんから意見が上がりまして、戦自研の技術を転用しています。その為、進行状況は予定より30%ほど早く進んでいます」
「戦自の? よく許可が下りたわね」
「そのお〜、時田氏が手を回したようです。ここに、映像を預かっていますけど………どうします?」
「………………………見ましょう。入れてちょうだい」
 マヤが備え付けのテレビに近づくとスイッチを入れる。
『お久しぶりです。以前は失礼をしました。私がつまらない意地を張ったため、あのような事態を引き起こしてしまって、本当に申し訳ない。我々もあの一件や、その他の報告からネルフの重要性を実感しました。そこで今回の件ですが、貴女がこちらに戻られたと聞き及びまして協力させていただこうと思いました。ちなみにそちらの加持諜報部長から大体は聞いておりますので。我々としても老人如きに負けたくありませんから。その為に、この技術を生かしていただきたい。同じ星の上に住むものとして………』
「信用できますかね?」
「できると思うわ」
 そう言って、終わったビデオを少し巻き戻す。
『……個人的に、あの少年達が戦場に出ないで済む事を祈っています。私にも息子がいますから……』
「………しかし、シンジ君も凄いわね。彼にかかわっている人たちは皆変わってきているわ。これも彼の力なのかしら? どちらにしろ!!」
 そう言ってリツコは立ち上がった。
「あれ? 先輩どこに行くんですか?」
「帰るのよ。家にね」
「そうですか。あ!! 食事のことお願いしますね!!」
「分かったわ」
 その時のリツコの顔は晴れ晴れとしていた。
 こうして一日は終わっていく…。

 何気ない日常。
 以前より遥かに居心地のいい場所。
 その大切なものを天使たちは実感する。
 未来を見つめる彼らは、
 様々な思いを抱いて生活していく。
 それこそが、
 人々が『楽園』と呼んだ物。
 それを守るために、
 彼らは帰ってきたのだから……
つづく
(定着しつつある座談会)
 作者 「ふう。やっとここまで来たぞ」
 シンジ「長かったね。やっと日常を書き始めたんだ」
 アスカ「……なんか微妙に性格が皆違わない?」
 作者 「そりゃそうさ。ボクの主観なんだもの。ちょっと解説しようか…ホイ」
 シンジ「????? 設定資料? 公開しないんじゃなかったの?」
 作者 「性格だけだよ。公開するのは。しかもちょっとだけ。新キャラもいるしね」
 リン 「忘れていたんでしょう? (ニコニコニコニコ)」
 作者 「ままさかああああああああ!!!!!!」
 カヲル「………妖しいね」
 作者 「まあ良いじゃないか!! んじゃ行ってみよう!!」
 シンジ「『原作よりも強い! 賢い! 鈍い!』……まだある『シンジ争奪戦はあからさまなのに気づかない』……ご都合主義だね」
 アスカ「『わりと素直に自分の気持ちを表現するようになる。ただ、基本は原作に沿う』…沿ってないじゃない!」
 レイ 「『原作より感情豊か。天然ボケ。リンとマナを姉のように見る』」
 カヲル「『ボケ』…………酷いんじゃないかい? あれ? 続きが……『戦闘のときや敵が絡むと大真面目』…なるほど」
 マナ 「『友人参照』…………………………………。作者、ふざけてる?」
 リン 「『姉のような存在感。シンジのことを弟のように扱うが、本心は』っか。……ありきたりのような気が」
 作者 「ボクは大真面目なんだけどね、とにかく、メインは君たちなわけだ。これからどうなるかは………考えてない。動かしやすいやつを使いたいけど、それだと偏るしね」
 リン 「で? これからは?」
 作者 「とにかく、敵サンを出す」
 レイ 「………………敵?」
 カヲル「? 老人じゃないのかい?」
 作者 「さ〜〜〜〜〜〜?」
 マナ 「違うって言っているものじゃないの?」
 アスカ「………作者(コイツ)は穴掘るのが好きだから」
 リン 「穴?」
 カヲル「墓穴さ」
 作者 「言いたい放題言ってんな……」
 シンジ「まあ、執筆できれば良いよ」
 アスカ「あんたもお気楽ね。ま、やるしかないんだけどさ」
 作者 「んじゃ、ここらで切り上げよう。後がつかえてるからね」
 カヲル「今回は平和だったね。珍しい」
 アスカ「早く逃げたいだけでしょう。今までの作品の誤り(ボロ)を指摘される前に逃げたいのよ」
 作者 「ドキイイイイイイイ!!!」
 カヲル「図星かい? 懲りないね。レイ」
 レイ 「目標確認」
 作者 「ひえええええええ!!!!!」
 ドム!!!!! ……ドン!!
 リン 「………バズーカ?」
 レイ 「殲滅。任務完了」
 シンジ「……あのくらいなら、次回の後書きには復活しそうだね」
 マナ 「それじゃあ、もう終わりましょ。リツコさんが心配するわよ」
 シンジ「そうだね」
 アスカ「それでは!」
 全員 『次回もよろしく!!』
第四話終幕

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管理人のこめんと
 SHOWさんの『誰がために……』、第4話です。
 ほのぼの日常編。いいですねぇ、平和で。一部そうじゃない人もいますけど(笑)
 相も変わらず主夫としての技量に日々磨きをかけているシンジ君。リッちゃん()ではべつにそうしないと生命が危険なわけでも必要に駆られているわけでもなさそうですけど、結局やっちゃってますね。三つ子の魂百まで(違)。
 やらなくてはいけないからするのと、好きでやるのとでは、結果は当然違いますよね。媚びているわけではなくて、食べた人に喜んでもらえて、美味しいと言ってくれると嬉しいから、さらに張り合いが出る。料理の腕前も上がろうというものです。

> どげしゃあああぁぁぁぁ!!!!!
 毎朝これなんですか? ってゆうかそもそも何やってるんですかこの音は(笑)
 マナが一体どんな起こし方をしてるのか、とっても気になります(^^;)。

> 葛城ミサト、惣流・アスカ・ラングレーは基本的な生活能力が欠如していた。
 足りないのはそれだけじゃない気がすごくします(笑)。なんかあの二人って似てますよね。一緒に生活してたら、どんどんアスカがミサト化してしまうのも無理はないかも。
 可哀想な加持さん。巻き込まれたカヲルくんもいとおかし(違)

> 「ペンペン、掃除機かけてくれ」
> 「クワ?!」
 そーゆうことをさも当たり前のよーにペンギンに頼む加持さんもスゴイですが、やっちゃうペンペンもまたスゴイですね。それだけ出来りゃ、生活破綻者と同居しなくたって、一人で生活できるんじゃないかとも思ったりしますが(笑)

> 俺の春は何時になったら来るんだろう?
 一生来ねぇよ、そんなものわ(笑)

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