鏡と首輪

青少年にはふさわしくない内容が含まれています。未成年の方はご遠慮ください。
序章
1.虜囚
2.逡巡
3.歓喜
4.寝台
5.人外
6.永劫
7.逃走
8.因果
9.鏡
10.硝子細工
11.砂時計
12.破戒
13.前夜
14.覚醒
15.威力
終章

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鏡と首輪
笛と腕輪
ゲームと指輪
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序章

 その日、10月初旬だというのに記録的に蒸し暑かった。夜になって暑さは少し収まったものの、湿気を含んだ生暖かい風は人々に不快を与えつづけていた。
 これといった特色のない地方都市にある、県下有数の公立高校S高校。その学校の校舎の屋上に、二つの黒い影があった。
「ふむ、前回来たときよりずいぶん様変わりしているようだ」
「フフフ、人間社会は常に目まぐるしく変化しますから、いつも来るのが楽しみでございます。一人一人の一生はあんなに短いのに、よくこんなに変われるものかと思いますわ」
 新月の暗い夜。どちらも着衣は身につけておらず体の線がかろうじで判別できるだけだったが、それは確かに一組の男女に見えた。最初に口を開いた方は筋肉質でいかにも男性的。背の低い方はほっそりとしていて、明らかに女性の体形だった。
 しかし、もし誰かがこの二人の瞳を覗き込めば、それが間違いであることに気付いただろう。
 顔の各部分は整いすぎて、むしろ印象が薄い。しかし切れ長の眼の中の瞳、なんの光もない漆黒の瞳をみたものは、その中の闇に吸い込まれそうな感覚を覚える。それは日本人ではなく、かといって外国人でもなく、人間ですらなかった。
 男性的なほうが口を開いた。
「一人一人の一生が短いからこそかもしれん」
「そんなものでございましょうか? いずれにせよしばらくこの社会を学ばなければ。言葉遣いや服装も随分かわっているかと存じますし。例の人間はこの近くにいるのでしょうか?」
「うむ、それは間違いないだろう。まずは捜し出し、それからどうするか考えよう」
「あぁ、楽しみございます。どんな手段で堕として差し上げましょう」
 女性の方が妖艶な笑みを浮かべた。
「楽しみは結構だが、我等の使命を忘れるなよ」
 そういうと男の姿が消えていく。
「わかっております」
 女性の方の姿もそれにならった。
 いや、それは消えたというよりは、夜の闇に溶けたという方が正しかっただろうか。



第一章 虜囚

 目を開けるとそこは見知らぬ場所だった。薄暗いその場所を見回すと、隅の方が暗くて正確にはわからないが、十畳程度の広さがある。すぐそばには高さ1メートルほどの燭台の上で、時代劇で見るような炎の大きな蝋燭がススを上げて燃えていた。
(ここは……?)
 目を凝らすとそこが普通の場所でないことがわかった。床が石畳でできている。床だけでなく壁も、そして高い天井も全て石で出来ているのだ。
(なに……これ?)
 さらによく見回そうと体を動かそうとすると、肩に痛みが走った。ふと自分を見ると両腕には金属でできた手枷がつけられ、大きく開かれた形で鎖で繋がれている。気を失っている間、それにぶら下がるように体重をかけていたため、肩が抜けるように痛んだ。
慌てて足に力をいれて体重をささえると、ジャラリと鎖がなった。手枷で見えないが手首もひどく痛んでいる。内出血でもしているのだろう。ふと首にも輪のような物がつけられそこから鎖が伸びて壁に繋がっているのを感じた。他に怪我でもしていないかと自分の体を見下ろした。

 若い女性が着衣一つ身に着けず地下牢のような場所で鎖で壁につながれていた。まだ15、6のその若い肢体は、薄暗い部屋で白く透き通っているように見えた。
 大きく張り出した双乳はたっぷりとした量感を持ちながらも形よく整っていた。先端の鮮やかな桃色の部分は普通の女性よりかなり大きかったが、乳頭はそれほど大きくはない。 腰は細く締まりその下の丸みを帯びた下半身へとつながっていた。程よく肉付いた股間にはようやく生えそろったかのような薄い陰毛が翳っている。
 体にまとわりつく長い髪は櫛も通っておらず、ところどころでくしゃくしゃにもつれていた。顔は混乱と恐怖の表情に引きつってはいるものの、小さめの鼻と小さい口、長いまつげの下の切れ長の眼。そこに輝く大きな瞳は、白い肌とあいまって見る人に涼しげな印象を与えていた。
 壁に繋がれた美少女という、美しくも妖しい光景。
 しかし……。

(女の体?? 一体どうなってんだ? ここはどこだ?)
 男子高校生だった畑山優一は自分が尋常でない事態に巻き込まれていることを悟った。
(夢?)
 そう思ってみても、未だ収まっていない手首や肩の痛みはそれが現実であることを告げている。いや、むしろ現実以上に生々しい。肌の感覚は冴え渡り、自分の体を動かしたときおきる微妙な風の変化まで感じる。灰色一色のこの地下牢のような場所でも蝋燭の炎が作り出す微妙な色彩が鮮やかに眼に映る。
普段は気にもしなかった股間の重みがない変わり、胸の重さが肩から首筋にかけてずっしりと感じられる。
 鼻の奥に自らの女性の体が発する甘い体臭が感じられた。
 
 心臓がドキドキと激しく鳴リ始める。余りにも異常な状況だった。

(なんでこんな…? 俺、なにしてたっけ?)
 目が覚める直前の記憶をたどろうとするが、全然思い出せない。
 先週の土曜日に友人と映画を見に行ったことや、その次の日に帰ってきた模試の成績がよくて、両親とささやかに祝ったことは覚えている。しかし今週に入ってからなにをしていたか、そもそも今日は何曜日かすら全くわからない。忘れているというよりは、そんなものは始めからなかったかのようにすら思えた。
 目が覚めたら記憶を失い鎖に繋がれているというB級小説のような陳腐な状況に皮肉な笑いがこみあげてきた。

「うふふ、気づいたかしら」
 だれもいないと思っていた暗闇から急に声をかけられ優一はビクリと体を――女性になってしまっている体を――硬直させた。そちらに目を向けると、首まであるピッタリとした黒いレザーの上下でスレンダーな体を包んだ女性が立っていた。
 日本人離れしたその体形と腰まで流れ落ちるような真っ直ぐな髪の毛。
 不健康に白い肌。
 そしてすべての光を吸収するかのようなその暗い瞳。
 優一は何か言おうとしてその言葉を飲み込んだ。女性の発する異様な雰囲気が声を出すことを躊躇わせた。

「はじめまして。優一君。いや、優一ちゃんかしら。
 まず自己紹介からね。私の名は……そうね、今度は何にしたらいいと思う?」

 女性が先ほどまで暗闇しかなかった場所に顔をむけるとそこには白いシャツに黒いズボンを履いた体格のいい男がいた。今風の金髪に染めた短髪に無骨な風貌。腕を組んで立つその姿は一枚の絵のようであったが、しかしその目はやはり深く暗かった。
「名前なんてどうでもいいだろう。好きにしろ」
「わかったわよぉ」
 男のにべもない返事に女の方は少し首をかしげて考えはじめた。本来ならかわいいはずのそんな動作も、この女がするとなんともいえない色気がただよう。
「そうね。じゃぁ、季節はまだちょっと先だけど、私は『マフユ』ね。あなたはどうする?」
「では、『シモツキ』(霜月・11月のこと)にしよう」
「フフ、古いわねぇ。もう江戸の時代じゃないのよ。まぁ、いいわ。私たちは『マフユ』と『シモツキ』。優一君にも新しい名前が必要ね。そんなに色っぽい体で優一もないものね」
 そういいながら優一の乳房の下をそっと撫でた。
 若い女性の肢体がピクッと震えた。

「お…おまえらは一体…?」
 頭の中は混乱しきっていたが、なんとか精一杯虚勢を張って声を出した。しかしその声は自分の予定していた声よりずっと甲高く、心の中の恐怖がありありとあらわれていた。
「フフッ、思ったとおりのカワイイ声だわ。そんなに怖がらなくてもいいのよ、優一君。私達はね、まぁ、有り体にいえばあなたたちが悪魔って呼んでるモノね」
「あ……悪魔……?」
「ああ、悪魔っていっても人間の魂をとったりしないから安心してね。私達はあんな野蛮なやつらとは違うから。あいつら人間の恐怖とか狂気とかを食べるから、すぐに戦争とか犯罪とかさせたがるのよねぇ。そういう感情は、量は多いけど味わいにかけるのよ。それに比べ私達はもっと文明的よ」
 優一が戸惑っているのを尻目に、マフユと名乗る女性は優一のそばまでやってきた。マフユは小柄に見えたが、今の優一よりは少し背が高い。自分の顔を優一の鼻に息がかかるほど近寄せると、そっと囁いた。

「私達は人間のセックスの快楽を食べるの」

 真っ赤に濡れたような唇から吐き出される息は、微かな香水のような香りに動物的な匂いが混ざった嫌な匂いがした。優一は咄嗟に顔をそむけた。
 マフユは別にそれを気にする風でもなく続ける。
「物を壊したりするのはどちらかというと苦手でね。むしろ人が安心して快楽に溺れるように文明の発達を助けたりしてきたぐらいなんだから。まぁ、200年ぶりに地上に降りてきたら、あんまり変わっててびっくりしたけどね。話にきいてはいたんだけど」

 優一は心の中でこれはなにかの悪い冗談だと笑い飛ばしたかった。しかし、自分の置かれているこの状況――女の体で石造りの部屋に鎖で繋がれているというこの状況――が余りにも常識からかけ離れているし、この2人が人間ではないことは、その目を覗き込んでなんとなくわかった。

「俺になんのようだ。どうやって、こんな…こんな…」
「体にしたのかって?」
 マフユはそういいながら、優一の右の乳房の乳輪をそっと右手の薬指でなぞった。
ビクッと体が震え、優一の鼻から息が漏れた。
 体を触られるたびに体がビクビクと反応するのが心許ない。
「いいでしょう、この体。心配しなくてもちゃんとあなたの体よ。すこし性染色体を弄っただけ。感覚の鈍い男の体に慣れてるだろうから、しばらくは感度が良すぎるかもしれないけど。まぁ、すぐに慣れるわよ」
 そういうとマフユはレザースカートからすらりと伸びた足を優一の足に絡めた。ひんやりとしたレザーが素肌にあたると気持ちがよかった。
「私達にはやらなきゃならない使命があるの。これもその一環って訳。あなたを選んだのは……」
そのとき、それまで黙っていたシモツキと名乗る男が鋭く遮った。
「しゃべりすぎだ」
「わかったわよ……。その辺はおいおい話すわね。そうだ、まだあなたの新しい名前を考えてなかったわね」
 そういうとマフユは優一の釣られている右手を自分の手にとって言った。
「私がマフユだから……、ユキちゃんなんてどう? 色白の肌にピッタリよ」

 優一は金属の手枷がついたままの不自由な手で、なんとかマフユの手を振り払うと、努めて低い声で言った。
「元にもどる方法はあるのか…?」
「えっ?」 マフユは心外というように驚きの表情を浮かべる。
「どうしてそんな事訊くの? こんなにステキな体なのにぃ。どうせ、男になったって……」
 そういいかけたところで、シモツキの低い声が遮った。
「男の体にするのは我々には簡単なことだ」
「本当に?」
 優一が女の声で聞き返した。
「我々は人間に直接嘘をつくことを禁じられている」
「?」 優一が眉をひそめるとシモツキが続けた。
「人間の感情を食べる我々にとって、人間は大切な感情の供給源なのだ。だから我々が干渉し過ぎないように、人間に対する活動は強く規制されている」

「外にもいろいろ面倒なのよぉ、人間界では人間に直接、私たちの能力を使っちゃいけないとか、直接触っちゃいけないとかね。でも安心してね。この部屋は人間界の外にあるから、私達も自由にやれるわよ。ユキちゃんは直にたっぷり可愛がってあげるからね。この内装、私の趣味なの。ステキでしょう?」 

 うるさいとでもいうようにシモツキがマフユを睨んだ。
「この空間はあまり長く存在できない。すでに残り13日間になってしまっている。お前が素直に我々に従うなら、その後には男の体にしてやってもいいだろう」

「お前なんてよんじゃだめよ。ユキちゃんって名前なんだからね」
 マフユが優一の顔に垂れる長い前髪を左右に分けながら口を挟んだ。
 優一は首を振ってそれを振りほどいた。
「もし嫌だといったら…」

「お前は自分の立場がわかっているのか? 女の姿で裸で壁に繋がれ何を取引するつもりだ? 我々の使命の遂行にお前の意思は関係ない。お前が拒絶しようが、協力しようが我々の目的は無理にでも遂行するだけだ。その後にお前がどういう人生を送りたいかには我々には興味ないからな」
 シモツキは優一を見下ろすようにいった。
 優一は唇を噛んだ。男の言うとおりだった。この状況では、どの道、自分には何も出来ない。

「そんな言い方はひどいわ。ユキちゃんもこんなにステキな体、手放せなくなるに決まってるんだから」
 マフユはそう言うと、右手で優一の下腹部を撫でまわし始めた。
 ゆっくりと撫でられると背筋にぞくぞくした感覚がはしり、勝手に乳首が勃ってきた。体をよじってみても手首を固定された状態ではどうにもできない。体を撫でられているだけで散り散りになってくる思考をなんとかつなぎ止めながら優一はシモツキに尋ねた。

「俺を…どうするつもりだ…」

 シモツキはその問いに、短く答えた。
「お前には人間をやめてもらう。セックスだけする人形になるんだ」

 優一は絶句した。
 女の体にされて吊るされている状態から、なんとなくこの男にレイプされるのだろうと漠然と考えていた。男に犯されるというのはぞっとしないが、正直言って、女性の肉体に興味がない訳ではない。女の貞操観念なんてものもない。
 でも人間をやめるとはどういう意味だろうか。

「シモツキはいつも大げさなのよ。ちょっと女の子のセックスを覚えてもらうだけなんだから。ユキちゃんだって折角の女の子の体を使ってみたいでしょう?」
 いつのまにかマフユはレザースーツを着ておらず、一糸まとわぬスレンダーな体を優一の体に擦りよせてきた。マフユの肌の感触は酷く滑らかでしっとりと暖かかった。

 優一はマフユの体から立ち昇る体臭に気づいた。吐息と同じようにそれもまたむせる香水に動物的な臭気が混ざった嫌な匂いだった。
「ほら見て。あなたの体、綺麗でしょう?」
 そういいながらマフユが暗闇に向かって振り返ると、いつのまにかその背後に蝋燭が増えており、その奥に巨大な鏡が優一に対面するように立っていた。
 優一は擦りよってくるマフユの体からなんとか身をよじって逃れようとしながら、ちらりと鏡に目をやった。
 蝋燭の光りの中で二人の色白の裸体が鏡の中に蠢く姿はなんともいえず幻想的で、優一は一瞬目を奪われた。心臓がドキリと大きく脈打つ。
 耳まで紅くなった。

「この体でセックスしちゃったら、どうせただの男になんて戻れないんだから、今までの人生なんて関係ないのよ。そうね…、でももし、私達が帰るときまで男になりたいって思い続けるんだったら、体を男にするだけじゃなくて、ここにいる間の記憶も消してあげる。それなら怖がることないでしょう?」

 そういいながらマフユは優一と優一の繋がれている背後の壁の狭い隙間にするりと滑り込み、下腹部を撫でていた手をそっと股間に当てた。残った左手の指は優一の左手指を弄ぶ。
 優一は改めて股間にあったはずのものがないことを思い出していた。
 股間に手をあてられているだけなのに、ひどく淫靡な気持が湧き上がってくる。
 男の体であったなら一カ所に集まっていく筈のその感覚は、下腹部から足の先へとかけて、ゆらゆらと漂っているようだった。それは勃起した男性器のような確かな感覚ではなく、とてもあやふやな頼りない感覚だった。

 優一が何もいわないでいるのをマフユは肯定と受け取ったらしい。
「よし、決まりね。一度味わった快楽を諦められるなら、ユキちゃんの勝ちってわけ。がんばってね」
マフユは嬉しそうに鏡の側の暗がりに立つシモツキに声をかけた。
「何から始める?」
「まずは女の悦びから教えよう。芸はそれからだ」

「あぁ、楽しみだわぁ。シモツキに処女あげるんだから私から始めるわよぉ」
 マフユはまるでそれが自分のことであるかのように熱っぽく言った。
「おもいっきり啼いてね、ユキちゃん」

 そういうとマフユは股間に当てた手はそのまま、もう一方の手でほっそりとした顎をつかむと、顔を横にねじらせてその唇に自分の唇を近付けた。



第二章 逡巡

 畑山優一の人生は順調というわけではなかった。
 父親は一般的なサラリーマンでそこそこの大学を出てそこそこの企業で働いていた。もともと地方のスーパーマーケットの長男だったが、自分に経営者は向かないと、さっさと弟に店を譲って都市部の会社に就職してしまった。この郊外のベッドタウンに引っ越して来たのは母親と結婚してからだった。母親は明るくて元気がいい人で、父よりレベルの高い大学を出ながらも、結婚後は父に相談もせずに仕事をやめてしまい専業主婦になってしまった。『自分の趣味は主人』と公言して憚らない人だった。
 優一は幼いころからしっかりした性格で何事もそつなくこなす子供だった。母親は優一を余り叱ったことがないことを自慢にしていた。
 逆に優一の2つ下の妹、恵美はおてんばで母親は手を焼いた。子供の頃は、近所の男の子を泣かして帰ってきては、母親に連れられて謝りに行っていた。しかし母親は決して恵美を叱らなかった。母親は、恵美が悪ガキから自分の友達を守っているのを、人のいないところでこっそりと誉めていた。そんな恵美でも小学校高学年になると女の子の友達を家に連れてくるようになり、少しは女らしくなっていった。
 この一家の試練は、3年前に恵美が突然、小児白血病で入院し、そのまま他界したときから始まった。
 あれほど元気だった母は焦点の合わない目を宙に見据えることが多くなり、人生を楽しむことを止めてしまったかのように見えた。父親はそんな母に気を使い、転勤を断ってしまったため職場での評価は芳しくなかった。
 当然、年の近い妹が死んだことは優一にも暗い影を落としたが、家族を支えるのは自分しかいないと考えていた。将来、医者になるため医大に行くと宣言し、それまで余りしてこなかった勉強を毎日の日課にするようになったのはそれゆえだった。もちろん、妹が若くして病死したことへのやり場のない憤りも医者を志望する大きな理由の一つだった。
 最近になってやっと優一の努力は実を結び始めた。先週、模試の成績で高得点を上げたのをお祝いしようと、母のほうからいってくれたときは素直に嬉しかった。母がテーブルの隅にあったほうれん草のおひたしを取り分ける時、『恵美は子供の頃からこういう渋い食べ物が好物だったのよね』と微笑みながら言うのをみて、優一はすこし肩の荷が下りたような気がした。何も言わなかったが父親も同じことを感じていたようだ。

 そんな家族の団欒がふと遠い昔の出来事のように思い出された。


 正面にある大きな鏡には淫らな光景が映し出されている。
 優一は、鏡の中で横を向かされ背後から口の周りを舐め回されている少女の横顔が、死んだ妹によく似ていると思った。

 ぬるり。
 唇が割られ舌が入ってくる感覚に優一は考えを中断させられた。
 唇から流れこんでくるすえた匂いの吐息に嫌悪感を覚え、なんとか歯を閉じて唇を外そうとするものの、押さえつけられた顎はびくともしない。優一がもがく間にもマフユは唇の裏から歯茎までをなめ回した。
 しばらくそのままの状態で舐めまわされていると、だんだん最初の嫌悪感が薄れてきた。相手の吐く息にも慣らされてくる。しかし、流れ込んで来る唾が口の中に溜まってきて、吐き出したくてどうしようもない。
 不意にマフユが股間に当てていた方の手を、上へと撫で上げた。同時に秘芯をなぞるように中指を這わせ、クリトリスを引っ掻く。
「んんっ…」
 優一がビクリと体を震わせ、くぐもった声を上げると、その隙にマフユの舌が歯を割って入ってきた。
 マフユの舌が歯の裏を舐めまわし、舌を絡めとると、それまで溜まっていた唾が一気に口に流れ込んできた。
 クチュ、クチュ、クチュ。
 口の中を舐めまわされる感触と息苦しさに頭の中が真っ白になり、優一はされるがままになった。流し込まれる唾も抵抗することなく飲み込んでしまう。マフユはそのまま数分間、貪欲に優一の口の中を味わい、そうしてやっと口を放した。チュポッ、と音がして二人の唇の間が糸をひいた。乳首がズキズキと疼いていた。
 ハァ、ハァ、ハァ。
 荒い息をつく優一にマフユは話しかけた。
「どう?女の子になって初めてのキスは? ファーストキスだったかしら?」

 優一は中学時代に付き合っていた女の子と何度か軽くキスをしたことがあったが、それは二人が付き合っていることの確認の儀式のようなものだった。こんな淫靡なものと同じでは決してない。
 口を放された後も、マフユの舌の感覚が口の中に長い間残るのが気持ち悪い。

 優一がなにも答えないのを見てマフユは少しがっかりしたような表情をした。
「まぁいいわ。口の訊き方は後でみっちり教えてあげるから。それにちゃんと感じてたみたいだし」
 そういうと両方の大きな乳房の先で硬く尖っている乳首を同時につまんだ。
「ぅん…」
 思わず優一の鼻から息が漏れる。それは痛みだけではない何かを含んだ鋭い感覚をもたらした。
「乳首もビンビンね。感度も良好だし。ユキちゃんは可愛い顔して、乳輪が大きいのよねぇ。おっぱいも大きいし」
 そんなことをいいながら、マフユはそのまま、巧みに直接の乳首への刺激をかわしつつ、ゆっくりと乳房をも揉みしだいた。同時に優一の背中に柔らかい乳房を押し付ける。
 優一は今まで感じたことのない気分に動揺した。
(なんだ…この感じ…)
 それは確実に胸から沸き起こってくるのに、なんだか取り留めがなく、苦しいのに、やめて欲しくない変な気分だった。
 心臓だけが早鐘のように鳴り響いている。
 ずっと乳房全体を揉みしだかれていると、さらに息苦しくなって来た。
(うぅ…、なんだ……これ……なんとかして…くれ)
 しかし具体的にどうして欲しいのかわからなかった。

 優一の体から力が抜け、それまで逃れようと身をよじっていた体が、むしろマフユの手に乳首があたるように身をよじり始めたのを見て、マフユが囁いた。
「うふふ、たまらないでしょう? まだまだこんなんじゃないんだから」
 そういうと今度は腋の下に頭をいれた。
「あぁ、これがユキちゃんの匂いね」
 そういいながら舌を出して脇の下をぺろぺろとなめ始めた。
 背筋にゾクゾクと悪寒がはしり、ますます息苦しくなってくる。
 孤独感や不安感が溢れ出し、自分がとても頼りない存在であるような感じがしてくる。体の動きは分厚いコートを着ているかのように鈍いのに、皮膚の感覚だけはやけに鮮やかで、それがますます背筋に走る悪寒を煽った。
 もっと触って欲しい。もっと包み込んで欲しい。もっと揉みくちゃにしてほしい。
 そんな気持ちがこみあげてくるのを止められない。
(これ…女の……気持ち…?)
 なんとなくそんな気がした。

 マフユが腋のしたからわき腹にかけて唇を這わせていくのにあわせて、背中に押し付けられた両の乳房が動くのもはっきり感じられた。ますます息苦しさが増していく。マフユの両方の手は既に乳房だけでなく体中を撫でまわしている。それに合わせて優一の体も意思とは関係なくぎこちなく動き出した。
(うう……なんで……勝手に…体が……?)
「鏡をみてみなさいよ。エッチに体が動いてるわよ」
 耳元でマフユが囁いた。耳にかかる吐息にもピクリと体が動く。
 そのままマフユに耳たぶを舐められると、優一は鏡どころではなくなったいた。

「……もう……やめろ……」
 荒い息をつきながら優一がかろうじで言った。
「あら、すこし焦らしすぎたかしら?もうちょっとだから我慢してね」
 そういうと後ろから優一を抱くように両腕をまわし、両手をそっと股間に沿えた。
「ほら、ちゃんと鏡を見るのよ」
 優しくそういわれて、優一は素直に鏡に眼を向けてしまった。
 優一が鏡に目を向けるのを確認して、ほっそりと閉じて陰毛に隠れていた秘部を両手で開く。すると肉の色に濡れ光る内臓そのもののような性器の内部が露わになった。いつのまにか回りの蝋燭の数が増え周りが少し明るくなっている。
 女性器の中にあたる空気の感触にゾクッとした。
(これが……女の……。結構、グロテスクだな……)
 そう思いながらも、初めて見た女性器に思わず見入っていた。
「やっぱり、女の子になりたての処女のオマンコは綺麗な色ねぇ。ほらみて、ピンク色よ。あら?もう、ちょっと濡れてるじゃないの。体撫でられただけで濡れるなんて淫乱女の素質十分ね」
 優一はなんだか自分が悪いことをしてしまったような、罪悪感を感じた。

 さらにマフユがほっそりとした人差し指でクリトリスの包皮をむき上げると硬く硬直した肉芽が中から現れた。
「こっちもビンビンよ。たっぷり感じてね」
 そういいながら中指の腹ですり潰すように撫でる。
 ピクッ、ピクッ。
 優一は大きく2度、白い太ももを痙攣させた。
「ああぁ!!」
(……ああ…これ……)
 足元からせり上がってくる痺れるような感覚。それまでの愛撫で胸の奥にわだかまっていたあやふやな感覚と違いそれは確かにそこにあった。しばらくそうされていると腰骨がジンジンしてきた。
「気持ちいいのねぇ。すごい愛液よ」
 マフユに言われて鏡をみると確かに花弁が飛び出し濡れそぼっている。その光景はさらに優一の興奮を誘った。体を弄ばれて股間を濡らすという男の時には有り得なかった自分の反応に、女になってしまったことを再認識すると、ますます膣の中に熱い物が溢れる。自分の体なのにそれを止めることができないのが、もどかしかった。
 マフユはクリトリスを弄るスピードを上げながら、もう一方の手の中指をそっと粘膜の中に挿入する。
「んっ……んっ……あんっ……」
 優一の口から断続的な喘ぎ声が漏れはじめた。
(声…が…止まらない……)
 自分の口から出る女の声がひどく恥ずかしかった。

「ユキちゃんいやらしい声で啼くのね。ホントの女の子なんかよりずっと色っぽいわよ」
 ゆっくりと中指を秘芯の中で浅く出し入れしながら、クリトリスをすりつぶすように回すと、クチャクチャと音がする。
 耳を塞ぎたくなるようなその音を聞きながら優一は恐怖を感じた。
(怖い……)
 未知の快感に対する本能的な恐怖。見知らぬ場所で得体の知れない者に嬲られている恐怖。そして今までの人生が消えてなくなってしまうような頼りなさ。それらが合わさった深い恐怖に胸の奥がキリキリと締め付けられた。

「ハァ…ハァ…ハァ…んんっ…」
 しばらく愛撫を続けていると、優一の呼吸が荒くなってきた。
 既にクリトリスは破裂しそうなぐらい硬く勃っている。
 優一は意識しないまま自然に腰を浮かせて、マフユの指をより深く食い締めよとし始めた。
「いい締りよ。絶対、淫乱女になれるわ」
 マフユはそういいながら中指を締め付ける粘膜の感触を味わう。
 なぜか解らないが指を入れられると、それを締め付けずにはいられない。モノを締め付けると奇妙な満足感が沸き上がってくるのを押さえられない。いつの間にか腰はマフユの動かす指を追いかけうねうねと動いていた。体が自分の意志に関係なく動くのが心細かった。
「やめてっ…怖いっ…怖いっ…」
 切れ切れの声で優一の本音が溢れ出た。自分が弱音を吐いてしまったことに気付くと、さらに恐怖が大きくなった。心細くてどうしようもなかった。
「私が抱きしめてあげてるから、ユキちゃんはなにもこわがらなくていいのよ。ほら安心してイって」
 マフユはやさしく囁くと、ぎゅうっと優一の体を抱きしめ、耳たぶを軽く噛みながら、肉芽を捻り上げた。
 不覚にも抱きしめられた一瞬、深い安堵感を感じてしまった。
 それと同時に体の奥底で堪えていた何かが大きく開き、そこから激しい感覚が大量に溢れ出た。
「くぅっ……うぅっ……うぅっ」
 優一は大きく唸り声を漏らすとビクンビクンと全身を痙攣させながら、生まれて初めて女性の絶頂感を味わう。頭が真っ白になり、得体の知れない恐怖は完全に消えていた。この時に、絶頂が心の恐怖を消してくれることを体が覚えてしまった。
 優一は自分の心に一つ焼き印を押されてしまったことに気が付かなかった。

 ジャラン。
 優一は荒い息をついて、鎖にぶら下がった格好で絶頂の余韻に浸る。膣から指が抜かれる感覚に「あンっ」っと甘いと息が漏れた。マフユはその濡れた指を擦り付けるように、優一の乱れた前髪を額の上で分け、半開きの口にキスをした。
 舌を差し込まれると、優一は自分から舌を絡めてしまった。
 クチュクチュとしばらく熱いディープキスを交わした後、マフユが口を放すと、優一は目をつぶったまま、口を半開きにしていた。優一の口から名残を惜しむように唾の糸が引いた。

「ユキちゃん、ステキよ。どうだった。気持ちよかったでしょう?」

 絶頂の余韻が収まるにつれ、それまで、あまりに圧倒的で理解できなかった感覚が何であったかが解ってきた。
 それは初めて味わった女性の快感だった。




第三章 歓喜

「次は俺の番だな」
 そういうと、それまで黙って鏡の陰に立っていたシモツキが蝋燭の光りの輪の中に入ってきた。
 既に何も着ておらず何もつけていない。
 その姿をみて優一は目を疑った。
 その股間には何もないのだ。そういえば鏡に映るマフユの股間にもうっすらと恥毛が見えるが、その奥に今の優一のような花弁は見えない。

「女の心を存分に味あわせてやろう」
 シモツキがそういうとその股間にみるみると勃起した状態のペニスが生えてきた。
「ちょっと、そんなの無理よ。まだ処女なんだから。もっと細くしないと。それにユキちゃん、とっても締まりがいいんだからね」
「その必要はない。癒しながら犯せばいいだけだ。あまりのんびりやっている時間もないしな」

 改めてこの二人が人間でないことを目の当たりにして、優一はぞっとした。
 しかも男性の股間に生えてきたペニスは優一が男性だったときに股間にあったものより一回り大きくそして長かった。
 先ほどマフユに入れられた中指でも軽い痛みがあったのに、そんなに太いものが入る筈がない。
 こんなモノを入れられてしまうのかと思うと、いよいよ自分の絶体絶命の状況が解ってきた。
 恐くてどうしようもないのをなんとかこらえ、もう弱音は吐くまいと歯を食いしばる。

 シモツキは優一の目の前へと歩いてきた。
 優一はなんとなく男の体を見るのに気が引けて顔を背けた。
 マフユもそうだったが、シモツキも異様な強い体臭を放っている。優一は胸がむかついた。

「もう前戯はいらないだろう」
 そういうとおもむろに優一の左足をとった。優一はバランスを崩して倒れそうになったが、壁から手枷に繋がっている鎖が縮んで、優一の体を壁に引き付けた。手枷をつけられた腕が痛む。
 シモツキは優一の左足を持ち上げた。
 優一は男の時にはとてもできなかったであろう、大きく片足だけ上げた格好でもそれほど苦しくないことに気づいた。しかし両手を壁に固定され、片足を上げたまま腰を押さえられ全く身動きが取れない。
 シモツキは少し腰をおとして優一の秘所にペニスをあてると腰を突き出し始めた。
 自分の中に異物を挿し込まれるのに強烈な違和感があったがどうしようもなかった。

(熱い……)
 それが最初の感想だった。屈辱的でどうしようもないのに、花弁に当てられたペニスから熱が伝わってくると、それが心地いいことを認めてしまいそうになる。
 自分の心が散り散り乱れ、ペニスを股間に当てられただけでそうなる自分にますます狼狽えた。体だけでなく頭の中まで女性化されてしまっているのだろうかと思う。
 しかし、そんな気持もすぐに苦痛一色に塗りつぶされた。
「…ぐうう……うう……やめろ……」
 亀頭の先が埋まったところで優一がたまらず呻いた。これまで男の体で感じたどんな痛みとも違う、内側からの痛み。外傷とも腹痛とも違う全く未知の痛みに優一は思わず声を上げた。どうすれば我慢できるかすらわからなかった。
「口のききかたに気をつけろ」
 素っ気なく言うと、シモツキは優一の苦痛を気にする風もなく、さらに奥へ奥へとペニスを進める。
 すでに愛液で十分に潤っている膣とはいえ、その強力な締め付けに挿入は遅遅としてすすまない。優一はメリメリという音が聞こえた気がした。

「ユキちゃん、力を抜かないと余計痛いわよ。ほら息止めないでゆっくり呼吸して」
 横からマフユが口を挟んだ。しかしその内容とは裏腹に、妖艶な笑みを浮かべながら、この破瓜ショーを楽しんでいるようだった。
 優一はしばらく下唇を噛んで痛みをこらえていたが、雁首までねじ込まれると痛みは耐え難い物となった。
「痛い!痛い!痛い!!……ああ……やめろ…て…ください」
 何とか逃れようと手枷のついた腕を無茶苦茶に振り回すが、無駄な努力だった。
 シモツキには止めるつもりなど全くなく、腰を据えるとそのまま、めきめきと音を立てて奥まで突き刺した。二人の股間の下では、優一の女性器から流れ出る鮮血をマフユが舐め取っている。
 力をいれて引きすぎたせいで、手枷で腕がすれ、そこからも血が流れていた。

 奥まで突き入れて、やっとシモツキの動きが止まった。優一は痛みに顔をしかめながら、荒い息をするだけだった。
 痛みと屈辱に涙がにじんだ。

 そのままじっとしていると、数秒の鋭い痛みの後で膣の中の痛みが引いていく。シモツキが手枷のついた腕にさわると手枷が外れた。そこから流れていた血は止まり、傷跡は消えてしまっていた。しかし優一は自由になった腕にはあまり注意を払わなかった。腕を怪我したことすら気付いていなかった。それよりもこれまで感じたことのない下腹部への強い圧迫に動揺していた。
 なんとか膣から力を抜こうとするものの、すぐに体全体にビクリと痙攣が走り、締め付けてしまう。その度に鋭い痛みが股間に挟まる異物の大きさを再確認させた。

 シモツキは逞しい両腕を優一の体に回すと石の床に寝かせた。優一はこの時になっても、首輪から伸びた鎖が初めの時より随分長くなっていることには気が付かなかった。背中の石畳の冷たくゴツゴツする感じも気にならない。無意識にペニスを受け入れやすいように大股を開き、足も手もシモツキの逞しい体に回してしまっていることにすら、気付いていなかった。ただ、股間に感じる熱い塊と、そこから湧き上がる妖しい感覚しか感じられなくなっていた。

 ハッ……ハッ………ハッ…。
 優一は浅い呼吸をしながら、時折搾り出すような吐息を吐き、目をつぶって眉をしかめながら、沸き上がってくる何かに堪えていた。シモツキは、優一のほつれて額にかかる前髪を耳に掛けると、こんどはペニスをズルズルと抜き始めた。
「んーーー……あぁン」
 鼻の奥をならすような声があがってしまう。無意識に絡めた足に力が入り、腰が追いかけるように動いてしまう。擦れる粘膜から湧き上がる快感と、急速に失われる充足感、それらの感情が背骨に沿って這い上がり、全身を震えさせた。
(……いやだ!……こんなのうそだ!……)
 勝手に涙が溢れてきた。

「どうした。腰が浮いているぞ」
 シモツキは冷たく言い放つと再びゆっくりと挿入し始めた。
 軽い痛みはあるものの、それに勝る充足感と安心感、そして性器が擦れる快感が湧き上がる。
「んんっ…ああっ…」
 自分の出している女の声が、ひどく大きく聞こえる。
(……だめだ……だめになる……)
 
 シモツキはそのまま無言で時間をかけた抜き差しを続けた。

「く……ああ……ああん」
 3回目の挿入で優一は軽い絶頂を向かえる。
 シモツキはそんな優一に構わずにゆるゆるとしたピストン運動を繰り返す。微妙に腰を上下させ膣の中でペニスが少しずつ動くようにし始めた。それは確実に優一の新しい肉体の急所をとらえ、優一の抵抗心は消し飛んでしまった。
(ああ……イイ……奥……もっと奥……)
 あまりの快感に自分からペニスを求めて腰を動かしてしまう。それははかりしれない屈辱と快感をもたらした。
 7回目の挿入でまた絶頂を向かえる。
 すでに挿入の毎に、唸るような声をあげるようになっていた。
 挿入のリズムに合わせてゆっくり乳房を揉むと、さらに快感は大きくなる。
 10回を超えると自分がイっているのかどうか、優一にはわからなくなってきた。腰から下は溶けてしまい、全て性器になってしまったようで、絶えず快感に打ち震えている。
「ああん……ああん……ああん……」
 自分が壊れたCDプレーヤーのように同じ音を繰り返して出しているのがどうしようもなかった。
(これ…女のセックス………? すごい………。気持ちいい………)

 しかし、シモツキが徐々にピストン運動のペースを上げてくると、波のように次から次へと押し寄せる快感がつらいものになってきた。息苦しくて息を吸おうと喘ぐのに、ペニスを打ち付けられる度に息を吐き出してしまう。注ぎ込まれる快感が大きすぎて、行き場を失い体中で荒れ狂っていた。四肢の筋肉が度重なる痙攣で悲鳴をあげる。

「もう……、もう……無理……です、やめ……やめて……ください」
 しかし、荒い息の間から漏れる、か細い声は、ヌチャ、ヌチャという性器の擦れ合う音より小さかった。

 表情一つ変えずにピストン運動していたシモツキは冷静に優一の痴態を観察していた。
「そろそろか」
 一言そういうと優一の背中に腕をまわし、その豊満な胸を自分の胸板で押しつぶすように強く抱き寄せ、ねじ込むようにペニスを打ち込み始めた。
 優一は何も考えられずされるがままにシモツキの体にしがみつき、まわした足に力を込めた。
「やめ……やめっ……ダメ……う……あぁん……」
「いくぞ」
 そう短く言うと、優一は自分の中でペニスが大きく膨らみ、熱い液体が注ぎ込まれるのを感じた。
子宮に叩きつけるように液体が噴射されると、それはまた新しい快感となった。
「……はあぁ……ああん……」
 口から出た声は女性のあげる悦びの声だった。

 性器をつなげたまま、シモツキはキスをした。
 優一は男のキスを受け入れることに躊躇したが、自分の中で徐々にペニスが硬さを失っていくのを感じると、どうしても口を塞いで欲しい衝動にかられて、自分からシモツキの唇に吸い付いた。
 シモツキのキスは先ほどのマフユのような激しいものではなく、ゆったりと口内を舐めまわすやさしいキスだった。優一は口を開けてそのキスを受け入れ、流し込まれる唾を味わいながら飲み込んだ。特有の吐息の匂いに頭がくらくらした。

「どうだ、女として抱かれた感想は?」
 たっぷりとキスをした後、口を放し、シモツキは尋ねた。
 優一は荒い息をつくだけだった。
「質問に答えろ」
 強く言われると、逆らうことができなかった。
「はいっ…よかった…です」
「それではなにがよかったのかわからない。質問には正確に答えろ」
「…セックスが……よかった…です」
「どこがよかった?」
「どこって……」
「質問を繰り返すな。聞かれたことを答えろ」
「あの…、オマンコ…です……」
 女性器を指す隠語がすらりとでたのは、むしろ心が男だったからだろう。
「きちんと説明しろ」
「オマンコの……奥が……気持ちよかった……です」
 自分で言った言葉に自分の女性器が反応し、柔らかくなったまま秘苑にくつろいでいるペニスをキュッとしめつけた。自分の心が丸見えになっているようで、落ち着かなかった。

「いやーん、処女だったのに『奥が気持ちよかった』ですって。もうシモツキは急ぎすぎなのよ。折角の処女の恥じらいが台無しだわ。それともユキちゃんがエッチすぎるのかしら?」
 マフユが好色な眼つきで優一を見る。
「でも、色っぽい悶え方だったわね。『我慢してるのに、しきれないー』って感じで。横で聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃった。もともと男の子だったんだから、女形の方が良いかと思ったんだけど、やっぱり女の体は男の体に弱いかしら。私も男にすればよかったわ」

 ぶつくさ言うマフユを無視してシモツキは優一に話しつづけた。
「素直に言った褒美にいいものをやろう」
 そういって、繋がっていた下半身を放した。
「あっ…」
 それまで満たされていた秘所から、すっかりなじんでいたものがズルリと抜き出されると、そのゾクゾクする感覚に、正直に声がでてしまう。注ぎ込まれた精液の様なモノがドロリと流れ出す感覚にまでも快感を覚えた。
「これが見えるか」
 未だに股を開いた状態で組み敷かれたままの体勢の優一の目に、シモツキの指に摘まれている小さな金属の輪が映った。
「これをお前につけてやろう」
 そういうと素早く優一の女性器の左右からビラビラした花弁をつまみ出しピアスの尖っている部分を両方の花弁を真中あたりでつき通した。女性器の入り口はそのまま閉じられてしまった。

 「痛っ!!」
 敏感になっている部分への突然の激痛に悲鳴が漏れた。それと同時に秘所の筋肉がゆるみ尿道口から小水が漏れ始める。
「あっ、ちょっと、止まれ…」
 優一は何とかしようとあせったが、下半身に力をいれても水流は止まらない。もともと男よりも女の方が尿道が短いので尿が漏れやすい上に、優一がまだこの体になれていないせいもあった。咄嗟に両手で股間を押さえようとしたが、それは両手を濡らしただけだった。迸る水流は金属の環に閉じ合わされた花弁と尖ったクリトリスに邪魔され、手で押さえるまでもなく股間の周りに飛び散った。
(あああ……ああ……)
 優一は漏れていく自分の尿を、情けない気持ちで黙ってみているしかなかった。
 シモツキは下半身に小水が当たるのを気にした風もなく
「今日はこれ以上やっても感覚が鈍いだろう。続きは明日にする。よく休息をとることだ。明日からは本格的に始めるからな」
 そういうと立ち上がり、鏡の裏に消えていった。

「もう、いっつも自分の都合でさっさと行っちゃうんだから」
 マフユはそういうと未だに床に転がっている優一の足元にしゃがんだ。
「ああ、女の子がこんなにオシッコ洩らしちゃってかわいそうに……。これから女の子の体に徐々に慣れないとね。でもユキちゃんとってもかわいかったわよぉ」
 そういいながら下半身を濡らしている小水を舐めとっていく。尿を舐めとられることに一瞬抵抗を感じたが、すぐにどうでもよくなった。ざらざらしたしたが肌を舐めまわす感触は心地よかった。
 あらかた舐め終わるとマフユは立ち上がった。優一も上半身を起こす。
「ホントはお風呂に入れてあげたいんだけど、まぁ、しばらく我慢してね。こっちの方が奴隷って感じでイイでしょう?ここにお湯とタオル置いておくから適当に体を拭いてね。首輪の鎖が絡まったりしないよう気をつけてね。服はあげられないけど、さすがに石の床では寝れないだろうからそこのベッドを使って」
 優一がふと気づくと、優一の背後にいつの間にか年代物といった古そうな木桶と、粗末な木製のベッドがあった。
「鏡はそのままにしておくから新しい体を存分に堪能してねぇ」
 そういうといやらしい笑みを浮かべた。

「トイレはベッドの下にある壺で我慢して。飲み物と食べ物はたいした物ないけど、そこのテーブルにあるから」
 蝋燭の光の向こう側に木製の粗末な丸テーブルが見えた。その上に水差しがみえる。パンと果物も少しあるようだった。
「それじゃ、また明日ね。しっかり休んでね」
 そういい残すとマフユも鏡の後ろに回りこんだまま、いなくなってしまった。



第四章 寝台

 薄暗い部屋に取り残され優一は呆然と座りながら、鎖に繋がれ目覚めたときからどのくらいたったんだろうかと、ぼんやり考えていた。
 ごく短い時間に経験したことはとても現実にあったこととは思えなかった。

 男と女が入れ替わるなんてありふれた題材は優一も何度か小説やテレビでみたことがあった。優一もそういう話は嫌いではなかったし、この年頃の男達が集まると女の子の方がセックスが気持ちいいなんて話もよくした。優一もそれが一体どんなものなんだろうと興味がないわけではなかった。
 優一は童貞だったが、女性としてセックスしてみて、なんとなくそれは正しいのだろうと思った。
 しかし好奇心が満たされたからといって喜ぶ気分にはならなかった。

 たしかにセックスの興奮は凄まじかった。
 今思い出しただけでも股間が疼く。味わされた快感はこれまで経験したことのあるどんな物よりも強い物だった。先日模試の成績がよかったときも、中学校の卒業旅行で友人達と富士山の頂上まで上ったときも、高校の合格通知をもらったときも、あれほどの悦びを与えてくれなかった。中学生の時に覚えたマスターベーションなどは比べるべきもない。

 しかし、今味わっているこの惨めな気持ちはなんだろう?
 体のそこかしこに残っているあの二人の嫌な体臭、鼻の奥から離れない二人の吐息の淀んだ匂い、愛液に濡れた陰毛は乾いてパリパリになっている。小便の臭気があがる石の床には、花弁が無理やり引き出され金属の輪で閉じられている秘所の隙間から、愛液と精液の混じった白濁した液体がトロトロと流れ出していた。

 好きなように嬲られ、一方的に快感を与えられ、上げたくもない喘ぎ声を上げてしまうのは、あまりに屈辱的だった。これほど悔しい思いをしたことはない。

 未だにはっきりとペニスの感触が秘部に残っている。
 優一が怖いのは、それが強い喪失感を伴っていることだった。
 この惨めな状況にありながらも、自分はもう一度あの充足感を欲しているのだ。心のどこかでこの心細さをやさしく包み込んで欲しいと願っているのだ。
 自分が男の時はそんなことは考えたこともなかった。
 生まれた時から女性なら、これほどの喪失感はないのだろうか?この気持ちを騙しながら一人で居る方法をしっているのだろうか?

(寒い…)
 直に素肌で石の床に座っていると体の芯が冷えてきた。

 マフユの置いていった木桶からは暖かそうな湯気が上がっているのをみて、とりあえず体を拭こうと思った。立ち上がると首輪から伸びた鎖がジャラジャラなる。歩くと股間についた小さなピアスの痛みを伴う感触が、そこに女性器があることを常に思い出させた。

 なるべくそれらを気にしないように、タオルをお湯に浸し、体を拭う。湿った皮膚に長い髪の毛がまとわりついて、うっとおしかったが、それでも時間をかけてなんとか二人の体臭を拭い取り、陰毛についた残滓を拭いた。ピアスがじゃまで膣の中が洗えないのが辛かった。
 繋ぎとめられた花弁の隙間からいまだに少しずつ流れ出てくる精液を拭い取りながら、妊娠したりしないのだろうかと思った。
 いや、そんなことを心配しても仕方がない。相手が人間でないのだから子供が出来ることはないのだろう。そもそもいくら女の体に作り変えられたといっても、この体で子供ができるかも怪しい。

 体を拭き終わるとすこし気が晴れた。
 彼らが約束を本当に守るのかどうかわからないが、どのみち、この地下牢のような部屋には出口が見あたらない。この首輪もちょっとやそっとで取れそうにない。なんとか彼らが帰るまで正気を保って、再び日の光の当たる場所へ出るしかないのだと自分にいいきかると、ほんの少し希望が湧いてきた。

 フルーツを少しだけ食べ、水をすすってから、ベッドに腰掛ける。
 うれしいことにベッドはぼろくても木綿のシーツは清潔だった。シーツに包まって横になった。
 目の前の鏡をみると涼しげな顔をした少女が首輪をつけられ、悲しそうな顔でこちらを見ている。
 妹に似たその少女の姿に居たたまれず、鏡に背を向けて寝た。その内、蝋燭が燃え尽きてあたりが暗闇になった。

 何度かウトウトとしたが、胸の重みと首輪が寝苦しくて何度も目が覚めた。
 
 少女が壁に吊るされ背後から性器をいじられている光景や、自分の痴態を冷静に眺める漆黒の瞳がフラッシュバックのように脳裏に蘇り、股間が疼いたのも一度や二度ではなかった。秘所に指を挿し込みたい衝動に駆られたが、ピアスが邪魔になっていた。ピアスを外そうとしても、金属の輪のどこに継ぎ目があるのかすらわからない。

 そんな時は先週の模試のお祝いを思い出そうとした。あるいはそれは妹がいるころのもっと昔の団欒だったのかもしれない。
 やっと、妹の死から立ち直り始めた母は、自分がいなくても大丈夫だろうか?父は無断で外泊した自分を責めるだろうか?

 もう一度、自分の家へ……。

 それが優一の心の支えになった。



第五章 人外

 唐突に蝋燭が燃え上がると全裸の二人は既にそこにいた。

 優一も目覚めていたが明かりがないので、それまでベッドの上で足を抱いて座り、暗闇を見つめていた。
 鏡とベッド、燭台以外の物はもう見当たらない。

「おはよう、ユキちゃん。よく眠れたかしら?」
 マフユが陽気に挨拶した。

 しかし優一は石の床を見つめたままじっとしていた。

「あらぁ、昨日あんなにいい声で啼いてたのに、今日はだんまり?まぁいいわ、今日は私がユキちゃんに女のセックスのいろはを教えてあげる。私はシモツキみたいに甘くないからねぇ。自分からお願いしないと何もしてあげないんだから。それから、貴女はもうユキちゃんなんだから、男言葉をつかったりしたらこっぴどくお仕置きするわよ」
 内容とは裏腹に気楽そうに言った。

 急に優一の座るベッドがぐらりとゆれた。
 鏡を見ると木のベッドが石の床に沈んでいくのが見えた。
 それと同時に首輪についた鎖が短くなり始める。

(!?)
 驚いてベッドの上に立ち上がるとベッドは一気に沈みこみ石の床に消えていった。首の鎖に引かれ、前日のように壁に貼り付けられるような形になった。
 今回は両手とも自由だが、昨日と違い首は完全に壁に押し付けられ、顔は少し上向きに固定され横を向くことすらほとんどできない。

 シモツキ股間の股間にはすでにだらりとしたペニスが垂れ下がっていた。
 図らずも最初にシモツキの股間に目をやった自分に気づいて、優一は自己嫌悪に陥った。

「シモツキのアレが気になるんでしょう?」
 マフユに図星をつかれ、カーっと顔が熱くなる。どうもこの体になってから感情を隠すことが難しくなっていた。
「図星ね。真っ赤になっちゃって。かわいいんだから」
 マフユはそういうと顔を固定された優一の小さな唇に貪りついた。
 舌で唇の裏をなめられるとゾクゾクした。
 むせるような、すえた臭気を吹き込まれると頭が真っ白になり、マフユの舌の動きにクネクネと応じてしまう。
 マフユがたっぷり唾を注ぎ込み、存分に優一の口内を舐めまわす。数分のキスの後、双方とも名残惜しそうに口を放した。

「ユキちゃん、もうすっかりキスが好きになったみたいね」
「……」
 優一は荒い息で視線だけ外した。
「好きなんでしょう?ちゃんと答えて。『ユキはキスが大好きです』って」
「……」
「さすが元は男の子。頑固なところもかわいいわよぅ」
 そういうと優一の右腕をとった。
「どこまで頑張れるか試してみましょうか?」
 優一はその言葉に含まれる冷たい響きにギョッとした。マフユの手をみると、細い注射器が握られている。
「注射?! 何の薬……です…か?」
 横目で見ながら、さすがに敵対的な口調は無謀に思われ、丁寧語をつかう。
「フフフ、心配? 大丈夫よ。中毒症状みたいな副作用はないから」
 そういうと慣れた手つきで右腕の内側にある静脈をさがして狙いを定めた。
 軽く押さえられているだけに見える腕は、動かそうとしてもびくともしない。すごい力で押さえ込まれており、とても女性の腕では対抗できなかった。
 腕に注射針が近づくと、条件反射的に大人しくなってしまった。
「やめてください。お願いします」
 得体の知れない薬をうたれる恐怖に懇願せざるえなかった。しかし、当然のようにマフユはそれを無視した。
「ちくりとするわよぉ〜」
 マフユは嬉しそうにそういうと針を刺しこんだ。
 女性になって皮膚感覚が鋭敏になっているためか、それまで受けたどの注射よりも痛かった。ただ目を反らせばなにかに負けてしまうような気がして、横目で注射針の刺さった腕を凝視した。

「あと邪魔なのを外さないとね」
 マフユがすうっと優一の股間をなでると、チリンと音をたてて小さなピアスが床に落ちた。
 閉じられていた花弁が開かれる小さな開放感が心地いい。
 花弁にあいていたピアスの穴はすぐにふさがった。
 秘芯の中から未だに残っていた昨日の残滓が一筋、太ももの内側をゆっくり流れ落ち始める。

(ああ……、エッチだな……)
 昨日と違い首が固定されているため、どうしても目の前の鏡が目に入る。
 秘苑の端がめくれ涎を垂らしているように見えた。
「さて、どうなるか見ものよ」
 そういうと、マフユは優一の左側に立った。
 気が付くと右側にはシモツキが腕を組んで立っている。
 二人はそのまま何をするという訳でもなく、じっと鏡を見つめていた。

 しばらくそのまま誰も何も言わない無言の時間が続いた。
 優一は鏡の中から見つめてくる二人の視線に困惑した。昨日と違って腕が自由なのだが、かえってやり場がなくて、余計に落ちつかない。二人の間に立たされ、むせるような体臭を嗅ぐと昨日の陵辱が思い出される。
 太ももの内側を流れるドロッとした液体の感触がやけにはっきりと感じられた。それが気になって、つい太ももを擦り合わせるが、太ももの内側全体にヌルヌルした感触が広がっただけだった。
 その感触を拭おうと右手を伸ばし始めたその時、シモツキが素早くその腕を掴んだ。

 マフユが囁く。
「だめよ。言ったでしょう?今日は自分からお願いしないとなにもしてあげないって。触らして欲しければ、自分でそうお願いしないと」

 そういわれて、とられた手を握り締めると体の側に戻した。
 言いなりになってしまうのを、自分の意地とプライドが許さなかった。
 昨晩、一人でいるときに感じた惨めな気持ちを思い出す。あんな思いはもうしたくなかった。

 しかし、時間がたつにつれ太ももの内側のヌルヌルが気になって仕方がなくなってきた。
 鏡の中で、自分がもじもじと腰を揺すっているのが見ていられず、目をつぶる。
 目をつぶると皮膚の感覚が鋭くなって、余計に気になった。
 それどころか目を閉じて足をすり合わせると、花弁が擦れて性的な感覚が沸き起こってくるのに気づいた。
 慌てて目を開けるとシモツキの股間のペニスが目に入った。

(ああ……)
 じゅん、と自分の花芯に熱い液体が染み出してきた。
 昨日の激しいセックスが頭の中を駆け巡り、胸の奥から締め付けられるような気持ちがこみ上げてくる。乳首が硬く尖った。

 マフユがその変化を見逃さなかった。
「あら、どうしたのかしら? お薬がきいてきたのかしら?」
 その時急にカーッと体の中が熱くなって、意識していないのに両手が宙を落ちつかなげにさまよい始めた。心臓がドキドキと激しく鳴り、頭がボーっとしてくる。
 その時、マフユが軽く乳首に息を吹きかけると、一気に体中の感覚が乳首に集中した。
 優一が思わず自分の胸に左手を当てようとした瞬間、マフユがその腕を自分の胸の谷間に抱く。
 右手は再びシモツキに押さえつけられている。
「だめよ。お願いしないと」
 マフユの体臭を胸いっぱい吸い込んでしまい、頭がくらくらした。腕に当たるマフユの胸の柔らかい感触が気持ちよかった。

「手を……」
 優一は口を開きかけてから、続きを言いよどんだ。
「手を?」
 マフユが嬉しそうに聞き返す。
「放してください……」
「だめよ。自分がどうしたいか言わないと」
 吐きかけられる濃い息気が思考能力を奪っていく。
「触らせて……」
「どこを?」
「胸……」
「胸なんていわないで、おっぱいっていわなきゃ」
「おっぱい……さわらせて……」
「うふふ、いいわよぉ。思う存分触ってね」

 そういうと腕を放した。同時にシモツキも手を放す。

 優一はもどかしそうに自分の胸を鷲づかみにすると荒々しくこねくりは始めた。昨日はあやふやだった胸から起こる快感が、今日は何倍も激しい波となって沸き上がってきた。
「うああ……ああん……」
 荒い息を吐きながら揉みしだく行為に熱中する。狂おしい衝動が次から次へと巻き起こり、腕の動きを止めることが出来ない。
(ああ…ああ……ああ…)
 しかし胸を揉めば揉むほど飢餓感がこみ上げてくる。体が次の刺激を求めていた。
 鏡のなかで色白の美少女が薄く目をあけ、両手で乳房を揉みながらこちらを見ている。
 激しくすり合わせる内股のヌルヌルも既に昨日のモノなのか、新しく流れ出た愛液なのか判らなくなっていた。

 優一が右手の無意識に股間に向かおうとした瞬間、またもやシモツキに手を取られた。

「あらぁ、違うところ触りたくなったのぉ? それじゃあ、またお願いしないとね」
 マフユが意地悪く言う。
 優一は一瞬躊躇したが、片手を押さえられて、余計に物足りなさが切迫してきた。
 次の瞬間、言ってしまっていた。
「オマンコ触らせてください……」
 しかし、マフユは首を振りながら言い放った。
「ちゃんと誰のオマンコか言わないと。自分の名前でね」
 優一は愕然とした。
 自分で自分から女の名前をいわせようとしている!
 それは考えただけで屈辱だった。
 しかし、そうしている間にも自分で揉みつづける左の乳房から、ジンジンするような感覚が送り込まれてくる。やめようと思っても勝手に揉んでしまうのだ。
 昨日の経験から、自分の求めているものが女性器からの刺激であることを痛いほど感じていた。

 マフユが出し抜けに優一の肉丘を撫でた。
 ギュン、と女性器が収縮し、なにか大切にしていた物が一つ壊れた。

「ユキの……ユキのオマンコ…触らせて…ください」
 マフユはニヤリと笑うと急に命令口調になった。
「もっと大きな声で!」
「ユキのオマンコ触らせて……くっ」
「ほらもっと大きな声で!!」
「ユキのオマンコさわらせてください!!」
 ユキと言う名を使うたびに胸が締め付けられる。
「ああ、やっと名前いってくれたわね。うれしいわ」
 そういうと優一の上向いている唇に軽くキスをした。

 シモツキの手を振り払うように右手を股間にあてると、もどかしそうに肉芽をめくりあげ、クリトリスをおさえつけるように擦り付け始めた。胸を揉んでいた左手もそれまでの全体をこね回すような動きではなく乳首の先端だけをくりくりと弄りはじめる。
 空いた方の乳房をマフユが巧みに揉みしだいた。
 ビリビリとしびれる衝撃が体を突き抜けた。
「おおおぉ……はぁん……あぁん」
「ほら、オマンコに指入れて!!」
 優一は考える余裕もなく言葉に従ってしまう。
 それでも最初、中指を恐る恐ると挿し込んでいったが、すぐに激しく出し入れし始めた。
 モノ足らなくて人差し指も入れてしまう。
「あぁん…あぁん…あぁん…」
 喉から大きな声が出た。もう喘ぎ声を出すことに抵抗がなくなってしまっている。
 声に出さないと、逃げ場のない快感に押しつぶされそうだった。
「どう?気持ち良いんでしょう?」
「ああ……イイです……気持ちイイ」
「どこがいいの?」
「ユキの…ユキのおまんこ…」
「おっぱいもいいんでしょう?」
「ユキのおっぱい、イイです!」
 優一は問われるままに答えることしか出来ない。ユキという度に自分が自分でなくなっていくような心細さを感じ、それを埋めるためにますます行為に没頭した。
「……ああん……うぅん……あん……」
「そろそろかしら。イク時はちゃんとそう言ってね」
 マフユはそういいながら優一の乳房を揉む手に力を込めた。
 優一が自らの指が入りやすいように股間を前に突き出しながら、ジュブジュブと音を立てる。
「ああっ…ああっ…あんっ…」
「ほらイキなさい!!」
 絶妙のタイミングでマフユが命令した。
「ああんっ!…イク!イク!ああーん……ああ……ああ…」
 優一の体が絶頂にガクガクと震えた。愛液でべたべたになった左手の指が、女性器の粘膜にギュッと締め付けられる。足の力を抜けて、体重が首輪にかかったため、首が絞まったが気にならなかった。


 ジャラジャラ。
 壁から伸びた鎖が床にたまる。首輪に繋がっている鎖が伸びているのだった。
 支えを失った優一はシモツキに支えられて床にへたりこみ、激しく咳き込んだ。

「ごめんなさいね。そんなに無防備にイっちゃうと思わなかったから。苦しかったでしょう」
そういいながら優一の側にしゃがみ込んで背中をさする。
「でも可愛かったわよ、オナニーするユキちゃん。『ユキのおっぱい、イイです』なんて、わたし、濡れちゃった。ほらみてよ」
自分の股間に手を当てるとクチュクチュと音をたてた。
「まぁ、お楽しみは後にとっておかないとね。どうだった、ユキちゃん?」

 優一はいまだにゼイゼイと喘ぎながらマフユの方を見ようと顔を上げた。
 目の前にシモツキのペニスがそそり立っているのが見えた。
 初めて間近でみるそれは、醜悪で巨大で、ぴくぴくと脈打ち、シモツキの体臭を更に濃くしたような強い匂いを放っている。
(おおきい……。こんなのが中に……)
 絶頂を極めたばかりだというのに秘芯にジワッと暖かい液が湧きだした。

「欲しいんでしょう」

 ビクッとして、シモツキのペニスに見入っていた自分に気づいた。
 薬のせいか絶頂を向かえた後も全く体の火照りが治まる気配がない。それどころかひどく物足りなかった。穴を、下半身にぽっかりとあいた穴を、満たして欲しいとはっきりと感じた。

「ちょっと、ユキちゃん、何してるのよ! イったばかりなのにもう指なんかいれちゃって」
 マフユが驚いたような口調で言う。
 優一はじぶんがいつのまにか秘芯に指を入れているのに気づいた。同時に親指がクリトリスをなでまわしている。
 悪戯を見咎められた子供のように急いで手を放し、下をむいた。
「指なんかじゃ、だめなのわかってるんでしょう?ほら、自分からおねだりしないと」
 マフユがみすかしたような口調でそういった。

 優一は下を向きながらも、すぐそばにあるシモツキのペニスの存在を感じていた。匂いだけでなく熱までも伝わって来ている様だった。昨日の性器が擦れるクチャクチャという音が耳に蘇った。
(欲しい…突っ込んで欲しい……)
 どうしようもない、狂おしい衝動にかられる。
 薬のせいか、黙っていると体がジンジンしてきて、意識が快楽への期待に染まっていく。
 自分が守っていた大事なものに意識を集中しようとするが、それが何か思い出せなかった。

「あの……欲しいです……」
 優一はうつむいたまま言った。
「それじゃ、どこに何が欲しいのかわからないわ」
 マフユは辛抱強く訂正させる。
「ソレを……ユキの…オマンコに下さい」
 ユキという名前を言うと、とてつもなく妖しい気分になった。
「ソレなんていっちゃだめよ、『ご主人様のチンポ』っていわなきゃ」
 優一は顔を上げるとやけくそ気味に大きな声でいった。
「ご主人様のチンポをユキのオマンコに入れてください……!はやくっ!」
 そういって自分でシモツキに向かって足を開き、女性器を突きだした。

 マフユは満面の笑みをうかべた。
「えらいわ。よくいえたわね」
 そういうと、優一のうしろに回り込んでしゃがみ込み子供にオシッコをさせるようなポーズで持ち上げた。
「褒美をやらないとな」
 シモツキがそういうと二人の前にしゃがみ込み優一の中にペニスを挿入し始めた。

「ああっ……」
 粘膜が擦れ、膣が満たされる。
(ああ……これ……きもちいい)
 そのままシモツキが優一を押し倒していく。優一の後ろのマフユはその細い体に二人分の体重がかかってきてもびくともしなかった。
 前日と違い、いきなり激しいピストンが開始される。
「ああっ…あっ…あっ」
 ピストンのリズムに合わせて優一が声をあげる。
 冷たい石の上で犯されたときの叩きつけられるような快楽と違い、二人に挟み込まれながらのセックスは快楽の中に漂っているようだった。たちこめる二人の強い体臭さえ心地よかった。

「ほら、どんな気持ち?」
 マフユはしゃべる事を強要することを忘れない。
「あっ……気持ちイイです」
「どこがいいの?」
「ユキのオマンコです。ユキの……ああっ!」
「ほら、ユキちゃんは女の子なんだから、もっと女の子みたいに啼いて」
 それまで手にもっていた優一の足をM字型に開いた自分の足にかけさせ、あいた手で乳首とその周りをやさしく刺激し始める。そうされると、もっとそうして欲しくて、媚を売りたくなるのが不思議だった。それはひどく屈辱的なのにやめられなかった。自分の心を覆っている殻を叩き割って自分の弱みを相手に見せたい衝動に逆らうことができなかった。
 心の中のどこかに、女でいいじゃないかという開き直りが生まれた。
 そして、優一の心の中の『女性』がはじけた。

「ああ……イイのぉ……たまらないわ……」
 自分でも驚くほど淫らな女言葉が口をついて出てた。
 女性的な言葉を使うだけで新しい快感が生まれた。もっと欲しくなってもっと叫んだ。
「あぁん…オマンコイイッ…ン…もっとぉ……もっとぉ」
「ほら、オマンコのどこがいいの?」
「あん……オク…オクがいいです。……ああ、気持ちイイ!…イカせて!!…イカせて!!」
「思う存分味わうがいい」
 そういってシモツキが腰の動きを激しくすると優一はあっという間に昇りつめてしまった。
「ああ……イクッ…イクッ、ユキ、イッちゃう」
 同時にシモツキのペニスから大量の液体が吐き出された。
 自分の中に熱い液体がかけられるのは怖いほどの満足感をあたえてくれた。
(……ああ……セックス……気持いい……)

 3人はそのままの体勢でしばらく余韻に浸っていた。
 シモツキは性器をそのままにゆっくりとクリトリスを撫でながら顔にキスを、マフユは乳房をゆるゆると撫でながら背後から髪の匂いを嗅いでいた。
 優一は時折ビクリと体を震わせながら、余韻に浸っていた。それまで味わったことのな強い幸福感に包まれ、何も考えることが出来なかった。

 床の上に寝かされて、石の床の冷たさに火照った体が収まってきて初めて自責の念に襲われた。
 変な注射をされてのこととはいえ、自分からセックスしてくれと頼み、女のような言葉遣いで絶叫し絶頂を極めてしまった。
 その後の悪魔に優しく撫でられている束の間の満ち足りた時間に浸ってしまった。
 自分がすでに引き返せないところまで来てしまっているのではないだろうかと考えると、怖かった。

「さあってと、そろそろ次に行こうかしら」
 床に寝そべるの目の前で注射器が揺れる。
 優一は上半身を起こしてあとずさった。
 さっきは、あの注射をうたれただけで体に触れられてもないのに欲情してしまった。
 もう一度うたれれば、どうなってしまうのだろうか。
 いくらなんでも自分の心が薬でねじ曲げられるのは余りにもつらい。
「注射は…もうやめてください…」
「あら、気に入らなかったかしら? 随分気持ちよさそうだったけど」
 マフユが優一の目を覗き込みながら意地悪く言う。
「お願いします。言われたとおりしますから」
「そう? まぁ、ユキちゃんがそういうなら」
 そういうと注射器は消えてしまった。

「じゃ、まずお手本見せるからしっかり覚えてね」
 そういうと優一を後ろに下がらせ石壁にもたれかけさせる。
「まず股を開いて、指でオマンコをこっちに向けて開いて」
 優一はおずおずと股を開いて言われた通り花芯を自ら開いた。
 白濁液がドロリと流れ出す感覚にゾクッとした。
「足を開いて『ユキの臭くて汚いオマンコを舐めてください、ご主人様』っていうのよ」
 その内容にはいまさら驚かなかったが、少し理性が戻ってきた状態でユキという名前を使うのはためらわれた。言葉に詰まってしまう。
 マフユが腰に左手をあてる。右手には注射器が再び現れていた。
 優一はあわてていった。
「ユキの臭くて汚いオマンコ、舐めてください……、ご主人様」
 マフユがにっこり微笑む。
「ちゃんと女の子言葉で喘いでね。『ああ』とか『うう』とかだけだったら注射するからね」
 そういって優一の秘所に口をつけ、チュウチュウと、先ほどのセックスのなごりを吸い出し始めた。
「ああっ……ああ……」
 それだけで優一は喘ぎ声が止まらなくなってしまった。
 舌も使って残滓を舐め取ると、マフユは顔を上げて優一の口にキスをして、口にたまったそれを優一の口の中に流し込み始めた。その生臭さに優一が苦しげに眉をよせた。吐き出そうとしても口はしっかり塞がれてしまっている。その上、マフユの唾がどんどん流し込まれるので、ついに優一は飲み込んでしまった。
 喉の奥にへばり付くような嫌な感触が残り、生暖かい粘液が食道を下っていくのがわかった。
「おいしかった?」
「……はい」
 うまいとかまずいとかいうものではなかったが、もうわざわざそんなことは言わなかった。

「ちゃんと啼かないと注射だからね」
 そう念を押すとマフユは再び優一の女性器に口をつけた。
 今度は秘所の浅い部分を重点的に攻める。肉壁を舐め上げ浅く舌を挿し込むかと思えば、肉芽を莢の上から舐め、舌だけでむきあげる。
 柔らかい舌で優しく責められるとセックスとはまた違う感覚がせり上がってくる。
 優一はすぐに声をあげ始めた。
「ああ……ああ……ああ……」
 注射をされたくない一心でなにか言葉を考えようとするが、秘芯からの快感にすぐに意識が四散してしまう。集中しようとしては、快感にむせぶ。快感にも意識にも集中できず、結局、単調な喘ぎをもらすだけだった。

 黙ってみていたシモツキが出し抜けに言った。
「ユキ、鏡をみろ」
 優一はドキッとした。まずシモツキに初めてユキと呼ばれたことが心を揺さぶった。
 さらに鏡をみると、鏡の中ではだらしなく足を開いた少女がうつろな目でこちらを見ている。半開きの口から涎を垂らし喘ぎ声を上げていた。乱れた髪が頬に纏わりつきみすぼらしかった。それが明るかった妹に似ていることがさらに辛かった。その気持ちが口から出た。
「いやだ…こんなの……いや……いやん…やあぁ……」
 しかし、しばらく舐められているうちにだんだん熱っぽい響きが生まれてきた。
 マフユの舌が優一の急所を探り当てると急に台詞が変わった。
「あ……やだ…ソコ……ソコぉ……ああん…」
 マフユにさらに深くまで舌を挿し込まれると、いよいよ自分の快感を解き放ちたい衝動に駆られ、声が大きくなっていくのを止められなくなった。
「ああん…そこぉ…ご主人様ぁ…そこぉ……イィ…もっとぉ……もっとぉ」
 無意識に手でマフユの頭を自分の股間に押し付けた。

 しかしそこでマフユは愛撫を止めて、優一の手を振りほどく。
「ああ……ご主人様ぁ、やめないで……もっとして………」
 しかしマフユは顔を上げると愛液で濡れる口元を拭った。
「ごめんねぇ。イカせてあげたいんだけどお手本だから、そうもいかないのよ。それにしても啼き声は完璧ね。どんな男もその声で啼いたらイチコロよ。ホントに昨日まで処女だったなんてうそみたい」
 そういいながら壁にもたれる優一のすぐ目の前まで近寄ってきた。濡れた女性器がみえた。
「さぁ、おねだりしてね。『ご奉仕させていただきます』よ」

 優一はあっさりといった。
「ご奉仕させていただきます」
「がんばってね。自分のオマンコ弄ったらだめよ。触ったら注射しちゃうからね」
 そういって、優一に釘を刺すとマフユは匂い立つ女性器を優一の鼻先に近付けた。初めて間近でみる女性器はかなりグロテスクだったが、その匂いを嗅ぐと、ふらりと自分から顔を近づけてしまった。おずおずと舌をつけるとマフユの愛液のヌルッとした感じがする。女性器に鼻を擦り付けるようにその匂いを嗅ぐと、臭くて顔を背けたいのに、もっと嗅いでいたくてしかたなくなった。気が付くと、貪るように舐めていた。
「うぅん……いいわよぉ……。中だけじゃなくて周りもね。そう……そう…うまいわよぉ。わたし、昨日からずっと欲求不満なんだからぁん……」
 舌を挿し込むとピクっと動き、クリトリスをなめると声をあげる。そのマフユの敏感な反応に嬉しくなり更に行為に没頭していった。
 その内、肛門の周りを舐め始めた。嫌悪感より興味が先に立ってしまっていた。
「ああぁ、ちょっと、そんなこと教えてないでしょう。だめよ。ああん」
 それまで責められる一方だった反動か、相手を攻めることが嬉しくて我を忘れて熱中してしまっていた。ついには舌を尖らせて菊門の中にねじ込む。すでに秘芯から流れ出す愛液で肛門も、それを舐める優一の口の周りもヌルヌルになっていた。
「いやぁん、上手よぉ…、イイわぁん……あっ、そこだめ……だめって…ああ、イクッ、イクッ、イッちゃうん……」
 肛門に刺さっている優一の舌を締め付けると、マフユは絶頂を向かえた。

「ああ、びっくりした。ユキちゃん上手いんだもん」
 そういうとそのまましゃがみ込んで、優一に顔を近付けた。
 優一はただ荒い息をついているだけだった。
 口の周りは愛液でべたべたになっており、頬に陰毛がついている。
「おいしかった、ユキちゃん?」
 陰毛をとってもらいながらマフユに聞かれると、被虐のセリフがすらすらと出た。
「ご主人様のオマンコ、おいしかったです」
「うーん、満点よ」
 そういうとマフユはキスをして優一の口の周りの愛液を舐めとった。

「さて、次はなにしたい?」
 そういいながら優一の秘所にそっと指をいれた。
「はぅん」
 それだけで優一は声をあげてしまう。そこは大量の愛液で濡れそぼっていた。
「あらぁ、もう大洪水じゃない」
 そういわれて優一は赤面した。
「また、欲しくなった?」
 そうきかれて、優一は小さくこくりとうなずいた。
「もうっ!すっかり男好きになっちゃって。女の子同士だって楽しいんだからね」
 そういいながらも優一を立たせると、シモツキの方へ手を引く。
 シモツキはいつの間にか出現した1メートル立方程度の正方体の石に腰掛けている。ペニスはだらり
と垂れ下がっていた。
「その前にやっぱり女の子は口も使えないとだめよねぇ。フェラチオはしってるでしょう?」
 優一は再びうなずいた。もっていた雑誌にそんな写真が載っていた。
「私が教えてあげるから一度で覚えてね。ユキちゃんはスケベだからすぐ覚えると思うけど。それが終わったらまたたっぷり中をかき回してあげるからね」
 そういうとシモツキのまたの間にひざまづかせた。
「じゃ、さっそく挨拶からね」
 優一は素直に従った。
「……ご奉仕させていただきます……」

 優一がシモツキのペニスに両手を添え顔を近づけると、そこはやはり強い匂いがした。なるべく鼻で息をしないように、ペニスに舌をつける。両手から伝わってくるペニスの熱が手に焼け付くようだった。
「いきなり咥えちゃダメよ。まずはきれいにするように丁寧に舐めるの」
 優一の口の中に嫌な味が広がって、嫌悪感に眉をひそめたが、しばらく舐めているうちにその嫌悪感も薄れ、それほど気にならなくなった。しかしその匂いは自分の唾液の匂いと合わさってますます酷いものとなり、鼻が曲がりそうだった。
「舌で先の方を舐めながら、右手で竿の部分をこすって、左手で袋をさすって」
 優一はいわれた通りに素直に従った。
 ムクリと勃ってくるペニスの大きさに改めて畏怖する。と同時に自分の女性器から新しい愛液がまた滲み出すのを感じた。馴染み深いはずのペニスに、男の時にはなかった感情が湧きあがってくる。

 しばらくするとペニスの先から液が出始めた。
「ちゃんと汁は舐めるのよ」
 そういわれて優一は舌の先でそれを舐めとった。口の中に生臭い嫌な味がひろがるが、すぐにそれも、妖しい誘惑に変わってしまった。いつのまにか悪臭にうめきつつも、自分の鼻を擦り付けるように舐めていた。シモツキが一生懸命に舐める優一の前髪を耳にかけてやると、それが嬉しくてますます舌に力を込めてしまう。
 優一は自分が男のペニスを舐めることが苦でなくなってきていることに気づいた。それどころか男のペニスを舐め股を濡らすのが当然のような気がする。薬のせいだろうか?それとも心が壊れてしまっているのだろうか?
「どうだ、うまいか?」
 シモツキが尋ねると、優一は唇をはなして答えた
「ご主人様のチンポ、おいしいです」
「よし、咥えていいぞ」
 そういわれて優一は口を開いて、大きなペニスを口の中に入れ始めた。しかしペニスの半分に満たない内に口腔の中がいっぱいになる。熱い塊が口腔の壁にあたるのが心地よくて、擦り付けてみたりした。
「吸い上げながら舌をからめて」
 横からマフユが声をかける。
「んふぅ………んふっ……」
 息苦しそうに鼻をならしながら行為に没頭していく。
 しばらくそのままの状態が続いた。石室の中は優一の荒い息だけしか聞こえなかった。

「さて、少し苦しいだろうが、ここからが正念場だぞ」
 シモツキが優一の後頭部に手をあてると自分に強く押し付ける。
 優一の喉下までペニスが突き当たり、嗚咽がこみ上げてくる。
「んぐぅ……んぁ……ぐぅ」
 優一が苦しそうな声をあげて頭を上げようとするがガッチリと押さえられて身動きがとれない。
 優一にかまうことなくゆっくりと上下させ始めた。
 パニックになる優一にマフユが声をかけた。
「力をいれちゃだめよ。上下するのに合わせてゆっくり鼻で呼吸するの」
 しかし酸欠気味になっている優一には聞こえない。目を白黒させながら為すがままに必死で耐えた。
意識が朦朧としてきたころやっと終わりを告げられた。
「さあ、出してやるからしっかり飲めよ」
 そういうと動きを全く止めずにどんどん口のなかに噴射してきた。
 その絡みつくような喉越しになかなか飲み込めない。それでも何とか半分ぐらい嚥下したところでシモツキが射精を終えペニスを引き抜いた。
「こぼさずにのみこむのよ。こぼしたら注射だからね」
 そうマフユに言われ、漏れないように口を手で押さえながらどうにか全部飲み込んだ後、激しく咳き込み始めた。
 空気を求めて激しく喘ぐ優一を見下ろしながら、片手に注射器を持ったマフユがいった。
「ユキちゃん、よっぽどビタミン剤をうたれるのが嫌なのねぇ。体にいいのに」
 そう言いながら自分の腕にそれを注射した。

 呼吸が落ち着いたころになっても優一は、まだ何をいわれたかわからなかった。
(……ビタミン剤?)
 しかし、時間が経つにつれその意味することがわかってきた。

 注射には何の効果もなかったのだ。オナニーさせてくれと自分からねだったのも、セックスしてくれと頼んだのも、全部、正気のままやっていたことだったのだ。
 あんな簡単な暗示にかかって、まんまと乗せられ自分から女になりきってしまった。
 女の様に喘ぎ、女の喜びに浸り、男のペニスを咥えてしまった。
 沸き上がってくる後悔と屈辱、怒りと自己嫌悪。あまりにも自分が惨めだった。
 胃に流れ込んでいく精液の感触が急に吐き気を催した。

「……騙したな……」
 長い間、眠っていた男の気持ちが蘇ってきた。自分の声が甲高い女の声になっていることを改めて思い出した。
「ユキちゃんどうしたの?だました?なんのこと?」
 マフユが悪戯っぽい笑みをうかべて優一を見ている。
「あんな注射で……人のことをおもちゃに……」
「ビタミン剤がどうかしたの?私は副作用がないから安心してっていっただけよ」
「………」
 優一は何か言い返そうとして、何も言い返せなかった。

「それとも………」
 その時、マフユは優一が初めて見る、悪魔のような笑みを浮かべた。
「なにか、あなたの体に異変でも起きたのかしら?」
 それは悪魔の笑みだった。

 優一は目の前にいる存在が急に怖くなった。
 この人間のようにみえる二人は、人間の裏をかき、人間の心を弄ぶことなど朝飯前なのだ。男の体を女に作り変えて、男の心がもがきながら女になっていくのを楽しんでいるのだ。

「さて、まだユキちゃんのお願いを叶えてなかったわね」
 マフユはすぐにそれまでのように気楽な調子で話し始めた。
「………」
 優一は黙ったまま、マフユをにらみつけた。
「あらぁ?ユキちゃんあんなに素直だったのに、どうしたのぉ?私かなしいわぁ」
 本当に悲しそうな顔をする。
「『ご主人様ぁ……やめないでぇ……』なんていってくれたのは、嘘だったのね。ひどいわ、ユキちゃん」
 痛いところを突かれて優一は顔をそむける。
「でも、もう約束しちゃったから……。前にも言ったけど私達、嘘をつくと元の世界に返されちゃうのよ。本当はこういうの私の趣味じゃないんだけどしかたないわねぇ。まぁ、男の子みたいな口をきいたからお仕置きもしないといけないしぃ」
 そういいながら優一に近づく。
 優一は後ずさりしようとして、そこに立っていたシモツキに背中があたった。
 振り返ろうとしたその瞬間、強い力で持ち上げるように前に押し放され、うつ伏せに地面に倒れこむ。
 咄嗟に立とうとしたとき、マフユがその腕に触ると、手枷が現れた。それから伸びる短い鎖がすぐ下の 床に繋がっていて両手はほとんど動かせない。足を伸ばそうとすると、既にシモツキによって足枷で床に固定されてしまっていた。
 優一は一瞬にして四つん這いの状態で床に固定されてしまった。

「な……なにを……」
「早めに諦めたほうが楽になるぞ」
 シモツキはそう言うと、もがく優一の白い尻を持ち上げ、ずぶりと後ろから貫いた。
「はぁぅ……」
 優一の口から呻き声が漏れる。
「長く我慢した方が得られる快感は大きいがな」
 そういうとシモツキはゆっくりとピストン運動をはじめた。
 優一の秘芯の愛液はすでに引いていたが、2〜3回出し入れするだけですぐにヌルヌルになった。
 それを確認すると押さえていた優一の腰から手を離し、ペニスが抜けるぎりぎりまで腰を引き、そのまま浅く小刻みに腰を使う。時に完全に動きをやめ、あるいは完全に抜いて溝をなぞるように擦り付けたりした。
 すでにセックスの快楽を覚えてしまった優一の体は、中途半端な刺激に満足できなくなっていた。
 それは激しい焦燥感をもたらし、優一の心と体をジリジリと燻り始める。
 優一の腰が無意識に奥まで入れようと動いても、その分腰を引く。かといって急に半ばまでペニスを挿し込んだりする。体を押さえられていないので腰は自由に動かせるのに、その動きは完全に先回りされどうしてもシモツキを捕らえることができない。

「あぁ……あぁ……ああぁ……」
 腕を立てていられなくなり前のめりにつぶれると、横向きになった目の前に鏡が見えた。
(腰………いやらしい………)
 ペニスを捕まえようと蠢く腰は、自分の意志では止められなかった。止めるとまたシモツキから別の動きが加えられすぐに止まっていられなくなってしまうのだ。
 ふと視界がにじんで前が見えなくなった。
 瞬きをすると、鏡の中の少女が淫靡に腰を振りながら涙を流していた。
 あまりに惨めな姿に嗚咽が込み上げてきた。
 このままではとてもいられない。自分の下半身に空いている穴を埋めてもらわない限り自分は果てしなく腰を振りつづけるだろう。長時間、これに晒されたら、思考能力も何もかも根こそぎ奪われてしまう。既に気が狂ってしまいそうだった。
 もともと、勝てる勝負ではなかったのだという諦めが心を満たした。
 いっそ快楽に浸ってしまえば、楽になれる……。
 何かと決別するようにゆっくりと目をとじてから、ゆっくりと開いた。
 熱い物がまた頬を伝った。

「ご主人様……ごめんなさい……ユキが悪かったです。……奥までいれてください…」

 鏡に持たれかけて二人の痴態を眺めていたマフユの顔がパッと明るくなった。
「やっと、元のユキちゃんにもどってくれたのねぇ」
 そういうと近寄ってきて、床に這いつくばる優一に唇を突き出す。
「ああ、ご主人様ぁ……」
 優一はそう言って半開きの口を開け、ゆっくりとキスをする。
 クチュクチュと大きな音を立てしばらく舐めあった後、口を放した。
「二人ともご主人様じゃ、紛らわしいわねぇ。私のこと『マフユさま』って呼んでくれる」
「はい、わかりました、…ン……マフユさまぁ……あんっ」
 時折訪れる痙攣に耐えながら喋る。
「貴方はどうする?」
 とマフユはシモツキの方をみた。
 しかしシモツキは「関係ない」といった風で、猛然とピストン運動を始めた。
「貴方はご主人様のままでいいのね…」
 しかしその声は既に、歓喜にむせぶ優一には届いていなかった。
「ああ、これです……これ欲しかったのぉ……。…イイ…イイ……」
 優一は自暴自棄に腰を振り、瞬く間に絶頂へ上り詰める。
「はあん……気持ちイイ……ユキイッちゃう、……ユキのオマンコ壊してぇ……イッちゃうぅ」
 あまりの豹変ぶりに、普段無表情なシモツキすら苦笑いを浮かべた。

 絶頂の余韻に浸るまもなく、性器が繋がったまま、上半身が持ち上げられて優一がシモツキを跨ぐ格好になった。いつの間にか四肢をつなぐ枷は首輪以外消えてしまっている。
 早速、自分から腰を動かそうとする優一にシモツキが命令した。
「ゆっくり回すように腰を動かせ。自分のいいところを探すんだ」
 優一はシモツキの逞しい両足の太ももに両手をついて少し腰を浮かせると、言われた通り腰を回転させる。微妙に上下しながら高さをかえるのも忘れない。
「ああん……恥ずかしい……。ああ、ここ気持ちイイですぅ……」
「よし、好きなように動いてみろ」
 そういわれると優一は腰だけを動かす腰の振りで自分の急所を擦りつけ始めた。
「はぅん……はぁぁ……イイ……イイ…もうイクゥ…イクゥん…」
 自分で自分の急所を擦っているだけあってすぐさま絶頂へと向かう。
「出すぞ。いけ」
「ああん……ください!…ご主人様の奥にかけてぇ……ああん」
 シモツキが自分の中で大きく膨らみ、熱い液体を噴射してくるのを感じて、優一もイッてしまった。

 優一の身体をシモツキが下から持ち上げ、性器を抜き取りながらそのまま立たせると、今度はマフユが抱きついてきた。
「ユキちゃん、もうスケベ女まるだしねぇ」
 お互いの乳首同士を重ねながら、マフユがいった。
「ごめんなさい。気持ちイイの好きなんです」
 そういいながらマフユの首筋の匂いを嗅ぐ。
「ああ、マフユさまの匂い……すきぃ…」
 そういうとそのまま匂いの強い腋に顔をうずめクンクンと鼻を鳴らした。
「いやん、もうかわいすぎるぅ。がまんできないわぁ」
 そういうとマフユは優一の身体を床に組み敷いた。優一の股間の間に自分の股間を擦り付ける。
 すぐに優一も腰を使い始め、あっという間に二人の愛液でヌルヌルになった。
「あん……イイン……イイ…」
 奥に響く強い刺激がない変わりに、密着する面積がひろく小波のような快感が押し寄せる。何時間でも没頭していられそうだった。
「いいわ……ユキちゃん、エッチよ…。すてきよぉ」
「あん……あん……あん」
 最初の小さな絶頂が訪れた。

 それからあと優一は何時間も2人に様々な体位で弄ばれつづけた。
 2人のテクニックは巧緻を極め、優一のあらゆる部分から性感を引き出した。優一は足の指や背中から大きな快感を取り出されるたびにむせび泣いた。
 その上、そのセックスは変幻自在だった。時には激しく攻められ、時にはゆらゆらと漂う。マフユは娼婦のように妖艶に悶えたと思うと、処女のように喘ぐ。シモツキは嵐のように吹き荒れたかと思うと、岩のように押さえつける。セックスが常に新鮮で快感に慣れるということがなかった。
 なんども性器の粘膜が破れて血が出たが、犯されているうちにいつのまにか癒えてしまう。疲れているはずなのに、キスされただけでまた元気良く腰を振ってしまう。終わりのない快楽に優一は沈み込んでしまった。

 何時間もたった後、昨晩と同じように石室に取り残された。
 昨晩のように身体を吹こうとすると性器から大量の精液が流れ出た。
 吐き気がするので吐き出すと、何度も口移しに飲まされた自分の小便と精液の混じりあった液体が流れ出した。
 シーツに包まってベッドに横になると涙が溢れてきた。
 声を出して泣いたのは妹が死んだ時以来のことだった。

 ズタズタに引き裂かれた誇り高かった心の部分があまりに痛むので、
 もう捨ててしまうことにした。





第六章 永劫

 二人が現れたとき、優一は目元を泣き腫らして眠っていた。
 マフユがベッドに腰掛け、前髪を耳にかけてやっていると優一が目覚めた。
「おはようございます。マフユ様、ご主人様」
 自然と敬語がでた。
「おはようユキちゃん、今日もたっぷり愛してあげるからね」
 そういうとマフユは頬に軽くキスをした。

「ほらみて、今日は私も男よ」
 そう言うと股間に垂れたペニスを見せた。シモツキより幾分細いペニスが、女性の身体についているのはなんとも言えない妖しい光景だった。
「今日からお尻の穴も使うからねぇ。ちょっと細い方が最初はいいかと思って。さてどうヤッたらユキちゃんにいい声で啼いてもらえるかしらぁ」

 そう言いながら優一の体を舐めるように見回す。優一は落ち着かずに身じろぎをした。

「やっぱり浣腸からよねぇ。こんなにかわいいユキちゃんのお尻が汚かったら、男の子に嫌われちゃうものネェ」
 完全に女扱いされ、胸がズキリと痛んだ。しかし極力その心の痛みの原因から目を逸らす。昨日の経験から、そんな事をしてももっと苦しまなければならないだけだと悟ってしまっていた。
「さぁ、お尻をこっちに向けて」
 マフユの手には何時の間にかガラス製の浣腸器が握られている。
「初心者にいきなりシリンダー式の浣腸をする悪いお姉さんを許してね」
 特有の妖しい笑みを浮かべながらマフユが近寄った。

 逃げたい……。
 二人の前で排泄させられる事を思うと、逃げ出したい。
 しかしこの首輪と、それについた鎖は頑丈で逃げ出せるわけが無かった。抵抗してもすぐに押さえつけられることは理解してしまっていた。ただでさえこの二人の力は信じられないぐらい強いのに、今の体の出せる力は本来の自分よりさえ格段に弱くなっていた。

 出来るだけ心を空っぽにしたまま、マフユに背を向けてベッドに座る。

「あらぁ、ユキちゃん、今日は素直ね。さては昨日がよっぽどよかったのねぇ」

 そういわれた瞬間、目の前は昨日の快楽の記憶で埋め尽くされた。もう当然になってしまった股間の熱くなる感覚。愛液が溢れ出す予兆だった。

 ツプッ。
 マフユの人差し指の先がユキの肛門に少しだけ埋まる。その指は得体の知れないぬるぬるした液体で濡れていた。
「昨日よりももっと気持ちよくなれるわよ……」
 そっと耳元で囁かれると、男でいるときには感じたことの無い感情が溢れてきた。心臓が高鳴り、マフユに軽く押されるままにベッドの上で前のめりになって、尻をマフユに向けたまま突っ伏した。

「まだ固いわねぇ。もっとゆるくしないと怪我しちゃうわ」
 そういいながら人差し指をぐりぐりと動かされる。昨日、すでに何度も肛門に指や舌を捻じ込まれた記憶が蘇り、肛門がそれを受け入れ始めた。そんな自分が惨めだったが、それを考えても辛いだけなので、ベッドのシーツに顔を埋めた。
 シーツに染み込んだ女の甘い体臭。
 それが今の自分の匂いなのだと呆然と思っていた。

「アンっ……」
 不意に声が出てしまう。
「あら、かわいい声が出ちゃったわね。ここがイイのね」
 マフユのいうとおりだった。その場所が気持ちよかった。
「そこが、イイです……」
 つい、口に出してしまう。自分からそういうことを言うと、この二人はもっと気持ちのイイ事をしてくれることを身体が覚えてしまっていた。
「うふふ、男みたいなユキちゃんもかわいかったけど、やっぱりオンナの子は素直が一番ね」
 そういいながら巧みに肛門の中で指を蠢かせる。もう快感を否定する事は出来なかった。
「ああっ!!」
 二本目の指が入ってくる。
「う……あ……あぁ……」
 排泄器官を弄られているという嫌悪感もなくなってしまい、蠢く指に心を奪われてしまっている。何時の間にか指を根元まで入れられていた。

 チュポッ。
 唐突に指が引き抜かれた。
「あんっ……ハァ……ハァ……」
 すっかり息が上がっている。
 そのままヒョイとマフユに持ち上げられ、石の床に降ろされた。マフユの方を見上げようと顔を上げた目の前に、勃起したマフユの細いペニスがあった。シモツキとはまた違う強い異臭を放つ女の体についた男の証。
「これをお尻の穴に入れて欲しくない?」
 優一はペニスから目を離せなかった。
「う……うぅ……」
 とんでもないことを口走ってしまいそうで優一は自分に怯えていた。
「いれて欲しかったらその前にしなきゃいけないことがあるの。わかるでしょう?」
 そう言ってガラス器具を目の前に差し出す。
「もう、お願いしちゃいなさいよ。どうせ逃げられないんだから……」
 文字通り悪魔の囁きが優一の耳朶を打った。
 『どうせ逃げられない』という言葉が優一の追い詰められた心に逃げ場を与えた。たとえそこが袋小路だと分っていても、優一はそこに逃げ込んでしまった。

「ユキに浣腸……してください……」

 ズブ!!
 優一の言葉と同時に冷たい硝子器具が肛門に突き刺さり、中の液体を一気に流し込み始めた。
「うぅ……うううぅ……」
 腸が逆流する感覚に必死で耐える。
「だめよ、シモツキ。そんなに急に入れたらユキちゃんが苦しそうよ」
 何時の間にかシモツキが優一の側まで来て浣腸器を操っていた。
 マフユは自分のペニスで優一の鼻を弄んでいる。ペニスの匂いと逆流する腸の感覚に優一の心は占領されていた。
「すぐに出してはおもしろくないな」
 シモツキがそういって肛門に指を埋め込む。ピュっと液が飛び出した。
 指は優一の肛門の中で体積を増し、完全に肛門に栓をしてしまっていた。
「ああっ、なにを……くぅ……」
「どう? 初めての浣腸の味は?」

 優一はふと、前に大便をしたのはいつのことだったかと思った。不思議とぜんぜん覚えがない。ここに連れてこられる前に何かを食べたという気もしない。何か違和感をかんじたが、すぐに、腹がグルグルと鳴り始め、思考は中断した。

「ん……んんぅ……お腹痛い……お腹が……ああ……許して…ください」
「あら、自分からしてくれって言ったのにもうギブアップなの? でも、だーめ。もっと女の子みたいに泣き叫ぶまで許してあげない」
「ああ……ああ……んんっ……」
「どんなにいきんでも無駄だ。やりすぎると肛門が裂けるだけだぞ」
 シモツキの冷静な声。
「んっ……んっ……痛い……痛いぃ!!」
「あらやだ。ちょっとずつ漏れちゃってるわ。シモツキの指の隙間からだそうなんてなんてはしたないのかしら。女の子のクセに」
「もう……もう無理です……出させて!! 出させてぇぇ……」

「何が出したいのか言ってくれないと」
「うんち……うんち出させてください……ああ、はやく!! はやくぅ!!」
「大分、女の子らしくなってきたわねぇ。ねぇ、ユキちゃんはオンナの子よねぇ」
「女です!! 女ですから、はやく!!」
「じゃーね、『ユキはウンコがしたいハシタナイ女です』って言って」
「ユキはウンコがしたいはしたない女です!! ……あぁ」
「じゃぁ、『ユキは奴隷女です。チンポ咥えたいです』は?」
「ユキは奴隷女です!! チンポ咥えたいです!! ……ああ、もう…もう!!」
「ちょっと素直すぎてつまらないわねぇ。いいわ。出させてあげる」
 シモツキが一気に指を抜いた。
「はああああぁぁ……ふああ」
 びちゃびちゃという音をたてて茶色い液体が床に落ちた。固形物はほとんどなく軟便が少し出た程度だったが、匂いはひどかった。
(女でもウンコは臭いな………)
 恥辱と開放感に浸りながら、優一はぼんやりそんなことを考えていた。

 マフユはどこからともなく取り出したタオルでお尻の周りを拭いた。優一はそうしてもらうことが堪らなく嬉しくなり、今すぐにマフユに抱きついてキスしたい衝動に駆られた。地面に落ちた便はまるで砂丘におちた雨のように、石の床に染み込んでいった。

 不意に目の前にシモツキのペニスが突きつけられる。
(ああ……だめだ……この匂い……)
 シモツキのペニスは昨日、何度も咥えさせられ口の中に形を思い出すことすら出来る。入れてもらえるように口を開けた。それが当然であるかの様にペニスを突きつけられると、なにも言われないのに舌を使い始めた。男のモノを舐めるのが嫌でなくなっていた。

 その間も排泄を終えて脱力した肛門をマフユの指が弄っている。
「うふふ、もの欲しそうにピクピクしちゃって……」
 ヌプっ。
 マフユが細身のペニスの先を肛門に埋めた。
「んぐ!!」
 マフユが肛門を嬲るように小さく浅く腰を使う。それにあわせてシモツキが口に向けて腰を使う。
(あ……やめ……やめて……)

 快感だった。昨日、徹底的に教えられた快感が肛門からも生まれる事をしってしまった。前と後ろを同時に突かれ、まるで自分が肉の管になってしまったかのような惨めな気分になる。そして、その惨めさまでもが快感になり始めた。
 ある衝動が高まってきた時、シモツキが口の中のペニスを抜いた。何をさせようとしているか分った優一は二人の思惑通りに叫んだ。
「マフユさまぁ! もっとオクゥ! オクに突っ込んでくださいっ!」
 優一からは見えなかったがマフユがニヤリと笑みを浮かべ。本格的に腰を使い始めた。

「ああぁ……あああ……すごい……」
 一突きするごとにマフユのペニスが太くなり始めた。そのうち肛門が切れるがそれでも止めない。優一の中では快感だか痛みだか分らないものが駆け回り、意味不明な叫び声が口から上がる。
 その内、マフユのペニスから治癒の力が送り込まれ、もう一回り弾力のある肛門の筋肉が再生される頃には優一の心は快感のみに占領された。

「そろそろ出すわよ」
「はいっ……ください……オクに……オクにかけてください……」
「うふふ、肛門からあたしの汁を一杯飲んでね」
 すでに普通の男性並みの太さに戻っていたペニスが一層大きく膨らみ、勢い良く悪魔の精をはきだした。熱い液体に何度も腸壁を叩かれるのはえもしれない快感と満足感をあたえてくれた。
「ああ……マフユ様の…あったかい。ああ……イクゥ…ン…イクーー!」
 キリキリと肛門でマフユのペニスを締め上げながら、全身を硬直させて絶頂を極めた。

 こうして優一はアナルセックスの快感を知ってしまった。
 
 そのままでは終わらなかった。
 いつの間にか優一の前に来たシモツキが優一の身体を起こして熱い愛液でドロドロになっている花芯にペニスをつきたてたのだ。二つの穴を同時にふさがれる感覚に優一は口をパクパクさせる。
 膣と腸の間の壁を、両面から圧迫されると目が回るような快感が湧きだしてくる。
 圧倒的な充足感が優一の心を押しつぶた。
 二人がゆっくりと腰を使い始めると、瞬く間に追いつめられた。
「……だめえぇ……だめですぅ……気持ちよすぎる……ダメ、ダメ、ダメ、ダメェん……」

 優一はその後何時間も二穴を同時に攻められつづけた。二人が交互に、同時に、直線的に、円を描くように変幻自在に攻め立てると、優一はイキッぱなしになった。しかも、この二人とのセックスには終わりは無い。二人は何度射精してもやめようとせず、自分は何度絶頂を迎えてもすぐに回復してしまうのだった。
 再び快感の泥沼に沈み込んでいく。その泥沼には底が無かった。もう、自分はだめかもしれないと考えていた。





第七章 逃走

 自分の首に巻かれている首輪に鎖がついてない事に優一が気づいたのは7日目の朝だった。

 アナルセックスを覚えてからの毎日もずっとセックス漬けだった。
 二人は徐々に優一に挑みかからないようになった。その代わり優一に積極的に行動させるようになった。最初は、その後にセックスして欲しい一心でしていた奉仕だったが、マフユのバラエティー豊かな喘ぎ方やシモツキの率直な誉め言葉を聞くのが嬉しくてたまらなくなってしまった。きつい体臭を嗅ぐと、顔を埋め思いっきり惨めに奉仕したくて仕方なくなってしまった。
 自分という物を諦めてセックスに浸ってしまえばなんでもできたし、そうすれば何倍もすごい快楽を与えてもらえた。今となっては、自分の持っていた夢も希望も肉体の喜びの前では色褪せてみえる。飯を食う間も惜しんでセックスしてなにが悪いというのだろう。どうせ、この石の部屋にはそれしかないのに。
 そうしなければ正気を失っていた。あるいはとっくに精神は壊れているのかもしれない。

 優一はすでに普通の女性が一生に味わう以上の快楽を享受してしまい、ベテランの娼婦のようなテクニックを覚えこまされていた。身体の中の性感帯は余すところ無く開発され、体中が腫れ物のように敏感なのに、それに長時間咽びながら耐えられる体に作り替えられてしまっていた。
 4日目の夜に初めて一人でいる時に自慰をしてみたが、満足しきれない焦燥感に、ベッドから落ちながらも、石畳に体を擦り付け何時間ももだえ狂った。終わったときは体中が傷だらけで血だらけになった。

(昨日の夜から外れてたかな?)
 つるつるの金属の首輪の表面を撫でながら、思い出そうとする。
 昨日は徹底的に舐めることを覚えさせられ、二人が消えた時にはヘトヘトになってベッドにそのまま倒れこんでしまった。シーツに秘芯から漏れ出た精液がシミをつくって固まっている。
 そういえば、舐めるのに鎖が邪魔だと取ってもらったような気もするが、今一つ良く覚えていない。
 その後、良く舐めたご褒美にと、身体を持ち上げられ空中で二穴挿されたのはすごかった。文字通り体が浮いているような強烈な快感だった。思い出しただけで顔が赤らみ、秘芯に痺れが走る。

 首を振って雑念をはらうと、とりあえず身体を拭くことにした。
 頭が痒くて髪を洗いたかったが、それほどのお湯の量はない。ただ、マフユもシモツキも自分の汗臭い髪を喜んで嗅いでくれるのが、うれしかった。
 一通り身体を拭いて、ふと鏡を見た。それは常にそこにあるため、もう自分の姿を見てもなんという気もしなかったが、改めて首輪が壁に繋がれてないことに気づいた。そういえばここに来てから鎖に繋がれ、満足に歩いた記憶も無い。すこし歩き回ってみた。

(あれ?この鏡?)
 蝋燭の暗い炎の中でしか見たことがないので気づいていなかったが、鏡は枠もなにもなく地面に垂直に立っている。横に回ってみると鏡に厚さがないことに気づいた。裏側から覗き込むとそこには不思議な光景が広がっていた。
(なんだこれ?)
 どうも薄暗くてよくわからないが、夜明け前の学校の中ようだ。ふとこの光景に思い当たった。あまり行ったことはないが、たしか女子の体育に使うダンス室とかいう鏡張りの部屋だ。放課後にここを使っている薙刀部の防具が置かれているから確かだろう。
 ふと手を伸ばしてみると、何の感触もなくその光景の中に吸い込まれてしまった。
 びっくりして手を引っ込めて見ると手には何の異常もない。
 恐る恐るもう一度手を入れてから、首だけ伸ばして鏡の反対側を見ても、そこには見慣れた鏡があるだけで手は出てなかった。
 電光のような閃きが走った。
(出口だ!!)
 皮肉なことに出口は目の前にずっとあったのだ!

 気を取り直し景色を良く観察すると、向こう側の入り口のドア裏に小さな鏡がついているのが見えた。
ダンスの化粧用の物なのだろうが、良く見ると、壁一面に張られた大きな鏡から手だけがニョッキリと生えているのが映っている。その小さな鏡がこちらのダンス用の大きな鏡と合わせ鏡のようになっているのだ。そういえば、合わせ鏡はなにか悪魔と関係あると言う話を聞いたことがある。なるほど鏡の裏は鏡の表に繋がっているというわけだ。

 トクン、トクン。
 暫く使っていなかった脳に血液が流れ込み、霞みがかかっていた思考が晴れてくる。

(帰れる!?)
 そう言葉にした瞬間、もう捨ててしまったと思っていた男の心が蘇ってきた。家族思いで確固たる信念を持っていたころの畑山優一の心はまだ完全に死んではいなかった。
 まず心に浮かんだのは
(母さん……。大丈夫だろうか………)
 という思いだった。妹の死以来、やっと最近笑顔を見せるようになった母の顔が思い出された。
(会いたい!)
 こんな風になってしまった自分に居場所がないのは百も承知だが、それでも一目みたかった。元気にしているかだけでも確かめたかった。せめて両親にどんな姿であれ生きていることだけでも伝えたかった。
 それに、たとえこんな体でも、もう一度太陽の下を歩きたかった。鎖を気にせずに眠りたかった。
 確かあの二人は人間界では能力があまり使えないとか言っていた。やつらは追ってこれないかもしれない。それどころか、外に出たら元の体にもどるかもしれない。

 このまま残る事も一瞬考えた。あと6日で約束の日になる。ここで逃げてしまうのは、果たして得策なのだろうか? あの二人は確かに一度も嘘をついていないし、元の体で戻れる可能性はそちらの方が高いかもしれない。
(いや、だめだ。これ以上ここにいたら……)
 認めたくは無いがもう自分は、やつらのモノになりかけている。やつらの前では女として振舞う事も、喋る事も、性的な奉仕する事さえ全然抵抗がなくなってしまっている。いや、むしろそうすることが嬉しくすら思っている自分がいる。シモツキの胸に抱かれながら、男に戻りたいかと訊かれれば、もう頷ける自信が無い。そこで頷かなければ自分は一生やつらのおもちゃにされてしまう。
 優一は覚悟を決めた。

(今しかない。たとえ一生女の体でも、今ここを出るんだ)
 そう自分に言い聞かせると、ベッドまで戻ってシーツを体に巻きつけた。テーブルの上にあるパンをひとかけもって、もう一度鏡の裏側に立つ。
(行こう)
 心を決めて一歩踏み出した。

(寒い……)
 そこは確かに鏡の裏から見えたダンス室のようだった。
 後ろを振り返ってみると、そこにはシーツを体に巻き付けて首輪を着けた、目元の涼しげな少女が映っていた。
 外に出ただけでは元に戻れないかと落胆する心を奮い立たして、行動を始めた。とりあえず鏡に触れてみると硬い感触があった。どうやら一方通行のようだ。帰れないと思うと、ほんの一瞬後悔のようなものがよぎったが、それは努めて無視した。

(このままでは、まずいな)
 シーツを巻いただけで外に出るわけにはいかないし、第一、寒くていられない。たしか教室に自分の体操服が置いてあったはずだ。各校舎の1階の鍵はすべて閉じられているはずだが、ダンス教室からは二階の通路づたいに自分の教室に行けた。
 しかし、教室についてみて、その目論見はもろくも崩れ去った。自分が着ていた服は大きすぎて役に立たないのだ。特にズボンがぶかぶかでどうしようもない。
(しかたない。気が引けるけど………)
 教室の女子の荷物の中から適当なバッグに目を付けると何か着るものはないか探してみる。やっとのことで、どうにか自分の体に合いそうな服を見つけた。小野という小柄な女の子の体操服とジャージの上下だった。心の中で小野さんに謝ると拝借した。ついでに一緒にはいっていたゴムバンドと運動靴も借りる。
 着替えようとしたとき自分の見窄らしい髪の毛に気が付いた。余りに酷い格好では警戒されてしまう。
(たしか更衣室にシャワーがあったはずだ)
 女子更衣室は鍵がかかっているが、男子更衣室の鍵は壊れたままになっているはずだった。
 急いで体育館の方へと引き返して、男子更衣室にはいる。
 普段なら気にならない更衣室の臭気がやけに気になる。
 瞬間、鮮明にあの二人の体が思い出されドキッとした。そんな自分を無視してシャワーの蛇口を捻った。
 体育部会がわざわざ温水シャワーにしてくれたのをありがたく思いながら、ところどころ体液が固まっている長い髪を丹念に流した。シャワーに当たりながら体を擦っているだけで、体に甘い感覚が走るのが情けなかった。自分の将来はどうなるのだろうと思うと涙がこぼれそうになり、顔に直接シャワーをあてた。
 ふと窓を見ると夜が明けかけている。
(やばい、人が来る前にでないと)
 いそいでシャワーから出てそれまで巻き付けていたシーツで体を拭き、小野さんの体操服に着替えた。
 鏡を見ながら、なんとかジャージの襟を立てて首輪が見えないようにする。上は体操服の上にジャージだが、下はジャージ一枚だけでスースーした。まぁ、シーツよりはましだろう。もってきたパンをポケットに突っ込んだ。
 体育会系の朝練は早いから、いつ人が来てもおかしくない。男子更衣室に落ちていた野球帽を借りると、再び教室のある校舎に向かいながら、拝借したゴムバンドで髪を留めて、野球帽をかぶった。そのまま階段を下りて、一階の教室の窓から外にでる。ジャージだけでは11月の朝はひどく寒かった。
 正門の方は既に何人か人影があるので裏門からでると、自分の家の方に向かって走り始めた。

 朝日の色、青空の色、一つ一つの家の屋根の色や、木々の緑の色がやけに鮮やかに感じる。
 それが長い間ずっと色のない世界に監禁されていたからか、女性の体になったからかはわからないが、その鮮やかな色彩と爽やかな朝の空気に新鮮な驚きがあった。
(ああ、気持ちいい)
 こんな気持はもう味わえないかと思っていた。
 深呼吸する度に大切なものを取り戻していくような気がした。


 その校舎の屋上では二つの影がその後ろ姿を見送っていた。
「さて、うまくいくかしら?」
「俺たちのやれることは全てやった。餌に獲物がかかるかどうかは『因果の流れ』が決めることだ」
「時間がかかったわね」
「あれほどの意思を持った人間はそういない。しかしそれでこそ良い餌になる」
「あの娘がこれから出会うことを想像すると、心が痛むわ」
「悪魔が人間に心を痛めても仕方あるまい」
「フフ、そうね。そのかわり今度会ったらたっぷりとサービスしてあげよっと」
「今しばらくは待つだけだな」
「ユキちゃんいないと私が欲求不満になりそーだわ」
 そういうとその二つの影は消えていった。


(とりあえず家に行ってその後どうしようか)
 優一はポケットに突っ込んでいたパンをかじりながら、そればかり考えていた。もし母が自分がいなくなったことで、再び落ち込んでいるとしたら、妹に似た自分が母に突然、面と向かって会うのはよくない気がする。
 そう思いながら、目の前の家の郵便受けに入っている新聞の日付をみると日曜日だった。
(別に急いで学校から出る必要なかったな)
 日曜日だということは父が家にいるに違いない。母が調子が悪くなってからは、電話や来客の応対は自分の仕事だった。自分がいなければ家にいる時は父親が出てくる可能性が高い。万が一母が出てきた時のために帽子を目深にかぶればなんとがなるだろう。

 そう考えているうちに家の近くまで来た。こんなに朝の早い時間に訪れるのはまずいだろう。かといってお金も持っていない。外では寒くてとてもいられないので、近所のコンビニで立ち読みする振りをしながら時間をつぶした。朝早くから長時間、ジャージ姿の少女が立ち読みしているのはかなり目立つだろうが、アルバイトの店員がわざわざ追い出してくることもないだろう。
 帽子を目深にかぶるとやけに汗臭い。
(もうちょっといい帽子拾ってこればよかったな)
 一時間ほどコンビニを2、3軒回って時間を潰した。パラパラと漫画雑誌をめくってみるものの、頭の中は別のことばかり考えていた。
(家にいったとして自分が畑山優一であることを説明することができるだろうか)
 小学三年生の時に2階から落ちたときの一生傷や、ホクロなども消えてしまっているので、身体的特徴では自分である事を証明できない。話し合って説得するしかなかった。
 やはり説明するなら父親だ。元気な時なら母の方が断然こういう状況に強いだろうが、今はやはり父に話したほうがいいだろう。
 なんとか父親と一対一で話せるよう、頭の中で考えた作り話を復唱する。
(私は小野ユキといいます。畑山先輩の予備校の後輩なんですが、いなくなる直前に予備校の仲間と市内のデパートの旅行会社で旅行の計画を相談しているのを見たのですが……)
 自分は親に内緒で旅行に行くような人間ではないが、日頃から、一度、志望大学を見に行ってモチベーションをあげたいと父母に言っていたので、まったくありえない話ではない。なんとか隙をついて父親だけと話す状況を作り出すのだ。父にちょっと内密に話したいことがあるといえば、父は母を気遣い一対一で話す機会をつくってくれるに違いない。
 自分は高校に入ってから何のクラブにも入っていないので、やはり予備校の後輩というのがいいだろう。
 ユキという名前を名乗るのは抵抗があったが他に思いつかなかった。小野はもちろんジャージにそう書いてあるからだった。

 しかしこの作り話が役に立つことはなかった。

 なんども家の前を行ったり来たりしたが中の様子はよくわからない。入っていくのが躊躇われたが、その内、家を出てきた近所の主婦に訝しげに見られたことで覚悟が決まった。
 震える指で呼び鈴を押して、父か母が出てくるのを待ち構えた。
 しかし「はぁーーい」と太い声で応じたのは……
「畑山優一」だった。

 相手を見上げながら、優一は自分の目が信じられずにいた。

「あれ? 女の子が朝から来るなんて珍しいなぁ。家を間違えてませんか? それとも僕に用かな?」
 畑山優一がのんきな声でいう。その懐かしい声。自分の声。
 口を訊けずにいると男の優一が心配そうに話し掛けてきた。
「どうかしたの、君? 顔色が悪いけど」

(なんで俺がいるんだ……偽者?……でも、どうして………)
 そこまで考えた時、恐ろしい可能性が頭の中にひらめいた。

「ねぇ、どこかであったことあるかなぁ? なんだかすごく見覚えがあるんだけど?まぁ、とりあえず上がってよ。外は寒かったでしょう?」
 そこまでいわれて女性のほうの優一は我に帰った。
「あ……あの……間違えました……」
 そういって慌ててきびすを反して駆け出す。
「あ…ちょっと……君…」
 男の優一が呼びかけても、返事もせずに走っていってしまった。
(だれだろう……なんか懐かしい感じがしたんだけど……。悲しそうだったけど、大丈夫かな?)
 男の優一は開けっ放しの玄関を閉めながら思った。

 道を走りながら女の優一の頭に快楽に浸って忘れかけていた疑念が次々と蘇ってきた。

 なぜ女になる前の数日間の記憶がないのか。
 マフユの台詞『どうせ男になっても……』。あの後何を言いかけたのか。
 どうして奴らは『男の体にする』といっても『男の体に戻す』と言わないのか。
 女になっただけでなく、ほくろや一生傷も消えているのはなぜなのか。
 ごく小さな違和感が重ねあわさって、その中からひとつの確信が生まれた。
 
 あの時おかしいと思ったのだ。
 あの時マフユがいった言葉
 『悪魔は人間界で人間に直接、力を使ってはいけない』
 あの時は自分の体はあの石の部屋で女性に作り変えられたと思っていた。
 しかし、ヤツらは力を使わずに、自分をどうやってあの部屋に入れたのだ。
 自分はあの部屋に連れ込まれたのではなく、あの部屋に最初からいたのだ。
 自分の家にいたのがニセモノではない。

 自分がニセモノなのだ。



第八章 因果

 横山冴貴(サキ)はその日、所属する福祉サークルの集まりに出ようと道を急いでいた。大学の二回生になって福祉サークルの副部長になってから、日曜日もなんだかんだと忙しくなってしまった。
 ホントは今日は家でゆっくりしていたかったのに急に部長に呼び出されて「休日出勤」することになってしまった。
 今年の部長は行動力に溢れた女性で、業界の人に話を聞く会といったイベントをどんどん手配していく人なので、仲間内で週末に呼び出されるのを「休日出勤」と呼んでいた。

(大体ちょっと働きすぎなんだよね、部長は)
 冴貴はぶつくさ言いながら駅に向かって歩いていた。
 いつものように近道をするため近所のかなり広い公園の中を歩いていく。親には、危ないので夜遅く帰ってくる時はこの公園を避けてくるようにきつく言われているが、昼間の公園は木が多くて絶好の散歩ポイントだった。公園の中には池まである。近くに住んでいる人はボウフラが出るので潰そうとしているらしいが、冴貴はこの池をなくして欲しくなかった。
(近所でかえるの声が聞こえるのはこの池のおかげなんだから。いつも聞いてる人はその大事さがわかんないんだよね。うぅ、寒い!)
 冷たい北風に黒いロングコートを体に巻きつけた。セミロングの黒い髪が風に揺れる。
(あれ?)
 公園の隅の、そんなものが在ったことすら気が付かなかった小さなベンチに、自分の出身高校のジャージを着た女の子が座っている。
(寒くないのかな?)
 そう思って横を通りがかりにちらっと見た。こんなに北風が吹いているのに身じろぎ一つせず虚ろな目で地面を見つめている。泣いていたのか目の周りが腫れていた。
 冴貴はピーンときた。
(ははーーん、家出ね)
 冴貴はこういうのを放っておける性格ではなかった。

「ねぇ、あなた」
 と声をかけるが少女は身じろぎ一つしない。
「ねぇ、S高校の子でしょう。ちょっと聞きたいことが在るんだけどきいていい?」
 そういいながら隣に座る。少女が少しだけ目を上げ冴貴の靴をみた。
「あの数学の『ジャンボ』まだ担任してるの?」
 ジャンボとは地元で寺の跡継ぎをする傍ら教師をしているという道楽教師で、その噂は全学年にとどろいていた。ゴルフが3度の飯より好きで、休講するたびに学校をサボってゴルフしているのだとまことしやかに囁かれた。50メートル走のコースを見渡して、「55ヤードだな」と言ったのは、すでに伝説と化している。ジャンボとは勿論プロゴルファーの名前にあやかった物で、横柄な口振りがそっくりだった。
 S校出身者でこの話で盛り上がらない者はいないはずだ。ジャンボの物まねは冴貴の十八番だった。
「……ハイ……」
「未だにゴルフに狂ってるのかな? もういい年だと思うけど?」
「……エエ……」

 少女の答えはそっけない。会話が続けられなかった。
(これは手強いわね……。あれ?)
 冴貴は少女の顔を覗き込んだ。
「恵美ちゃん?」
 ピクリと少女が動き、ゆっくりと冴貴の方をみた。

 3年前に死んだ畑山恵美は冴貴のすぐ近所に住む女の子だった。小学校の兄弟学級とかいうので、6年生の時に1年生の恵美を世話したきっかけで随分仲良くなった。「サキ姉さん」と慕ってくれるので面倒見のいい冴貴はよく遊んであげた。恵美が入院したとき冴貴は高校3年で受験勉強に忙しくて一度も見舞いにいかなかった。彼女が死んで、その遺品から、自分宛の手作りの受験お守りが出てきたのをもらったとき、冴貴は見舞いに行かなかったことを深く後悔した。その事を考えると冴貴はいまだに暗い気分に落ち込むのだった。
 
 こちらを見る少女の表情をみて冴貴は心臓を鷲掴みにされたような気がした。その少女の涼しげな目元は畑山恵美そのものだった。
「あっ……あの、ごめんなさいね。あんまり私の知っていた人に似てたから……。何年も前に死んじゃったんだけど……」

 少女の瞳に少し光が戻った。
「……サキ……さん……」
 冴貴はまたもやびっくりした。
「えっ…どうして私の名前を?」
 そう尋ねると少女はまたうつむいて黙ってしまった。
 よく見ると寒さに震えているようだった。冴貴は少女のすぐ隣に座るとコートを広げて少女を懐に包んだ。
「どうしたの、こんなところで。寒いでしょう」
 冴貴は今日の予定を変更することに決めた。
「私の家においでよ。旅行で3日間は両親いないから気兼ね入らないわよ」
 そういうと無理矢理立たせる。
「ところであなたの名は?」
 
 少女は短く答えた。

「……ユキ………」

 家に帰る途中に部長に携帯で連絡し、平謝りする。ユキは手を引かれるままだまってついてきた。
(なんなんだろう、この子?)
 冴貴は不思議だった。間近で見てわかったのだが髪の毛はブラシをいれた風もなく、くちゃくちゃにゴムでくくってある。ブラジャーもしてないらしく、歩く度に結構大きめの胸がユサユサとゆれているし、この寒いのに素足に体操靴を履いていた。そして極めつけはジャージの隙間から見える金属製の首輪。あからさまに怪しかった。

 家に帰ると早速少女を風呂に入れることにした。
「体が冷え切ってるみたいだからお風呂に入らないとね。そっちがお風呂だから適当に使ってね。ハイ、バスタオルとタオル。着替えはおいとくからちょっとまってて」
 そういうと着替えを取りに行った。自分の古着が押し込んである段ボールから少女に会いそうなTシャツとGパン、セーターを取り出す。
(ブラジャーも着けてなかったわね)
 そう考えて、少女の胸元を頭に思い描いてから、自分の胸元をみる。ブラジャーだけは段ボールではなく自分の引き出しから出した。
 風呂の脱衣所にいくと、となりからお湯の流れる音が聞こえた。洗濯機の上に乱雑に折り畳まれたジャージをみるとどうも下着は下も履いていなかったようだ。所持品も所持金もなさそうである。
(誘拐でもされてたのかしら?)
 あながち本当かもしれないと思いながら、買い置きの下着を取りに行った。

 リビングでテレビをみていると少女が現れた。
「あら、髪も濡らしちゃったの。ドライヤーとブラシがあったでしょう? 使ってね」
 そういってもユキはまごまごしているだけだった。
(ええい。乗りかかった船だ)
 自分でドライヤーとブラシをとってきて、ユキを化粧台に座らせるとブローしてセットしてやる。
「ねぇ、その首輪ファッションなの?」
 そういっても、悲しそうに目を伏せるだけだった。
「ごめんね。言いたくないことは言わなくていいからね。ほら、あたしっておしゃべりだから」
(それにしても……美人な子ね。名前がユキとはぴったりだわ)
 冴貴はユキの白い肌を見て思った。まるで今まで一度も日に当たったことがないかのような白さだった。
「うーん、これ以上はちょっと無理ね。美容室行かないと。さて、おなか空いてるのかしら?」
「………ハイ……」
 家に来てから初めて喋るのをきいて冴貴は思った。
(色気より食い気ね……)

 あり合わせの材料でスパゲティーを作る。
 その間、ユキをチラチラ見るが、ユキはテレビをぼーっとみていた。
(うーん、警察に行った方がいいのかな)
 やはりこの少女はなにか普通ではない。
(まぁ、母さんたちが帰ってから相談しよう)
 気楽な結論に達した。

 ユキは無言でぺろりとスパゲティーを食いらげてしまった。
 食べ終わると手を合わせて、小さな声でいった。
「……ごちそうさま………」
「はぁーい、おいしかった?」
「ハイ…」
 冴貴が食器を流しに運びながら話しかける。
「ユキちゃん、用事とかないんでしょ? ショッピングに付き合ってくれる?」
「エ……?」
「まさか私の手料理食べといて断るんじゃないでしょうね?」
「イエ……」
「じゃ、きまりね」
 そういうと押入にはいっていたダッフルコートを着せ、自分は黒いコートを持ったまま、両親の車にのりこんだ。

 冴貴はユキをつれ回して、何軒かブティックなどを回った。そこでユキの服を選ぶ。ユキは首を振って断ろうとしたが、冴貴は強引に紺のスカートと首輪が隠れるようなタートルネックの白いセーター、女性用の靴と何枚かの下着を買い与えた。この地方では有名なケーキ店でケーキを食べた後、行きつけの美容院へつれていく。
 新しい服を着て、髪の毛を切りそろえてもらい、薄く化粧すると、透き通るような目元の涼しい美少女が現れた。時折見せるとてつもなく艶っぽい仕草が一層美しさを引き立てる。冴貴は少女がどんどん綺麗になるのが楽しくて、かなりの散財をしてしまった。ユキも着飾らせるとまんざらでもないようで、嬉しいような恥ずかしいような曖昧な笑みを浮かべた。
 家に帰る頃には、少しうち解けたようだった。あいかわらず「ハイ」とか「イエ」とかしか言わないものの、冴貴のたわいもない話に相づちを打ったり、控えめな笑みを浮かべたりするようになった。

 その日の夜、普段は殆どしないテレビゲームを出して二人でしばらくした後、ユキを客間の布団に寝かせた。冴貴は自分のベッドの上で明日はなにをしてあげようかと考え始めたが、考え終わる前に眠りに落ちていた。

 少女は寝ていなかった。
 畑山優一の記憶をもつユキという少女は冴貴を知っていた。畑山優一の妹・恵美は冴貴に憧れ、いつも家族に冴貴がどれほど颯爽としているかを語り、自分もそうなりたいと言っていた。入院していたときも、母が何度か冴貴に見舞いに来てもらおうかと言ったが、恵美本人が受験の邪魔をしたくないと拒否したのだった。
 優一本人は何度か挨拶した程度の間柄だったが、話に聞いてよく知っていた。

 なぜこんな時に出会ったのだろうか?

 過去もなく、未来もなく、家族もなく、友人もいない自分。
 男である理由がなくなったかわり、女でもない。
 何もかも失った空っぽな人間だった。いや、もともと何も持っていなかった。他人の記憶以外は。
 生きる希望は何も無かったが、死ぬ理由も見つけられず、無気力に公園のベンチで座っていた。そんな時に何年ぶりかに、妹の敬愛していた冴貴にあったのが不思議だった。
 なにか運命的な物を感じて思わず付いて来てしまった。
 今日一日、本当に楽しかった。自分を着飾る楽しさというものを初めて知った。気分が晴れ晴れとして、子供にもどったみたいなワクワクする楽しさが嬉しかった。女の体にあわせスカートを履いて化粧をすると、少なくともそこには畑山優一の亡霊ではないユキという少女が生きていた。
 しかし……冴貴が悪戯っぽくじゃれかけてきたりする度に、冴貴の香料に隠れた体臭を嗅ぎ、妖しい衝動が起こってくる。そんな自分を恥じてもいた。
 目をつぶると目の前に性的なシーンがあふれ出るのが怖くて、目を開けたまま長い間じっとしていた。


 翌日、冴貴は少女があまり寝ていないことに気づいた。ソファに座っているだけでウトウトしている。何か寝られない理由でもあるのかと思いながら、そのままそっとしておいた。
 午後は抜けられない大学の授業があった。なにか、この少女を放っておくといなくなってしまうような気がして、大学につれていった。ユキは大学に興味があるのか、じっとあたりを観察しているようだった。むしろ冴貴の方が、美しい『いとこ』を自慢するのに忙しかった。帰りにスーパーで材料を買ってくると二人で料理をして食べた。その後、テレビを見てから寝た。

 さらに翌日、冴貴はいよいよユキの不眠症がひどいことに気づいた。下着を自分で洗うと言ってきかないのも不思議だった。ユキがソファで眠っている横で、日常の細々した雑事をこなしながらじっくりとユキを観察してみた。近くで見るとユキが首輪をはずさないのではなく、はずせないのだろうということがわかった。その金属の環には留め具どころか継ぎ目すらみえない。
 午後になってユキをつれて、商店街を歩き回った。ゲームセンターや可愛い小物なんかを見て回る。ユキは縫いぐるみが好きらしく、大きな縫いぐるみを手にとっては抱きしめたりなで回したりしている。ただ、たまに妙に色っぽい仕草でなでるのが不思議だった。クレーンゲームで白くて無表情な猫の人形を、最初の100円でとると、二人で抱き合って喜んだ。帰りに近所の酒屋によってビールを買い、夕飯に中華風の炒め物を作る。冴貴はご機嫌でビールを三缶空け、嫌がるユキにもコップ一杯飲ませた。

 その日の夜、自分のベッドで冴貴は思案していた。明日の夜になれば両親が帰ってくる。そうなると、ユキをこのままと言うわけには行かないだろう。ユキはだいぶ喋るようになったが、自分のことについては全く話さなかった。あの金属の首輪といい、自分の名前を知っていたことといい、不可解なことが多すぎる。あの下着なしで着ていたジャージと素足に履いていた体操靴も盗んできたものだとほぼ確信していた。
(そういえば今日はちゃんと寝てるかしら?)
 そう思って様子を見に行くことにした。

「ユキちゃん、おきてる?」
 客間を覗き込むと小さな声で呼んでみた。
 ハァ…ハァ…ハァ
 荒い呼吸だけが聞こえる。
「ユキちゃん……? 電気つけるよ」
 電気をつけた瞬間は目がくらんだがすぐに慣れた。

 ユキは毛布を体にきつく巻き付けて目を見開き、荒い息をついている。
「どうしたの、ユキちゃん!」
 冴貴が駆け寄る。虚ろな目のユキを見て、ただごとではないと思った。
 肩をゆらして呼びかける。
「大丈夫! ユキちゃん! ユキちゃん!!」

 その瞬間、ユキが冴貴に飛びついた。同時にユキの唇が冴貴の唇に貪りつく。そのすごい勢いで一瞬にして組み敷しかれると、乳房で乳房をすりつぶすように胸を圧迫された。

「ちょ……やめ……ん……ちょ……」
 一瞬の出来事に冴貴はなにもできなかった。
 5秒にも満たない熱烈なキスをすると、そのままユキは弾けるように戸口に駆けた。ドアを出たところで振り返り、冴貴をジッと見てボロボロと大粒の涙を流し、そのまま玄関へ走っていった。

 冴貴はさらに10秒ほど荒い息をつきながら寝転がっていた。
(あー、びっくりした。……ビールの飲ませすぎかな………)
 一瞬にして3点から加えられた刺激になかなか心臓の鼓動が収まらない。
(ユキちゃん! 泣いてた!)
 冴貴は跳ね起きるとパジャマの上に黒いロングコートを羽織り、車の鍵を取って外に飛び出した。車に乗ってからどこへ向かえばいいか考える。
(どこ?公園?……駅?)
 そのとき冴貴の直感がひらめいた。
(他人のジャージ!……学校だ!)

 冴貴は夜の住宅街を運転をしながら思っていた。
(それにしても……ユキちゃん……キス上手だな……)


 校門の側に車を止めて中を覗くと、自分の貸してあげたブルーの寝間着の後ろ姿が校庭を走っていくのが見えた。

(いた!ほんとにいた!)
 自分も車を降りて走り出す。

 ユキは一階の教室の窓に登りつき中へ入っていった。冴貴は高校の陸上部でキャプテンをしていたほどの運動神経をいかして、雨樋に足をかけると一気に教室に滑り込んだ。
 ぱたぱたという足音が遠ざかっていくのが聞こえる。
 足音がしないように自分の靴を手に持つと後を追うように走り始めた。
(久しぶりだな、高校に入るの。でもユキちゃんどこ行くんだろう)
 足音は階段を上がって二階に行ったようだ。
 冴貴も二階へ上がると既に足音はかなり先まで行っているようだった。
(あっちは体育館校舎へ向かう渡り廊下ね)
 そう検討をつけると走り始めた。

 体育館校舎に入ると人の気配がしない。
 体育館校舎の中に二つの体育館と柔道場、剣道場、卓球場、ダンス室がある。二階は大きな体育館が二つあり、その他の施設が一階にある。二階にいないとなると一階の剣道場、柔道場、ダンス教室のどれかだろう。
 一階におりた所でユキに買って上げた靴を見つけた。
 耳をすますとダンス室の方から人の声が聞こえる。
(いた!)
 すばやくダンス教室まで行って開いているドアから中を覗く。しかし暗くてよく見えない。ユキは誰かを呼んでいるようだったが、声が小さくて何を言っているかわからない。他には誰もいなさそうだった。
「ユキちゃん!」
 そう呼びかけながら中に入った途端、後ろのドアがしまった。
 そして、目の前にうっすらと明かりが灯った。

 男の声がした。

「ようこそ、横山冴貴。
 いや、『闇のキリスト』よ」



第九章 鏡

 冴貴は目の前の光景に息をのんだ。
 壁一面に張りつめられている4枚の巨大な鏡のうちの1枚がなくなっていて、その奥に蝋燭の灯った石造りの部屋がみえる。その中に瀟洒なソファに寝そべった女と、その側にある大理石で出来ていると思われる大きな玉座に座っている男が見える。薄暗くて分からないがどうも服を着ていないみたいだった。
 その手前で、金属の首輪だけをした全裸のユキがこちらを振り返った。
 その、文字通り雪のように白い肌に冴貴は目を奪われ、自分の手に持っていた靴を落とした。

「ああ…そんな……どうして……サキさんがここに?」
 ユキが呆然と言った。足下に青いパジャマが脱ぎ散らされている。
「ユキちゃん、大丈夫?」
 そういって駆け寄ろうとしたとき再び椅子に腰掛けた男が口を開いた。

「やっと会えましたね、暗黒のイブよ」
 男の声は威圧的でなんともいえない凄みがあった。
「あんたたちだれよ!ユキちゃんをどうするつもり!」
 サキは得体の知れない状況に怯まぬように精一杯の勇気を振り絞って叫んだ。

 今度は女の方が答えた。
「どうもしないわよぉ。ユキちゃんの方から来てくれたんだから。ねぇ、ユキ?」
 その声は女が聞いてもゾクッとするような色気のあるものだった。
 ビクッ、とユキが震える。
「はい……マフユ様」
 冴貴はユキの言葉遣いに驚いた。
「いい娘ね。こっちへいらっしゃい」
 そういわれるとユキはおずおずと石室の方へ踏み入っていった。

「ちょっと、ユキちゃん!」
 冴貴がその後を追おうとすると男の声が遮った。
「貴女がこの部屋に入る前によく考えた方がいい」
「……? どういうこと?」
「一度こちらに入ってしまえば貴女といえど、自由に出ることはできない」
「え……?」
「まずは我らに自己紹介をさせていただきたい。私の名はシモツキ、こちらがマフユ、そしてこれがユキ。あなたもご存じだろうとは思いますが、横山冴貴よ」
「どうして私の名前を知ってるの!? あんたたち、一体?」
「もちろん知っているとも『闇のキリスト』よ。我々は貴女を数百年間も待っていたのだから」
「はぁ? 何ばかなことを……」
「あら、ダンス室の鏡の中に部屋があること自体馬鹿なことだと思うけどぉ?」
 ソファに寝そべっている女が言った。
「………」
 冴貴が言葉に詰まると、男が立ち上がった。

「わっ……ちょっ……」
 逞しい体つきの全裸の男をみて視線を背ける。
「心配しなくてもいい、貴女はそこにいる限り我々にはあなたに近付くことすら出来ない。さて、そこで、貴女に早速、一つの選択をしていただきたい」
「…?……選択?」
「そうだ。この部屋へ足を踏み入れるかどうか決めていただきたい。前もって警告しておくが、あなたがこの部屋に足を踏み入れれば、三日間ここを出られなくなる。その事を覚悟して欲しい」
 それを聞いてユキが大きな声で叫んだ。
「サキさん……ダメです!私のことなんて忘れて、サキさんは家族のところへ帰ってください!! ご主人様、お願いですから入り口を閉じて下さい! サキさんを巻き込まないで!!」
 冴貴は、ユキがこんなに長い言葉を喋れるんだなとちょっと驚いた。

「あらぁ〜、ユキちゃん、この人のことが好きなのねぇ。妬けちゃうわぁ」
 ソファに寝そべる女がそう言って立ち上がると、ユキの後ろに立って肩に手を当てた。

「心配しなくてもこの部屋に入っても、あなたが許可しない限り、我らは貴女に触れることすらできない。もっとも、貴女は我々の大切な待ち人だ。危害を加えることなど有り得ないが」
 男の言っていることは冴貴にはさっぱり解らなかったが、選択というのが重大な物であることだけは解った。
 それにしてもこの状況はなんだろうか、と冴貴は悩む。ユキが自分を好いてくれていることは確信しているのに、自分の方に来るなという。見知らぬ裸の男は自分を待っていたという。そしてダンス室にある石の部屋。全く理解できる状況ではない。
「サキさん……絶対ダメ!!お願いです。このまま帰って!」
 その叫び声で考えが中断された。
 そんなこといわれても、このまま家に帰れるわけがない。
 
「ユキちゃんをどうするつもりよ!」

「どうもしないわよぉ〜。私たちと一緒につれていくだけだからねぇ。人間をやめて永遠の宵闇の中で私たちと生きるのよぉ」
 女の方が後ろから全裸のユキを抱いてそう言った。ユキは悲しそうに目を伏せた。
 冴貴にはそれがどういうことかよくわからなかったが、とても良くない事のような気がした。

「サキさん……。それは私が選んだことなんです。私はそれでいいんです。この三日間、本当にお世話になりました。
 ……とても楽しかった……」
 伏し目がちにユキがいった。

 その健気な言葉を聞いて冴貴の心は決まった。
 畑山恵美の作ってくれた受験お守りを手にした時に心に誓ったのだ。
 同じ事は二度としないと。

 石の部屋に近づくと、それが実際にあるのではなくて平らな物に映った虚像であることが解った。ユキのあげる悲鳴のような制止の声を無視して、手を差し出す。なんの感触もなく鏡の中に吸い込まれるのをみて、目をつぶって一気に飛び込んだ。

「ダメェ、サキさんだめぇーー!……ああ」


 目を開けるとそこは先ほど鏡に映っていた景色だ。目の前に腕を組んだ男と、女に後ろから抱かれたユキが立っている。ダンス室の寒さが消え、なま暖かい空気が肌を撫でた。何本も蝋燭の立った10畳ほどの石の部屋だった。

「さぁ、来たわよ。これからどうするつもり?」
 冴貴は身構えながら言った。
「ようこそ、我々の亜空間へ、暗黒のイブよ」
「あのねぇ、わたしには冴貴って名前があるんだから、訳のわかんない名前で呼ばないでよ」
「これは失礼、これから説明させていただきましょう。まず、我々は人間の性的な快楽を糧に生きている悪魔で、そしてこれが…」
 泣いているユキの方を指す。
「我々が貴女に送った招待状と言うわけだ」

「…?…招待状?」
「そう、貴女は強い力に守られているので普通の方法ではこの世界へ呼び寄せることができない。そこで貴女をここに連れてこられる人間を私たちで作ることにした。既に死んでしまっている畑山恵美の代わりに、畑山優一の髪の毛を元にして女性の体を作りだし、そこに優一の記憶を植え付けて生まれたのが、このユキだ」
 冴貴は優一の名前に覚えがあった。たしか恵美の兄だ。一人っ子の冴貴には、恵美がいつも「ダメ兄貴」呼ばわりしているのに、とても仲が良さそうなのが羨ましかったのを覚えている。
 それでユキは自分の名前を知っていたのだろうか?
 信じがたい話だが、真っ青な顔で、声を押し殺して泣いているユキをみると、本当なのかもしれないと思った。
「我々としても、そこまではしたくなかったのだが、そういう手段を取らざるを得なかった。さて、まず貴女が何者かから説明した方がいいだろう」

 男は全く光を反射しない漆黒の瞳をこちら向けていった。
「貴女は人間に生まれながら、我々と同じような力を持つ特異能力者なのだ」
「???」
 冴貴にはなんのことだか解らない。
「悪魔は人の世では制約が多くて殆ど活動できないが、貴女なら他人に対して能力を行使することが出来る。今はまだ眠っているが、われわれは貴女に存分に力を奮ってもらいたいのだよ。貴女を人の世に性の欲求と衝動をまき散らす『快楽の権化』とする事が、我々の使命なのだ。我々はそういう人間たちを、2千年前、同じようにして愛と自由を人々に浸透させた男にちなんで、『闇のキリスト』と呼んでいる」
「…………???」
 冴貴には全く訳が分からない。自分が特異能力者?霊能者みたいなものか?でも、自分に霊感があるとかそんなことは思ったこともない。

「しかし、『闇のキリスト』の存在は、人の秩序や信仰、奉仕を食べる連中にとって非常に目障りだ。そこで奴らは『因果律』という世界の土台を作っている法則を操って、我々が君のような能力者と接触することを妨害するのだ」

「………??いんが…りつ?」

「因果律とは運命のような物と考えればいい。たとえば我々がAという地点で貴女を待ち伏せれば貴女はBという地点を通り、Bという地点で待ち伏せれば貴女はAという地点を通ってしまう。我々は人間界では貴女に会うことも、話しかけることも出来ないのだ」
 男はそこで少し間をおいた。
「しかし、因果律は万能ではない。いくら堤防を塗り固めても実際に川がそう流れるかわからない。因果律を変えても、実際に因果がそうなるとは限らない。我々は貴女の人生に因果律の破れ目をみつけた。つまりそれが……畑山恵美の存在だ」

 視界の隅でユキがピクリと体を動かした。後ろから抱きつかれたままゆるゆると体を撫でられ、なすがままになっている。

「恵美…ちゃん?」

「そう、死んだ畑山恵美に残した貴女の『想い』が、因果律を破り、ここまで貴女を連れてきたのだ。ユキはその為の餌だったのだよ。我々の一世一代の『作品』だと自負しているのだがね」

「そんな……そんな……」
 ユキの小さな呟きが聞こえた。

「もちろん全て予想していたわけではない。ユキが貴女に会えるのか、貴女がユキに関わるのか、ユキが再びここに帰ってくるのか、貴女が一緒にくるのか。全てが不確かな賭だったが、我々の作ったルーレットは最高の目を出してくれたようだ。もっとも、それも貴女の無意識の願望の力でもあるのだが」

 想い出の中の恵美の存在まで汚されたような気がして、冴貴に怒りが沸き上がってきた。
「いい加減にしなさいよ!! 人のことおもちゃみたいに!!」

「怒るのはもう少し待っていただきたい。貴女は、この空間でもまだ因果律に守られている。会って話すことは出来たが、貴女の了承なしに我々が貴女に触れれば、我々は因果の流れにはじき飛ばされ、あなたが私たちに会ったという事実さえ消え去り、元の世界へ戻らされてしまう。
 つまり、貴女は自分で触って欲しいと言い出さない限り安全なのだ」

「……?それじゃ、なんのためにこんなところに………?」

「さて、そこで、このゲームのルールを説明しよう。この空間はあと三日で消滅する。それまでの間に貴女が『闇のキリスト』として『覚醒』すれば我々の勝ちだ。貴女は人間界へ戻ってセックスの権化となり、快楽を振りまくことになるだろう。セックスが人生の最大の目的となり、周囲の人間を巻き込みながら地上に快楽の王国を築くのだ」

(はぁ??セックスの権化??あたしが!?)
 冴貴は頭がクラクラしてきた。この男の言うことは、とても信じられない。ただ、その確信的な凄みのある口調と暗い瞳が、嘘だと笑い飛ばせない雰囲気を作っていた。

「そ……その『覚醒』とかいうのを、しなかったらどうなるのよ?」
「覚醒しなければあなたは再び元の生活に戻る。因果律の破れ目は二度となくなり、普通の人間として生きるだろう」
「ユ……ユキちゃんはどうするつもり?」
「ユキがどうするかはユキが決めればいい。我々は連れていっても解放してもどちらでもかまわない。本人が望むなら我々は男の体にするという約束を守らなければならない。もっとも帰る場所もないわけだが」

 ユキは妖しい女に背後から抱かれながら、声を出さずに泣いているようだった。

 ユキを弄んでいる女が口を開いた。
「あなた、セックスで感じたことないでしょう?」
 冴貴はギクリとした。
「間違っても貴女が『覚醒』してしまわないように、因果律がそうさせてるのよぉ。もし覚醒しないとセックスの快感知らないまま、おばあちゃんになっちゃうんだから。かわいそぉに。こんなにたのしいのに」
 そういってユキの右の耳たぶを噛んだ。
「…ぁん……」
 冴貴はユキの余りにも色っぽい声に驚いた。ユキの体が小刻みに奮えているのが見えた。

「さあそれではゲームを始めようか」
 シモツキの冷徹な声が開始を告げた。

第十章 硝子細工

「さぁてと、それじゃ早速サキちゃんにユキのエッチなところを見て貰わないとね」
 マフユがユキの体をまさぐる速度を上げ始める。乳首や性器といった敏感な部分に触れないようにしながらも、確実にユキの体から快感を掘り起こしていく。
「…ああっ……やめてください……サキさんの前では……おねがい……」
「そんなこと言ってセックスできないのが堪えられなくて、オマンコぬらして走ってきちゃったんでしょう?」
 そう言いながら徐々に撫でる場所を胸に移動してくる。
「……いや……言わないで……あぁん……やめて……うぅん」
「ほら、声がもうやらしくなってきてるわよぉ。気持ちイイんでしょう」
「……イヤァ……やめてぇ……お願いします……ああん」
「そんなこといってヌレヌレじゃない。触りたいんでしょう?」
「…できません……サキさんの前で……んっ……そんなこと……」
「がんばるわねぇ。よっぽどサキちゃんの事が好きなのねぇ。
 ……サキちゃんに欲情した?」
 ユキがビクッとして、目を大きく見開いた。
「ああっ、やっぱりぃ!! キスぐらいした?」
「…ああ…いわないで……いわないで……はぁん……」
「しちゃったのね? ねぇ、ちゃんといってユキちゃん。ちゃんといわないとサキちゃんに直接聞いちゃうわよ」
 そういうとマフユは背後からユキの股間にスラリと長い足を割って入れた。すぐさまユキはそれに秘部を押し付けるように腰を使い始める。
「…はぁん…しました……あぁん……イイ…」

 冴貴は目の前で起こっている現実が受け入れられずにいた。
 あの無口ではにかんだように笑うのがかわいかったユキが、胸を撫でられただけでクネクネ体をよじって喘いでいる。しかも、親愛の情の証だと自分に言い聞かせていたユキのキスは、欲情のキス? その上、ユキの卑猥な腰使い! セックスの経験の少ない冴貴にもそれが熟練の動作であることがわかった。マフユの太ももについた愛液が蝋燭にテラテラと濡れ光っていた。

「ずっとキスしてたかったんでしょう?」
 マフユはどんどん質問をエスカレートさせていく。それにつれて体に触れている指の動きも複雑さを増す。
「……いやぁ……いえない……」
「じゃぁ、サキちゃんの唇はどうでもよかったのね? サキちゃんのことなんてどうでもいいのね?」
「……サキさん……好き……ううぅん……あぁ」
「でも、ユキちゃんのエッチな喘ぎ声聞いて嫌われちゃったかもね」
「いやぁ……聞かないでぇ…サキさん……嫌いにならないで……好きです……スキ……」

 冴貴はこの同性からの淫靡で歪んだ告白に胸がつぶれる思いだった。

「さてと、そろそろおねだりを聞きたいわね」
 マフユはそういうとユキの擦り付けていた足を引き抜き、顔を横へ向けさせると、冴貴の方を横目で見ながらて猛然とキスをした。
 クチュ、クチュ、ヌチュ、グチュ、
 股間の喪失感と口内にからむ舌、そして頭の中に充満する3日ぶりのマフユの吐息。3日間何とか我慢してきた衝動が溢れ出し、ユキの理性は一気にショートした。
 チュバッと音を立てて舌を抜くと、ユキが叫んだ。
「ああん、ユキのオマンコさわらせてぇ……マフユさまぁ……おまんこぉ…」

 余りのユキの言葉に冴貴は呆然とした。
 余りの痛々しさに目を背けずにはいられなかった。

「よし、おもいっきりやっちゃえ」
 マフユがユキにそういうと、ユキを地面にしゃがませ大きく股を開かせた。ユキは右手の人差し指と中指を秘所に挿入しながら、左手でクリトリスをいじり始める。マフユも後ろから胸を揉む。
 凄まじい快感にユキの心は悪魔に陵辱され続けた日々に戻ってしまっていた。
「あああ!!これぇ!!これ、したかったのぉ!!」
 クチャクチャいう粘着質な音が、冴貴には聞くに堪えなかった。
「ほらっ、ユキちゃんがあんまりエッチだから、サキちゃん、あっち向いちゃったわよ」
「サキさん……ごめんなさい……ごめんなさい……はぁん……きもちいい……あぁん」

 自分に謝りながら喘ぐユキの声に冴貴はどうしていいか分からなかった。
「あんたたち!! ユキちゃんになにしたのよ!!!」
 冴貴は目を背けたまま言った。
「どうもこうもない。女の体の使い方を教えてやっただけだ」
 シモツキが答えながらユキの方へ歩き股間をユキに突き出した。

「ご奉仕させていただきます」
 ユキのそういう声を聞いて冴貴が思わずそちらのほうをみると、ユキの小さくて形の良い唇がシモツキのペニスを飲み込んでいる。ユキが顔を後ろにそらすと、そこから長大なペニスが現れてくる。出てくるシモツキのペニスはとてもユキの口に納まっていたとは思えない長さだった。しゃがんだ股の間でユキの細い指がズボズボと動いている。めくれた花弁の内側のピンク色の中身が見えていた。

 冴貴は恐ろしかった。自分には手を出さないといっているが、こんなもの3日も見せられたらそれだけで気が狂ってしまいそうだ。冴貴は部屋の隅にうずくまり目をつぶって耳を押さえ、ユキと買い物に行った事や、二人でご飯を食べたことを必死で思い出そうとしていた。ユキを連れて歩くと、妹ができたような気がして楽しかった。ほとんど喋らなかったが、ユキの行動の端々には冴貴への親愛の情と思いやりがうかがえた。あれが嘘だったとは思いたくない。

 しかし、ちらりと3人のほうを見たときその幻想は砕け散った。
 二人の体に挟まれユキは激しくつき上げられていた。すでに秘所にペニスをいれられ、出入りしているのが丸見えだった。しかし冴貴を打ちのめしたのは、ユキがシモツキの腕を自分の両手で持ち上げ、その腋毛に自ら鼻をうずめていることだった。まるでそれがバラの花であるかのように恍惚としている。
 その口から出ている言葉はさらに恐ろしい内容だった。
「あぁーん、ご主人様の匂いスキィ。オマンコイイぃん……。ああぅ…マフユさまのチンポも素敵ぃ…お尻の穴イイ……。キス……キスして…。ああ……またいっちゃう……イイィ…イクゥ、ユキイッちゃうのぉ」
 そのセリフの内容からマフユにもペニスがありアナルセックスを同時にしているのが分かった。そういう行為がある事だけは聞いたことがあった。

 理解の限界を超えた光景に冴貴はそれが観光地の絵葉書のように現実感のないものになっていた。
 呆然とその景色をながめ、なぜユキのためにこんなところへ来てしまったのかと考えていた。
 その内、異変に気づいた。
「…もうだめです……苦しい……だめ…またイッちゃう…だめ……やめて…」
 ユキが涙を流して懇願し始めた。足がピクピクと痙攣している。
 そのうち声もなくなりヒューヒューいう呼気だけになってしまった。

「もうやめて! ユキちゃん、死んじゃうよ!!」
 思わず冴貴が叫んだ。

 後ろになっているマフユが腰を使いつつユキの耳元を舐めながら言う。
「だいじょうぶよぉ……んん……イキすぎて苦しいだけだから……ん……死にはしないわよぉ……」
 そこでシモツキがピストン運動をやめた。
「貴女が自分の衣類を全て脱げば、やめてやってもいいだろう」
 冴貴はその勝手な言い草に怒りが込み上げた。
「私の服は関係ないじゃない!!」
「そうか」
 そういうと二人はまた腰を動かし始めた。
 二人の体に挟まれ、ユキの細い足が再び痙攣をはじめた。
「わかったわ!!脱ぐからもうやめて!!」
 そういうと勢い良くコートを脱いだ。
 寝る時はブラジャーをしていないのでパジャマの上を脱ぐとすぐに形のいい胸が露になった。ユキと違い小さい乳輪と乳首がそっとついているだけだった。やけくそ気味にズボンも脱ぎ捨てる。
 しかし最後の1枚でやはり手が止まった。

「ダメ……ダメ……ダメ……」
 ユキのか細い声が聞こえた。
 それはセックスを止めてくれと言う事か、冴貴に脱いではいけないといっているのか判断しかねたが、冴貴はそれが後者だと信じた。
 皮肉にも再びユキの声が冴貴の心を決めさせた。
 風呂に入る前のように無造作に脱ぐと横にポイと投げ捨てた。

 二人がユキを解放する。
 ユキが床に倒れるとドロドロした液体が大きく開いたままの2つの穴から大量に流れ出した。ユキの意識はとっくの前からないようだった。
 二人が立ち上がると股間にぬるぬるとした液体に濡れ光ったペニスが勃っている。
 その異常な光景に冴貴は心の底まで震え上がった。

 マフユが地面に落ちた下着を拾うとその股の部分を観察しクンクン匂いを嗅いだ。
「やだぁ、サキちゃんもベチョベチョじゃない。私たちのセックス見て感じてたのねぇ」
 冴貴は赤面した。
 するとマフユの手の中で冴貴の下着がメラメラと燃え始めた。
「ちょっと、なにすんのよ!!」
「われわれは貴女には手を出さないといったが、脱いだ衣類は貴女ではないのでね」
 シモツキがそういった。
 マフユが地面に落とした下着は股間の濡れた部分を残して灰になる。それが冴貴の羞恥をますます煽る。マフユが手を放すと燃え残った部分も溶けるように消えていった。
 見回すとすでに他の衣服もなくなっていた。

 マフユが近づいてきてサキの体を舐めるように見回す。
 冴貴はその体から上がる不快な体臭に顔をしかめた。
 マフユが冴貴の股間に顔をよせる。
「愛液が太ももまで垂れてるわよぉ。サキちゃんも案外エッチなのねぇ」
 シモツキが少しだけ口元の端をつり上げた。
「入れて欲しくなったらいつでも言うがいい」

「だれがいうもんですか!」
 恥ずかしさを押し隠し、冴貴は精一杯の虚勢をはる。
「フフッ、まぁいいだろう。いいものを置いていこう」
 そういってシモツキが右手の人差し指を口に当てるとそれを地面に押し付けた。するとその部分の石の床が垂直に男性器の形に盛り上がった。

「ちょっとなんのつもりよ!」
 冴貴がその露骨な形にあせる。

 いつのまにかその正面に巨大な鏡が出現していた。
「ではまた明日お目にかかろう、『闇のキリスト』よ」
 そういうとシモツキは鏡の裏へと消えていった。

「じゃ、私もお土産に」
 マフユがしゃがんで石の壁の腰より下ぐらいにキスをすると、そこから同様に男性器の形が水平に盛り上がった。
「まぁ、念のためにね。ユキちゃんのあと頼むわよ」
 そういうと鏡の裏へ消えていった。


 二人きりになって、冴貴はユキのほうを見た。いつのまにかユキのそばに大きな木のタライが暖かそうな湯気をあげているのに気づいた。他にも小さなベッドとテーブルが見える。
 裸でいるのは落ち着かなかったが、なにも他にすることがないので、ユキの汗で濡れ光る体を拭いてあげようと思いユキを抱え上げる。
 汗で滑る華奢な体をタライに座らせて、そばにあったタオルで拭き始めた。

「サキさん…ごめんなさい……」
 いつの間にかユキは目覚めていた。冴貴を見つめるその大きな瞳は今にも泣き出しそうだった。
「いいのよ。ユキちゃんが来るなっていうのを無視したのは私なんだし」
「あの……」
「何?」
「私の事……嫌いに…なりましたか?」

 冴貴はまじまじとユキを見た。セックスしているときのユキは正直言って怖かった。みたこともないセックスで喘ぎ狂うのをみていると、ユキが人間ではなくて、あの二人と同じモノに思えた。
 しかし、いま悲しそうな目でこちらを見ているユキをみると、どうしても邪険にはできなかった。

「ばかね……そんなわけないよ」
「キス……したりして……ごめんなさい。ずっと、我慢してたのに……。どうしても……」
「いいのよ…気にしなくても……」
「わたし、自分ですると声出ちゃうから……ずっと我慢してたのに……」

「もういいって!!」
 性的な事を言われて、苛立ちが声に出てしまった。

「……ごめんなさい………ごめんなさい………」
 ユキが泣きそうな声で謝った。
「いいのよ…ほんとに。……大きな声出してごめんね」

 そのまましばらく、無言でちゃぷちゃぷと拭いていた。

「ねぇ、ユキちゃん……」
 しばらくして冴貴はどうしても聞きたいことがあって口を開いた。
「ユキちゃんは恵美ちゃんの事、知っているんでしょう?」
「ええ……妹だったから……。少なくても……記憶でだけは……」
 冴貴はユキの自嘲気味な表情を見ると胸が痛んだ。
「恵美ちゃん……私がお見舞いに行かなかったこと……恨んでたかな?」
 その疑問は恵美が死んでから何年間も自分を苦しめてきた。
「いえ、そんな……恵美はサキさんのこと尊敬してたから。母が何度もサキさんを呼びに行こうっていったのに、本人が『受験勉強の邪魔したくない』って言い張って。『サキさんは私の目標だから、大学に合格して貰うのが一番のお見舞いだ』って……。そういえば、志望大学に合格したんですよね。きっと天国で喜んでると思います」
「そう……そうかな。……そうだといいな……」
「……ええ……きっと……」
 冴貴はそれが聞けただけでも、こんなところに来た甲斐があったと思った。

 その後、小さなベッドで二人で一緒に寝た。ユキが床で寝ると言い張るのをなだめるのが大変だった。
 ベッドにはいるとユキはすぐにスヤスヤと寝息をたてはじめた。冴貴の自宅での不眠症を思うと嘘のようだ。あんなセックスをしないと満足に眠ることすらできないこの少女をどうすればいいのだろうか?
 つれて帰っても家族も何もないのに。あの二人と一緒にいる方がいいのだろうか?
 冴貴には解らなかった。

(それにしても……)
 ユキの髪を分けながら冴貴は思う。
(キレイ……)

 男でもなく、女でもなく、清楚であり、売女である。
 一人の男の心を粉々に砕き、その透き通ったかけらだけで組み上げた繊細なガラス細工。
 まさに『作品』と呼ぶに相応しかった。



第十一章 砂時計

 それは卑猥な夢だった。
 しかし目が覚めたときはどんな夢だったか忘れた。
 冴貴はその暗い部屋がどこか一瞬わからなかったが、横で未だにスヤスヤと寝ているユキを見て思い出した。

 冴貴が自分を不感症だと思い始めたのは高校生の時だった。
 ごく親しい友人と話をしていて、どうも自分がそうではないかと思い始めた。
 大学に入ってからつきあい始めた男にバージンをあげたが、陸上選手だったためか、痛いだけで出血もなく終わってしまった。何度かやってみたがダメだった。別れてしまった後、セックスの時に喘ぎ声一つあげないマグロ女だという噂を立てられ、それ以来、特定の男を作る努力をしなくなってしまった。
 もっと年齢が上がったら、肉体関係より大事な関係の男性ができるだろうと思うことにした。

(なんていったっけ? 因果律?)
 自分の人生が性的快感には縁のない運命だと言うようなことを言っていた。
(もしそれが本当なら、あたしと結婚する人は可哀想かもしれないな)
 胸を揉まれて眉をよせて喘ぐユキの表情は色っぽかった。
(ちょっとうらやましいかな?)
 すぐに二人の間で蠢いているユキの痴態を思い出す。
(あれはこまる)

 狭いベッドに裸で二人で寝ていると体を密着させなければならなかった。人肌が気持ちいいのかユキがすり寄ってくる。その仕草が可愛くて、肘の上に頭を載せてずっと見ていたら、いつのまにか再びまどろみ始めた。

 目を開けると凛とした美しい女性の顔が目の前にあってドキリとした。
 久しぶりに十分な睡眠をとってユキは気分が良かったが、そこが冴貴の家の客間でなく薄暗い石の部屋なのを見て、悲しい気分になった。
(サキさんを巻き込んでしまった)
 深い後悔の念が湧いてくる。
 2週間にも満たない本当の自分の人生で、冴貴といた時間だけが自分が生きていた時間だった。
 冴貴の家から飛び出した時、冴貴から離れてしまえば自分の心は死ぬのだろうと思った。
 心が死んでしまえば、セックスに狂った獣になるのだろうと思っていた。

 今、『自分』が生きているのは、隣に冴貴がいてくれるからなのだ。

 涙が止めどなく溢れてきた。
 自分は秘密を知ったとき死ぬべきだった。学校に来てしまったのも、セックスの快楽が忘れられない自分の意志の弱さが招いたことだった。自分の卑しさが冴貴を巻き込んだのだと思うと、かろうじで快楽に冒されきっていない心が引き裂かれた。

 ユキが泣いているのを感じて冴貴の目が覚めた。
「ユキちゃん、どうしたの?」
 ユキは泣くばかりで答えない。
 しかたないのでそのままにしておくと、ユキがぶつぶつとつぶやいている。
「……ごめんなさい……ごめんなさい……」
 小さく何度も謝るユキの髪をなでながら、やはり自分はこの子を連れて帰ろうと、決心した。

 しばらくしてユキが泣きやむと、二人は起き上がった。
 トイレに行きたかったが、ユキは壺のような物しかないという。背に腹は代えられず二人でかわりばんこに用を足した。あたりが小便臭くなるのが惨めだったが、努めて無視した。
 パンと水で二人が無言の朝食を済ませた頃、シモツキとマフユが現れた。

「サキちゃんもユキちゃんもよく眠れた? あら? おしっこ臭いわねぇ」
 そういって、部屋の隅においてある壺のところまで行き、壺を覗き込んだ。
「二人ともこんなに美人なのにおしっこの匂いはやっぱり臭いわね」

 冴貴は自分の用を足した壺の匂いを批評され恥ずかしかった。ユキも下を向いている。

「ユキ、来い」
 シモツキが短く命令すると、ユキは悲しそうな顔で冴貴を一瞥した後、フラフラとシモツキの方へ引き寄せられていった。いつの間にか家具は冴貴の座る木の椅子と鏡しか残っていない。立ったままシモツキに抱き寄せられると、ユキはふんふんと逞しい胸元の匂いを嗅ぎ、うっとりとその乳首を舐める。
「しばらくは、何も喋るな」
 シモツキはそう命令すると、ユキの小さい体を包み込むように抱き耳元を優しく舐め始めた。

 昨日とは随分ちがう成り行きに冴貴は驚いた。思わず二人に見入ってしまう。

 ユキは全身で優しく愛撫される喜びをあらわし、鼻からもれる甘い声をあげ続けた。
「んふぅ……はぁん……はあぁ……ん……」
 しばらくそうした後に、シモツキが尋ねた。
「そろそろ、入れるか?」
 ユキは上目遣いにシモツキを見て答えた。
「はい……ご主人様」

 そのままユキは床に仰向けに寝かされ挿入される。シモツキが顔を近づけると、ユキの方から熱烈なディープキスをした。
 シモツキが昨日のような強烈なピストン運動ではなく優しくゆっくりした腰使いでユキを攻めると、ユキは再び甘い声を上げ始めた。いつものような強烈な快感ではなく、緩やかなかわりに終わりのない責めに体中で幸福感を表していた。

 昨日に余りにも世離れしたセックスを見せられたせいか、サキにはそれがひどく当然の行為に思えた。自分が処女だった頃、なんとなくこんな物ではないかと考えていたセックスがそこにあった。
 ふと、自分の秘所に触ってみる。
 ……クチュッ……
(……あンッ……。……やだ………あたし濡れてる……)

「あなたはあんな風に抱かれてみたくないの?」
 心臓が口から飛び出そうなぐらいに驚いた。
 後ろから話し掛けてくるマフユには、いつものようなおどけた調子がない。
 振り返ると、いつの間にかマフユは木の椅子に座っていて、側の小さな丸テーブルに肘をおいていた。
「あんな風に男に身を任せみたくはないの?」
 その真っ直ぐな口調にサキはドキリとした。
「この部屋では因果律の力は弱いわ。貴女にも普通の女性の幸せがわかるわよ」
 こちらを真っ直ぐにジッと見つめる深い井戸のような暗い瞳を見ていると、自分がそこへ落ち込んでいきそうだった。

 ふと気づくと丸テーブルの上に紙の束が置かれていた。
「これがなにかわかるかしら?」
「?」
「これはユキの戸籍や住民票、その他、学歴とかそう言う物よ」
「!!」
「私たちの力は人間界では殆ど使えないけど、紙切れを偽造してどこかの引き出しに置いておくぐらいわけないわ」
 それはもしユキを連れて帰るとしたら、絶対に必要な物だった。
「これを賭けて、ちょっとしたゲームをしないかしら?」

「何をすればいいの?」
 冴貴は聞かずにはいられなかった。冴貴はまだ悪魔と取り引きするということがどういうことか知らなかった。
「この砂時計……」
 いつの間にか紙の束を押さえつける様に年代物の大きな砂時計が置かれている。
「10分で落ちるんだけど、その間、そこで寝ているユキとキスしていられたら、あげてもいいわ」
「え……?!」
(それだけで?)
 最近大学仲間の飲み会で、女同士で軽くキスするのが流行っていたので、同性とキスするのはそれ程抵抗がない。そんなことでユキの人生が楽になるなら安いものだ。

「……ダメ……サキさん、ダメ。その人たち嘘はつかないけど……人を騙すの………」
 その声に振り返ると何時の間にかシモツキに解放されたユキが、半身をおこしていた。
 笑みを浮かべながらマフユが言う。
「そう、私たちは人を騙すけど嘘はつかないの。口にした約束は絶対守るわよ」

 冴貴は殆ど考える間もなく言った。
「……やるわ!」
「サキさん、やめて!!」
「いいのよ別に。私も清純な生娘ってわけでもないんだし」
 そう言うと努めて平静を保ちながらスタスタとユキの側による。
 いつの間にかシモツキがテーブルのマフユの反対側に座っていた。

 冴貴はユキの体をまたぐようにして膝立ちになった。
「目をつぶってくれるかな?」
 冗談っぽく言おうとしたが、少し声がかすれた。
「………」
 ユキは何か言おうとしたが、結局なにも言わず、言われたとおり目を閉じた。
 冴貴は前に垂れる邪魔な髪を耳にかけて、そっと唇にキスをした。
(ユキの唇はやわらかいな………)
 そんなことを考えていた。

 異変は3分もしない内に訪れた。
 それまでユキの中では激しい葛藤が繰り広げられていた。
 触れ合う肌から伝わる冴貴の体温、その感触。おなかのあたりに微かに感じる冴貴の陰毛。香料の香りに混ざった微かな甘い体臭。触れ合う胸。鼻から吐き出される呼気。どれ一つとってもユキの心を溶かすのに十分だった。
 それがどれほどの誘惑かユキ本人すら解っていなかった。
 ユキは初めて自分がどうしようもない人間に作り替えられてしまっていることに気付いたが、既に手遅れだった。
 3分もったことの方が奇跡だった。

(!?)
 急に唇を強く吸われ冴貴は驚いた。その瞬間唇を割って舌が入ってくる。
(えっ……えっ………)
 反射的に顔をあげようとするが、ユキの手にがっちり捕まっていた。ユキの舌はそのままサキの口の中をまさぐり、舌に絡んでくる。
 ユキの巧みな舌使いに、冴貴はなすがままに口を開いた。
 ダラダラと流れ出す涎を気にする様子もなく、歯を一本一本舐めあげるような舌の愛撫はとどまるところをしらなかった。無意識に冴貴の舌もそれに反応して、クネクネと動き出し、ついにはユキの口の中へと割って入ってしまう。冴貴には自分の乳首が痛いほど尖っているのが解った。
 ……クチャ……クチュ……クチュ……
 頭の中に響くいやらしい音を聞くと、余計にそんな音を立てたくなるのが不思議だった。

(わわっ!?)
 急に体の下でユキの小さな体が跳ね上がり体勢をいれかえられた。途端に上になったユキに胸をグイグイ押しつけられる。同時に足も絡められ身動きを封じられた。臍のあたりにユキの恥毛が擦りつけられている。
(ちょっと!? ユキちゃん………やめてよ……やだよ……)

 そんな気持ちが通じたのかユキが口を放して顔を上げた。その大きな潤んだ瞳が、零れ落ちそうなほどの冴貴への好意をたたえている。冴貴はそのあまりのひたむきさに胸を締め付けられ、黙ってもう一度目を閉じた。
 再開されたキスの、嵐のような感覚に翻弄されていたため、股間をなで上げられたときになって初めてユキが二人の体の間に右手を差し込んでいることに気づいた。
 慣れた手つきでクリトリスを剥きあげられ細い指で摘まれると、腰骨にジーンとした感覚が広がった。
 互いに押しつけあっている乳房からも甘い感覚が込み上げてくる。
 さらにもう一方の手で花弁も弄ばれると勝手に股が緩んでしまう。
 冴貴は下半身から突き上げてくる得体の知れない熱い感覚に飲み込まれてしまっていた。上半身は上半身で、ユキの乳首に尖った自分の乳首が微妙に刺激され、うねるように動いてしまっている。
 自分の膣に大量の熱い液体が滲み出すのを感じた。

 冴貴の体から力が抜けるのを確認してユキが口を放した。
「……んっ……ぁん……あぁん……」
 冴貴の喉から色っぽい喘ぎ声が響く。
(……?!……これ……あたしの声……?)
 冴貴は自分の出すあまりに色気のある声に自分自身で驚いた。
「サキさん、イイの?」
 熱っぽい口調ですぐ目の前のユキが尋ねる。
 熱い吐息が顔をくすぐった。
「ううぅん……イイ……イイわ……」
 今まで感じたことのなかった感覚が、ユキの囁きで快感であることに気づいた。それは突き上げられるような、締め付けられるような、やめて欲しいのに、続けて欲しい狂おしい衝動だった。
 相手が同性であるというのに、ユキが愛しくて力一杯抱きしめていた。目にはうっすらと涙すら浮かんでいる。冴貴にとってはそれほどの、初めて出会う感情と感覚の入り交じった嵐だった。

(あたし……レズだった……け?)

 冴貴は気付いていなかった。
 この部屋で一番危険だったのは唯一冴貴に触れることの出来るユキだった。
 冴貴はこの部屋に入ったときから、敵に囲まれていたのだった。

 ユキが冴貴の秘所に指を挿入し、抜き差しし始めた。反対の手で自分の秘所を弄る。
「ああん……うんん……ああ……イイよぉ……ユキぃ……気持ちイイ……」
 恍惚の表情で自分の快感を告白する冴貴を見て、ユキの中の悪魔に作られた部分がますます勢いを増していく。
「…サキさん……イク時は一緒に……んん……」
 ユキがどんどん指を速めていくと、それに併せて冴貴の呼吸も速くなった。得体の知れない熱いものがこみ上げてくる。
「ハッ…ハッ…もうだめ……なんか来るよ……来るぅ……」
「ああ……サキさん……あたしも…はあん!!」
「あぁん! だめぇ!! うああぁぁ!!」
 二人はほぼ同時に絶頂を迎えた。初めて味わうそのあまりの快感に冴貴は圧倒された。
 二人の体の震えが収まった時、冴貴は思わずにはいられなかった。

(……すごい……こんなモノがあったなんて……)

「うふふ、賭けはわたしの負けね……」
 マフユは二人の痴態を眺めながら、片手でとっくに落ちきっている砂時計を弄んでいた。


第十二章 破戒

「ユキ、欲しいか」
 椅子に座ったままのシモツキにそう言われると、浸っていた余韻も忘れて、ユキはシモツキの上に登りついた。
「ご主人様、オマンコさせてください」
 といいつつ返事も聞かない内に自分から腰を下ろしていった。すぐさま卑猥な腰の動きで喘ぎ始める。
「ああん……チンポいい……奥が……奥がイイの」

 冴貴は地面に寝ころんだままぼんやりとその光景を見ていた。急に、のし掛かっていた暖かい重みがなくなったのがなんとなく淋しかった。

「うらやましいでしょう?」
 寝ころんだまま振り返るとすぐ目の前にマフユが立っている。足下には昨日から生えている石のペニスがある。
 マフユは自分の花弁を自分で広げると、ゆっくりとしゃがみ込みそのペニスをさし込んでいった。
「今の貴女なら、さっきのよりすごい絶頂を迎えられるわよ」
 冴貴の目と鼻の先で石のペニスが全てくわえ込まれた。
「さっきの………より……?」
 いまだに小波のような快感が体に揺らいでいる。

 マフユは今度は腰を持ち上げながら話し続ける。
「そう、体の奥が疼くでしょう? 表面を撫でられても満たされない思いが募るでしょう?」
 出てくる石のペニスに花びらが巻き付くようにしてめくれ出てくる。石のペニスが濡れ光っていた。
「もし、正直にいうならこれを貸してあげてもいいのよ」
 そう言いながらまた自分の中に納めていく。
「私がやり方を教えてあげるから………」

 すぐ目の前で繰り広げられる淫らな光景に冴貴は見入っていた。
 昨日、ユキのセックスを見たとき嫌悪感すらあった女性器への挿入場面がなぜかとても魅力的な物に見えた。股間が熱くなり、また愛液が流れ始めた。マフユのそこから匂い立つ動物的な臭気も、嫌な匂いなのにもっと嗅ぎたくなった。

「大きな声で喘いでみたくないの? 淫らに腰を振ってみたくないの?」
 隣ではユキがシモツキに抱かれて大きい声で喘いでいた。
(……ああ……きもちよさそう………)
 初めてユキの喘ぎ声が気持ちよさそうだと感じた。
「さぁ……いいなさい。もう、いえるはずよ」
 炎のように熱い囁きが冴貴の脳髄を灼いた。

 冴貴はもう自分がどうしたいか解ってしまっていた。
「………いれてみたい……」

 マフユはニヤリと笑って、ゆっくりと床に生えた石のペニスを抜くと横へどいた。
 冴貴がノロノロと立ち上がり石のペニスを跨いだ。
「鏡が見える様に跨いでね。チンポに手を当てて場所を調制するのよ」
 マフユに言われるままに鏡の方を向いて石のペニスに手を当てる。それは既にマフユの愛液でヌルヌルになっていたが、嫌悪感はなく、むしろもっと触っていたくなった。マフユがさしていたせいか冷たくはなかった。
「そのまま、ゆっくり降ろして。あわてたら台無しよ」
 そのまま股を開いて腰を下ろしていく。
(……いやらしい……こんなのって……こんなのって……)
 鏡にうつる自分の姿を見つめながら冴貴は思った。普段は元気で快活なことを信条とする、あの横山冴貴が、自分から股を開いて、血の通っていないペニスを自分の中に咥え込んでいく。半開きの口、欲情に潤んだ焦点の合わない目。自分が違う人間になってしまったようだった。
 鏡の向こうにセックスを中断してこちらを伺うシモツキとユキが見えたが、腰は止まらなかった。
 初めて味わう充足感に、大きな声がでた。
「んっ……あああぁ……」

 ヌルリと入ってしまった大きな石のペニス。時折、ギュッと締め付けてしまい痛いぐらいだったがすぐに慣れた。
「ハァ……ハァ……んんっ……ハァ……」
「いいわよぉ。エッチよぉ。ゆっくり感触を味わうように腰を動かせて」
 マフユの言葉に従って、ぎこちなく腰を使い始めた。
「あぁん……ああ……あ……ああ……」
 粘膜のこすれる感触にゾクゾクする快感が上がってくる。
「もっと喋るのよぉ。大きな声でエッチなこというの。自分の恥ずかしい心を出しちゃうのよ。ユキよりエッチなこと言ってみて」
(……ユキより……)
 快感に霞む脳味噌を振り絞ってユキがどんなことを言っていたか思い出す。
「……あ……あたしの……お……おま……くうっ……だめっ……そんなのいえない!」

「いいえ貴女は言えるはずだわ。いったら快感はもっと増えるわよ」
 もっと快感が増えるというのは、今の冴貴への殺し文句だった。
「……くっ…あたし…の……サキのオマンコ……イイ……いやぁ……いわせないで……」
 そういいながらも、恥ずかしい言葉を口にしただけで心臓は一段と鼓動を増し衝動は高まっていく。
 徐々に腰の動きもスムーズになり、擦り付けるような動きに変わってきた。
(……きもち……いいよぉ……もう……だめだ……あたし……)

 マフユが嬉しそうに冴貴に囁いた。
「ほら……腰、止めてみなさい」
 冴貴はその言葉で自分の体が既に意識の支配を離れていることに気付いた。
「……いやぁ……とまんない……かってにうごくのぉ……かってにぃ……」
「もう、恥ずかしい娘ねぇ。サキもすっかり淫乱ね?」
「はあん……あたし……インランです……ああ……恥ずかしい……」
「ほら鏡の向こうから二人がみてるわよ」
「ああ……見ないで……見ないでよ……ああん……はぁん……」
 言葉とは裏腹に鏡で二人の視線を感じると、二人によく見えるように自ら思いっきり股を開いた。
「ユキばっかり淫乱みたいな目で見てさ。自分の方がエッチだったんじゃない」
「ああ……ユキ、ごめん……ああん……あたしもぉ……インランだった……ごめん……」

 ユキはあの優しくて頼りがいのある冴貴が、自分と同じようにセックスにのめり込んでいくのをみて悲しかった。あの太陽のように明るかった冴貴が、薄暗闇に蠢く獣になってしまったのは自分のせいなのだ。自分がまた冴貴を貶めたのだ。
 しかし、冴貴の放つ色気は凄まじかった。その喘ぎ声をきくと、自分の中の女が暴れ出し、シモツキのペニスが収まったままの粘膜を締め上げるのだった。

「そろそろ口もふさいで欲しくなってきたでしょう?」
 そう言われると、口が寂しくてどうしようもなくなる。先程のユキのキスの感触と味を思い出し、また欲しくなった。
「……うん……キスしてぇ……。ユキぃ…ねぇ、ユキぃ……キスしてよぉ……」
 甘えた声でうなされるように言う。
 すでに両腕は自分の胸をむちゃくちゃに揉んでいた。

 その言葉をきいてユキが向かおうとするが、シモツキにがっちり押さえられた。

「私がしてあげてもいいわよぉ。欲しかったら自分からお願いしなさい」
 マフユが酷く勝ち誇った顔をしていることに冴貴は気づかなかった。

 このとき横で見ていたユキには、マフユの意図が解った。
「サキさん、だめよぉ!! だめぇーーー!!」

 冴貴にはユキの声が聞こえていたが、なにがダメなのか解らなかった。
 それより、ユキがすぐにキスしてくれないのが不満だった。
 その言葉はあっさりでた。

「誰でもいいから、キスしてぇ。……キスぅ……」

 冴貴自身から接触を求めたこの瞬間、冴貴を守っていた因果律が弾け飛んだ。
 冴貴は自由を――糸の切れた凧のような不安定な自由を――手に入れた。
 蝋燭の光は変わらないのにこの部屋の影が濃くなったように見えた。

 因果律の守りがなくなった冴貴の口にマフユが貪りつく。
 どんどん飲み込まされる唾、吹きかけられる嫌な匂いの口臭、熟練の舌使い。
 ユキの燃えるような熱いキスと違い、まとわりつくような麻薬的なキスだった。
(……すごい……すごい……イイ……イイよ……)
 冴貴はなすがままに、腰の動きすら止めてマフユの舌使いに没入した。

 シモツキが素早くユキを降ろす。ユキは、いつの間にか自分の首輪に鎖がついていて、壁から殆ど動けなくなっていることに気付いた。
 シモツキは冴貴に近寄ると、体ごと持ち上げて石のペニスから抜き、自分のペニスを挿入した。
「んぐぐぐ!!」
(何!?……なんなの!?……熱い……すごい気持ちイイ……)
 シモツキはすぐに容赦のないピストンを開始した。マフユが口を放すと、出口を失い冴貴の体の中に充満していた声が口から溢れ出した。
「うあああ…熱いぃ……ああぅっ……ああー……あぁぁあーー!!」
 叫び声ような喘ぎ声を出しながら、目の前のマフユの胸に抱きつく。

 初めて味わう男の与えてくれる快感に魂が震えた。下半身をシモツキに押さえられているのに、それでも足りないとばかりにシモツキの体に足をきつく回し、狂ったように腰をうねらせる。シモツキも巧みな腰の動きでそれを迎え入れつつ、冴貴の急所を探し当てながら、快感を上乗せしていった。
 上半身をマフユに、下半身をシモツキにあずけながら、冴貴は息も絶え絶えに快感をむさぼった。自分がイキながらも、なりふり構わず腰を動かし続け、続けざまに絶頂をむかえた。
「はっ……すごっ……あん……だめ……ああ……」
(気持イイ……こわれるぅ……こわれちゃうぅ……)
 心が壊れるのか体が壊れるのかは良くわからなかった。
 
 冴貴が数回の絶頂を迎えるまで突き続けた後、今度はシモツキはユキに一番最初の日にやったように、ゆっくりしたピストン運動から時間をかけて徐々に速めていった。あの時と違うのは既にマフユが指を使って肛門を弄っていることだった。すぐに激しい絶頂が訪れそのままイキッ放しでしばらく過ごした。

 一時間後には浣腸され、おなかが痛いのを我慢しながらセックスするのが気持ちいいことをしってしまった。そのまま便をもらすと小便も一緒に出て、それだけでイッてしまった。

 二時間後にはシモツキのペニスを喉の奥まで飲み込めるようになった。ペニスを咥えながら自分の性器を弄ると、自分の惨めさに興奮した。

 三時間後には仰向けになったシモツキのペニスを口にくわえながら、初めてのアナルセックスの痛みに涙を流した。裂けた肛門はよがり声を上げ始める頃には癒えていた。

 四時間後にはマフユに女性器を舐めさせられていた。命令されなくても尻の穴まで舌を入れた。そのまま小便をかけられると、いわれるままに飲んだ。

 五時間後にはアナルセックスだけで絶頂を迎えられるようになった。

 その後、様々な体位で連続して犯され、何度か気が狂うかと思った。

 二人の悪魔が鏡の裏に消えていったとき、体中の性感帯をこじ開けられた女が二つの穴から精液を垂れ流して横たわっていた。胃の中も精液で一杯だった。


 ユキは目の前に広がる余りにも恐ろしく甘美な陵辱シーンになす術なく、壁に繋がれたまま泣きながら自分で自分を慰めて、何度も何度も一人で絶頂を迎えた。



第十三章 前夜

 前日とは逆に今度はユキが冴貴の体を拭いていた。
 冴貴が目を覚ますと、ユキに背中を預けながら木のタライの座っていた。下半身に力を入れると肛門から精液が出る感触が気持ち悪かった。
 撫でられるだけで体がピクピクと震え、自分の体が別な物になってしまったような違和感を感じた。

「ああ……ありがとう……」
 冴貴は泣きながら体を拭いてくれているユキに話しかけた。

「サキさん……わたし……わたし……大変なことを……」
「ユキの…せいじゃないよ……。
 ほら、私って馬鹿だからさ…いっつも自分から失敗するんだ……」
「そんなこと……ありません。私がいけないんです! キスするだけのはずなのに……。どうしても、サキさんの唾が欲しくなって……」
「……唾が欲しいか……ふふ……ユキらしいや。
 ………でも、ユキのキス上手だったよ」

「えっ?」
 冴貴から意外な言葉が返ってきたのでユキは驚いた。

「あたし、自分のこと不感症だと思ってたからさ、あんまりセックスには興味ないふりしてたんだ。でも、ユキが可愛い声で喘ぐの聞いてさ、『男の人ってこういう女の子が好きなのかな』ってちょっとうらやましくて……。ユキにエッチして貰ったときに、『ああ、自分はこんな声で喘ぐんだ』って思ったら、自分でも興奮して止まんなくなっちゃったんだよね。
 ほら、でもこれでユキと一緒になっただけだし」

 最後の一言がユキの心に染みた。
 ユキはその潤んだ瞳で真っ直ぐに冴貴を見た。
「サキさん……わたしのこと…一緒に連れていって…くれますか?」
 冴貴はさも当然のことのように答えた。
「当たり前だよ、その為にこんなところまできたんだから。二人一緒に色狂いになっちゃったけどね」
 冴貴の飾らない言葉が嬉しかった。
「……うれしい……」
 ユキがまた泣き始めた。
「ほら、もう泣かないで……。美人が台無しだよ」

 その夜、二人は抱きしめ合いながら眠った。



第十四章 覚醒

 冴貴は隣にユキが寝ていないのに気づいて目が覚めた。

 起きてみると、シーツの端を噛みしめながら喘ぎをこらえつつ、床から生えるペニスを秘芯に出し入れしているユキが見えた。

「ちょっと、ユキ。朝からそれはないんじゃないの?」
「………ごめんなさい……昨日……あぁん……あんまり……して貰わなかったから……うぅん……」
 シーツを口から放して、ユキが喘ぎ始めた。
「床から…生えてるの…見てたら……あんっ……我慢できなくて……」

「いいわ、見ててあげるから」
 冴貴が寝転がったまま肘をついて見物し始めた。
「いやぁん……じっとみないで……ああん……はずかしいです……」
 そう言いながらも冴貴の方に大きく股を開きクリトリスを弄り始める。
「ユキ、もうおまめがビンビンよ。気持ちいいんでしょ?」
「……うん……いいのぉ……イイ……」

 冴貴はそんな会話を自然にしている自分が不思議だった。
 ユキを見ながら自分の秘所に指を入れてみる。
 ……クチュ……
(あたしまで濡れてきちゃったよ)

 昨日あれほど犯されたのに、セックスに対する忌避の心が微塵もない。それどころか心の中にセックスに対する抵抗がなにもなかった。男だろうが女だろうが誰かの性器にむしゃぶりつきたいぐらいの気持ちだった。
 悪魔達の余りの手際のいい陵辱に、冴貴の理性は鮮やかに破壊されていた。

 冴貴は立ち上がるとユキの側まで行く。そのまま四つんばいになると、すぐ横の壁から突き出ている方の石のペニスに高さを合わせた。
「結構、むずかしいな」
 それでもなんとか狙いを定めると、石のペニスをくわえ込んでいく。
「……ううぅん……」
 奥まで入れると自然に声がでる。それだけでイッてしまいそうだった。
「はぁ……信じらんない……メチャクチャ気持ちイイ……。
 さぁユキ、こっちに顔出して……」
 自分も顔を突き出すと、ユキが首を伸ばして唇に吸い付いてきた。首が痛かったがそのままキスをしながら二人でイクまで腰を振った。

 テーブルで水とフルーツを食べ終わっても、依然悪魔たちは出現しなかった。

 裸で座っていると腰が痛いのでいつの間にか二人で狭いベッドに寄り添っていた。
どちらからともなくじゃれ合い始めたが、すぐに体の大きい冴貴がユキを組み敷いた。
 冴貴がクンクンとユキの体の匂いを嗅いでいく。

「サキさん……恥ずかしいです。やめてください」
「前から思ってたんだけどさ……」
「はい……?」
「ユキって首が臭いよね」
「!?」
 長い間、首輪がつけっぱなしなので、そこから異臭を放っていた。
「いやぁ……サキさんの意地悪!!」
「でもさ」
 冴貴がユキを押さえつけながら首筋の匂いを嗅ぐ。
「あたし、この匂い好きなんだ。興奮しちゃうんだよね」
 そういって、鼻を押しつける。そして片手でユキを押さえつけながら、もう一方の手でユキの秘芯に指を這わせた。
「いやぁん、匂いかがないでぇ……はずかしいよ……あぁん」
「だめ。あたしの気がすむまで匂い嗅ぐんだから……」
 ユキはそれが冴貴の望む事ならと抵抗を諦めた。
 冴貴は抵抗が無いのをいいことに、そのまま羞恥に悶えるユキを絶頂を迎えるまで、指で責め立てた。

 それでもまだ悪魔たちは来なかった。

 冴貴がもう慣れっこになった、部屋の隅での壺での小便をし終わって、タライの水で洗おうとした瞬間、ユキに押し倒された。
「ちょっと、ユキ、なにすんのよ」
 冴貴の抗議の声を無視して、ユキはまだ小便のついている冴貴の秘芯を舐め始める。
「なにしてんのよ!! 汚いって! はなしてよ!」
「さっきの仕返しです。わたし、サキさんのだったらおしっこでも舐められます」
 冴貴は、その率直で歪んだ言葉が嬉しくて、股間を濡らした。
 そのまま肛門まで舐められ、肛門に指を入れられたところで果てた。

 二人はその内、悪魔たちが来ないことを疑問に思わなくなり、じゃれあっては相手の体を舐め続けた。お互いに体に唾の匂いがしないのは髪の毛だけという状況になってもやめなかった。
 どちらもその爛れきったじゃれ合いが健康的ではないと思ったが、道徳や常識があった世界が遠い昔の出来事に思えた。薄暗闇の中に二人きりで他にすることもなく、過去のない少女には話すこともなく、ただお互いに自分たちを確認し合うことだけが時間を過ごす唯一の手段だった。

「あとは、あれだよね。アレ同士、擦ってないよね」
「アレってなんですか」
 ユキがしれっと訊いた。
「おまんこよ。分かってるくせに」
「マフユ様と何回かやりましたけどあれやると終わらないですよ」
「まぁいいや、やってみようよ」
 そう言うと互いの股間が股間に当たるように腰を持ち上げはさみ合った。
 密着度の高い下半身が暖かい。すぐにどちらのともつかない大量の愛液でヌルヌルになった。
 ……グチョン、グチョン、グチョン……
「ちょっと、ユキ、動きすぎよ!」
「だって、サキさんの気持ちいいんだもん……あぁん……」

(う〜〜かわいすぎる。キスしたいなぁ)
 冴貴はそんなことを考えていた。この体位では顔同士が遠すぎる。
(わたしにも男のがあればいいんだけどね。そしたらヤリながらキスもできるのに)

 そんな他愛もない雑念が大きな結果を生むとは思っていなかった。

 冴貴が股間に急激な熱を感じる。血流が股間に集中しているような感じだった。
(何?何?何?)
 ユキも股間に急に熱を感じて驚いた。最初、冴貴が小便を漏らしたのかと思ったがそうではないらしい。
 股間に出現した急激な異物感に、二人が自分たちの股間を見つめた。
 二人の股の間から勃起して飛び出しているペニスが見えた。
 よく見るとそれは冴貴の股間から生えだしている。冴貴の股間は完全に男のモノになっているようだった。
 二人で目を丸くしてそれを見つめた。

「ユキ……あたし……『覚醒』しちゃった……」



第十五章 威力

「サキさん……そんな……そんな……」
(ああ、また私……とんでもないことを……)
 ユキの最初の思いはそれだった。また自分が冴貴に取り返しのつかない事をしてしまったと思った。

 ユキの顔が見る見る泣きそうになるのを見て冴貴が言った。
「大丈夫よユキ、あなたのせいじゃないから。それに、ちょっとまって……」
 そういってすり寄せ合っていた股間を離して、ベッドの側に立ち上がると上半身を前に曲げて、股間に手を当てた。
「んっ……んんっ……、ほら」
 そういって手を離すと、そこには見慣れた女性器がついている。
「サキさん……なんとも…ないんですか?」
「うん、心配ないよ」

 冴貴は晴れやかな気分だった。今までの五感に加え、さらにもう一つ、感じたこともない感覚がある。
 それはまるで自分の視野が大きく広がり、立っているだけで後ろが見えているかのようだった。面と向かってユキを見ているだけで、その感情が透けて見えていた。
 一度『覚醒』してしまうと、それはなんでもないことだった。自分が何を躊躇っていたのかも忘れてしまっていた。

「ユキ、家へ帰ろうか」
 出し抜けの冴貴の言葉にユキは驚いた。
「えっ……? そんな、どうやって……?」
 ユキはそんなことを考えることすらやめていた。
「私、もう、帰り道わかるよ。それどころかほら!」
 そういって見回すと小さな木のベッドだったものは、大きなダブルのふかふかのベッドになっていた。
「こんなこともできるようになっちゃった」

「……すごい……」
 ユキが目を丸くする。
「でもその前に……っと」
 冴貴はユキにのしかかる。すでに股間には再び大きなペニスが生えていた。
「ユキをヒイヒイ啼かせて上げないと」
 そういうと冴貴は、ユキが自分の下半身が見えるぐらいまで体を折り曲げさせ、自分は立ちあがりながらユキの中へペニスを入れていった。
「ああぁん……おおきいよぉ……サキさんのおおきいのぉ……」
 ユキが悩ましげな声をあげる。冴貴は自分のペニスが伝えてくる、濡れた花弁の絡みつく暖かくて淫靡な感触に酔いしれた。時折、ユキの粘膜の締め付けが腰を突き抜けるような快感をあたえてくれる。
「ユキの中、あったかくて柔らかい……気持ちイイよ………」
「ああ……サキさんの熱い……あぁん……イイ……」
「ユキ、私のために可愛く啼いてくれる?」
 冴貴がそう尋ねると、ユキは嬉しそうに大きく頷いた。最初はぎこちないものだった冴貴の腰使いもすぐに、微妙な動きをマスターした。ペニスが伝えてくる快感は女のものとはまた違い、女の時のように体全体が感じるのではなくて、胸から下だけが快楽に溶けているようで、頭の中は冷静だった。それはユキの体を撫でてユキの反応を見たり、腰の動きを変えてユキの声の変化を楽しんだりという別の楽しみを与えてくれた。
 その上、先ほど得たばかりの特殊な感覚が、空気中に発散されるユキの快楽を直接自分に伝えてくる。息を吸うように自然にそれを自分の体内に吸収すると、甘い味がした。それは舌で感じるのではない、新しい甘さだった。
(これが快楽を食べるってことなのかな……)
「あぁーーん……サキさん……すごいよぉ。気持ちイイよぉ……もっとぉ……もっとぉ……」
 サキの一部が冷静に考え事をしているうちに、ユキはサキの巨大なペニスの女性的で繊細な動きにめろめろになってしまっていた。
 潤んだ目で冴貴を見つめながらユキが息も絶え絶えに喋りつづける。
「……サキさん……好きです。……あの時……サキさんに追いかけてきてもらえなかったら……わたし……もう死んでた……んんっ……。サキさんが……来てくれたから……わたし……いきてるの……。ずっと……ずっと……側に…いさせて……ください……」
 冴貴にはユキがそのセリフを言うため、どれだけの快感を我慢しているか解かっていた。のしかかってくる巨大な快感を必死で支え、自分の熱い魂を切り取って、口から吐き出した、燃えるような言葉だった。
「我慢しなくていいよ、ユキ。言わなくても……しってるから」
 ユキはそれを聞くと、初めて好きな人間に身を任せる喜びを知り、快楽を解き放った。
「……あぁん……サキさん……もっと強く……ユキをバラバラにして……あぁぁ……好きです……スキ」
 冴貴は文字通りユキを壊すほどの勢いでピストン運動を始めると、ユキから快楽を搾り取った。


 お互いに数回の絶頂を迎えた後、ユキを休ませながら、冴貴が大声で言った。
「ちょっと!!あんたたちもいるんでしょう!でてきなさいよ」
 暗闇の中に二人の影が現れた。マフユは黒いレザーでできたドレス、シモツキは白いシャツの上に黒の上下のスーツを着ていた。
「おめでとうございます、闇のキリストよ」
「おめでとうございますわ、冴貴様」
 二人は慇懃に礼をした。
「なに気どってんのよ。昨日散々にやってくれたくせに」
「あのぉ、それは一応、私たちの使命でしてぇ」
 マフユが弁明する。この3人の間では冴貴が最も強い力を持っているのは明白だった。
「嘘ばっかり。私から快感を吸い上げてたくせにさ。今日は私が吸い上げてあげるから覚悟しなさいよ」
 冴貴は妖しい目つきで二人ににじり寄った。
「二人とも処女の体にしてから、たっぷり犯して上げるんだから」

 その後、目覚めたユキを加え、部屋の存在が消えてしまうまで4人で犯し合い続けた。
 誰が誰とセックスしているのか解らなくなるほど激しい物だった。



終章

「サキさん、やっぱりはずかしいですよ……」
 冴貴とユキは町の真中を、冬の寒空の下、全裸で歩いていた。
「いいのよ、見たらすぐに忘れちゃうんだから」
 そういって冴貴は堂々と歩いている。
「でも、みんなこっちをみてますよぉ……」
「そんなこといって、興奮してるくせに。汁垂れてるんじゃないの?」
「もう!! サキさんのイジワル。早く首輪とってください」
「やだ。ユキの匂い好きなんだもん」
「サキさん…前は、そんなイジワルじゃなかったのに……」
「ユキがこんな風にしたんだよ。いっつも苛めてほしがってるから」
「そんなことありません!! ……でも……」
「何?」
「ほんとにサキさんの家へ行っていいんですか? ご両親もいるのに」
「ああ、いいのよ、いいのよ。うるさく言ったらうちの父親ヤッちゃいなよ。私が母さんヤッちゃうからさ」
「サキさん!だめですよ!いくらなんでも、そんなこと!!」
「冗談よ、冗談」
「普通の人が、私たちみたいなのとセックスしたら破滅しちゃいますよ」
「ユキは固いなぁ。それ優一君譲り?」
「なんと言っても、だめなものはだめです!」
 しばらく冴貴はなにか考えているようだった。
「ねぇ、ユキ……?」
「何ですか?」
「優一君もヤッちゃダメ?」
「だめです!!」

 町の中を全裸でじゃれあいながら歩く二人の美女を見て、男ばかりでなく女までもが興奮した。しかし友人に話そうとすると忘れてしまっていた。写真に撮ろうかと目を反らしただけで自分が何をしようとしているか忘れた。
 二人の姿を忘れた後、人々は頭を振って歩き始めた。
 体から抜けていかない、激しい興奮がなんなのかを理解できないまま……。


笛と腕輪に続く






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