第零話 夢で会う君へ
夢の中で君に会う。
いつの頃からか、それだけが僕の唯一の楽しみとなっていた。
流れるような金色の髪、空の蒼さを写し取ったような瞳。幼い顔、けれど何故か大人ぶって、君は僕の手を引く。
でも、僕は知ってる。君の可愛らしい笑顔、怒った顔、照れた顔、拗ねた顔。
いろんな君の表情を、僕は見た。
全部、可愛いと思った。好きだと思った。愛しいと思った。
触れたかった。この手で。
そうすれば、さっきからずっと高鳴ってばかりの僕のこの胸の鼓動を、少しは君にも届けられるかもしれないと思ったから。
そして、出来るなら君を抱き締めたい。感じたい。この腕で。
でも、それは叶わぬ夢。それこそ夢。
だって夢だから。
だから、君には触れられない。触れたと思った瞬間には消えてしまう。目醒めてしまう。そして連れ戻される。
現実へ。
辛くて苦しい、嫌な世界へ。
それが僕の世界。
僕の人生。
だから、夜は僕のもっとも倖せな時間。
現実が辛いから、余計に君に会いたくなる。このままずっと、夢が醒めなければいいのにって思う。
そうすれば、ずっと君と一緒にいられるから。
そう言ったら、君は照れたような、怒ったような、泣き出しそうな顔をして、僕に言ったね。
「あんたばかぁ?」って。
うれしかった。
良くわかんなかったけど、嬉しかった。
だから僕は言った。
「ありがとう」って。
君は変な表情をしてたけど。でもいいんだ。僕はそう言いたかったから。きみに。
ごめん、もう行かなきゃ。
……父さんが呼んでるから。
じゃ、またね。
あとがき
それは2年ほど前のことです。