笛と腕輪

青少年にはふさわしくない内容が含まれています。未成年の方はご遠慮ください。
序章
1.目撃
2.深淵
3.処女
4.香油
5.腕輪
6.種火
7.猛威
8.永劫
9.雨
10.炎
11.電話
12.夕陽
13.銀笛
14.縛鎖
15.電話2
16.狂宴
17.狂宴2
終章
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鏡と首輪
笛と腕輪
ゲームと指輪
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序章

 それは不思議な光景だった。
 混雑していないとはいえ、真昼の図書館の中、四つ向こうのテーブルで二人の女性がキスしている。それもただのキスではなく舌を絡める激しいものだ。
 深山康治(ミヤマコウジ)は手に持っていたシャープペンシルを落として口をあけて見ていることしかできなかった。

 来月からはいよいよ高校三年生になるので、1週間後に始まる春休みから予備校に通うことにした康治は、入塾テストの勉強に市立の図書館に来ていた。
 そうはいっても、家にいると親がうるさいから勉強道具をもって図書館まで来ただけで、入塾テストの勉強なんて特にやることもない。
 結局、椅子に浅く腰掛け周りの人をぼんやりと眺めていた。

 その二人を見つけたのはそんな時だった。

 最初、見つけた時、どうも年上の方の女性が年下の方の少女の勉強を邪魔しているようだった。
 年上にみえる女性はどうやら女子大生のようだ。体の線が強調されるような体にピッタリと合った黒いセーターにGパンといったラフなスタイルで、控えめにつけられた細い金のネックレスを弄りながら、しきりに少女に話しかけている。横顔しか見えないがキリッとした眉と形の良い鼻が美人であることを伺わせる。

 それを無視して勉強している少女は白いブラウスの上に薄手のクリーム色のカーディガンといった姿でいかにも女子高生といった雰囲気だった。顔は下をむいているのでよく見えない。不思議なのは金色の首輪の様な物をつけていることだった。チョーカーやネックレスというにはかなり幅がある。やはり首輪と呼ぶのに相応しい感じだった。

 しばらく気になって見ていると、急に少女の方がビクっと体を振るわせ、顔を上げた。

 康治は息を飲んだ。
 透き通るような白い肌に整った輪郭。細い眉毛の下の長いまつげに隠れるような涼しげな目元。薄い色のリップクリームを塗っただけの小振りな唇。肩に流した長い漆黒の髪が金の首輪に映えている。
 テレビでもみたことのないほどの美しい少女だった。

 少女は上半身を伸ばして年上の女性の前の机に顔を伏せているが、康治からは何をしているかわからなかった。
 ますます興味を引かれジッと見ていると、再び顔を上げて年上の女性と二言三言かわした後、急に立ち上がって熱烈にキスをし始めたのだ。
 訳が分からないのは、康治以外誰も二人を見ていないことだった。昼日中の図書館でキスしているなんてそれだけでも驚きなのに、それが美しい女性同士なのだ。だれも気付かないはずはない。それでも誰も振り返るどころか目線を向けることすらしない。
 康治は自分が白昼夢をみているのだと思った。

 その幻覚か現実かわからない二人はだんだんエスカレートしていく。年上の女性が少女のシャツの襟首から手をいれ、胸をこねるように揉み始めると、少女はもどかしげにカーディガンを脱ぎ捨てた。
 それだけではない。シャツのボタンもはずし、前をはだけてしまう。
 年上の女性は慣れた手つきで白いブラジャーを外しゆっくり揉みしだいている。

 ガタン!
 余りの出来事に康治は思わず立ち上がってしまった。

 その音にこれまで横顔しか見えなかった女性がこちらを振り返った。

 深い深い洞窟の様になんの光もない暗い瞳。

 その瞳と目があったとき、康治は自分がおかしくなってしまったと思った。

 少年はこの日、普通の人生を失ってしまった。
 




第一章 目撃 

「ねぇー、ユキ。もう帰ろうよ」
「冴貴さん、一人で帰って下さい。私は勉強してますから」
 由貴の声はどことなく冷たい。

 由貴は冴貴の妹になった。
 冴貴は身よりも何もないユキと言う名の少女を家に連れ帰った。最初に自分が3日間行方不明であったこととユキをしばらく滞在させる事を両親に承諾させるのは大変だったが、数ヶ月間、冴貴の家で過ごしている内に、冴貴の両親の方がすっかりユキを気に入ってしまい、ユキが天涯孤独の身の上だと知って養女になる事になった。
 ユキには戸籍が無かったが、冴貴のしもべとなった二人の悪魔によって問題なく養女となることができ、冴貴の一字をとって横山由貴という正式な名になった。

(料理までできるんだもんな〜。男だったくせに。)
 ユキは、悪魔によって畑山優一という高校生の男の記憶を持って、この世に創り出された。畑山優一は妹が死に母親が精神を病んでしまって以来、一人で家を切り盛りしてきただけあって家事は何でもできた。由貴もそれを受け継ぎ、横山家でも冴貴の母親を助け、家事全般を手伝った。冴貴の両親は由貴を非常に可愛がり、養女にしてからはそれがますますひどくなった。由貴も両親を『お父さん』『お母さん』と呼び、本当の肉親以上に親しんでいた。
 冴貴は『由貴を見習いなさい』と母親に嫌味を言われるようになり、肩身が狭くなった。


(……しかも勉強もできるし。)
 由貴は畑山優一と同じように医者を目指して勉強している。本人は看護婦になって早く独立したいと両親に言ったのだが、両親が大学の学費を心配する必要はないと医者を目指すことを薦めた。冴貴も働き始めたら、由貴の学費を一部負担するつもりだった。

 冴貴と由貴は何日も由貴の持つ畑山優一の記憶の持つ意味について話し合った。
 そして彼女達は、記憶に偽物も本物もなく、一つの人生が二つの性に分かれて別々の人生を歩みだしたのだと結論することにした。否定してしまうには優一の記憶は余りに由貴の心に深く根付いていた。
 畑山優一が医者を目指しているのは、妹・畑山恵美が若くして病死した事に由来している。由貴はその思いを否定せずに自分もそれに従うことにしたのだった。


「ユキ〜〜。まだ怒ってんの?」
「別に怒ってなんかいません」
 しかし由貴の声には明らかに冷たい響きがある。

(やっぱあれはまずかったかなぁ。)
 冴貴は反省していた。
 先日、二人でいつもの様にじゃれ合っていたとき、冴貴の悪戯心から母親の見ている前で由貴に無理矢理浣腸し排泄させた上でレイプしたのだ。その時は由貴は異常に興奮し荒々しく悶えたが、それが冷めると激しく落ち込んだ。
 いくら冴貴の能力で母親の記憶に残らないからと言って、恩人とも言うべき義理の母親がおろおろする前で、排泄させられセックスしたことは、由貴の心を深く傷つけていた。
 それ以来、もう一週間にもなるが由貴は未だに冴貴に冷たい態度を取り続けている。
 今日も冴貴は由貴に無視されながら図書館まで付いてきたのだ。

(それにしても……)
 一心に英語の長文を読んでいる由貴の横顔を見ながら冴貴は考えていた。
(すごい精神力だよね)
 二人の悪魔に一週間レイプされ続け、極限の快楽に浸ってしまった心身は一生元に戻らない。本来なら一日たりともセックスなしでは生きていけない筈なのに、一週間もその誘惑に耐え、その上勉強までしているのは、由貴の強靱な精神力の為せる技であった。

 今の由貴には、当初の冴貴の家に来た頃の、オドオドした精神的な不安定さは全く見られない。優一の記憶と女性としての精神がなじむにつれ、女性的で理知的な新しい人格が形成されつつあった。
 もとになった優一と言う男がよほどの人物だったのだろうと冴貴は考えている。
 由貴の本当の性格が明らかになるにつれ、冴貴は益々、由貴に惚れ直していくのだった。

 由貴は冴貴の事を地獄から救い出してくれた恩人だと言っているが、冴貴にとっては由貴の方こそ恩人だった。

 悪魔に陵辱される代償に得た『能力』。

 さすがに異次元空間の外では、何もないところから物体を取り出す事はできないが、それでも、人の心を透視し、ねじ曲げる能力はかなり強力だった。
 やろうと思えば、金持ちを誘惑し一生貢がせることなど造作もない。
 しかし、もし一度でもそれをしてしまえば、人生の目標を失い、セックス漬けの泥沼のような怠惰な生活を送るようになってしまうだろう。
 そうならずに、今でも普通に大学に通い、それなりの人生を生きていられるのは、由貴が側にいて、気丈に普通の日常生活を送ってくれるおかげだった。

 冴貴には仲直りをする勝算があった。
 由貴の弱点ともいえる生理である。もともと女性の体に不慣れな上に、体質的にも酷い方らしく、初めての時には3日間寝込んでしまった。今ではかなり慣れて来たとは言うものの、それでもかなり苦しそうだった。
 それだけでなく、生理前後に異常に発情してしまうのも由貴の弱みだった。
 普段は冴貴の能力で体の感覚を鈍らさないと、学校に通うことすらできなかった。

 冴貴はそろそろ由貴の生理が終わった頃と見ている。
 一週間も我慢していることだし、この辺で一気に仲直りしようと思ってこんな所まで睨まれながらも付いてきたのだった。

(ああ、横顔も可愛いなぁ。もう我慢してらんないよ)
 由貴の心を透視してみると、体は既に発情状態の一歩手前まで来ているのを理性で押さえつけている。いくら由貴とはいえ、そろそろ限界だろう。由貴が自分に、そして快楽に、屈服する様子を思い浮かべるだけでゾクゾクする。早速行動に移ることにした。

 まず、口に唾を貯めながら、おもむろに自分の胸元の荷物を大袈裟に横にどける。
 由貴の注意がこちらに向くのを確認した後、唾液をたっぷりのせた舌をゆっくりとだすと、唾が糸を引きながら図書館のテーブルの上に落ちた。

 ドクン!
 心臓が大きく鳴り、由貴は下を向いていた顔を上げた。
(あああ、サキさんの唾……)
 由貴の頬がうっすらと上気するのを見て冴貴は獲物がかかったことを確信した。

「あの時のことはホントに悪かったと思ってるのよ。ところで、どうかしたの?ユキ」
 冴貴がとぼけたふりをする。由貴の声は微かに震えていた。
「ああ……サキさん、ひどい。こんなところで……」
「こんなところで何さ?」

(ああ……サキさんの唾、鼻に擦り付けたい……舐めたい……)

「ほら、ユキ。どうしてこっちに近づいてくるの?」

(だめ……まだ……だめ……)
 しかし本人の意思とは関わりなく、すっかり体を乗り出してしまっていた。

「今舐めても、誰も気付かないよ」
 冴貴が耳たぶに触れるほど唇を寄せて、そっと囁いた。

 由貴には逆らう術がなかった。

 それでもなんとか最後の気力を振り絞って念を押す。
「もう、お母さんとお父さんの前でだけはやめて下さいね……」
「うん、これからは絶対しないから」
「……絶対ですよ…んん…絶対……」
 ぶつぶつといいながら鼻の頭で冴貴の唾を机に塗りつけるように広げた後、舌を出して机をゆっくりと舐め始めた。

(やたーー! 堕ちたー!)
 机をいとおしいモノであるかの様に、うっとりと舐める由貴を見ていると、興奮で由貴に抱きつきそうになる。
(だめだ、だめだ。一週間もおあずけだったんだから、ちょっとは焦らしてやらないと、気が済まない。)

 机を舐め終わると由貴が顔を上げた。その顔には先ほどまでの少女の面影はなく、淫蕩な女の顔になっていた。
「サキさん……キスさせて……」
「ええ〜、こんな真昼の図書館でぇ? まぁ、ユキがどうしてもっていうなら、あたしはかまわないけどさ」
 平静を装って言い放つ。
「サキさんの意地悪……」
 そういいながらも由貴は立ち上がると座ったままの冴貴にキスをした。
 冴貴が由貴の舌を舌でなぞりながら軽く胸に触ると、それだけでピクンと由貴の体が震えた。
「んぐ……んふん……」
(ああ…サキさんのキス…おいしい…)
 もどかしげにカーディガンを脱ぎ捨て、冴貴に直接触ってもらえるようにブラウスの前をはだける。
 冴貴も由貴のしているフロントホックの白いブラジャーを外して、久々の由貴の胸の感触をじっくりと堪能し始めた。

 ガタン!
 冴貴はその音に気付いて後ろを振り返った。

 四つ向こうのテーブルからこちらを見ている立ち上がりかけている高校生と目があった。ダンガリシャツにGパンという、いかにも高校生らしいその少年は、大きく目を見開いてこちらを見ていた。すこし鼻が丸くて一重瞼のつぶらな目をしているが、遠目にもその男の子が二枚目な部類であることがわかる。
 その少年はそのまま自分の荷物を掴んで走って図書館から飛び出ていった。

(見られた!? そんなバカな!)
 冴貴も驚いていた。冴貴の能力はこの図書館全体に及び、誰にも二人の姿を見たり、声を聞いたりする事はできないはずだった。正確には目には映り、耳には聞こえていても注意を留めることができない筈だった。しかし、あの少年は確かにこちらを見ていた。
 何か嫌な予感がした。
(後でマフユ達に相談しよう)

「サキさぁん……やめないでぇ……もっとぉ……」
 色っぽい声で冴貴は目の前の由貴に注意を戻した。
(ま、とりあえずはこっちだね。たっぷり虐めてあげるから。)

「最初はおっぱいだけでイカせてあげるね」
「いやぁ……いじわるしないで、あそこも触って……」
「だーめ。もう決めたんだから。おっぱいでイケなかったらずーっと揉んでてあげるからね」
 胸を寄せるようにもみ上げながら、細い指で巧みに乳首を刺激していく。最初は転がしたり押し込んだりしていたが、乳首が固く尖ってくると摘み上げるような動きに変えていった。
「いやっ……だめぇ……ああ…おっぱいイイ……んん……」
 相手の感情を透かしてみる事のできる冴貴にとって、相手のどこが感じるのか、どうすれば感じるのかを知ることは簡単だった。少し爪を立ててなぞってみれば、微かな性感帯も簡単に掘り起こせる。

 念入りに胸の周りを刺激していくと由貴はすぐに追いつめられた。
「ハァ……ハァ……気持いい……もうだめ……」
「いやだ、ユキ、スカートにシミができてるよ」
「ああん、恥ずかしい。もう、びちゃびちゃなの……おまんこも触って。おまんこも」
「だめったらだめ。ほら、ユキみたいな淫乱女はおっぱいだけでイケるでしょう?」
「ああん…イキそう…でも、くるしいの…自分でヤるから触らせて!!」
 由貴は腕を拘束されているわけでもないのに、冴貴の許可なしでは決して自分の体に触れようとはしない。それ程までに由貴の心は冴貴に縛られていた。
「だーめ!!触ったらやめるからね!」
「いやぁ!! こんなの耐えられない!! 触らせてください!!」
 すでに由貴は腰をふって懇願していた。
 一週間ぶりの快感は凄まじい勢いで荒れ狂い、胸を触られているだけで体全体がビクビクと痙攣する。
 上半身だけ猛烈な快感に晒され、下半身に全く触れて貰えないのは酷くアンバランスで刺激的な快感だった。

「お願い!! サキさん!! くるしいのぉ!!」
「うるさいなぁ。イッちゃったら楽になるよ。ほら、イキなよ!」
 そういって乳首を強くつまみあげた。
「ああああ!!イクゥん!おっぱいだけでイッちゃうぅぅ!!」
 由貴が体をビクビクと振るわせるのを感じながら、冴貴はふと先程の少年の顔を思い出していた。
(この胸騒ぎ、なんだろう?思い過ごしだといいんだけど……)

「ああん、サキさん、チンポください。チンポぉ」
 絶頂を迎えたのに一向に体の収まらない由貴が腰を振って誘っている。自分の手でスカートをまくり上げショーツをずらして女性器を露出させていた。
(やっぱり、後で考えるか。)
 冴貴は自分の股間に変身の力を集めて、男性器を作りながら思った。
 昼の図書館に誰にも聞こえない嬌声が響き渡り始めた。

 隣の机に座っていた大学生はもやもやした気持ちを抱きながら、なぜ今日はさっぱり読書がすすまないのか不思議に思っていた。



第二章 深淵 

「あい〜〜!」

 佐川亜衣(サガワ・アイ)は後ろから呼ばれて振り返った。

 長いロングの黒髪にトレードマークの鬢から下げた小さな三つ編みが揺れる。亜衣は来月から中学三年になるが、背が小さい上に顔立ちも幼く、セーラー服を着ていなければ小学生と言われてもだれもが納得しそうだった。
 話しかけてきた友人をみて、クリクリした大きな瞳を輝かせながら微笑んだ。

 呼んだのは案の定、同じクラスの清原未夜子(キヨハラ・ミヤコ)だった。同じフルート教室に通う友達で、いつも最寄り駅から学校まで一緒に行くのが日課になっていた。春休みに入ってからは、二人で一緒に学校の音楽室を借りて、次のフルートの発表会の練習をしている。
 亜衣の父親は世間で言うエリート銀行員で、非常に引っ越しが多く、亜衣もほぼ一、二年毎に転校を余儀なくされた。父の海外赴任が決まり、しばらく単身赴任することになったため、母方の実家のあるこの町に引っ越してきたのは半年前のことだった。

 最寄のフルート教室を尋ねた時、その日にできた友達が未夜子だった。しかも転入してみると学校のクラスまで同じで二人とも驚いた。それ以来、学校へ行くのも、フルート教室へ行くのもずっと一緒で、急速に仲良くなった。
 大人しい亜衣と活発な未夜子は、性格が正反対の故か、一緒にいてもお互い全く気を使わずにいられた。
 亜衣は人生において初めて親友と呼べる友人を得て、初めて学校に行くのが楽しいと思えるようになった。

 その未夜子が短く切った茶髪のくせっ毛を揺らしながら勢いよく駅の階段を下りてくる。美人というタイプではないが、すこし垂れ眼で愛嬌があり、いかにも元気で誰にでも好かれるタイプだった。目元にあるほくろも色気よりは茶目っ気に貢献している。

「おはよう、ミヤちゃん」
「ごめん、亜衣。遅れちゃって。さっきからピッチにかけてんのに全然通じないんだもん」
「ごめんなさい、最近、調子悪いの。その内、新しいの買うつもりなんだけど」
「家を出ようと思ったら楽譜が無くて、探してたのよ」
「気にしないで。未夜ちゃんはいつも時間に正確だから、たまにはそんな日もあるよ」
「あれぇ、なんか今日は嬉しそうだね。なんかいいことあったでしょ。なにがあったのよぉ?」
「なんにもないよ。早く行こ。練習の時間なくなっちゃうよ」
「おおっとぉ、あたしを甘く見ちゃだめよ。短い付き合いとはいえ亜衣のことはみんなわかっちゃうんだから。亜衣があたしに隠し事をするなんて、はっきりいって16年早いね」
「?? なんで16年なの?」
「いや、さすがに三十路になったら、亜衣ももうちょっと嘘がうまくなるかなと思って。それよりさ、何があったのよぉ」
「なんにもないって。行くよ、もう」

 そう言いながらも、亜衣は内心ドキドキしていた。
(ミヤちゃん、妙な所で鋭いんだから。)
 何とか話題を逸らそうと、いろいろな話題を振ってみるが、未夜子は頑として話題を変えようとしない。
「普段、あんまり喋んないのにこんな時だけ一杯喋ったってだめだよ」
 未夜子にそう言われて、遂に観念した。
「実は……」

「ええ〜〜!!『バイオリンの君』をデートにさそったぁ〜〜〜!!」
「未夜ちゃん!声が大きいって!!」
「ひぇぇ〜〜。フルート以外興味ないと思ってた亜衣が、私より先に彼氏つくるなんてぇ〜〜」
「そんなんじゃないよ!!」

 『バイオリンの君』というのは亜衣が毎朝電車で乗り合わせる近所の高校の生徒の事だった。よくバイオリンを持って登下校していることから、二人は『バイオリンの君』と呼んでいた。命名は未夜子の少女漫画趣味から来ている。
 それほどハンサムと言うわけではないが、知的で優しそうな顔と音楽という共通点から、亜衣にとって何となく気になる存在だった。
 その彼が、今朝、春休みだというのに急に同じ電車に乗ってきて話しかけてきた。
 今週の土曜日に市立コンサートホールで行われる四重奏のコンサートに行くつもりだったが、自分は都合が悪くなったのでチケットを上げようというのだ。
 亜衣はいつもフルートを折り畳んで手提げ袋にいれて持ち歩いているが、どうやらフルートを吹くことは知られていたようだ。
 実はそのコンサートは日曜日に未夜子と二人で行こうと思って、チケットを二枚持っていた。
 そこで亜衣はなけなしの勇気を振り絞って、土曜日がダメなら日曜日に一緒に行かないかと誘ってみたのだった。
 返事は即答でOKだった。

「ごめんね、未夜ちゃん……ホントは未夜ちゃんと一緒に行こうと思ったのに……」
「そんなことはどうでもいいのよ。へぇぇ〜〜、確かに亜衣は普段静かなくせにいざってときに肝がすわるほうだけど……」
 まじまじと亜衣を見つめる。
「……」
 亜衣は真っ赤になって俯いていた。
「それで日曜は何を着てくの? 夕食ぐらい一緒にとるの? どっかに寄ってったりしないの?」
 未夜子は矢継ぎ早に質問を始めた。
「そんなの……何にもないよ……。一緒にコンサート行くだけなんだから」
「だめよぅ、そんなんじゃ。よし、わかった! 今日の練習が終わったら、化粧品買いに行こう! 服は前の発表会のワンピースがいいかな」
 亜衣は未夜子の剣幕にたじたじになった。
「いいよ、未夜ちゃん。そんなことしなくても」
「いいわけ無いじゃない! 親友の初デートに協力しない訳にはいかないわ」
 未夜子がこうなってしまったら、もう亜衣には止められない。

「ところで『バイオリンの君』は結局何て名前なの?」
 未夜子に訊かれ、亜衣はハッとした。
「そういえば……まだ訊いてなかった……」
「………バカ」

 その日、未夜子に引きずられるようにデパートに連れて行かれ、薄いピンクの口紅を買った。


 そして次の月曜日。

「どうだった?昨日?」
 駅で待つ亜衣を見つけると未夜子は嬉しそうに寄ってきた。
「どうって……コンサート見た後、一緒にパスタを食べに行っただけだよ……」
「他に何にもなかったの?」
「何もないよ」

 未夜子は横目でジトッと亜衣を見た。
「ふぅ〜〜ん……………じゃぁ、これはなんなのよ?」
 そう言って急に亜衣の左手をとると、そこには細いシルバーチェーンに小さなト音記号型の銀細工のついたブレスレットが光っていた。
「これは亜衣の趣味じゃないよね。亜衣は普段アクセサリとかしないから」
 亜衣は真っ赤になって下を向いた。

「それは、昨日、康治さ…深山さんが…貰い物だからって……」
 その一瞬の言葉のつっかえを見逃す未夜子ではなかった。
「こ〜〜じさんですってぇ〜〜?! あんたたちもう名前でよびあってんの!? まさかあんなことやそんなこともやっちゃったんじゃ……?」
「もう! するわけないでしょ! いくらミヤちゃんでも怒るよ」
 亜衣の顔がみるみる内にふくれていくのを見て未夜子は急いで謝った。
「ごめんごめん。フルートでかなわないのに、ファーストキスも先を越されたのかと思って焦っちゃって。でも、手ぐらい握った?」

「……うん……このブレスレット着けてくれたときにちょっとだけ……」

 耳まで赤くなりながら答える亜衣が微笑ましかった。
「いいなぁ〜。あたしにもそんな人いないかなぁ。絶対に応援してるからがんばりなよ」
「ありがとう、ミヤちゃん」
「じゃ、練習行こうか?」
「うん」


 その時、学校に向かって歩き始めた二人を、駅の目の前の喫茶店の二階から見下ろす人影があった。


「あの子ですか?」
「………うん」
「そうですか……」
「……あんな可愛い女の子に……わたし……これから……」
 冴貴はこれから自分がしようとしている事を想い、心が暗く沈んでいた。
 由貴も冴貴の心中を察してか、黙っている。

 目の前にいる由貴の心を透視すると、心の中に広く真っ暗な淵がみえる。
 自分の心にも同様の暗い穴があいているのは今更見るまでもない。
 それは快楽に魅せられてしまった者の抱える虚無だった。
 他に何をしてもセックス以上の達成感は得られないことを悟ってしまった人間の無気力と諦念が作り出したブラックホールは、少しずつ大きさを増しながら人間的な部分を飲み込もうとしている。
 自分も由貴もいつか完全にその虚空に落ち込んでしまうのだろう。

 あの未来ある中学生もこんな虚無を抱えるようになるのだろうか?

 それを押しつけようとしている自分のあさましさに冴貴はおののいた。

 長い沈黙を破って冴貴が再び口を開いた。
「ねぇ……ユキ……」
「はい?」
「私……普通に暮らしたいな……」
「……」
 由貴には冴貴の心が痛いほど解っていた。
 無駄なことだと解っていても、それでも二人が生まれたときから普通の姉妹だったらと願わずには居られなかった。
「わたしみたいな人間じゃないバケモノにさ…人を傷つけて生きる価値があるのかな……」
 由貴の目から大粒の涙をがこぼれた。
 黙ったままテーブルの上の冴貴の手を握っていた。
 その手の温もりこそが冴貴が最も大切にしているものだった。

(そう、自分みたいな化け物だって守りたいものがある……)
 そして……
(バケモノにはバケモノのやり方が相応しい)

「ユキ、一緒にやってくれるよね?」
 寂しげにそう尋ねる冴貴に、由貴は微かに微笑んで答えた。
「どこまでも一緒に連れていってくれる約束ですよ」





第三章 処女

 亜衣は混乱していた。
(ここは一体どこだろう?)
 真っ白な壁に真っ白な床、真っ白な天井。
 白い大きなベッドに白いベッドカバー、白い椅子に白い電気スタンド。
 20畳はありそうな、かなり大きな白い部屋にある唯一の色彩は白い花瓶に刺さっている一輪の赤いバラだけだった。

 身じろぎしようとすると左腕が下がらない。見れば銀色の手枷をつけられ壁に鎖で固定されている。
 
(えっ………?)
 
 足がかろうじで踵が着くか着かないかの高さになるように、左手一本で釣られているため身動きが取れなかった。
 自分がベージュのブラジャーとショーツだけなのを見て、意識がなくなる直前の出来事を思い出した。


「あら、そのブレスレット寝てるときもしてるの? よっぽど気に入ったのね」
 朝、起こされたときに母親にそう言われて、亜衣は初めておかしな事に気付いた。

(そう言えばいつも外そうと思ってるのに……)
 風呂に入るとき、寝るとき、着替えるとき、いつも外そうと思うのに、いざ外そうとすると、なんとなく外す気がなくなり、結局そのままにしてしまう。気が付けばレストランで康治に着けてもらってからまだ一度も外していない。
(なんだか不思議なブレスレットだな。今度会ったら康治さんにどこで手に入れたか聞いてみよう。)
そう思った後、心の中で「康治さん」と呼んだことが恥ずかしく一人で赤くなった。

 母親が出かける用意をしながら話しかけてきた。
「今日も練習するの?」
「今日はミヤちゃん、家族旅行だって。温泉でゆっくりするそうだよ」
「折角の春休みなんだから、亜衣もたまには外へ出て遊んだら? 最近フルートの練習しかしてないでしょ? お洋服でもかってきたら? お小遣い足りてる?」

 珍しく母親がそんなことを言うので亜衣は少し驚いた。
 いつになく化粧するのも楽しそうだ。

「じゃぁ、新しい携帯電話買ってもいい? 2、3日前からたまに受信できないみたいなの」
「いいわよ。今日は雨が降るそうだから傘持っていきなさいね。じゃ、戸締りお願いね」

 母親が用事に出るのを送り出したあと、テーブルの上にあった朝食を食べた。
 昨夜は春先にしては湿度が高かったため、結構汗をかいたのに気付きシャワーを浴びることにするした
 脱衣所で服を脱いでいるとき、何か妙な視線を感じた。
 変に思って窓の外やドアの向こうを覗いてみるが誰もいない。
(気のせいかな?)
 そう思ったとき声がした。

「いいえ、気のせいじゃないわ」

 驚いてそちらを見ようとした瞬間すごい力で左腕を掴まれた。
 ブレスレットについているト音記号の銀細工が肌に食い込む痛みがまだ腕に残っている。
 
 急いで振り返ると、背の高い女性に腕を掴まれていた。

 その顔を見上げて……

 あの暗い瞳!

 思い出しただけでも背筋が凍るその視線に気が遠くなって……
 


「亜衣ちゃん、目が覚めた?」

 急に呼びかけられ、亜衣は飛び上がった。
 さっき見たときは確かに誰もいなかったのに、いつの間にかベッドに全裸の女性が二人寝そべっている。
 こちらからはうつ伏せになっているように見えるのは、透き通るように白い肌に金色の首輪をした綺麗な女性。
 その少女の下になって、上半身をボードにもたれかけてこちらを見ているのは、稟とした顔立ちの少し年上の女性だった。
 その顔は気を失う直前に見た顔と同じだったが、あの不気味な瞳ではなかった。

 喋ったのは年上の方の女性だった。
「はじめまして。あたしの名前はサキ。で、こっちがユキ」
「よろしく、亜衣さん」

 にこやかに挨拶する二人の美女。
 しかし、驚くべき事に二人の下半身は既に繋がっていた。

 亜衣の少ない知識でもそれがセックスであることだけはわかった。
 しかし、どう見てもどちらも女性に見えるのに、年上の女性の股間から出ているモノが首輪の少女の中に入っている。首輪の少女がゆっくりと腰を動かすたびにそれが見え隠れした。二人には陰毛が全くなかったため、その様子がはっきり見える。

 突然の理解を越えた光景に、亜衣の頭は真っ白になった。

 冴貴は人なつっこい調子で話を続ける。
「ああ、ごめん。亜衣ちゃんが起きるのを待ちきれなくて勝手に始めちゃってたの。亜衣ちゃんともこれから長い付き合いになるだろうから、仲良くしたいんだけど
 ……まぁ、最初からは無理だよね。
 腕を上げたままにしておくと肩が痛いでしょう? その鎖取って上げたいんだけど、その鎖取っちゃうと私は貴女に触れなくなっちゃうの。
 『私の体に触って下さい』っていってくれないかな? そしたらすぐに取って上げるんだけど」

 亜衣は何を言われたか理解していないようだった。
 ただ唇をぶるぶる振るわせて黙っている。

「やっぱり急にいってもだめか……。しょうがないよね」

 亜衣は後ろの壁から急に何かせり出して来たのを感じた。横を見ると、周りは金属の板のような物に囲われている。

「こういうのって趣味じゃないんだけど………。鋼鉄の処女っていう処刑器具、知ってる? 鉄でできた張りぼてで、本当は中に針が出てて、中に入った人を殺しちゃうんだけど、それには針はないから安心してね」
 両開きになった張りぼての前面部は3つに分かれ、それぞれが別々に開閉するようになっている。

「『触って下さい』って言ってくれたら、すぐやめるからね」
 冴貴がそう言うと、ギィーという軋む音と共に下半身が鉄の筒の中に収まった。亜衣は呆然としたままその様子を眺めている。
 何をされようとしているかも判っていないよう様だった。

「亜衣ちゃんは閉所恐怖症なんでしょう? 全部閉まったらどうなるか解る?」

 亜衣はそこまで言われて始めて自分が何をされているか思い当たった。
(鉄の箱に閉じこめられる!!)
 それは閉所恐怖症の亜衣にとって想像するだけで恐ろしいことだった。
 一気にパニック状態に陥る。
「いやぁぁーーー!!やめてぇーー!!」
 亜衣は甲高い悲鳴を上げた。

「『触って下さい』って私たちに言いなさい」
 冴貴が静かな口調で繰り返す。
 首輪の少女も動きを止め亜衣を見ていた。

 再びギィーという音がして胸まで鉄の張りぼてに収まった。

「いやぁーー!!やめてーー!!お家にかえして!!家にかえしてー!!」
 繋がれている左手を全体重をかけて引っ張るが、銀色の枷はびくともしない。
「早く『触って下さい』って言わないと全部閉まっちゃうよ。左腕が出るように穴が開けてあるから、腕を挟まないように気をつけてね」
 そう言ってもパニック状態の亜衣には聞こえていないようだった。

 なぜそんなことを自分に言わせようとしているか解らないが、元々性の知識に疎い亜衣が、目の前で平然とセックスをしている人間に『触ってくれ』とはとても言えなかった。

「仕方ないね」
 冴貴がそう言った途端、ガシャンという大きい音と共に、左腕を除いて頭の先まですっぽりと鉄の張りぼての中に収まった。

 亜衣がすごい勢いで泣き叫び始めた。
「キャアァァーー!!おかあさん!!助けて!!かあさん!!いやあぁぁ!!」
 亜衣のくぐもった絶叫と、内側から鉄の壁に体をぶつける鈍い音。張りぼてからニョッキリ生えているように見える白い手が痙攣している光景に、冴貴の方が挫けそうだった。

(だめだ……仏心を出しても長引くだけだ……。やるからには一気にやらないと)
 冴貴は自分の心の中の冷酷な部分を掻き集めた。

 しばらくして静かになったあと、再び上半身の覆いが開いた。
 亜衣は既に放心状態だった。鉄の壁に思いっきりぶつけたため体のあちこちに青痣ができている。涙と鼻水で顔はグシャグシャになり、細い三つ編みが顔にかかっていた。いつもはクリクリとした大きな瞳も虚ろに宙を彷徨っている。

 冴貴は静かな口調で命令した。
「『触って下さい』って言いなさい」
 虚ろに冴貴を見るその瞳は暗闇の恐怖に満ちていた。
「……お願い……レイプしないで……」
 亜衣はかろうじでそれだけ言った。

 冴貴はそれを聞いて少し考えた。
「……いいわ。貴女が望まない限り処女は守るって約束する。それなら言えるでしょう。『私の体に触って下さい』って」

 亜衣はそれを聞いて観念した。
「…私の体……触って……ください……」
 ポツリとつぶやくように言った。

 その時、亜衣は得体の知れない寒気を感じた。
 なんだか照明が暗くなったような印象を受けた。

 冴貴と由貴は性器を抜き取って立ち上がり、亜衣の方へゆっくりと近づいた。
 鉄の張りぼては亜衣を解放すると、出てきた時の様に音もなく後ろの壁にめり込んでいく。急に手枷につながっていた鎖が外れ、亜衣は支えを失った。
 二人は崩れ落ちる亜衣を両側から支えてベッドに寝かせると、亜衣の体中の傷をペロペロと舐め始めた。

 亜衣は朦朧とした意識の中で、舐められたところから青痣が消えていくのを見つめていた。





第四章 香油 

 ぼんやりと白い天井を眺めていた。

 体中を這い回る舌の生暖かい感触には慣れなかったが、舐められたところから痛みが引いていくのは心地よかった。

 その時、亜衣の首筋に顔を埋めていた由貴が急に顔を上げ、自分の唇を亜衣の唇に重ねた。
 咄嗟にはね除けようとした両手も素早く押さえ付けられる。
(ああ……わたしのファーストキス……)
 亜衣にもファーストキスには人並みの期待と願望があった。まさか、こんな異常な状況で同性に奪われるとは思ってもみなかった。
 涙が溢れた。

 由貴がその様子に気付いて唇を離した。
「ごめんなさい。初めてだったのね……」
 亜衣の目を覗き込むようにして言う。
 間近にある切れ長の目の澄んだ瞳に見つめられ、亜衣はドキッとした。
(すごく……綺麗な人……)
 再びそっと唇を重ねられたが、亜衣は抵抗しなかった。

 冴貴は亜衣の柔らかい肌の感触を楽しみながらその様子を見ていた。
(ユキの視線は処女にも効くのか。恐ろしい奴……)

 そのまま徐々に撫でる手に力を入れ、マッサージの様なモノに移行していく。

「私のマッサージはそこらのマッサージ師なんて足下にも及ばないんだから。じっくり堪能してね」
 得意げに言いながら亜衣の体をうつ伏せにひっくり返す。
 その隙に逃げようとするが、うまく二人に押さえ付けられ、マッサージを続けられる。
 快楽を司る悪魔にとって、マッサージもまた専門分野の一つだった。人間が2足歩行を始めて以来その技術を極めてきた悪魔達に教わった二人の技は人間離れしたものだった。

「ううん……んんっ……」
(やだ……すごい……うまい……)
 絶妙の刺激に先ほどの暗闇の恐怖が薄れ、体から急速に力が抜けていく。
 心を許すまいと気を張っているのに、背中を軽く押されるだけで電撃の様な物が体を突き抜け、勝手に声が出てしまう。冴貴の強めの刺激と由貴の優しい刺激のコンビネーションは完璧だった。
「はん……くっ……」
 首筋のツボを押されると体がびくんと跳ねる。足の裏を押されると体が震える。二人に同時に別々のところを押されると、何処をどう刺激されているのかすら解らなくなる程だった。
 
(緊張してたら折角の快感が台無しだからね)
 亜衣の感覚を透視しながら冴貴は考えていた。
 まだ、完全には体の出来ていない亜衣に強姦まがいの方法で快感を与えるのは不可能だと判断し、性感以外の部分からじっくり責めるつもりだった。
(じっくりと時間を掛けて天国まで上らせてあげるんだから……)

 その頃、亜衣も陶然としながらも目の隅で冴貴の裸体を眺めていた。
 股間は陰毛が全くないものの、ちゃんとした女性になっている。
(やっぱり、女の人みたい……。気のせいだったのかな……。)
 同性だと言うことで少し緊張が途切れた。その隙間にも少しずつ、肉体の快楽が染み込んでいった。

 小一時間かけてマッサージされると、亜衣は声を上げることも逃げることも忘れて脱力していた。体はうっすらとピンクに染まり、その目は恍惚として焦点が合っていない。

 由貴は経験から知っていた。
 厳しくされたり傷つけられた時より、その後に優しくされることの方が精神的に応えるのだ。甘い快感にどっぷり浸かって心がボロボロと錆び付いてくる感覚を思い出すと、すこし悲しい気分になった。せめて、最高の快楽を味わせてあげようと一層心をこめた。

「そろそろ次行こうかな」
 そう言って冴貴がマッサージをやめた。由貴もそれに倣う。

 亜衣は絶妙の刺激が止まったことでやや冷静さを取り戻した。
(あ……にげないと……。あれ? 体……動かないよ……)
 体を動かそうともぞもぞするが、全然力が入らない。

「こんなに長くあたし達のマッサージ受けたら、しばらく動けないわよ。さてと、今度はオイルマッサージにしよっかな。お肌にもいいからさ」
 うつ伏せになっている亜衣からは見えなかったが、冴貴の手にはいつの間にか小さな壺が握られていた。亜衣の背中にたらすと辺りに香油の爽やかな香りが漂う。人肌に暖められた香油が二人の手によって背中に広げられていった。

「これは邪魔ね」
 冴貴が手際よくブラジャーの後ろのホックを外した。
「やめて……。外しちゃだめ……」
 亜衣がのろのろと手を伸ばすが、由貴に腕を絡めとられてしまう。
「いいじゃないですか、私たちも裸なんですから」
 その隙に冴貴が背中から首筋、脇腹にたっぷりと香油を塗り込んでいくと亜衣は抵抗をやめた。

 一人っ子で両親も忙しく、度重なる転校で親しい友人もできなかった亜衣は幼い頃からスキンシップというものを知らずに育った。寂しさを紛らわせ、親の注目を勝ち取るために熱中したフルートの冷たい金属の感触は、その原始的な欲求を満たしてはくれなかった。
 今、それが満たされ、体は急速に人肌の暖かさに馴染んでいく。
 心だけが取り残されていた。
(わたし……なんか……嫌じゃないみたい……。どうして……?)

 その時、急に二人が亜衣の体の下に手をいれた。
「いっせーのーせ!」
 かけ声と共に仰向けの姿勢に転がされる。
「!!」
 ブラジャーのホックが外されていたことを忘れかけていた亜衣は、自分の小さな胸が空気に晒される感覚で一気に呪縛から醒めた。あわてて胸を押さえると、左腕の手枷が胸に当たってヒンヤリする。気だるい体を鞭打って、ベッドのボードに背中が当たるまでずるずると後ずさった。
 
 こちらを牽制する様に睨み付ける亜衣を見て、冴貴は心底悲しそうな顔をした。
「せっかく、亜衣ちゃんに喜んで貰おうと一生懸命なのに……」
 由貴も悲しそうな顔をして亜衣を見つめる。
「きっと、私達のマッサージが気に入って貰えなかったんですね……」
 二人は肩を抱き合いながら恨めしそうに亜衣を見ていた。

「あ……あの……。そんなつもりじゃ……」
 二人の余りに悲しそうな様子に思わずそんな言葉が口をついて出た。

「じゃあ、気持ちよかった?」
 冴貴がパッと顔を明るくして尋ねる。
「え……ええ……まぁ……」
 曖昧に亜衣が答える。
「それじゃ、続きをしてあげるね」
 そう言って亜衣の足を引っぱった。

「えっ!!」
 軽く引いただけに見えるのに、亜衣の体はすごい力で一瞬にして元の場所に戻された。
 間髪入れずに香油が塗られていく。
「亜衣さんにお似合いの可愛いおっぱいですよね」
 由貴がまだ膨らみきっていない乳房に油を塗ると背筋がビクンと反り返った。
「ぅん……」
「うふふ、もう乳首が起ってる。かわいいわ」
 そういいながら亜衣の頬にキスの雨を降らせる。亜衣も嫌がる様子を見せなかった。

 体の正面はうつぶせの時とは違って、掌ではなく指先に力を入れてマッサージしていった。

 亜衣は目のやり場に困っていた。
 仰向けになると、うつぶせの時は余り見ていなかった二人の裸や女性器が否応なく目に入る。胸の奥にこれまで感じたことのないもやもやしたものが湧きだし、胸が苦しくなってきた。亜衣にはそれが何かわからなかったが、冴貴にはわかっていた。

(やれやれ、やっとエッチな気分になってきたね。そろそろ下ごしらえの仕上げに入ろっと)
 そう考え、油に濡れて割れ目が浮き出ているベージュのショーツに目を向けた。
 亜衣がその視線を察知して、両手で押さえる。
「下は取らないで……お願い……」

「そうね。パンツは取らないでおいてあげる。処女は守るって約束だし……」
 亜衣はホッとしたが、すぐにそれが間違えであることを思い知らされた。
「……でも、童貞なら貰ってもいいでしょう?」

 えっと思った瞬間、下着を押さえた手の上に冴貴がそっと手を置いた。

 亜衣が下半身から沸き上がる何とも言えない不快感にうめき声をあげる。
 今まであった感覚がいくつも消え去っていく代わりに、股間から何かがせり出してくるのを感じた。亜衣に戦慄が走った。

 自分の体が作りかえられている!!

 痛みは全くないが、その激しい不快感と恐怖に胃の中が逆流しそうだった。

 数十秒ほど続いたであろうか。それに何とか耐え抜いたとき、股間に大きな異物を感じた。股間を押さえたままの自分の手に、暖かくグニャグニャした感触がある。
 それがなにかは見なくてもわかった。

 冴貴の股間にあった男性器は、思い過ごしではなかった。
 何もかもが白いこの部屋が、性別など無い狂った世界であることを身をもって知った。

「いやあああぁぁぁぁ!!」

 甲高い叫び声が上がった。


第五章 腕輪 

 何もかもが白い部屋。
 二人の全裸の美女。
 ショーツの脇からはみ出した、醜悪な陰嚢。
 自分の口から漏れているらしい悲鳴。
 何一つ現実感のない世界で、亜衣の精神が遊離しそうになる。

 その時。
「ねぇ、どうしてこの部屋に連れてこられたのか知りたくない?」
 冴貴の囁くような鋭い一言に、亜衣の正気が繋ぎ止められた。

 亜衣の注意が自分に向いたのを確認して、ゆっくりと立ち上がりベッドの側に出現した椅子に座る。
「どうして最初、『左手』だけ鎖に繋がれていたのかわかる?」
 冷静さを保たせるように静かに喋りかけながら、少しだけ『能力』を使い亜衣の心を慰撫する。

 ハッとして亜衣が左手に着けられた銀色の手枷を見た。
 その表面に小さなト音記号の刻印が押されている。

「気付いたみたいね。それは深山康治クンがあなたに着けた手枷よ」
 冴貴の口から康治の名前が出てきたことに心底驚いた。
「なにを……そんなこと……」
 しかし、セリフとは裏腹に、ブレスレットが外そうとしても外せなかった理由が、この二人にあることを、直感的に納得していた。

「深山君はね、私たちとある契約をしたの。あのブレスレットはその証文がわりだったんだけど、彼はその約束を破った。だから契約に従って、ブレスレットの持ち主は私のモノになるの」
 それは、理解できないひどく理不尽な言い草だった。
「何を言ってるんですか?? 私は認めません!! そんなのいやです!!」
「嫌って言われても、康治クンがしちゃった約束だからねぇ」
「ひ…非道い……。康治さんは……こうなる事を知ってて私に……?」
「いいえ、あなたがこうなるとは思っていなかったと思うわ。もう、それをどうこういっても仕方がないけど」

「康治さんは!? 康治さんはどうなってるんですか!!?」
 亜衣がそう言うのを聞いて、冴貴は少し目を細めた。
「彼には何もしてないよ。彼は安全だから、自分の心配だけしてなさい」

「あなたは……あなた達は、一体……?」

「私が何なのかを説明するのかはちょっと面倒なんだけど、普通の人間じゃない事は確かね」
 それは亜衣も既にわかっていた。
「でも、こっちのユキは一応人間よ。ドスケベだけどね。レズだし」
 由貴がこっちを睨んできたが、本当なのだから仕方がない。

「わたしを……どうするつもりですか……」

 冴貴はその問いに簡潔に答えた。
「解き放ってあげるの」
 亜衣は冴貴が何を言っているのか分からない。
「……?? 解き……放つ……?」
「そう。あなたの心を縛る物を全部はずしちゃうの。苦しみも悲しみも常識も性別も何もないところに連れていくの。すごく気持ちよくなれるわよ。気持ちよくて気持ちよくて、それなしでは生きていけなくなるぐらい」
「いやっ!! そんなの嫌です!! 家にかえしてください!」
「そんなこといっても、その格好で帰るの? そりゃ、おしっこするのは楽だろうけどさ。でも今は子宮も卵巣もないから、そのままでいると体が男っぽくなってっちゃうよ」

 亜衣が自分の股間に視線を落とす。
(ああ……ほんとうに……あそこだけ男の子になってる……)
 ショーツ越しに股間が膨らんでいるのが見える。
 先程、感じていた胸の息苦しさがぶり返し、体温が急に上昇した様な気がした。
 股間の窮屈な感触に意識がいった途端、変化が起こり始めた。
 血液が股間に集中するような感覚と共に、窮屈な感覚が強くなる。
「ああ……だめ……いや……」
 股間を手で押さえるが、それはかえって性器に刺激を与え、逆効果になった。
 ペニスがグウッとショーツを持ち上げると強い快感が生じた。
 唐突に圧迫感がなくなる。
「いやあぁ!! 見ちゃだめえぇぇ!!」
 手で押さえた下着の横から隆々と勃起したピンク色のペニスが飛び出していた。





第六章 種火

「ふふふ、自分のおチンチンに興奮したのね」
 隣に寝そべっていた由貴が油に濡れた手でそっと亜衣のペニスに手を添えた。
「ああ!! さわらないで!」
 突然のくすぐったいのを何十倍も濃縮したような刺激に亜衣の腰が引ける。
「こんなに丸見えになっちゃうと下着の意味がありませんよね」
 そういうとショーツに手をかけた。油で濡れたショーツは、亜衣の抵抗も空しく、ヌルリと脱げてしまった。
「亜衣さん、ほとんど生えてないんですね」
 由貴がペニスの周りにうっすらと生えている陰毛を撫でる。亜衣はあまりの恥ずかしさに頭がおかしくなりそうだった。
「亜衣さんの初めて、わたしにくださいね」
 股間をかばう亜衣の両手を引き離しながら、その体に馬乗りになると、ゆっくりと自分の秘所を亜衣のペニスに近付けた。

「こら、ユキぃ! 何、抜け駆けしてんのよ。亜衣ちゃんの童貞は私がもらうんだから」
 冴貴が怒鳴りつけた。
「いいじゃないですか。私は冴貴さんとご主人様達にしか抱かれたことがないんだから、たまにはほかの人もいいでしょう?」
「だめだめだめだめ、あたしだって亜衣ちゃんの初めての人になりたいんだから。由貴はこの間まで男だったんだから、あたしに譲りなさいよ!!」
「よくそんな事いえますね!! そんなオトコオンナを毎日抱いてるくせに!」
「ふーんだ、折角の初体験がユキのゆるゆるまんこじゃ、亜衣ちゃんが可哀想だね!」
「ひっどーーい!! 私のおまんこは処女の時みたいによく締まります!! 冴貴さんこそ、最近デブになってきたくせに。そんなデブデブな体じゃ、亜衣さんがつぶれちゃいます!!」
「なにおー! これが豊満なボディーっていうんだよ。男はこの抱き心地が好きなんだから! なによっ、首の匂い嗅がれただけで感じる変態のくせに!」
「アナルのほうが感じる人に言われたくありません!!」

 自分を挟んで、口汚くののしり合う二人を見ながら亜衣は自分の立場も忘れて呆気にとられた。半分意味が分からないものの、二人の美女の口から飛び出すあけすけな言葉に毒気を抜かれてしまう。

「亜衣はどっちがいいのよ!」
「そうよ! 亜衣さんはサキさんと私とどちらがいいですか?」

 急に冴貴に矛先をむけられ亜衣はしどろもどろになる。
「え……私、そんなこといわれても……」

「やっぱりあたしだよね。最高に気持ちよくしてあげるからさぁ」
 冴貴は再びベッドに腰を掛けると、亜衣の方に向けて股を開き、指で自分の秘所を開いて見せた。その扇情的なポーズと、悪戯っぽい目つきに宿る底なしの色気に、亜衣の意志に反してペニスはより一層固くなった。

「わたしですよね。優しくして差し上げますから」
 すぐ後ろから囁かれ亜衣が振り返ると、由貴の顔がすぐ目の前にあった。至近距離で見詰め合うと、欲情に潤んだその瞳に引き込まれそうだった。

 亜衣は美女二人に誘惑されるという、女では決してありえない状況に困惑した。
「え……あの……」
 そういいかけた亜衣の唇に由貴が貪りついた。
「んぐッ……んん!!」
「ああ! ユキ!! きたないぞ!!」
 亜衣は舌をねじ込まれる激しいディープキスを受けて目を白黒させた。すばやい動きで口腔を舐められ、舌を絡められ、唾を流し込まれる。
(ああ……なんか……なんか……変な気分……)
 クチュクチュと音をたてて舐められると再び胸の奥にムズムズするような奇妙な感覚がうまれてくる。それに追い立てられるようにおずおずと由貴の舌に自分の舌を絡めた。すぐに、由貴の巧みな舌使いににリードされ、淫靡なダンスを始めた。
 亜衣の心はなんともいえない感情に満たされた。これまで他人をこれほど近くに感じたことがなかった。キスをされながら香油のついた背中をヌルヌルと撫でられると、股間の男性器が立ち上がりピクンピクンと脈動した。
 冴貴に後ろから羽交い締めにされて由貴はやっと唇を離した。

 キスの後も、亜衣は口を半開きにしたままうっとりとしていた。
 由貴は得意げな顔で振り返って、冴貴を見る。
「いいですよね、サキさん?」
「ちぇっ、勝手にしなよ、もう!」
 不満そうにしながらも由貴を放した。

 由貴が自分の内股に香油を塗りつけながら、四つん這いで亜衣の体を跨ぐとゆっくりと体を降ろしていく。亜衣は逃げようとしたが、ペニスを掴まれると引っぱるわけにも行かず動きが止まった。
 握られたままゆっくりこすられるとペニスからの快感と共に、胸の奥に何か小さな感情の火がついているのに気付いた。それは目の前の女を何とかしたいというどす黒い衝動だった。そんな気持ちが自分の中に在ることに始めて気付き、亜衣はあわててそれをうち消す。
「それじゃ、いきますね」
 亜衣の気持ちを知ってか知らずか、由貴は亜衣のペニスの狙いを定めた。
「だめ……いれちゃ、だめ……」
「それは入れられる方の台詞ですよ。いまの亜衣さんには似合わないわ」
 妖しい微笑を浮かべながら腰を落としていく。亜衣はなんとか逃げようとしたが、冴貴としょっちゅうじゃれ合っている由貴にとって体の小さい亜衣を押さえつけるのは簡単だった。

 ペニスの先に暖かくて柔らかい感触があたる。肉の疼きと、自分の価値観を打ち消してしまうような何かの到来の予感に、亜衣は震えた。

 由貴が美しい声で告げる。
「ああん……亜衣さんのが入ってくるわぁ」
 ヌヌヌヌ。
「いやああああああ!! だめ、こんなのだめぇ!!!!」

 ペニスが適度に締め付けられながら、暖かく柔らかい肉に絡め取られる。亀頭が埋まった時点で腰が浮き上がるような快感が生まれた。そのまま由貴の体内にペニスが埋め込まれていくと、まるでそこから自分が由貴の中に溶けていくような錯覚を覚えた。始めて味わう圧倒的な快感だった。
(いやぁ……とけちゃう……)

 由貴はペニスを膣で完全に飲み込むと、ゆっくりと亜衣の小さな乳房を撫でるように柔らかく揉んだ。
「はふぅ……ぁあぅ……」
 下半身の快楽とはまた違う、受動的な快感が生まれると声が自然と出た。下腹の辺りで2種類の快感がぶつかり熱い渦を巻く。
 その猛威に亜衣のセックスに対する禁忌の心ははぎ取られようとしていた。

「男の快感と女の快感を同時に味わえるわよ。すっごい、気持いいからもう普通のセックスでは満足できなくなるかもね」 
 冴貴が亜衣から沸きあがる快感を吸収しながら、注釈する。しかし、誰も聞いていなかった。

「亜衣さん、どうですか……私の中は?」
「………ハァ……ハァ……あたたかい……すごい……」
「亜衣さんのもとっても熱くて固いわ。締め付けても全然効かないみたい。……うぅん……そろそろ……動かしますね」

 由貴がじっくりと腰を使い始めた。同時に油でぬれた亜衣の体に自分の体を擦り付ける。
 体全体から与えられる生暖かいヌメヌメした淫靡な感触が亜衣の幼い心を蝕んでいく。
(…だめぇ……どうしよう……きもちいいよぉ……)
 初めて味わうセックス。女性の敏感な上半身を持ったまま、処女喪失の痛みも無い初体験は、亜衣の心に破滅的な快楽をもたらした。
 亜衣は1分も持たなかった。

「あああ……おしっこ漏れちゃう……ダメ!! 抜いてっ!! 抜いて!!」
 慣れないペニスの感覚になにか熱い液体が溢れてくるのを感じて、亜衣が情けない声を上げた。
「ふふふ……それはおしっこじゃないのよ。この部屋では妊娠したりしないから、中に思いっきり出して」
「や……やだっ……でちゃうぅ!! なんかでちゃうよ!! 抜いてっ!! 抜いてぇ!!」
 無意識に急にペニスの根元に強い力が入る。伸び上がろうとするペニスが由貴の膣に押さえつけられ、足が震えるような強い快感を感じた。
 それを察知して由貴が思いっきり膣を締め付けた。
「いやーーー!! ああんっ、ああんっ、ああんっ」
 下半身を突き抜ける快感に膝がガクガクと震える。
 由貴はジュッ、ジュッという音をたてて、自分の中に熱い液体が注ぎ込まれるのを、動きを止めて堪能した。
「ああん……まだ出てる……まだ出てるわ……。亜衣さんの多いのね。あったかくて気持ちイイ」
「ああ……ああ……」
 長い射精を終えて亜衣はまだ呆然としていた。
(でちゃった……気持ちよかった……)

「じゃ、今度はもうちょっと頑張ってくださいね。もっと気持ちよくなれますから」
 そういうと由貴は再び小さく腰をつかって亜衣の回復を促す。
「ちょっと、まて。ユキ!! 今度はあたしの番だぞ」
「でも、私まだ全然イってませんよ」
「だめ! はい、替わって替わって」
「もう、サキさんのイジワル」
 ユキが渋々腰をあげる。由貴の膣から漏れ出た精液が亜衣の恥毛に垂れ落ちた。

 亜衣は酷い自己嫌悪に陥っていた。
(セックスした……女の人とセックスした……)
 恐ろしい快感だった。由貴がどいたというのに未だに時折ピクンとペニスが震え、その余韻を生む。
(あたし……あたし……どうなっちゃうの……?)
 処女が守られたといっても、セックスしてしまえば同じ事だった。セックスがこれほどの快感をもたらすことを知ってしまったら、もう何も知らなかった自分には戻れないと思った。
 この日3度目の涙がポロポロと流れ出した。

「亜衣ちゃん、泣かないで。お願いだから」
 亜衣の様子に気付いた冴貴が亜衣に顔を寄せ、ゆっくりと胸に抱いた。冴貴のセミロングの髪が亜衣の肩にかかる。
「これからは私達がずっとあなたの側にいるから、泣かないで。もし今度、お父さんが転勤になったら、うちの実家に下宿したらいいわ。ううん、あたしがついて行ってもいい。亜衣が望む限りずっと一緒にいる。だから、ね、お願い。泣かないで……」
 そして、亜衣の目を見て訊ねた。
「……それとも、私たちのこと嫌い?」

 亜衣は冴貴を見た。
(わたし……この人たち嫌い……?)
 少し考え、小さく首を横に振った。
 何故か二人を憎む気持ちが起こってこない。
 これほどのことをしながらも、二人の目に宿る亜衣にたいする親愛の情と、物悲しさが、この二人を憎みきれないものにしていた。それに、決して亜衣を蔑んだり、子ども扱いしたりしなかった。同学年からも幼く見られていた亜衣にとって、そうしてくれる友達は、未夜子を含め極少数だった。
 そしてなにより、引越し少女であった亜衣にとって『ずっと一緒にいる』というのは、すでに諦めながら、それでも心の底から求めてやまない言葉だった。

 ふと、亜衣の目つきが柔らかくなった。

「よし!! 香油でベタベタだから3人でお風呂はいってから続きをしよう!」
「やったぁ!! サキさん、わたしジャグジーつきの大理石のがいいです」
「えっ、あたし草津の温泉浴場にしようと思ってたのに」
「サキさんムード無さすぎです」

 二人のやり取りが可笑しくて亜衣は少し笑った。


第七章 猛威

「どうだった、おしっこするのは」
「立ったままするのは不思議な気分だけど……でも楽ですね……」
 亜衣が恥ずかしそうに答えた。
「でしょう! 男はいいよね。なんでも簡単で」

 白い大理石でできた広い浴場で冴貴が亜衣の背中を流していた。由貴はのんびりと自分の体を洗っている。
 亜衣は最初、寝室であったものが、脱衣所とトイレまで完備された大浴場に変わってしまったのに唖然とした。未だにその驚きは完全には去っていない。
 この白い部屋はなんでも冴貴の思い通りになるのだと、由貴が教えてくれた。

「男には男の苦労があるんですよ」
 由貴が自分の背中を洗いながらいった。
「そうかなぁ?生理は無いし、体力はあるし、社会的にも恵まれてるじゃない」

 冴貴が手短に亜衣に由貴が男であったと説明する。

「その代わり、プレッシャーも大きいですよ。男はこうあるべきだってのがあるし。それに女の人だけの楽しみとかもあるじゃないですか」
 由貴が反論する。
「じゃぁ、ユキはもう男には戻りたくないの?」
 その質問に由貴は表情を曇らせた。
「それは………。同じ人間は一人で十分ですから……」

 これまで冴貴が、由貴を男にして自分とセックスしてもらおうとしても、由貴は決して首を縦に振らなかった。それは由貴の中のけじめだったのだろう。冴貴は初めて由貴の心の中に、未だに男に戻りたいと思っている部分があるのを見つけた。
 そうでない筈がなかった。冴貴は由貴が黙って、何度か畑山優一を見にいっていたのを知っていた。自分の質問が残酷だった事に気付いて自己嫌悪に陥る。

「由貴さんは男だったからレズなんですか?」
 唐突な、素直な質問に、沈みかけたその場が和んだ。
「あははは。そうかもね」
「べつにレズってわけじゃあ。最近は、男の人も……その……ちょっとは……」
 ごにょごにょいう由貴を尻目に、冴貴と亜衣は視線を交換して忍び笑いをもらした。
「でもさ、ユキのファッション勉強になるんだよ。男の人が好きそうな服ってのが、すごく良く分かるんだ」

 亜衣はふと、深山康治のことを思い出した。
 一緒にコンサートを見たのが遠い昔のように感じるが、まだ一昨日のことなのだ。自分は康治のことが好きだったのだろうか? 確かにすごく気にはなっていたが、愛していると言う訳ではないような気がする。でも、一緒にとった食事が楽しかったのは確かだった。もう一度、自分はあんな風に自然に、康治と付き合えるのだろうか? 康治と冴貴の契約というのは何だろう? 康治はどんな約束を破ったんだろう?

「きゃあっ!!」
 急にお尻の隙間に手を入れられ、亜衣の思考は中断された。
「もっともっと気持ちいいこと教えてあげるね」
 そういいながら、グリグリと肛門をマッサージする。初めての刺激に混乱する。
「いや……やめてください……そこ、汚い……」
 しかし亜衣のペニスはもう勃起していた。
 亜衣はその男性器の生理が分からなくてますます慌てる。
「だから洗ってあげるのよ。心配しなくても、結構、たくさんの人がここ使ってセックスするんだから」
「えっ!!セックスって……ここに……?」
 アナルセックスというものを知らなかった亜衣は純粋に驚いた。自分の股間に勃起しているようなモノを肛門の中に入れるのだろうか? 亜衣は恐ろしくなって逃げようとした。
「逃げちゃダメ! じっとしてないと未夜子ちゃんに、亜衣が熊のぬいぐるみ抱いて寝てる事ばらしちゃうぞ」
「!!?…どうしてそれを?」
「亜衣のお母さんに聞いたんだ」
 急に話に母親が出てきたことに戸惑った。
「えっ?? 母さんに会ったんですか?」
「うん、ほかにも亜衣のこといろいろ聞いたよ。……ベッドの上で、たっぷりとね」
 冴貴がいやらしい笑みを浮かべながら言った。

 バシャーー!!
「サキさん! 姿が見えないと思ってたらそんなことしてたんですか!! うわきもの!!」
 由貴に桶に入っていたお湯を頭かかけられたが、冴貴のにやけた顔はそのままだった。

(ベッドの上? ……まさか、母さん、冴貴さんと……)
「ひどい!! そんな……」
 母親に対して失望とも軽蔑ともつかない感情が湧いてくる。それは冴貴に対しても同じだった。冴貴の第六の感覚がそれを見咎めた。
「私を軽蔑するのは勝手だけど、お母さんを責めないでね。お父さん単身赴任でずっと欲求不満なのを我慢してから、あたしが玄関でレイプしちゃったんだから。亜衣のお母さん、すごい抵抗したけど、キスしただけで濡れちゃってさ。知ってる? 亜衣のお母さんってメチャクチャ色っぽい声で喘ぐんだよ。すごく若くて可愛い人だよね。あたしも夢中になっちゃった。それからね、ベッドの上に行ってずーっと話を聞きながらヤってたの。
 でも、ほら、男と浮気したわけじゃないし」

 そういわれても、亜衣の心は収まる筈も無い。
「それに今なら亜衣もわかるでしょ? 誰だって気持ちいいのは好きなんだから、それで他の人を責めちゃだめよ。お母さん、久しぶりに若返ったって言ってたよ」
 そういえば、何だか今朝の母親が上機嫌だったのを思い出した。
(母さん、さびしかったのかな……)
 いつも明るい母親がそんな思いを抱えているなんて思っても見なかった。軽蔑と寂しさの入り交じった複雑な感情が心を満たした。

「そうよ、だから亜衣も楽しみましょう」
 冴貴はそう言って、肛門のマッサージを再開した。亜衣はなれない刺激にやはり逃げようとする。
「熊のぬいぐるみ……未夜子ちゃんにいうよ」
 耳元で囁かれて、釈然としない思いを抱きながらも大人しくする。
 冴貴はいつのまにか潤滑用ローションの入ったビンを手にもっており、中身を手にまぶしては肛門に揉みこんで行った。
 
 自分の体を洗い終わった由貴が、いつのまにか亜衣の側に来て、腕や足をあわ立てたスポンジでこすり始めた。マッサージによって、体が敏感になっている亜衣は、それだけでうっとりした。肛門の刺激も慣れてくると、気持ちいいような気がする。

「亜衣は普段オナニーしてる?」
 冴貴の出し抜けの質問に、亜衣が赤面した。
「やっぱしてるんだ。友達に教えてもらったの?」
 とんでもないといった風に首を激しく振った。
「じゃ、自分で覚えたんだね。いつ頃?」
「……小学校4年の時……」
「うそぉ。結構早いのねぇ。でも、ここは使ってないよね、さすがに」

 ヌプッと冴貴の中指の第一関節が亜衣の肛門の中に埋まった。
「はんぅ……」
 亜衣の口から変な声が出た。何の痛みも無く、ぬるりと入ることに驚いた。
 それと同時に、亜衣の股間のモノが勢い良く膨張し始めた。

 そのまま浴場に亜衣を四つんばいにさせ、本格的に責める。
 亜衣は四肢をついて、排泄器官を悪戯される恥ずかしさに声もなかった。

 冴貴が亜衣の直腸の中を指でまさぐると、指に硬いものがあたった。
「あれ? 亜衣……便秘だったのね。こんなところまで出てきてるよ」
 亜衣は耳まで真っ赤になった。
「だめ!! さわっちゃダメ!!!」
「どうして?気持ちイイんでしょう。しっかり勃ってるよ」
 確かに男性器は痛いぐらいにいきり立っている。
(うそ……どうして……こんな……)
「折角だからいいことしてあげるね」
 冴貴はそういうと亜衣の直腸の中で、排泄物のかけらを指で引き剥がした。
「だめ……いや……いや……」
 涙目で首をふるふると振る亜衣。
「病み付きになるよ」
 冴貴は嬉しそうにいいながら、排泄物の欠片を指と一緒にゆっくり引き抜いた。
「あぁん………」
 信じられないことに、指が汚物と共に肛門を抜ける時、はっきりとした快感があった。
 辺りに異臭が漂った。
 その匂いに亜衣の心が一部、壊れた。
 
「ふふ、うんこを掻き出されると気持ちいいでしょう? ほら、チンポ握ってこすってみなよ。もっとよくなるよ」
 右手で亜衣の手を取り、男性器を握らせながら、左手の亜衣の汚物の欠片を排水溝に流し、再び肛門に指をいれる。ペニスを握らせた手を放すと、亜衣はじぶんからしごき始めた。由貴もスポンジを捨て素手で亜衣の体を愛撫しはじめた。

 再び指が、硬い欠片を引き剥がした。
「だめぇ…もうとっちゃだめぇ……いやああぁん!」
 言葉とは裏腹に、排泄物の欠片を一つ二つと取られるごとに中学生とは思えない色っぽい喘ぎ声が漏れる。いつのまにかペニスをしごく手に力が入っていた。
「……あうぅん。もう、指を抜いて……おねがい……」
 肛門で感じている自分を認めたくない一心で懇願するが、その声にははっきりと快楽がにじみ出ている。
(ああ……どうしてぇ……おチンチンこするのも……うんち取られるのも……気持ちイイよぉ)
「お尻、感じるんでしょう? 感じてるのは自分なんだから、あたしに嘘ついてもしょうがないよ。ほら、また取れた。……もっと大きいの取れないかな」
「だめぇ! かき回しちゃダメぇ……」

「まだ、正直になれないの? しょうがないなぁ。よし、正直に気持イイって言ったら、あたしがセックスしてあ・げ・る」
 冴貴が目いっぱい色気を含んだ声で耳元に囁く。

 耳元に熱い吐息と一緒にそう吹き込まれると、先ほどの由貴とのセックスが思い出され心が揺れた。
(………シタイ)
 解き放たれた性欲を止める枷は、冴貴の手によって完全に壊されていた。亜衣の発達しきってない精神でセックスの誘惑に抗し続けるのは困難だった。

 再び生暖かい塊が直腸から掻き出されたとき、抵抗を諦めた。
「ああん…お尻、感じます。だから……あの……その……」
「あたしを抱きたいなら、抱きたいってはっきり言わなきゃダメよ」
 冴貴の使った『あたしを抱く』という言葉の生々しさに一瞬ひるんだが、それも僅かな時間だった。
「冴貴さんを……抱かせて……ください……」
「うふふ、いいわよ。亜衣もすっかりスケベになっちゃって」
 そういうと亜衣の前に仰向けに寝転がり股を開いた。秘所は既に興奮で濡れそぼっている。
「……やさしくしてね」
 冴貴の柄にもない言葉が合図となって、冴貴の花弁に亜衣がペニスを押しつけた。

「もうちょっと下かな……。うんっ……そこ……」
 冴貴が亜衣のペニスを持って正しい場所に導く。
 亜衣はペニスが柔らかい物に包まれる感覚に我を忘れ、強くねじ込もうとした。
「ううん……だめよぉ。そんなに急にいれないでぇ」
「冴貴さんの中、あったかい……」
「……サキって、抱いてる時はサキって呼び捨てにして……ああん」
「サ…サキも…気持ちいいの?」
「いいわ……うぅん……ゆっくり腰を使って。あたしの感じるところみつけて……ずっとずっと気持ちよくしてね……」
 冴貴にそういわれて、なるべく膣のいろいろな所に当たるように、ぎこちなく、しかし一生懸命に腰を動かす。自分の自慰の記憶から、相手の感じる場所を想定しているため、どうしても膣の入り口付近を重点的に責める事になるが、それが却って上手く冴貴を焦らす結果になった。中学生の幼い少女に抱かれるという倒錯した状況と相まって、かつて無いほど冴貴を興奮させた。

 冴貴の顔を観察していると、時折ひどく切ない表情を浮かべる。ついさっきまで悪戯っぽい表情で自分を弄んでいたのとは全く違う、大人の女の表情に亜衣はドキドキした。その表情を浮かべさせているのが自分だと思うと誇らしかった。
 
 もっと気持ちよくしてあげたい。もっとよがらせたい。

 亜衣が生まれて始めて抱いた他人への征服欲は、自分の快感を欲する心を抑え、亜衣を夢中にさせた。冴貴の豊かな乳房を揉み、乳首を口に含む。いちいち冴貴の反応を確認し、冴貴の急所を頭にいれていく。

 冴貴は黙って亜衣のするがままにさせていたが、徐々に的確になってくる亜衣の上達振りに舌を巻いた。
「ああん……そこぉ……亜衣ちゃん上手よぉ……。あたし感じるっ!」
(この子、責める方がむいてるんだわ……すごい……いい……)

「……サキ……いくね……」
 そう言うと亜衣は覚えているサキの弱点を激しく突き始めた。
 自分から申し出たものの、年下の少女にサキと呼び捨てにされると激しく興奮した。両手と両足を小さい少女の体にまわし、より深いところまで受け入れる。
「はぐっ……くうぅん! ああん……とっても……ハっ……素敵よぉ…んっ……」
 冴貴は予想しなかった勢いで与えられる快感に戸惑い、なんとか足を亜衣に巻き付け、膣の中のペニスの動きを鈍らせようとするが、亜衣はお構いなしに責め続けた。
 自分よりずっと大柄な冴貴が、自分が一突きするごとに、体を震わせ喘ぎ声をあげることに異常に興奮していた。このセックスが亜衣のその後の運命を決定付けた事に、冴貴ですら気付いていなかった。

「……ハァ……ハァ……すごい……おかえしに…亜衣も…気持ち…よくして…あげる」
 亜衣に一方的に責められるのが辛くなってきたため、冴貴は下から本気でねっとりと腰を使い始めた。そうされると、さすがに亜衣の経験不足は致し方なく、一気に攻守が逆転し、絶頂へと押し上げられた。

 横から二人の様子を見ていた由貴は、それを察知して、亜衣に助け舟を出す。サキの肛門に指を入れて、知り尽くした冴貴の性感帯を責めた。
「ああん……こらユキ……あん……だめぇ……いっちゃう」
「ああ!! サキぃ…そんなに締めないで……ああ……でちゃう!! ……でちゃうぅ!!」
 熱い液体が子宮をたたく。大量の暖かい精液に満たされ、冴貴も果てた。
「亜衣の熱いよぉ! あたしも、ああーーん! はぁーん!! イクゥう!!」
 冴貴の体が激しく痙攣するのに、亜衣はびっくりしていた。

 絶頂の後しばし呆然としていた冴貴に、亜衣と由貴の話し声が聞こえてきた。どうやら女が余韻を大事にすることを教えているようだ。亜衣がこちらに目を向けると、顔を近付けてくる。
 ゆっくりと舌を絡めあいキスをすると、抜かずにおいてくれた股間の暖かさが心地よかった。嬉しくなって亜衣の小さな体を、力いっぱい抱きしめた。
(かわいい……もう……手放さないから……)





第八章 永劫

 長く甘美なキスの後も亜衣は冴貴を潤んだ目で見つめていた。
「亜衣ちゃん、2回目なのに上手ね。すっごく気持ちよかったよ」
 冴貴がもう一度軽くキスをする。亜衣も嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「……わたしも、よかったです」

「よし、じゃあ、そこに四つんばいになって」
「こうですか? なにをするんですか?」
「お尻をきれいにするのよ」
 その手には注射器を大きくしたようなガラス器具がある。
 それをみて亜衣の顔から血の気が引いた。
「まさか……」
「そう、浣腸よ。心配しなくてもちゃんとおトイレ行かせて上げるからさ。便秘も治るよ。ほらちょっとお腹張ってるじゃない」
 冴貴が下腹部をグイグイと押す。亜衣はかなり便秘症だった。
「そうですか……それじゃあ……お願いします」
 亜衣は何故そんな事を言ってしまうのか、自分でも不思議だった。
「一回で全部でるかなぁ。何回もやらないとダメかも」
 ガラス器具を亜衣の体に刺し込み、中の薬液をじっくりと注入した。
「うううぅ」
 腸が逆流する始めての感覚に搾るような声が出る。
「おっ、気持ちいいのかな? 5分ぐらい我慢してみようか」
 そういうと亜衣の目の前に砂時計を置いた。
 亜衣もこの部屋でモノが突然現われる事に段々慣れて来た。

 すぐにお腹がグルグルと鳴り始めた。
「ああ……痛い……お腹痛い……」
「まだまだよ。我慢できなかったらここで出しちゃってもいいからね。あたしとしては亜衣ちゃんが漏らすところを見るのもいいかなぁー、なんて」
「イヤ……それはイヤです……」
 亜衣がブルブルと首を振る。
「冗談よ。最初からそれはハードすぎるからね。この砂時計が全部落ちたらトイレ行っていいから、頑張ってね」

 亜衣にとっては長い5分が過ぎ、やっと砂が全て落ちた。亜衣の表情は真っ青で脂汗に光っていた。切羽詰った表情で大理石の床を凝視し、砂が落ちきったことにも気付いてない。
「時間よ、トイレ行っていいよ」
 冴貴がぺちっと亜衣のお尻を叩く。
 歩幅を小さくしてピョコピョコと歩いていく後姿が可愛らしかった。

 後に残った由貴が冴貴の背中を流し始めた。
「サキさん、亜衣さんとセックスしている時は、すごい悶え方でしたね」
「うん、自分より小さい娘に抱かれるのって、すごい興奮した。……ねぇ……ユキ、ちょっと妬いてる?」
「いいえ、私も後で亜衣さんに抱いてもらいますから」
 そう言いながらも、少し拗ねた様子がある。
「あたしに嘘ついてもダメなの知ってるくせに。でも、これって浮気になんのかなぁ?」
「それって私たちが恋人同士かってことですか?」
「うーん、なんかそれも違う気がするなぁ。ねぇ、ユキ。ユキはあたしのなんなの?」
「それは、私が聞きたいです」
「でも、何にせよ一番大切な人にはかわりないよ」
「……それで、十分です……」

 由貴が冴貴の背中を流し終えた頃、亜衣が戻ってきた。心なしか足取りも軽い。
「おっ、便秘も治ったみたいね。じゃ、も一回お尻出して」
 手には再び浣腸器が現れていた。
「えっ、またですか」
「そうそう、ちゃんと綺麗にしないとね。この部屋の中だと病気になったりはしないんだけど。今度はお湯だけだからね」
 亜衣を四つんばいにさせると手際よくぬるま湯を注入する。
「殆どお湯しか出ないだろうから、ここで出しちゃいなよ」
「それは……ちょっと……」
「ほらほら、つべこべ言わないで」
 すっかりほぐれている亜衣の肛門に指を入れ弄ぶ。少しずつ液体が漏れ出てくる。
「ああん……冴貴さん……だめ」
「ねぇ、お願い。出して。亜衣が色っぽく垂れ流すところがみたいの」
 冴貴に耳元で囁かれると、何故かそうしてもいいかなと思った。
「サキさんがそういうなら……恥ずかしいけど……うぅん……」
 亜衣は自分から下半身の力を抜いた。
 生暖かいものが太ももを伝っていく。
 時折、下品な音と共に噴出する液体は、ほとんど色が無いが、所々茶色いものが混じっていた。
 顔を赤くして恥ずかしそうにしているものの、亜衣の心が妖しい喜びに目覚めようとしているのが冴貴には見えていた。

 亜衣の肛門は中の液体を全て吐き出した後もヒクヒクと蠢いている。
「痛くないようにしてあげるね」
 そういうと手を腰の裏辺りの背骨の裏に指をあてる。
 そのまま『能力』をつかって亜衣の下半身を司る運動神経と副交感神経の一部を乗っ取り、少しだけ刺激をあたえる。

 亜衣の肛門が、目に見えて大きく開いた。肛門に全く力が入らなくなり、腸の中が空気に触れる異常な感覚に亜衣は狼狽えた。
「いっ…いやぁ……なんですか……これ……。お尻の穴が勝手に……」
「えっへっへ。すごいでしょう? 自分じゃもう閉められないよ。締まりが悪くなるんだけど、今日は亜衣に感じて貰うためだからいいや」

「あの、やっぱり……そこに……いれるんですか?」
 なんとなく覚悟していたとはいえ、さすがに緊張が隠せない。しかし冴貴との間には奇妙な信頼関係が芽生え始めており、それが亜衣を落ち着かせていた。
「アナルセックスは気持ちいいから、やっぱり一度、経験してみるべきだと思うんだよね。大丈夫、絶対、よくしてあげるから」
 そう言いながら自分の股間に創り出した細めの男性器に、潤滑剤をぬりつける。
 亜衣が覚悟を決めたように顔を伏せると、由貴がその開きっぱなしの肛門に潤滑剤を塗りつけた。

「いくよ」
 肛門にペニスの先を当てる。
「んああああ」
 人外の技で開かれたその部分は、大した苦痛も無く、冴貴を迎え入れた。肛門を押し広げられる感覚に思わず声が出た。
 それが快感なのかどうかは、良くわからなかったが、亜衣のペニスは急激に膨張し始めた。
 ゆっくり引き出すとき、亜衣は激しい反応をみせた。
「ああああ!!」

「いきなり感じるのね。亜衣はアナルセックスに向いてるのかも」
 ペニスが前立腺の裏に軽く当たるように微妙に体を揺らしながら乳房を揉む。
「いや……気持ち悪い……おなかが変……」
「それは気持ち悪いんじゃないよ。気持イイのがわからないだけ。もっと、抵抗しないであたしを信じて……」

 しかし、亜衣はそれからも暫く顔をしかめながら唸るだけだった。
「ううん……ううん……」
 冴貴は冷静に亜衣のからだの中に走る感覚を透視しながら、亜衣の体をまさぐり続けた。

 そしてついに、ある一瞬、摘まれた乳首から、電撃のようなモノが胸の奥を通って、腰を突き抜け肛門に落ちた。

 亜衣の体がビクンと反り返る。
(なに、いまの!?)
 亜衣は未知の感覚に恐怖を覚えた。それなのに自分の意識はもう一度それを見つけたくて、冴貴の愛撫を受け入れ、体の中に意識を集中していくのだった。
 2回目の電撃が走る。
「んんーー!!」
 それが通り過ぎた後に、巨大な快感の余韻があった。
 咄嗟に右手がペニスに向かおうとするのを、冴貴が押しとどめる。
「だめ、自分で触るのは我慢して……もっとよくなるから……」
「でも……ああん……」

 冴貴は亜衣の体を走る快感を見極めながら、腰を使い、乳房を弄び、背中を舐めた。時折、体位を変え、持ち上げたり寝かせたりしながらも、亜衣の感覚を透視し続け、繊細な楽器を弾くように慎重に責めつづける。
 さすがの冴貴も集中力を要するのか、悪戯っぽい目つきが消え、真剣そのものだった。
 普通の人間なら長い時間をかけて見つけなければならない快楽の扉を、冴貴は一時間で開いた。
 体位が一巡して再び四つん這いの亜衣を後ろから犯しているときに、亜衣が小刻みに声を上げ始めた。

「ああ……。なに……? ああ……ダメ……」
 ピクピクと亜衣の太ももが痙攣し始める。それでも冴貴は冷静に急所をペニスの先で嬲りつづけた。
 亜衣の痙攣は次第に下半身全体に広がり、激しさを増すが、冴貴の万力のような力で押さえつけられ、快感は逃げ場を失い、亜衣の体の中で荒れ狂った。
 冴貴がタイミングよく亜衣の小さな乳首を愛撫し始めると、それは快感が亜衣の中で爆発した。

「こんなの!! こんなのって!! いやぁ、いっちゃううう!!」
 しかし、亜衣の四肢は痙攣しているのに射精しない。ペニスの先からは透明な液体が溢れるように流れ出している。
「ああん……でない……どうしてぇ……イッてるのにぃ! いやっ、またイッちゃうよお!! イクゥう!!」
 それでも射精しない。それどころか、あまり勃起していないように見える。ただし激しく痙攣はしていた。
「どうしてでないのぉ………こんなのぉ……ああ……これ以上イカせないで……だめ!! ああっ!!」
 腕は上半身を支えきれず上半身はつぶれているのに、下半身は別の生き物のように蠢き震えている。足の先までピンと力が入って、つま先が石の床に突き刺されとばかりにつきたてられていた。

 それまでジャグジーでくつろいでいた由貴が目を丸くして見ていた。
「すごい……どうなってるんですか……」
「前立腺だけをうまく刺激するとこうなるんだ。男の体でも、女の快感が味わえるってことね。もっとも亜衣は上半身が女のままだから普通より簡単だったけどね」
「女の子の愛液みたいにだらだらと液が出るんですね」
「これと同時におちんちんも擦られたら、もう普通のセックスには戻れないからね、アイ」
「いやあ……もういやぁああ! だめぇ!! いやよぉお!!」
 冴貴と由貴が喋っている間にまた絶頂を迎えている。

 冴貴は、時々、ペニスの当たる場所をずらして休ませながらも、さらに一時間ほど絶頂を迎えさせつづけた。亜衣は大声を上げながら、のたうち回り続ける。
 最後には、亜衣はすすり泣いていた。その顔は涙と鼻水と涎でグチャグチャになり見る影も無い。
「……うあぁ…もっとぉ……おぉ……またぁ……またイクうぅ」
「どう、お尻は?」
「気持ちイイよぉ……くるっちゃうおぉ……」
 涎を垂れ流したままの唇から、舌足らずな言葉が返ってきた。

「よし、ユキもおいで」
 由貴は待ち遠しかったといわんばかりに、四つんばいになっている亜衣の下に滑り込む。そのまま起用に腰だけを上向けて、亜衣の腰に足を絡め、ペニスを咥え込んで行く。
「焦らさなくていいよ。前もイカせてあげよう」
 冴貴はそう声をかけると、早いピストン運動を始めた。
 由貴もこねるような腰使いで亜衣のペニスを締め付ける。

 亜衣の頭の中は空っぽになり、体の感覚だけしかなくなった。
 目の前に火花が飛び散り、真っ白で何も見えなくなった。
(ナニモ……ナニモいらない……これだけ……イイ……)
 それが言葉になった最後の意識だった。

 冴貴の特殊な感覚には、亜衣の心が、元々の瑞々しい透明さを失い、極彩色に塗りつぶされているのが見えた。セックスが終わり、快感と共にこれが引いていくと、そこには暗い穴が残るのだ。
 清純で無垢だった亜衣は自分が殺した。
 冴貴の心の中の良心が悲鳴にも似た軋みをあげる。
(あたし……何してる……何をした……こんな小さな娘に……何も知らなかったコに)
 余りの罪の意識に苦い物がこみ上げ、吐き気がした。
(許されるわけがない……こんなこと許されるわけがない……)
 それ以上考えるのが恐ろしくて、亜衣の肛門が切れるのも無視し、メチャクチャにペニスを突っ込んだ。

 亜衣が言葉にならない訳のわからないことを喚き散らしながら、全身を痙攣させる。
 その激しい動きに由貴が先に絶頂を迎えた。
「すごい……そんなに動いたら私、イッちゃう……ああん……イクゥ!!」
 由貴が絶頂を迎えると、その締め付けで亜衣が獣のような声をだしながら、射精した。肛門は千切れんばかりに冴貴のペニスを締め上げる。
「うぅっ!!……あたしもぉ!!」
 最後に冴貴が果てて、やっと長い狂宴は終わりを迎えた。

 完全に気を失ってしまった亜衣の体を挟んで、冴貴と由貴が目を合わせる。

「亜衣の心……砕いた……」
 冴貴の目から零れた一筋の涙が、亜衣の髪にあたり、染み込んでいった。

「せめて、この子と一緒に……かけらを拾いましょう……」





第九章 雨

 康治は雨の中、傘をさして佇んでいた。
 妙な胸騒ぎがしていた。
 目の前に佐川亜衣の家がある。

 自分の軽率さを呪う。なぜ、あのブレスレットを亜衣に渡してしまったのだろう。 あのブレスレットは危険な物だったのに。

 図書館であの光景を見た次の日のことだった。音楽部の帰りが遅くなって、すっかり日が暮れていた帰り道、公園にあの首輪の少女がいるのを見つけた時は、心の底から驚いた。図書館を出てから、やっぱりアレは白昼夢だったと自分に言い聞かせていたからだ。
 あの時の会話を思い出す。

「深山康治さんですね」
 その声は、予想したとおりのか細く美しいものだった。
「そうだけど、君は……」
「唐突で申し訳ないんですが、私たちのことを、詮索しないで下さい」
「えっ……?」
「あなたに詮索されると私たちの生活が壊れてしまうの」
「………急にそんなこと言われても、訳がわからないよ。大体、君たちは一体、何なんだよ。図書館で……その……あんなことしても誰も気づかないし……」
「ごめんなさい。言えないの。全部忘れてください。私たちに構わないでください」
「そんなことできないよ!! 大体、君のその首についているのは首輪だろう? 君はもう一人の女に弱みでも握られてるのか? それなら……」
「そんなんじゃないんです!! お願いだから、詮索しないで。ただでとは言いません」
「………?」
「通学の電車で、あなたの事をいつも見ている可愛い女の子がいるでしょう? あの娘を手に入れる方法を教えてあげます」
「どうして、そんなことを知ってる……? 君はいったい……?」

 その少女に気づいたのは、最近になってからだった。それ程、目立たないが、それは今時の子のように、派手な化粧や装飾をしていないからだろう。一房の小さな三つ編みだけが少女の個性を主張していた。
 一見、小学生のような、大きな瞳が印象的な可愛い女の子だった。
 なんとなく気になり、その少女を観察するのが日課になっていた。楽譜を持って歩いているのを見た時は、自分と共通点があるような気がして嬉しかった。楽譜の表紙に書いてあるフルート教室の名前で彼女の楽器がフルートであることを知った。
 音楽部のフルートを吹く友達に訊いて、彼女が最近転校してきた、この地方のフルートコンクールの台風の目であることを知り、ぜひ知り合いたいと思っていた。
 たまに目が合ったような気がするのだが、向こうがすぐに逸らしてしまうので、話し掛けるきっかけがつかめずにいたのだった。

「知りたいですか? 知りたくないですか?」
 この少女の切れ長な目に見つめられると、なんだか緊張する。
「あなたは彼女と出会う運命にはありません。今、この機会を逃せば、永遠に彼女と親しくなることはありませんよ」
 なぜそんなことを言うのかわからないが、その真剣な瞳は真実を告げているように見えた。そんなことを言われて無視できるほど、康治は強い人間ではなかった。

「……どうしろっていうんだ……?」
「その前に、決して私たちを詮索しないと誓ってください」
 静かだが有無を言わせぬその迫力に、康治は抵抗できなかった。
「わかった…誓う」
「じゃ、手を出して」
 言われたとおり手を出すと、そこに何かのチケットと、細い銀の鎖でできた小さな輪が置かれた。
「そのチケットを彼女に上げてください。明日、いつもの朝の電車に乗ってきますから」
「で……でも、一枚しかないぞ」
「二枚持って誘ってもだめなの。何か理由をつけて、その一枚だけを彼女に上げて。そうすれば必ずうまくいきます」
 狐につままれたような話だった。とても信じられない。
「それと、そのブレスレットはこの約束の証です。もし約束を破れば、人生で償ってもらいますから気をつけてください。そのチケットを彼女に渡した時にこの約束は効果を発揮しますから、くれぐれもこの約束を甘く見ないでくださいね」

 それだけ言い残すと、彼女はくるりと振り向いた。
「ちょっと待って」
 そういって走りかけた時、自分の靴紐を踏んでつんのめった。
 目線を戻した時には、彼女はどこにもいなかった。

 翌日の朝、学校も無いのに通学用の電車に乗り込んだ。
 亜衣を見つけ、チケットを上げようとして断られた時は、こんな与太話を信じた自分が馬鹿だったと自嘲した。
 その後、彼女の方から一緒に行こうといわれたときは、驚きを隠すのに精一杯だった。

 その帰り道、首輪の少女は、登場こそ奇抜だったが、結局は天使みたいなものだったのではないかとすら思い始めていた。

 佐川亜衣は思ったとおりの少女だった。
 大人しくて、静かだが、根暗というわけではなく、音楽の話には夢中になり、そのくせ緊張でパスタの味も解かってない様子だった。
 心の動きが素直に映る大きな瞳を見ていると退屈しなかった。
 あのト音記号のついたシンプルな銀のアクセサリは、余りにも亜衣にぴったりに思えた。その時は彼女の喜ぶ顔で頭がいっぱいだった。
 彼女の細い腕に、ブレスレットを着けてあげた時、短い間だが手が触れ合った。
 これまで女性に縁の無かった康治にとって、とても幸運な時間だった。

 駅ビルの雑踏に首輪の少女を見かけたのは、レストランを出て亜衣を最寄駅まで送った後だった。
 『約束』を思い出し、無視しようと思ったが、そうするにはその少女は余りにも美しかった。見た目だけではない。時折見せるひどく色っぽいその仕草。どことなく普通の女の子にはない神秘的な雰囲気。混み合った雑踏の中で、その少女だけは康治からまるで夜空の月のようにはっきりと見えた。
 亜衣と縁が切れると言われてした『約束』だったが、それはこの少女と縁を切るということだった。そもそも、そんなこと選べるはずが無かった。
 気が付いたら、彼女を追いかけていた。

 彼女が人通りの少ない駅ビルの階段の角を曲がった時、自分もそちらに行こうとして走り出した。止まろうとしたとき靴紐を踏んでしまい、バランスを崩す。壁に手をついてなんとか支えた後、ハッと顔を上げた時には、すでに周りには誰もいなかった。
 その時、戦慄が走った。
 また、靴紐を踏んだ!!
 前に彼女を追った時もそうだった。これは偶然なのか?

 その時、自分が約束を破ってしまっていること、その証を佐川亜衣が持っていることに気づいた。

 嫌な予感がして、すぐに亜衣と連絡を取ろうとしたが、教えてもらった携帯は全く通じない。次の日になっても電話が通じないので、友人達に電話をかけまくり、やっと亜衣の通うフルート教室の電話番号を掴んだ。しかし、肝心のフルート教室は月曜日休みで留守番電話のメッセージが流れるだけだった。
 彼女のいる中学に通う弟や妹を持つ友達を探してみたが、該当する人間はいなかった。
 結局、フルート教室の開く次の日を待つしかなかった。

 その間も自分に何か起こるのではないかと戦々恐々としていたが、自分の身の回りには何も起きない。それが彼女の身の上に災いが降りかかっていることの証明でないことを祈るばかりだった。

 今日になって、やっとフルート教室で住所を教えてもらい、家の前まで来たが、どうやら留守のようだ。

 雨の中、だれか帰ってこないかとジッと待つ。
 不意に携帯電話が鳴った。
 それは、入院中の祖父が危篤という知らせだった。
 すぐに帰ると伝え電話を切った後、康治の胸騒ぎはますますひどくなった。

 祖父は3年前から前立腺がんで入院し、いつ死んでもおかしくないといわれていた。
 しかし、なぜ『今』なのだ。
 全ての事象が彼を亜衣から遠ざけているような気がする。
 ふと、目の隅に、斜向かい家の中から自分の方を見ている中年女性を見つけた。あからさまに訝しげな表情を浮かべている。ストーカーとでも思っているのか、放っておけば警察に連絡しかねない様子だ。
 しかたなく、帰路についた。

 それは、ちょうど亜衣の理性が砕け散った時だった。





第十章 炎

 目が覚めてもそこは白い部屋だった。

 ふと自分の股間になれない重みを感じて、夢でなかったことに気づいた。
 周りを見回すと、前日に見た寝室とは少し違うように見えた。ベッドが少し小振りになっているかわりに、テーブルや椅子、キッチンなどが見える。寝室ではなく、ダイニングキッチンのようだった。ただし、全ての家具が白く窓がなかった。

 全裸の上に、水色のエプロンをした女性が振り返った。

「亜衣さん、目が覚めましたか。もうすぐ朝ご飯できますよ」
 昨日は金色だった首輪が今日は黒い首輪に変っている。
「あの……おはようございます……」
(わたし!……無断で外泊しちゃった!!)
 亜衣の顔が青くなる。母親になんと言って弁解しようか咄嗟に考え始めた。

「お家のことなら心配ないですよ。冴貴さんが亜衣さんに変身して、身替りになってますから。久しぶりに中学生するって意気込んでましたけど、春休み中なのにどうする気なんでしょうね」
 そう言って、アジの干物をテーブルに並べている。食器まで白い洋食器なのに、その上に並んでいるのが和食の朝食なのが意外だった。
 気が付くとひどくお腹が減っている。昨日の朝食からなにも食べていないのだから、当然だった。冴貴が自分の身替りになっているというのは気になったが、とりあえず食事をしたいと思った。

 ベッドを降りかけて、自分も銀の手枷を除いて全裸なのに気付く。
「冴貴さんに服を出してくれって言ったのに、イジワルして出してくれないんです。料理するからってやっとエプロンだけ出してもらったんですけど。落ち着かなかったらベッドのシーツでも剥がして、巻きつけててください」
 そういいながらも、自分は無造作にエプロンを外す。

(まぁ、いいか)
 亜衣も由貴にならって全裸のまま食卓に着いた。
 股間のモノがぶらぶらして落ち着かなかった。

「私が和食が好きなんで朝食も和食なんですけど、トーストもできますよ」
「いえ、私も和食好きだから」
「そう、よかった。それじゃ、いただきましょう」
「いただきます」

 由貴は見かけどおりの楚々とした様子で優雅に食事をする。
 それを見ながら亜衣は思い切って質問してみた。
「ユキさんは本当に男だったんですか? すごく女っぽく見えるけど」
「うふふ、ありがとう。でも、最初の頃は大口開けすぎだとか、股を開くなとか、しつこく言われたのよ。サキさん、すごいスパルタなの。定規で叩いて来るんだから」
 由貴が大口開けてご飯を食べているところなど、今の様子からはとても想像できない。
「でもね、サキさん、自分はハンバーガーとか大きな口開けて食べるのよ。納豆とかズルズルいわせて食べるし」
 その光景はすぐに目に浮かんだ。思わず笑ってしまう。
「ね、ずるいでしょう?」
 そう言いながら由貴も笑っている。
「ところでウエちゃんって誰ですか? 昨夜、寝ている時、呼んでましたけど」
 由貴にそう聞かれて亜衣は真っ赤になった。
「私の……ぬいぐるみの……」
「もしかして『アイ』さんのぬいぐるみだから『ウエ』ちゃんなの?」
 こくりと亜衣が頷くと、由貴はお腹を抱えて笑い出した。
 由貴の美しい笑い声につられ、つい自分も笑ってしまった。
 賑やかな朝食はその後も続いた。
 
 由貴が食器を片付け始めると亜衣は手持ち無沙汰になった。
「わたしも手伝います」
 そういって、流しに近づいてくる。
「できればそうして頂きたいんですけど、エプロンが一枚しかないの。飛沫が飛ぶと冷たいですから、亜衣さんは座ってて」
 それは一理あった。仕方なく席に着いて湯飲みに入ったお茶を飲んだ。

 手際よく食器を片付ける由貴の裸の後姿をみていると、昨日の記憶が蘇ってきた。
 こんなに穏やかで静かな女性が、ベッドの上では別人のようにいやらしく淫靡なのが信じられない。昨日の由貴とのセックスを思い出すと、いつのまにか勃起していた。

(なんだろう、この気分……?)
 亜衣はこれまで感じたことのない感情に戸惑っていた。
 心の奥底にジリジリと燃える暗い炎がある。
 転校を重ねる度に、見知らぬ人間達にとけ込まねばならない必要に迫られるうち、隠すことを覚えた心の中に燃える炎。長い間抑圧され歪められたその暗い感情の炎が、今、激しく燃え上がろうとしていた。

 ふらふらと由貴の背後にまわり、食器を拭いている由貴の後ろから抱きついた。

 尻に急に熱くて硬いものが当てられ、由貴がビクっとする。背中には二つの丸い膨らみを感じた。亜衣の手が背後から周り、由貴の豊満な乳房を揺さぶり始める。
 亜衣の左腕の手枷が脇腹に当たりひんやりした。
「亜衣さん、食器片付けたらお相手しますから、ちょっと待って」
「ユキさんはそのままでいて。わたし、勝手にやってるから」
 そういいながらゆるゆると胸を揉んでくる。

 由貴はどうするか困った。
 正直に言えば、この皿は冴貴が創り出したものなので別に洗う必要は無い。ただ、このまま、亜衣を解放してしまえば問題があるだろうから、セックスに慣れさせつつ、普通の生活を送れる様にするのが、これから暫くの目的だった。そういう意味では少し我慢することを教えるべきだろう。かといって自分たちが連れてきたのに振り払うのもどうかと思われる。
 結局、由貴は食器を片付け終えるまでは、無視することにした。

 由貴が黙っているのをいいことに、亜衣は由貴の体を撫で回していく。
 いつのまにか首筋にキスしたりしている。
 無視しようとしたとき、体にピクンと震えが走った。
(え……?)
 亜衣の小さな手が両脇腹をなで上げると、またピクリと体が震える。

「ここでしょう?」
 そう言って亜衣が出し抜けに内股を指で軽く撫でた時、いきなり由貴の腰が砕け、キッチンの床に膝をついた。
「ハァ……ハァ……なに……?」
「やっぱり。昨日からここがユキさんの急所じゃないかと思ってたの」
 そのまま由貴の首筋、特に黒い首輪の周りの匂いを嗅ぐ。
「やめて!! そこの匂いかいじゃだめ!!」
「ユキさん、こんなに綺麗で清潔そうなのに、首だけ酸っぱい匂いがする」
「いやっ…いわないで……はずかしい……」
 そう言いながらも由貴の秘芯が濡れ始めた。
 冴貴はいつもセックスする前に由貴の首輪の匂いを嗅ぐため、由貴の中で首を嗅がれる事はセックスすることと条件反射で直結していた。
「あれ、首の匂い嗅がれると感じるって本当なんですね」
 濡れてきた割れ目に沿って指でなぞられると、あっさりと由貴は降伏した。
「ベッド……ベッドに…いきましょう……」
「ううん、ここでいい。それより、由貴さんもやっぱり入れられる時はユキって呼び捨てにして欲しい?」
 問い掛けるその目が、内側から燃える炎で爛々と輝いていた。

 いつのまにか亜衣の言葉の語尾から「です・ます」が外れている。年齢では由貴の方が3歳年上だが、立場は完全に逆転していた。
 クリトリスを弄られると我慢できなくて由貴の方からセックスをねだってしまった。
 
「ユキって呼んでください……。あああ……亜衣さん……シテ……」
「じゃ、ユキ。仰向けになって」
 キッチンの床に寝るのは冷たかったが、言われるままに寝転がる。
 股を開いて、熱っぽく亜衣を見る表情はひどく艶かしかった。
「いくね」
 そういってペニスを由貴の秘所に近付けた。軽く挿入しかけたが、ふと途中で止め、花弁やクリトリスを突いたり、溝をなぞったりし始めた。
 由貴は亜衣がなぜこんな焦らし方をしっているのか解からず、混乱した。

「あの……亜衣さん……?」
「ねぇ、ユキ。こんな風にされるとどんな気持ち?」
 亜衣の声に冷たい響きがあるのにゾッとした。昨日の冴貴とのセックスは亜衣に大きな自身を与えていた。自分が大人の女を征服する事が出来るという自覚が、亜衣の中に余裕を生み、より大胆な行動をとらせた。
 その上、冴貴は亜衣を上手くリードして、女性の責め方を覚えこませていた。

 亜衣の余裕を持った責めにより、由貴の二人の悪魔に骨の髄まで教え込まれた隷属の喜びへのスイッチが入り、心が勝手に亜衣を新しい主人と認めてしまった。目は伏目がちになり、ちらちらと媚びるような視線を送る。その無防備な表情は、昨日には無かった亜衣への隷属の証だった。

 亜衣は、自分の方が年下で体も小さいのに、そんな由貴が可愛いと思った。そして、可愛いと思えば思うほど、由貴を思うがままにしたいという暴力的なまでの欲望が込み上げてきた。
 自分の快楽を我慢して、体を引き離した。

「いや……いれて……チンポ入れて下さい。おねがいします……」
「ユキ、私、他の人がどんなオナニーするか見てみたいの」
「ユキの……ユキのオナニーでいいですか……」
「見せてくれるの?」
「ああ……亜衣さん……ユキのオナニーみてください。オマンコ擦るのみて……」
 由貴は左手で自分の乳房を揉み、右手で秘所を弄んだ。その間も目は亜衣の股間のペニスに向けられている。
 いつの間にか一人称も『わたし』ではなく『ユキ』になっていた。
「はあん……ユキはここが感じるますぅ……ああ、亜衣さんのチンポ舐めていいですか」
 由貴の股間からはグチュグチュと淫猥な水音がしている。
(えっ? 舐めるの? これを?)
 亜衣の乏しい知識には、フェラチオというモノが無い。一瞬、驚いたが、自分のモノが由貴の美しい唇になぞられるかと思うと、その誘惑に抗う術はなかった。
「いいわ、ユキの可愛い唇でキスして」

 由貴は唇同士のキスであるかのように、恭しく尿道口に口づけをすると、舌をだして丁寧にしゃぶり始めた。
(うわあああ……すごい気持ちイイ……もう、でちゃいそう……)
 柔らかく生暖かいしたがペニスに絡む感触に下半身が浮き上がるような快感が生じる。
「この部屋……んん……何回でも……出せますから……ハァ……最初の精液、ユキに飲ませて下さい」
 そういうと由貴は亜衣のペニスを咥え、飲み込んでいった。喉の奥で締め付けたり、亀頭だけが隠れているところまで出しながら強く吸ったりして、ペニス全体を刺激していく。
 その絶妙な刺激もさることながら、由貴が小さな口をいっぱいに開いて、自分のペニスをうっとりと咥えているその姿を見下ろしている事が、何よりも亜衣の興奮を誘った。

「くう……もう、出すから……こぼさず飲んで……」
 そういうが早いか、射精が始まる。激しい勢いで喉を叩かれ苦しいが、由貴にとってはその苦しさこそが快感だった。射精が終わった後も、ぺろぺろと舐め残滓をしごきだしては、飲み下していく。
 全て絞り終えた後、やっとペニスを放し、最後にもう一度そこにキスをした。

「亜衣さんのとってもおいしかったです……ああん……」
 フェラチオしている間も、自分の秘所をいじっていた由貴は、フェラチオを終えて、自分も絶頂を迎えようと指の動きを早めた。

「すごく気持ちよかった。ユキもオナニー止めていいよ」
 亜衣がこともなげに言い放つ。
(そんな……もう少しでイケるのに……)
 しかし、今の由貴にとって、亜衣の言葉は絶対なモノになりつつあった。渋々と手を放す。いつでも亜衣に来てもらえるように股は開いたままだった。
「うふふ、ユキのオマンコ、もうべちゃべちゃ。中は気持ちイイんだろうな」
 そう言って由貴の股の間にしゃがみこみ、ゆっくりと指を出し入れした。
「はああ………、お願いですから焦らさないで。…あンっ……チンポ入れてください。ユキの中をメチャクチャにかきまわして下さい……」

「入れてあげてもいいんだけど、ユキは私のお願い……きいてくれる?」
「ああん……ユキは亜衣さんがセックスしてくれるなら、なんでもします……」
「どんなことでも聞いてくれるのね?」
「……します……するから、早くいれてぇ……」

「じゃあね、――サキさんよりわたしの方が大事――って言って」

 由貴を自分のものにしたいという征服欲がそんなことを言わせた。

 快楽に霞んだ由貴の瞳に光が戻った。
「それは……それだけは……。サキさんは……私の恩人なの……一番大切な人なの……」
「そう……。じゃあ、続きはサキさんにしてもらった方がいいよね」
 そういって指を引き抜いた。
「あああん。やめないでぇ!! 入れてください!!」
「でも、セックスは一番大事な人にして貰わないと」
 可愛らしかった少女の眼差しはそこには跡形もなく、残酷な光を宿した刃物のような視線が由貴の心を切りつけた。

 由貴は、亜衣がそのセリフを口にするまで、決してセックスしてくれないことを悟った。しかし体はこれ以上ないほど疼いている。何度か口走りそうになるが、冴貴を裏切るようなセリフはどうしても口から出ない。
 亜衣が葛藤にもがき苦しむ自分を冷静に観察している視線を感じる。シモツキやマフユが時折見せる、人を見下し、いたぶる時と同じ目。

 由貴は急に、自分が何のために意地を張っているのか解らなくなり始めた。
 そんなことより、なりふり構わず目の前にある快楽を貪りたくて仕方がない。
 由貴は既にそうやって自分を捨ててしまう事を知ってしまっていた。
 遙か昔に心の奥底に植え付けられた卑屈な心が、再び由貴の心を蝕んでいた。 

 自分を捨てる誘惑は克服できなかった。

(……サキさん……ごめんなさい……)
 自分がセックスのためには一番大事な人も裏切れる人間だと思うと寂しかった。しかし、それは冴貴も一緒なのだろう。自分たちはなんと呪われているのだろうか。

「わたし……サキさんより亜衣さんの方が大切です……亜衣さんが一番大事です……」
 亜衣はその幼い顔に似合わない勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ありがとう、私もユキのこと好きよ」
 そういうと、由貴に首筋にキスをし、ペニスをねじ込む。
 既に滴り落ちるほどに濡れていた由貴の秘所はずっぽりと亜衣のペニスを呑み込んだ。

「あんん……亜衣さん、ステキぃ!! もっとついてぇ。グチャグチャにしてぇ!!」
 由貴は冴貴を裏切った罪悪感から逃げたくて大声で叫んでいた。
 二人とも狂ったように腰を使った。なんども性器が抜けるがそれでも気にせずに、入れ直しては力いっぱい愛し合った。

「はぁ……はぁ……だめ……でちゃう……」
「ああん……出して……思いっきり出して……」
「次は……はぁ……はぁ……お尻にいれてあげる……」
「ユキのオマンコも……アナルも……亜衣さんのモノです……好きに使って……」
「あああ……ユキ……まだぁ……?」
「もう少し……もう少し……ああん……イキそう……ああーーぁあっ!!」
「私も…私も出すよぉ……!!」
 二人同時に絶頂を迎え、二人でキッチンの床に倒れこんだ。
 股間の下には性臭を放つ水溜りができていた。

 由貴と亜衣はキッチンからベッドに場所を移した後も、何時間も水を飲む意外はセックスし通しで過ごしていた。
 亜衣は由貴を徹底的に焦らし、何度も自分だけが大切であると言わせた。そして完全な奉仕を求めた。幼い少女の放つ貪欲な征服欲と無邪気な加虐性は、由貴のマゾヒスティックな部分を余すところなく引き出した。
 その日の終わりには由貴の目からは正気の光が失われていた。

「ほらっ、もう一回言って!」
 亜衣が由貴に足の指を舐めさせながら命令する。
「ああん……ユキは……んふぅ……あいさまのおもちゃですぅ…………」
「サキはどうするの?」
「サキさんなんてしらない……はんぅ……あいさまだけのモノなのぉ……」
「次はどこに入れてほしい?」
「……くち……のませてぇ……せーえき、のませてぇ……」
「あはは、ユキはほんとにおしゃぶりがすきね」
「ユキはあいさまのチンポなめれてしあわせです」
「ユキはわたしの大切なお人形よ」
「おにんぎょう……きもちイイ……」

 亜衣の新しい人形は美しく淫らで、危険だった。
 自分が人形を掴んだのか、自分の心が人形に掴まれたのか。
 中学生の少女に解かるはずも無かった。
 




第十一章 電話

 2週間前。
 図書館での出来事のあった日。

「あっ、もしもし。マフユ?元気にやってる?」
「冴貴様?おひさしぶりですぅ。元気って聞かれても、私達は別に病気したりしませんよ」
「言葉の綾よ」
「そうそう! ユキとばっかりじゃなくってもっと他の人ともセックスしてくださいよぉ。もっとガンガン快楽を広めていただかないと、私達の覚醒のさせ方が悪かったんだって、仲間内でも責められるんですからぁ」
「いやだよ。最初の頃はちょっといい男、何人か引っ掛けてみたけど、薄っぺらくて、楽しくないんだもん。あたしのためにセックス中毒にさせて人生台なしにさせたくないし」
「それが冴貴様の役目じゃないですか」
「い・や・だ。そんなこと勝手に決めないでよ。それよりさ、聞きたいことあんだけど」
「なんですか?」
「それがさ、今日の昼間、図書館で私の力が効かない男の子に遭ったんだよね」
「効かないって、全然ダメなんですか?」
「うん、そんな感じだった」
「そういう、体質の人なのかもしれませんねぇ」
「そんなのあんの?」
「ええ、たまに全く悪魔の能力を受け付けない人がいるんです。でも、すっごく珍しいんですよ。何百万人に一人とか……」
「へぇ〜〜。ほっといてもいいの?」
「だめですよぉ。そんなに珍しい人間に合うこと自体不自然じゃないですか」
「それじゃ……もしかして?」
「ちゃんと調べないとダメですけど、絶対『因果律』ですよぉ」
「またそれかぁ。ほっとくとどうなるの?」
「よくわからないですけど、多分、その男の子に、冴貴様の力を弱めるようなことをさせるんだと思います。でも、冴貴様と直接会うのは避けるだろうから……」
「ユキね!」
「推測ですけどぉ、ユキに付きまとって、冴貴様の事に気付くように仕向けるんじゃないんですか? さすがに冴貴様も文章とか映像とかに出されてしまうと、隠せないですからねぇ。相手に知られちゃうと能力の効きも弱くなるし……」

「どうすればいい?」
「ユキと別れればいいと思いますけどぉ? なんなら私たちの所にこさせますか? もともとユキは私達の娘みたいなものですしぃ」
「そんなの絶対嫌よ! 今は私の大事な大事な妹なんだから!!」
「それなら方法は一つですよ」
「それは………?」
「相手を守る『因果律』の弱いところを破って、こっち側に引き入れるんですよ」
「『因果律』を破るって……」

「あら、私たちのやり方は冴貴様も身に染みてご存知でしょう?」


第十二章 夕陽

 目が覚めるとそこは白い部屋ではなく、正真正銘の自分の部屋だった。

「目が覚めた?ユキ」
 目の前に自分の前髪を撫でてくれる冴貴がいる。
「ユキにばっかり、大変なとこ押し付けてごめんね」
 久しぶりに冴貴の優しい表情を見て由貴の心が安らいだ。それは久しぶりの人間らしい感情だった。

「あの……亜衣様は……?」

 あれから5日間ほど亜衣と二人で白い部屋で過ごした。
 最初、亜衣は食事すらしようとせず、ひたすら狂った様に由貴の体と奉仕を求めつづけたが、3日目を越える頃やっと少し落ち着きを取り戻し、セックスの合間に、家族の話や友人の話、過去の話などをするようになった。

 亜衣は小学校に上がるまでは、活発な少女だった。
 亜衣は小学2年生に上がる頃に、関西地方から関東地方への大きな引越しをし、その時、言葉に訛りがあるのを理由に激しいいじめを受けた。挙句の果てに、炎天下に粗大ゴミ置き場の冷蔵庫に閉じ込められ、半死の状態で助け出されて入院した。退院後、転校し、それ以後、いじめに遭うことは無かったが、亜衣はすっかり静かで内気な少女になってしまっていた。
 それ以来、暗いところや狭いところが苦手になり、夜も電気を点けていないと寝られなくなったという。それが知られるのが嫌で、小学校の修学旅行も仮病をつかって行かなかったということだった。

「亜衣なら家に返したよ」
「そうですか……わたし、あれでよかったんでしょうか……?」
「……さあね………でも……」
「……なんですか?」
「亜衣の心には鬱屈したモノがあったでしょう? もしかしたら、一生封じ込まれてたかもしれないけど、もしアレが人生のどこかで噴き出してたら、自分を傷つけていたかもしれない。ユキがそれを引き受けてくれたのは、よかったかも知れない……」
「そうでしょうか?」
「さてね……ホントのところは私にもわからないな。」
「………」
「いずれにせよ、私の都合で彼女の人生を変えてしまったことに変わりないけどね……」

「あの……サキさん……」
「うん?」
「私、亜衣様に言われて、サキさんのこと……」
 亜衣はことあるごとに、由貴に冴貴より自分の方が大事だと口に出して言う事を強要した。無理やり言わされ快感を与えられているうちに、本気で冴貴より亜衣の方が大事に思うようになってしまっていた。
 冴貴を目の前にしてやっとその呪縛から解き放たれる事が出来た。
 それと同時に、快楽に心を売ったことを認めざる得ない。
 一時的にでも心の底から冴貴を裏切ったことは、すでに冴貴に透視されているだろうが、それでも告白せずにはいられなかった。

 冴貴の表情に一瞬、寂しさがよぎったように見えたが、すぐに消えた。
「ああ、そんなことなら気にすること無いよ。始めてあった時からユキはそういう人間だったじゃない。それも含めて私の好きなユキなんだからさ。それよりさ、どうだった? 『亜衣様』は?」
「あの……とっても厳しくて……優しくて……素敵でした……」
「ふ〜〜ん、あたしもどっちかっていうと、責められる方が好きだからなぁ。今度、ユキと一緒に亜衣の奴隷にしてもらおうかなぁ?」
「だめ、サキさんは私の大切な人なんだから亜衣様のモノになったらダメです」
「もう。ユキのケチ。さぁ、起きなよ。ユキもそろそろ普通の生活に戻らないと。いつまでもお人形になりきってる場合じゃないよ」
 その時、由貴が「あっ」と声をあげた。

「どうしたの!?」

「………春休みの勉強の計画、立て直さないと!」

「………。ハァ……やっぱり、あんたすごいわ。ほら、まずは朝ご飯食べようよ。父さんと母さんに会うの久しぶりでしょう? 二人には一週間も私たちに会ってなかったことは忘れてもらってるけどね」



 同じ頃、亜衣も自宅のベッドで目が覚めた。
 眠けまなこで隣の熊のぬいぐるみを抱いて、もう一度布団にもぐりこむ。
 チャリ。
 左手首の鎖が耳元で小さな音を立てる。
 久しぶりのパジャマが窮屈だな、と思った。

 その時、ここ数日の記憶が一気に蘇ってきた。

 唇に由貴の唇の感触が、舌に由貴の愛液の味が、鼻の奥に由貴の体臭が蘇ってくる。数日間で慣れ親しんだ、男性器の感触がないのが心細かった。
 目の前に次々とあの部屋での記憶が通り過ぎた。
 
 亜衣はガタガタと震えていた。
 自分はなんと恐ろしい世界にいたのだろう。
 あの真っ白な部屋は常識も禁忌もない、狂気の世界だった。その中で自分はオスになりきって、由貴の心を踏みにじり、自分の思い通りにすることだけを考え、犯して、犯して、犯しぬいて……。
 耳元に自分の声が蘇ってくる。
『ほら、ユキぃ。お尻にして欲しかったら、わたしのお尻の穴舐めてよぉ』
 目から涙がボロボロと流れだし、口に手をあてて声を押し殺す。

(こんな……こんなひどいことって……)
 亜衣の心と体は完全に変わってしまっていた。こうして泣いている時ですら、乳首が起っていた。手が自然とパジャマの胸元から中に入り、胸を揉み始める。
(だめ……だめぇ……)
 そう思いながらも、手が止まらない。

『どうしたのユキぃ。グチョグチョに濡れてるよ。ホントにインランだよね』
 目の前で悶える由貴を思い浮かべながら、指をショーツの中にさし込み、女性器をなぞる。同じ事をしている筈なのに、それまでの自慰とはレベルの違う快感が押し寄せた。
 ベッドの上にうつ伏せになり後ろから、由貴をレイプするところを思い浮かべた。
『どうしてユキはそんなにエロいの? 腰の動きがやらしすぎるよ。そろそろイケるね。ほら、イケッ! イケッ!!』
 自分自身に命令すると体は一気に絶頂に向かって駆け上がった。
(ああん……下着が濡れちゃう……ああ……イクゥうう!!)

 へとへとになってベッドを降りたのは、それからさらに何度か絶頂を極めたあとだった。涙もすっかり乾いてしまっていた。

 激しい虚脱感を感じながら立ち上がろうとして、ふとベッドの側の壁にテープでメモが貼り付けてあるのを見つけた。そこには、ここ5日間に自分が何をし、これからどんな予定があるのかが事細かに書かれている。筆跡が自分と全く同じであるのを見てゾッとした。多分、誰も亜衣が替え玉であったとは気付いていないのだろう。
 今日は未夜子とフルートの練習になっていた。

 メモの最後に亜衣とは違う筆跡でこう書かれていた。
『亜衣とは普通の友達としても一緒にやってけるって信じてる。
 未夜子ちゃんがまってるよ』
 親友の名前を見て、自分が元の生活に戻ってきたことを実感する。
 自分をこんな風にしておきながら、この様な書置きをしていく冴貴が憎かった。

 それでも、ベッドから体を起こし、のろのろと着替えを持って、一階へ向かう。
「亜衣〜、起きたのー? 早くご飯食べなさい。」
 母親のいつもどおりの明るい声も、今の亜衣には辛いものだった。

 濡れた下半身を洗うためシャワーを浴びようとして、服を脱ぎ始める。染みのついた下着はとても母親と一緒の洗濯籠には入れられず、着替えの下に隠した。
 脱衣所の鏡を見て全ての始まりを思い出した。
(ここで気を失ってから始まったんだ……)
 涙の跡が残っていなければ、鏡に映る自分は以前と全く変わりないように見える。しかし、中身が全く変わっているのは、身に染みて判っていた。
 なんとか気を取り直して、鏡に向かってにっこり笑ってみる。にっこりと笑い返してくる鏡の中の無邪気そうな顔を見て、変化に気付かれることはないだろうと自信を持った。
 なるべく自分の体を気にしない様にしながら、勢いよく流れるシャワーの奔流に身を投じる。体が震えるほどの快感を感じるが、なんとか自制した。欲望のままに自慰を重ねていてはとても体力が持たない。ここはあの異常な部屋とは違うのだ。

 そそくさと体を拭いて服を着ると、黙って食卓についた。
「どうしたの?今日は、えらく静かね。」
 母親はそう言いながら、コーヒーを淹れるため席を立った。
 その後姿を見ながら亜衣は考えていた。
(そういえば、母さんも冴貴さんと……)
 母親が冴貴にレイプされている光景を思い浮かべて、また体の芯が熱くなった。
 
「今日は練習行くんでしょう?」
 母親に聞かれて、我に帰った。自分がどういう妄想を抱いて、興奮していたのか気付いて、また自己嫌悪に陥る。それを顔に出さずに答えた。
「うん」
「発表会もいよいよ来週ね。どう仕上がりは?」
「まあまあ……かな……」
 そういえば、自分に化けた冴貴は練習していたのだろうが、自分はもう何日も練習していない。今からとりもどせるだろうか……。
 と、そこまで考えて馬鹿らしくなった。今更、フルートが少しうまく吹けるからといって、何の価値があるのだろうか。今ではなぜ自分があれほど熱中できたのかすら、わからなくなってきているのに。
 それでも、家にいるのもいたたまれず、セーラー服に着替え学校へと向かった。

「おはよう、亜衣」
 いつもの駅で、いつもの時間に、いつもの笑みを浮かべながら未夜子が声をかけてきた。
「おはよう、ミヨちゃん」
「あれ? また、なんか感じ変った?」
「えっ?」
「ほら、わたしが温泉旅行から帰ってきたとき、なんか雰囲気がちがうなぁって言ったじゃない。今日はなんかいつもと同じみたい。いや、やっぱ、どことなく違うかな?」
 未夜子の言葉は嬉しかった。母親ですら指摘しなかった自分の偽者を、未夜子は見破ってくれていたのだ。素直に顔に喜びの表情が浮かぶ。

 しかし、未夜子は別のことを考えていた。年頃の女の子が変わる理由など普通一つしか考えられない。未夜子はほぼ確信を持って尋ねた。
「康治さんとなんかあったんでしょう?」
 しかし亜衣の反応は未夜子の予想とは全く逆だった。
 表情が一転して暗くなり、目を逸らす。
「康治さんとはコンサート以来会ってないよ。」
 亜衣はそっけなくそう言うと一人で歩き始めた。
 慌てて後を追い、黙って横に並びながらちらちらと亜衣の顔を横目で観察する。
(失恋した……のかな……?)
 こういう時は自分から言い出すまで放っておくべきだと考え、未夜子は昨日のテレビの話を始めた。

 未夜子に上手く返事をしながら、亜衣はそんな風に出来る自分を不思議に思っていた。まるで現実感がなく、別の自分が自分という役を演じているような感じだった。それでも未夜子が側にいてくれる事がとても心強かった。

 職員室に行くと春休み中であるにもかかわらず、多くの教師達が来ており、新入生の受け入れ準備をしていた。いつもどおり、自分達を応援してくれている音楽教諭の所へ行き、音楽室の鍵を借りる。
 二人でたわいの無い話をしながら、人のいない廊下を歩き、音楽室に着いた。
 二人は準備を始めた。譜面を立てて、フルートを組み立てる。

「じゃ、最初から吹こうか」
 未夜子の言葉に亜衣は黙って頷いた。

 演奏を始めて数分で亜衣は愕然とした。

(……音が……違う……)

 自分の誇りだった力強い澄んだ音がでない。今の自分のフルートの音は、人に媚びるような下品な音だった。未夜子も少し不思議そうにしている。
 理由は明らかだった。
 人は誤魔化せても、楽器の音は誤魔化せなかったのだ。
 自分の最も大切な宝物は永遠に失われてしまったことに気付いた。

 コトッ。
 亜衣は唐突に演奏をやめて、フルートを机の上に置いた。

「わたし、帰る」
「え?」
「ごめん、ミヨちゃん」
 何とか涙声にならずにそれだけいうと、フルートをそのままにして荷物も持たずに教室を飛び出した。
「ちょっと、亜衣ぃ!!発表会に間に合わないよ!!」

 未夜子はただ事ではないと思いつつも、荷物が置いてあるので直ぐに帰ってくるだろうと思って、音楽室で待っていた。
 いつまで待っても亜衣は帰ってこなかった。
 
「………ただいま………」
 亜衣が家に着いたのは燃えるような夕焼けが綺麗な時だった。
 音楽室を飛び出してからどこをどう通ってきたのか思い出せないが、ただひたすら歩いていたのは確かだった。
 玄関にもう一足、学校の制靴があるのを見て不審に思う。
「あっ、帰ってきたみたい。亜衣っ!あなた忘れ物したでしょう!! 未夜子ちゃんが届けに来てくださってるわよ!」
 母親が大きな声でリビングルームからそう呼んだ。
 未夜子の名前を聞いてドキッとした。
 おそるおそるリビングルームに入ると未夜子がソファの上に腰掛け、にこやかに母親と会話しながら紅茶を飲んでいる。部屋の隅には亜衣の手提げ袋が置いてあった。
「じゃ、ちょっと亜衣の部屋で二人で話してきます」
 未夜子がそう言って立ち上がった。言葉遣いは丁寧だが、ちらりと亜衣を見た目には、有無を言わさぬ迫力が満ちている。亜衣は仕方なく自分の部屋へ向かった。
「未夜子ちゃん、もう遅いから今日はお夕飯食べていってね」
「いえ、すぐ帰りますのでお気遣いなく」
 無言で亜衣を促し、階段をあがる。
 亜衣が自分の椅子に座ると、未夜子は勝手に亜衣のベッドに腰掛けた。

「説明して」
 未夜子はいきなり切り出した。その口調は明らかに怒気を含んでいる。
「別に何も無いよ……」
「そんな訳無いでしょう! なにがあったのよ! どうして相談してくれないの!!」

「……わたし、もうフルートやめる……」
「理由をいいなさいよ!!」
 怒りを隠そうともせず大声で怒鳴りつける。
「……自分の音が……もう出ないの……」
「それなら練習すればいいでしょう!! あんなに一生懸命だったフルートをやめるなんて口にするぐらいだから、もっと、別の理由があるんでしょう!!」

 未夜子は納得のいく理由を聞くまでは絶対、帰らないという強い意志を発散していた。
 なんとか嘘の理由を考えようと思うが、未夜子を納得させる嘘など思いつける筈も無かった。彼女に隠し事をできたためしは無い。

 ベッドに座った未夜子の姿が、窓から射す夕焼けの色で赤く染まっていた。

 断固とした意思を込めて、こちらを見つめる未夜子の目を見ていると、不意に温かい気持ちが湧いてきた。
 唯一、自分の偽者に気付いてくれた人。
 自分の為に本気で怒ってくれる人。
 いつも一緒にいてくれた最高の親友。
 ずっと一緒にいて欲しい人。

 そして……一番大切な……。

(わたし……ミヨちゃんのこと……好きだったんだ……)

 それは普通、本能や常識に覆われ、親友への親愛の情として認知されるはずの気持ちだった。しかし、一度砕かれてしまった剥き出しの亜衣の心には、その区別がなくなってしまっていた。ただ、最も大切な人間として心の中心にあった。
 それに気付くということは、それを失うということを意味していた。

 亜衣は立ち上がってゆっくりと未夜子の方へ近づいた。

「ミヨちゃん、今日までいつも一緒にいてくれてありがとう……」
「なっ、なによ。その言い方……そんなこと言ってもごまかされないわよ……」
「フルートの発表会、一緒に出れなくてごめんなさい」
「なにいってんのよ!! 本気で怒るわよ!!」
「それから……ミヨちゃんの大事なもの奪ってごめんなさい」
「え?!なんのこ…!!?」

 亜衣の唇が未夜子の唇に重なった。

 未夜子はすぐさま振りほどくと、信じられないといった表情で亜衣を見た。
「なにもいわないで……」
 亜衣はそう言って微笑んだ。触れれば壊れてしまいそうな儚い微笑だった。
「さよなら……ミヨちゃん……」
 自分をみつめる亜衣の大きな瞳が、怖いほど澄んでいるのを見て、未夜子はこれが冗談ではないことを理解した。
 未夜子はかける言葉が見つからず、黙って部屋を出ていった。
 一階で母親と少し話しているようだったが、すぐに玄関が開いた気配がした。
 自分の部屋のカーテンの隙間から未夜子の後姿を見送った。

 一度だけ未夜子が振り返った時、その光景を一生忘れないで置こうと目に焼き付けた。
 その後の未夜子の寂しそうな後姿は、すぐに涙で滲んで見えなくなった。

 フルートと未夜子。
 最も大切にしていた二つのものを同時に失った。


第十三章 銀笛

 未夜子のファーストキスを奪った翌日、毎週火曜日の午後はフルート教室の日だった。
 とても未夜子に会わす顔がないが、母親に教室をやめるとも言い出せず、フルートと楽譜を持って家を出た。 
 町でぶらぶらして時間を潰そうと少し歩いたところで、深山康治に再会した。

「佐川さん! やっと会えた」
 康治が走りよってきた。
「よかった……祖父の葬式が終わってから何度か会いに来たのに、いつも入れ違いで……」
 心底嬉しそうな康治を見て複雑な思いを抱く。
「公園で話しませんか」
 そう言って近くの人通りの滅多に無い、奥まった所にある公園へ行った。
 二人ともこの公園が、既に普通の世界より少しずれた所にあることには気付いていなかった。

 亜衣がベンチに腰掛け、康治はそれに向き合うようにして立っている。
 康治が決まり悪そうに切り出した。
「あのぅ……こんなこと言ったら、ケチ臭いと思われるかもしれないけど、この間あげたブレスレットを返して欲しいんだ。その代わりこの埋め合わせは絶対するから。」
「これのことですか?」
 そう言って左腕を差し出す。
「そうそう、これこれ」
 康治はそれを外そうとして戸惑った。
 鎖にはどこにも着け外しの為の金具が無かった。
「あれ?これ、どうやって外すんだ?」

「もう、手遅れです」
 亜衣がぼそりと言った。
「えっ?」
「もう、手遅れだと言ったんです」
 康治の顔からさっと血の気が引いた。
「何かあったのか……?」

 亜衣は黙って康治を見つめながら、胸に湧いてくる複雑な感情を整理していた。
 こんな目に合わされたのは元はといえば康治と冴貴の『契約』とやらにあるが、それを恨んでいるという訳ではない。怒りや悲しみといった感情ではない。
 強いていえば、この男に無邪気に恋愛感情の様な物を抱いていた過去の自分自身への憧憬だった。

「康治さんに言っても仕方ない話です」
「言ってくれ!なにがあった!」
「もういいんです」
「よくない!!頼むから教えてくれ!」
「本当に済んだことなんです。お願いですからもう聞かないで」
「そんなわけにはいかない!! 聞かせてもらうまで帰らない!!」

 亜衣はイライラしてきた。別に康治に説明したからといって、自分が元に戻れるわけでもないのに、どうして説明する必要があるのだろうか。男の性器を付けられ、アナルセックスを教えられた上で、女を犯しまくったなんていえる筈がない。

 ……それとも………教えてやろうか。

 自分の心にあるこの暗い闇を見せてやろうか。自分を守るつもりでいる目の前の自惚れた男に、この絶望をぶつけてやったら何というだろうか。泣いて許しを請うのだろうか? 冴貴たちに対して怒るのだろうか? 女を守れなかったと自尊心を傷つけられるのだろうか?
 残酷な気分が湧きあがってくると、胸の奥にあの暗い炎の熱を感じた。

「わかりました。教えます……」
 そういって鞄の中から分解されたフルートの一部を取り出した。
 康治に視線を残しながら、その先端部分を口にくわえた。その妖艶な眼差しに康治は心臓を鷲掴みにされたような気がした。舌を使ってゆっくりと舐める仕草で、亜衣がフルートを何に見立てている分かりかけたが、必死でそれを打ち消した。
 康治が呆然としている間にも、亜衣はフルートを咥えながらスカートの中に手を入れ、水色の下着を降ろした。

「佐川さん、よせ!!」
 目の前で起こっている事が何を意味しているか否定しきれなくなったところで、康治がたまらず静止の声をあげた。
「どうして? 知りたいんでしょう? わたしが何をされたのか」
 そういいながら、足首から小さな布切れを抜く。
「作り変えられたのよ。セックスが大好きな女に」
「!!?」

 亜衣が見せつけるようにゆっくりと股を開いて、スカートをたくし上げると無防備な股間が露になった。康治が咄嗟に横を向いて叫んだ。
「やめるんだ! やめてくれ!!」
「見てくれないの? 貴方の着けてくれたブレスレットがわたしをこんな風にしたのに」
 そういいながら、唾で濡れたフルートを肛門に当てる。
「ほら、お尻の穴にはいってくるよ……うぅん……」
 悩ましい喘ぎ声に思わずそちらに目をやると、フルートが亜衣の肛門に呑み込まれていくところだった。その上では薄い陰毛の中に、はっきりと充血しているのがわかる花弁がくつろいでいた。
「んふっ……気持ちイイ……」
 ゆっくりと出し入れしながら、伏目がちな誘うような目で康治を見た。その幼い顔立ちに浮かんだ淫靡な表情は、康治を総毛立たせた。
「……お尻の穴でよかったら康治さんのを入れてもいいんだよ……ウンコついちゃうかもしれないけど……わたしもフルートよりチンポの方が好きだし……はぁん……」

 目の前の康治が血の気を失って立っているのを見て、亜衣は興奮した。康治の心が切り裂かれて、ダラダラと血を流しているのが目に見えるようだ。空いた手でクリトリスを弄りだすとふわりと腰が浮き上がるような快感が生まれた。

「ああん……もういっちゃいそう……。ねぇ……チンポ、ハメテくれないのぉ……」
 わざと卑猥な言葉を使って康治の心を効果的に傷つける。
 我慢できなくなって、処女の秘所に人差し指を刺し込んだ。
「でもね、私まだ処女なの……ああん……処女のオマンコの匂い嗅いで見る? きっと臭くて顔をしかめちゃうわね……あん……」
「佐川さん。頼むから、やめてくれ……」
 康治の瞳に憐れみの色があるのが気に喰わない。
 ますます攻撃的な心に火がついた。

「どうして、やめないといけないのぉ……こんなに気持ちイイのに……。康治さんチンポも起っちゃってるんでしょう」
 康治が微かに目を逸らした。高校生の男がこんな光景を見せられて勃起しないはずがなかった。亜衣は康治の目が泳いでいるのが楽しくて仕方ない。激しく指を動かし、フルートの抜き差しを早めた。グチュグチュという濡れた音がはっきり聞こえる。

 自分の中から燃え上がる暗い炎に身を焦がすのは、快感だった。

「……ねぇ……あなたのチンポ、あたしのお尻の穴につっこんでよぉ……それで二人とも気持ちよくなれるんだからぁ……ああん……」
 体がイケる状態になったのを感じて、一気に刺激を強めた。
「……意気地なし……ああ、気持ちイイ……はぁん……もうだめ。一人でイッちゃうから」
 腰を少し浮かして、自分の急所へ宝物にしていた楽器を擦り付ける。
「んぐ……くぅ……はぁん」
 ビクンビクンと体を震わせ、絶頂を迎えた。

 亜衣の痴態を前に、康治はただただ恐ろしかった。
 あんなに一途に音楽を愛していた亜衣が、人前で肛門に自分の大切な楽器を入れて自慰する。人間はどういう目に会うと、短期間にこんな風に変わってしまうのか、想像もつかなかった。

「あいつらが……あいつらがこんなことを……」
 康治の握った拳がわなわなと振るえた。怒りで自分を塗りつぶさなければ、とてもいられなかった。
「必ず見つけてやる! 見つけて償わせてやる!!」

 その時、一陣の風が吹き、寒気に体が震えた。
 日の当たらない公園が余計に暗くなったような気がした。
 
「その言葉を待ってたわ」

 急に後ろから声がして、心臓が飛び出しそうになった。未だに肛門にフルートをいれたまま、だらしなく下半身を晒している亜衣を庇うように立つ。
 声の主は黒いロングコートを着た長身の女性だった。

「お前は!!」
 決して忘れることのない暗黒の瞳。一目で、図書館で見た女性だとわかった。

「……ついに会えたわね。あなたがわたしに会いたいと宣言してくれたから、やっと因果律が破れたわ。この公園を『部屋』と繋げたのは正解だったわね」
「なんの話だ!! 佐川さんになにをした!!」
「あら、先に約束を破ったのはあなたでしょう? 亜衣はあなたの身代わりに私達と同類になったのよ」
「ふざけるな!!」
 康治が飛びかかった。
 しかし、冴貴はまるでそれがわかっていたかのようにするりと体をかわすと、そのまますたすたと亜衣のところまで歩いていった。
 余りに滑らかにかわされたため、康治はなにが起きたか一瞬分からなかった。
「うぅん……あれ? サキさん?」
「もう、まだ寒いのになんて格好してるのよ。風邪ひくわよ。」
 冴貴がフルートをゆっくりと抜き取る。
「ぅん……」
 亜衣はその刺激に声を上げながら冴貴に抱きついた。そもそも、自分がこうなった原因は冴貴にあるのだが、亜衣は何故か冴貴に会えて嬉しかった。冴貴なら自分のことをわかってくれそうな気がした。

 亜衣が堰を切ったように喋り始めた。
「サキさん……わたし…わたし、なにもかも……未夜ちゃんも……フルートも……」
 目からは涙が零れていた。
「言わなくてもわかってるわ…つらかったのね……。ごめんね、今日は一緒に連れて行ってあげるね。ユキもまってるから」
 冴貴が懐に亜衣を抱く。亜衣は久しぶりに冴貴の体臭に包まれて何故か大きな安心感を感じていた。
 冴貴が亜衣の顎に手を当て、上を向かせてからゆっくりキスをした。亜衣も目を閉じ口を開けて冴貴を迎え入れる。冴貴に舌を舌で引き出され、柔らかい唇で挟まれたまま軽く吸われると、体に小さな震えがくるほどの快感が生まれた。そうされていると、昨日からの心の痛みが消えていく。それが癒されたのか、麻痺させられたのかはわからなかった。
 康治からは、時々、二人の唇の間で、二人の舌が絡まりあっているのが見えていた。

 長いキスを終えると、冴貴は呆然とその光景を見つめていた康治の方を向いた。

「私達にもう構わないで欲しいの。ユキが……首輪をした女の子が、言ったと思うけど、あなたに詮索されると、私達の生活が壊れてしまうの」
「俺は別にそんなつもりは!」
「あなたにそのつもりがなくても、そうなってしまう様に決まっているの」
「………?」
「図書館のこと覚えてるでしょう? あたしは他人の心を読んだり捻じ曲げたりすることが出来ても、あなたの心は読むことも変えることも出来ないの。だからここであなたに宣言して欲しいの。『自分は横山冴貴の力を受け入れる』と。そうすればわたしの能力があなたの心に届くようになり、あなたは全てを忘れて元の生活に戻れるわ」

「!? まさか……それを言わせるためだけに、こんな手の込んだことをしたのか?! たったそれだけのために!? 佐川さんまで巻き込んで!!!」

「亜衣を巻き込んだのはあなたでしょう……それに」
 サキの目がスッと細くなった。
「それに、あなたには『それだけ』の事かもしれないけど、あたしにとっては命より大事なことなのよ。人の心が見えるのがどんなに苦痛かしらないでしょう? 家族といる時だけしかあたしは安心できないのよ。自分の家族を守るためなら……一緒にいるためならあたしはなんでもするわ」

 冴貴はこの力を得てから友人達と付き合うのが酷く難しいことを知った。友達付き合いでは、友人本人も知らないところで何らかの打算が働いている。それが見えてしまうのは苦痛だった。心の底から無条件に冴貴を受け入れてくれるのは両親と由貴しかいなかった。冴貴は家族といる時だけしか、安心していられなくなってしまっていた。

「そんなの自分の都合じゃないか!!」
「好きでこんな風になったんじゃない!! あたしだって普通に暮らしたい。せめて今の生活は守りたい。普通の人間として生きていたいのよ!!」
 声を荒げる冴貴に康治も怒鳴り返す。
「お前は……お前はそれで人間のつもりか!!」
 その言葉は冴貴の心をえぐった。

 急激に冴貴の周囲に怒りの力が充満した。康治は自分に吹きつける力を感じてすらいないが、横にいる亜衣は余りに激しいプレッシャーに苦痛のうめきを上げた。
「サキさん……やめて……」
 冴貴はその言葉で自分を取り戻した。崩れ落ちそうな亜衣を慌てて抱きとめる。
「……今すぐわたしの力を受け入れると宣言して……」

「……それを言わなかったら?」
「今、この場でわたしの世界に引きずり込んで、亜衣と同じように心も体もあたし好みに作り変えるわ」
 康治の方へ振り返りながら、きっぱりと言い切った。そうできることに何の疑いも抱いていない口調だった。
「絶対に裏切れない奴隷になるのよ」

「佐川さんはどうするつもりだ?」
 冴貴の威圧に負けないようになんとか虚勢を張る。

「亜衣は……亜衣には普通の女の子としての生活も続けさせてあげたいんだけど……」
 そういいながら自分にすがりつく亜衣の髪を撫でる。
「サキさん……わたし……普通の女の子なんて、もうなれない……」
「………その話は後でね」

 再び康治に視線を向ける。
「亜衣に関して貴方に出来ることはないわ。もう十分でしょう? もう一度言うけど、今すぐここで『宣言』をしないと、貴方の未来を変えてしまうわよ。
 ……さあ、言いなさい!!」

 康治は身じろぎもせず立ちすくんでいた。
「俺にはあんたの力が効かないといったな……」
「ええ。……でも、それは貴方の心に直接触れられないという意味で、貴方に何も出来ないと言う訳ではないわよ」
「なら、その言葉を言わない限りは、あんたに抵抗する余地があるわけだな」

 冴貴は一瞬びっくりしたような顔をしてから笑い出した。
「フフフ……確かにそうね」
 そして、康治がゾッとするような妖艶な笑みを浮かべた。
「こうしましょう。もし貴方が『宣言』しなくても、24時間で貴方を解放すると約束するわ。その頃には、因果律も回復するだろうから、あたしに『抵抗する』つもりなら、貴方の方が随分有利になるわよ」

 言っていることがよく理解できないが、24時間なんらかの仕打ちを耐え抜けば、逆襲のチャンスをやろうといっているらしいことは解かった。
「その言葉が嘘でないとどうして言える?」

「心配はないわよ。私も悪魔の端くれみたいな物だから、約束事に関しては遵守しないといけないの。それにそれが嘘だとして、どうするの? 亜衣を置いて自分の生活に帰るの? それなら格好つけずに、さっさとあたしの能力を受け入れればいいわ」

 亜衣はこの時、冴貴が康治を気に入り、自分の物にしようとしているのを悟った。希望を与えておいて、それを打ち砕く事でより深い絶望を味あわせるつもりなのだ。冴貴が、人間の体を陵辱し、心を食いつぶす存在である事を再認識して、恐怖しつつも、冴貴と一緒にいる事に不思議な高揚感を感じてもいた。

「もう一度だけ警告しておくけど、私にとっては人間を堕とすなんて簡単なことよ。1日もいらないぐらいだわ。自分を余り過信しない方がいいわよ。絶対に後悔するから」

 康治は、冴貴の漆黒の瞳に見つめられると、改めて恐怖に体が竦んだ。体の奥の本能的な部分は、この場から逃げ出せと強く主張している。冴貴は明らかに異常な能力を持っていた。刃向かえば破滅することはほぼ間違いない。
 康治が視線を足元に落とすと、亜衣の脱ぎ捨てた水色の下着が落ちていた。
 こんな風になってしまった亜衣を助けられるとは思わない。しかし、このままではどうしても引き下がれない。それは、庇護すべき人間を傷つけられたという男の自尊心と、自分だけ無傷でいることへの罪悪感だった。
 康治は冴貴を睨み付けた。
 康治の心が決まった事は透視できなくても明らかだった。

「後悔はないわね……。女で身を滅ぼすのが男のサガなら、それも仕方ないか。その怒りに燃える瞳を快楽に濁らせ、這いつくばってセックスをねだるようになるのを、楽しみにしてるわ。……着いて来なさい」
 冴貴がベンチに置いてある亜衣の荷物を拾って、そのまま出口とは反対方向へむかって歩き始めた。
 亜衣が冴貴についていこうと2、3歩踏み出したところで、振り返った。
「わたし、康治さんのこと……恨んでません。私のことは忘れて、冴貴さんの言うとおりにして下さい。そうでなければ私きっと康治さんのこともっと傷つけてしまうから………お願いします」
 頭を下げてそれだけ言うと冴貴の後をついて歩き出した。
 
 しかし、亜衣のその言葉も康治の心を変えることはなかった。
 康治は足を前に出した。
 
 踏み出した足が地面に着いた瞬間、目の前を歩く二人と自分自身を残して、光景が一瞬にして変わった。光景だけでなく空気まで変わっていた。春先にしてはまだ冷たかった風が突如なくなり、生暖かい淀んだ空気が頬を撫でる。
 
 そこは床も天井も石でつくられた、大きな部屋だった。
 そこかしこに高さがまちまちの燭台が立てられており、ぼんやりと暗い部屋を照らしている。自分に背を向けている二人の背中の向こうに、黒い大きなソファと数人の人影が見えた。
 冴貴が普通でない事は十分理解していたつもりだったが、このありえない現象にはさすがに心が震え上がった。心臓がバクバクと音を立てる。

 冴貴が康治に背を向けたまま言った。
「ここが終点よ」

 黒いコートの裾を翻しながらくるりと振り返ると、冴貴はソファの真中に腰掛けた。その横に亜衣が寄り添うように座る。
 亜衣の反対側には白いワンピースを来た首輪の少女が、やはり冴貴に寄り添うように横向きに座っており、その横にはノースリーブの首まである黒いレザーのツナギを着たスレンダーな女性が腰に手を当てて立っていた。ソファの反対側、亜衣のそばには黒いランニングに黒いレザーパンツをはいた、金髪の逞しい男が腕組みをして立っている。

 全員がそれぞれに美しく魅力的なのに、それが揃ってこちらを値踏みするように見ている光景はそこはかとなく不気味だった。
 特に両端の二人の目は、冴貴と同じように異常に黒い。その視線に睨みつけられているだけで、背中に冷たいものを感じた。

 冴貴の声が響いた。
「ようこそ、地獄へ。……それとも、天国かしら」


第十四章 縛鎖

「やっぱりこういう時は自己紹介からかな。私がこの部屋の主、横山冴貴。こっちが妹の由貴。もう何回か会ってるよね」
「やっぱり、来てしまいましたね。あれほど警告したのに……」
 首輪の少女が悲しそうに言った。今している首輪は白磁器のような白い物だった。
「で、亜衣は説明する必要がないな。そっちのお姉さんがマフユ」
「はじめまして、康治クン。亜衣ちゃんも初めてね。二人とも可愛くてたのしみだわぁ。死にたくなるほどの快感を教えてあげるからねぇ」
「それでそっちのマッチョなのがシモツキ」
 シモツキは無言で立っているだけだった。
「もう、無愛想なんだから。
 さて私は男の子には容赦しないから、そのつもりでね、康治クン。
 とりあえず、このままじゃ、貴方に触れないから邪魔な物を取り除こうかな」

 冴貴は座ったまま右手を前に出した。同時に、妖艶な女性が左手を、逞しい男が右手を突き出す。
 得体の知れない緊迫した気配が部屋に充満した。
 耳には聞こえないのにミシミシと軋む音が確かに感じられる。圧し掛かってくるような強い力を感じ、康治は怯えた。
 数十秒の沈黙の末、急に緊迫した雰囲気が消えた。それと同時に強烈な寒気がして鳥肌が立つ。吐き気がして、よろめく自分を何とか支えなければならなかった。

「正面から因果律を破壊したのは初めてです。さすがは冴貴様です」
 逞しい男が言った。
「まぁ、この部屋の中で3人で力を合わせればね」
「冴貴様ぁ。この子はどうしますぅ?」
 レザースーツの女が尋ねた。

「縛っちゃおう」
 冴貴がそういった途端、自分の背後の背後に一辺3メートルはある巨大な石版が地面からせり出した。そこから4つの鎖のついた枷が、生き物のように飛び出し、康治の両手両足を捕らえる。
 枷についた鎖が急速に縮んで、康治の体は石版に叩きつけられるように大の字に貼り付けられた。痛みに口を開けた瞬間、口の周りに細い皮ひものようなものが何重にも巻きつき、喋ることも封じられてしまう。
 最後に首にも輪がはまり、頭を前向きに固定した。
「んーーっ!!んーっ!!」
 喋ろうとしても唸り声しか出ない。
 そのまま、ソファの近くまで石版ごと移動させられた。

「服も要らないな」
 冴貴がそういうと康治の着ていた服が溶けるように消えていった。
 康治の衣服だけでなく、その場にいる全員の衣類が消えていく。残ったのは由貴の白い首輪と亜衣の銀の手枷だけだった。

「さて、なにから始めようかな」
 冴貴がそういうと亜衣が冴貴にしなだれかかりながら声を上げた。
「その前にサキさんにお願いがあるんですけど……」
「ん? なに?」
「私の処女……もらって欲しいんです……」
「……どうして? いいの?」
「いいんです。私もちゃんとしたセックスしたいから。どうせなら前の処女も後ろの処女もサキさんに……」
「………わかったわ」
 冴貴が少し神経を集中すると股間に男性器が生まれた。

(!!?)
 康治は自分の目の前でなにが始まろうとしているか悟った。
「んーっ!!んんん!!」
 しかし、やめろという思いも虚しい唸り声を上げるだけに終わった。

 亜衣が唸り声を上げる康治をチラリと見た。
「どうせなら、康治さんにみえるようにしてあげてください」 
「じゃぁ、私が座ってるから、自分で入れる? でも処女でそれはちょっときついんじゃあ……」
「それでいいです」
「そう……? じゃ、その前に舐めてあげるね」
 そういって亜衣の股間に顔を近付けた。
「うふふ、処女の匂いがする。おいしそう……」
 常人ならきついと思う匂いを冴貴は胸いっぱい吸い込みながら、ペロペロと舐める。
 その側では由貴がマフユとお互いの口元を舐めあっている。しかし二人のそれは本気というよりはメインイベントまでの時間つぶしのようなものだった。

 その光景は童貞の高校生にはあまりにもキツイ刺激だった。康治のペニスが硬くいきりたち、鼓動にあわせてビクビクと脈動する。

「ううん……サキさん、もっとつよくぅ……奥のほうも舐めてぇ……」
「ほら、亜衣。康治クンがこっちみて勃起してるよ」
「ああん……見てぇ……康治さぁん。あたしこんなにインランな女にされちゃったのぉ……」
「自分の好きだった子が、女にオマンコ舐められてるのに興奮するなんてかわいそうよネェ。男は起っちゃうからこういうとき余計みじめだよね」
 そういうと再び亜衣の股間に顔を埋める。

 康治は悔しくて仕方がないがどうしようもないが、目を閉じても、耳に聞こえる亜衣の喘ぎ声と冴貴の舐める音だけで、悲しいほど勃起してしまうのだった。

「サキさん、そろそろ……」
「ホントに大丈夫?」
「ええ、大丈夫です」
「じゃ、いくよ」
 そういうと亜衣の膝の裏に両手を入れ、子供におしっこをさせるような体勢で軽々と持ち上げた。いくら亜衣が小柄とはいえ、女性とは思えない怪力だった。
 そのまま自分のペニスに亜衣の幼い秘所が当たるように持ってくる。
 亜衣が自分で調節できるように両足をソファにつけさせると手を離した。

 亜衣は自分から腰を降ろした。
 破瓜の痛みは亜衣の想像をずっと上回っていた。あまりの痛みに今すぐ逃げたくなる。しかし、食い入るようにこちらを見ている康治を見て、覚悟を決めた。体重をかけて自ら串刺しになっていく。亜衣の中でブツっと言う音がして、鮮血が零れた。
 冴貴のペニスがギリギリと締め付けられた。
「ううう……実は処女とやるのは初めてなの……すごい……きつい……」

 好意をもっていた少女の破瓜を見せつけられた康治は口元の革紐が千切れんばかりに歯をくいしばっている。

 康治の方を見ながら痛みを伺わせない表情で、ぎこちなく腰すら使い始めている亜衣を見て、冴貴は感心した。
(すごいな。我慢できないくらい痛いはずなのに……)

 亜衣にとっては自分の体が痛むことよりも、相手の心を屈服させる方が重大だった。康治が胸が潰れる思いでこちらを見ているのを感じて満足していた。冴貴が後ろから胸を揉みながらクリトリスを莢の上からこね回す。

(さて、そろそろ効いて来るかな?)
 冴貴のペニスから治癒の力が注ぎ込まれるにつれ、亜衣の傷は癒え、痛みも薄れ始めた。再び膣の中が潤い始めるのを感じて、冴貴は愛撫する指の力を強めていく。
「あ……ああ……」
 小さな喘ぎ声が亜衣の口から漏れ始める。
「どう?そろそろオマンコもよくなってきた?」
 亜衣が耳元に囁くと亜衣は閉じていた目を薄く開け康治の方を見る。
「もうちょっと……ああん……もっとそこさわってぇ……」
「はいはい。亜衣様のお言いつけ通り」
 耳たぶを舐めながらクリトリスを剥き、出来る限りの指技を駆使する。

 そのうち亜衣の苦痛の喘ぎが小さくなり、荒い呼吸だけになってきた。
 腰の動きもスムーズになり、体にもくねるような動きが見える。
「ああん……あん……はあん……」
 本格的な女性器全体を使ったセックスに下半身全体からのたうつような快感が生じ始めていた。冴貴が少し亜衣の体を持ち上げ、激しく腰を使い始めると、遂に声を上げて悶えた。
「ああん……ああぅ……もっとぉ……もっとぉ……」
 亜衣も円を描くように卑猥に腰を使う。
「いいよ……亜衣のおまんこ……とってもイイ気持ち。亜衣はどう…?」
「ああん……サキさんの太いのぉ……イイよぉ……」
「よし、イカせてあげるね」
 性器が繋がったまま亜衣の下半身をがっちりと持ち上げ、顔をソファに埋めさせると亜衣の膣の中の敏感なポイントを激しくペニスでなぞる。あっというまに亜衣は絶頂に押し上げられた。
「くぅ……気持ちイイ……イクッ……はあああん」

 亜衣が体を震わせながら絶頂を迎えているシーンは、康治にはよく見えていなかった。目に溜まった涙で視界が滲んでいた。

「どう? 男のセックスと女のセックス、どっちが気持ちよかった?」
 余韻に浸る亜衣の髪を掻き分けながら冴貴が聞く。
「どっちも……どっちも良かったですけど……どちらかというと、入れる方が好きかな」
「亜衣は根っからの責め好きだなぁ。ホントはもっと時間をかけてずっとイキっぱなしにしてあげたいんだけど、あんまり主賓を待たせるのもなんだから、とりあえずはここまでね。それに男のセックスはシモツキの方が上手だから、後でシモツキにやってもらいな」
 シモツキ当人は目をつぶったまま腕を組んで立っていた。

「じゃ、余興はこのぐらいにして本題に入りますか」
 冴貴のその言葉で全員の視線が再び康治に集まる。
 康治は自分の裸体だけでなく勃起している性器までを全員に晒されて、惨めだった。
「どういう趣向でいこうかな……」
「全員が一回ずつ交代して康治クンをイカせるってのはどうですかぁ」
 マフユが提案する。
「それでいこうか。まぁ、男とヤらせるのはちょっと可哀想だからシモツキは置いとくとして、まずは順番に口でイカせよう、誰から始める」
「じゃ、わたしから」
 誰もの予想を裏切って、積極的に手を上げたのは最年少の亜衣だった。
「亜衣、フェラしたことないでしょう? 大丈夫??」
「大丈夫です。ユキに何回も口でしてもらったから大体分かります。それに最初の方がイキやすいでしょう?」
「そうね。あたしは最後にして。久しぶりにシモツキともしたいから」
「じゃ、わたしが2番でいいですか、マフユ様」
「いいわよぉ、ユキちゃん」

「じゃ、決まりね。始めましょう」 





第十五章 電話2

 亜衣と康治が出会う3日前。

「もしもし、マフユぅ?」
「冴貴さまですかぁ?」
「どう? なんかいい方法ありそう?」
「それがですねぇ、さすがに、守りが堅いですねぇ。周囲の人間は、深山康治と二言三言会話しただけで因果律に守られてしまって、誰にも接触できないんですよぉ」
「泣き言いわないの! それを何とかするのが悪魔でしょう!!」
「わかってますよぉ……。あ! シモツキがなんか思いついたみたい。替わりますねぇ」

「シモツキ、なんかいい考えあるの?」
「深山康治本人を攻めてはいかがでしょうか?」
「それが出来ないから、考えてるんでしょう?」
「いえ、深山康治がユキを追跡してくるなら、それを逆手にとる手があります」
「なるほど、こちらからユキを深山康治に会わせるわけね。ユキを囮にすれば『部屋』まで誘き寄せられるかな?」
「そこまでは、無理でしょう。因果律を破って『部屋』に引き込むには、かなり強い本人の意思が必要です。見ず知らずのユキをそこまでは追ってこないでしょう」
「じゃ、どうするのよ」

「なにか深山康治の欲しがっている物を与え、それと引き換えに詮索しないように『契約』させます」
「そんなことでいいの? 案外、簡単ね」
「いえ、それでは不十分です。康治本人を守る因果律は、『契約』を破ったからといって壊れるわけではありません。我々が彼に近付けない事に変わりはありません」
「じゃ、どうするのよ」
「我々の『捕縛』の力を込めた品物を契約の証文として渡します。本人が受け取る意思がある場合は因果律も阻止できませんから」
「なるほどね。約束を守ればそれでいいし、守らなければ、その品物を手掛かりに本人を引きずり込むわけね」
「いいえ、そうはならないでしょう。因果律は我々に『捕縛』されるのを嫌って、その物品を誰かに渡してしまうように仕向ける筈です。我々は、その相手を『捕縛』し、その人間を堕とした後、康治の罪悪感を利用します」
「その品物を誰にも渡さずに、道端に落とすだけかもしれないじゃない」
「一度契約したら、我々の証文を紛失することは出来ません。他人に押し付ける以外は手放す方法はないはずです」
「ふぅ〜〜ん、そんなモノなの? 理屈がよくわかんないんだけど……。でもそれって無関係の人を一人、絶対に巻き込むってことでしょう? 気が進まないなぁ……」
「しかし、今のところ他に手がありません。冴貴様がやりたくないのでしたら、我々がユキを使って実行しますが?」
「………ちょっと考えさせて。とりあえずシモツキたちは『捕縛』用の品物を用意してよ。あたしは深山康治の願望を探るからさ」
「わかりました」


第十六章 狂宴

「帰ってって言ったよね……。康治さんが悪いんだからね」
 亜衣が康治の目を見詰めながらいった。
「初めてだから下手でも許してね」
 康治を傷つけるように計算されたしおらしい少女の表情をしながら、康治の勃起したペニスへ唇を近付けていく。しかし、その目は欲望に濁っていた。
「んーー!!んんっーー!!」
 康治の唸り声も虚しく、亜衣の舌がペニスに張り付いた。口に広がる嫌な味も今の亜衣には好ましいものだった。しばらくは唾を塗りつけるように一心に舐めた。

 その様子を由貴とマフユは亜衣のフェラチオの様子をずっと眺めていたが、冴貴はシモツキとのセックスに夢中になっていた。肉のぶつかる音が石室に響いていた。

 亜衣がペニスを咥えて舌を使うと、康治が上を向いて目を閉じた。傍目にも快感と自制心が戦っているのが分かる。好意のあった女子中学生にペニスを舐められるという背徳心が康治の理性を破壊しようとしていた。
  
 由貴の真似をしてペニスを奥まで飲み込もうとした亜衣は、それがかなり難しいことを知った。
(うう……くるしい……)
 息苦しさに耐え切れずいったん口を離すと、ペニスは舐め始める前よりも一回り大きくなっている。自分が康治をうまく攻めているのだと思うと不思議と高揚感が湧いてきた。覚悟を決めると息を止めて再びペニスを飲み込んだ。

「すごいわねぇ、あの子。あれで初めてなんて見込みあるわぁ」
 康治の快感を吸い上げながらマフユが感想を洩らす。由貴も興奮した様子で、自分の秘所を撫でながら、ジッとみていた。

 自分のペニスの先が亜衣の喉の奥で締め付けられるのを感じた途端、下半身が康治のコントロールを離れた。ペニスは激しい快感と共に精液を吐き出してしまう。
「んーーーっ!!」
「んぐ……ん……ゴホッ……ゴホッ……」
 由貴と同じように飲み込もうとしたが、半分も飲み込めないうちに苦しくて口を離した。
 ビチャ、ビチャ。
 残りの精液が亜衣の顔にかかる。亜衣はその温かさを味わうように目をつぶって顔面で受けた。
 射精が終わると、亜衣は立ち上がり、顔についた精液を指で拭って舐めた。
「んふっ……しょっぱいんだね。どう? 気持ちよかった?」
 そういわれても、康治は激しい自己嫌悪に身を焼かれながら、うなだれたままだった。

「次はわたしですね」
 由貴がソファから立ち上がり、亜衣と交代する。
「亜衣ちゃんステキだったわよぉ」
 マフユはソファに座った亜衣に抱きついてキスの雨を降らした。

 由貴は康治の前に立つと、その目をまっすぐに見た。
「あれほど、約束を破っちゃいけないといったのに、結局こうなってしまいましたね。でも、わたしを追いかけてきてくれた時は、ちょっぴり嬉しかったです」
 そう言うと、背伸びして革紐に縛られ開いたままになっている口の上唇にキスをした。
「こうなってしまったからには、諦めて快感を受け入れてしまった方が楽ですよ」
 そう言いながら、ゆっくりと跪いた。

 由貴の舌使いは凄まじかった。舌を絡めながら顔を前後に動かすと、康治はあっという間に果ててしまった。
 側ではまだマフユが亜衣の顔についた残滓を舐め取っている最中だった。

「あらぁ、もう、あたしの番? 折角亜衣ちゃんの味見しようと思ったのに……」
 隣では亜衣が恍惚の表情を浮かべている。マフユの異様な体臭に包まれながら、顔や首筋を舐められただけで、どうしようもなく発情してしまっていた。由貴に聞いてはいたが、由貴や冴貴がマフユ達に今の様にされてしまったというのがわかる気がした。
 マフユが去った変わりに、場所を替わった由貴に体を撫でてもらうと、今度は優しい快楽に身を浸した。

「康治クンだったわねぇ。久々の人間のオトコだわ。う〜〜がんばっちゃうからねぇ」
 康治は連続で射精させられぐったりしていた。ペニスも下を向いている。
「いやぁん、若いのに元気ないわねぇ。ちょっと助けてあげようかなぁ」
 そういうと、人差し指にたっぷりと唾をつけて、縛られて身動きの取れない康治の肛門を揉み始めた。

「んぐーー!んん!!」
 康治は必死で肛門に力を入れて、マフユのマッサージに対抗しようとする。しかし、呼吸を止めていられなくなり、息を継ごうとした瞬間、マフユの唇が乳首に吸い付いた。
「!!?」
 強く吸われ乳首からなんともいえない感覚が湧き出しす。初めての感覚に狼狽した隙をついて、マフユの指が肛門に侵入した。
 直腸内でクニクニと指を動かされるとペニスは持ち主の意思に反してみるみる勃起していく。
「ほら元気になったわね。じゃあ、いくわよぉ」
 マフユのフェラチオは由貴のように激しいものではなく、ゆっくりと飲み込みゆっくりと吐き出す物だった。時折舌を使うたびに、康治のペニスがマフユの口の中でピクリと震える。
 程無く、康治は3度目の射精をしてしまった。

「サキさぁん、次はサキさんの番ですよ」
 由貴がシモツキに後ろから貫かれている冴貴に声をかける。

「ええ、もうなの!?……くぅん……だめ…あたしパス。次はおまんこねぇ……はぁん…」

「もう! 自分が連れてきたくせに」
 由貴がため息をつく横で、亜衣が立ち上がった。
「あらぁん、亜衣ちゃんちょっと」
「なんですか? マフユ……さん」
 未だに得体の知れない存在と同じ部屋にいることにイマイチ馴染めない。
「マフユでいいわよぉ。そんなに恐がらないでね。それより、そのままチンポを咥え込むにはちょっと濡れが足らないでしょう?」
 近寄って素早く亜衣を抱くと、ディープキスをしながら、クリトリスを弄った。その素早く的確な責めに亜衣の性感が溶かされる。二十秒もしないうちにマフユが離れた時、亜衣は股間から愛液を垂れ流し、意識を集中しなければ立っていられないほどだった。
「これでよし。康治クン、童貞だからゆっくりしてあげてねぇ」
 マフユが細く長い指をひらひらと振った。

 由貴は冴貴とシモツキの方を向いて声をかけた。
「サキさん、このままじゃ、亜衣様がとどかないですよ」
「え……ごめん、ごめん。……あぁあシモツキぃ、そこぉ……ちょっとまってね……んん!!」

 冴貴が康治の方を一瞥すると、康治をつなぎとめている石版が康治と一緒にゆっくりと後ろに倒れていき地面に横になる。
 康治は一瞬怯えた表情を見せたが、仰向けになったまま黙って目をつぶっていた。

 亜衣は倒れこむように康治を跨ぐと、マフユに搾り出され縮んでいるペニスに濡れた女性器を擦り付け始めた。

「ごめんなさい、康治さんに処女あげなくて。でも、二人とも初めてじゃ、うまくいかないかも知れないでしょう? わたし、康治さんの初めての人になれてうれしいのよ……」
 康治に顔が触れるほどの距離でそういうと、革紐の上からキスをした。濡れた花弁で擦られるてペニスが再び勢いを取り戻してくる。
 亜衣がペニスを掴んで自分の中に収めていく。康治は歯をくいしばって自分を保とうとした。そうしなければ、亜衣の中に心までのめりこんでしまいそうだった。
「んんぅ……あああ……康治さんのがはいってくるよ……」
 処女を失ったばかりの亜衣の秘芯はギリギリと康治のペニスを締め上げながら、徐々に呑み込んでいく。

 その時、自分を見つめる康治の寂しそうな目が見えた。

 ふと、朝の通学電車の風景を思い出した。
 康治はこんな目をしてよく外の景色を眺めていた。
 自分は小さい体をさらに目立たないように小さくしてその姿を見ていた。
 もしかして、自分に合わせて毎朝同じ車両に乗ってきてくれるのではないかと淡い期待を抱いては、そんな訳ないかとため息をついていた。

 いつも座席の隅に座っている少女を見ていた。
 滅多に表情を変えない彼女が、思い出し笑いなのか、ごく稀に微かに微笑を浮かべるのをみると、その日一日自分も幸せでいられるような気がした。
 今日もそんな日ではないかと、いつも彼女をこっそりと観察していた。

 瞬きをするほどの間、二人の魂が失ってしまった物を求めて哭いた。
 しかし、それはすぐに肉の快楽に沈んでしまった。

 冴貴だけが亜衣の心に浮かんだ登校風景に気付き、二人のために心の中で泣いていた。
 しかし、それもまたシモツキから送られる愉悦に溶けていった。





第十七章 狂宴2

「ああん……ああん……ああん……」
 身動きの取れない康治の上で、亜衣は康治の胸に両手をついて身をくねらせ、こねるように腰を使う。口に自分の細い三つ編みを咥え、焦点の合わない目を宙に見据えながら、快感にわなないている姿は、中学生のモノではなかった。
 康治も始めて味わう女性の秘肉の感触に、抵抗する事すら忘れてしまっていた。

 クチャ、クチャ、クチャ。
 耳を覆いたくなるような淫靡な濡れた音が亜衣の股間から聞こえる。
 康治は空虚な気分でその音を聞いていた。下半身だけが燃えているように熱かった。

 何時の間にか二人の側に由貴が来ていた。
 出会い方さえ違えば、恋人同士だったかも知れないこの二人を、せめて同時に絶頂を迎えさせてやろうと、由貴が亜衣の背中から両乳房を揉み、乳首を優しく撫で上げる。
「はあん……こうじさん……ああん……イクゥ!! 一緒にイってぇ!! ああん!!」
「グウウーー!! ングーー!!」
 二人同時に絶頂をむかえ、亜衣はがっくりと康治の胸に崩れ落ちた。
 康治は自分の胸元にある少女の頭をぼんやりと眺めていた。
 亜衣とセックスした事を喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、わからなかった。ただセックスしたという事実だけが心に圧し掛かっていた。

 マフユが亜衣を立たせ、ソファにもたれさせている間に、由貴が愛液と精液で濡れた康治のペニスを口に入れた。残滓を舐め取りながら、康治が再び勃起するまで、優しく舌を使う。
 亜衣とセックスしてしまった事で、康治の体は快感を受け入れる事を覚えてしまった。康治は快楽に抵抗する事をやめ、心を閉ざそうと努力していた。

 しかしその後のセックスは康治の意志に構うことなく荒れ狂った。
 由貴の恋人のような熱いセックスと、マフユの熟練の技を駆使したセックス。人によって性器の感触も使い方も随分違うものだとぼんやり考えていた。ただ、たまに湧いてくる、自分はもしかして幸運ではないのかという気持ちだけは、急いで打ち消した。
 最後にシモツキとの長いセックスを終えたばかりの冴貴が、ヌルヌルの秘芯で康治のペニスを咥え込んだ。冴貴の体は汗でベタベタなうえに、強い男の体臭がたっぷりと染み付いており、嫌悪感を催させた。
 心情的にも、冴貴だけはどうしても抵抗があったが、それでも終には冴貴の秘芯に大量の精を注ぎ込んでしまった。セックスの相性はむしろ冴貴と一番あっているのを感じて、愕然とした。

「はぁ、康治クンと相性いいみたいね。とってもよかったわよ」
 冴貴がそう言って、革紐の上からキスしようとしたが、康治は不自由な首を捩って避けた。
「あれー? もしかしてあたしだけ嫌われてる? まぁ、それもしかたないか。次はアナルだね。やっぱりバックからの方が入れやすいかな。高さを調節しないとね」
 そういうと倒れていた康治の繋がれた石壁が再び立ち上がり、今度は地面に沈み始めた。
「!!??!?」
 石壁が自分の足ごと地面にめり込んでいくのに康治は恐慌を起こしかけたが、康治の膝下まで沈んだところで止まった。
 マフユがなれた手つきで亜衣の肛門に潤滑剤をぬってやると、早速、亜衣は康治の前で四つん這いになり、手で康治のペニスを持って自分の肛門へ導いた。

 その感触より、亜衣の肛門に挿入するという行為が康治の心を打ちのめした。
 元々、アナルセックスの方を先に覚えた亜衣は、康治より先に果ててしまい、交代させられた。
 由貴とマフユ、冴貴は2回ずつ康治を射精させた。アナルセックスはあまり人によってバリエーションがないので、康治も慣れてしまい射精させるまでにはそこそこに時間がかかった。
 すでにセックスも射精も苦痛になっているのに、それでも飽きることなく自分から精を搾り出そうとする女達。そのうえ、3人とも康治の精液を搾り取っては、康治の目の前でそれを肛門から吐き出して見せた。
 美しい女性達が嬉々として尻の穴から自分の精液を垂れ流すのを見せられる度に、康治の理性が少しずつ腐り落ちていった。
 3人がアナルセックスに励んでいる間に亜衣はシモツキに徹底的に女の喜びを噛み締めさせられていた。

 最後に康治の精液を肛門から吐き出した冴貴が、康治の次の運命を宣告する。
「さぁて、とりあえず、ヤルだけヤッてもらったから、次は康治クンがヤられる番だね。今度は康治クンの声が聞きたいな」
 冴貴がそういうと口を巻いていた革紐が解けて地面に落ちた。
 やっと口が開放されて荒い息をつく。口の周りには痛々しい紐の後が何重にもついていた。康治は何か言おうとして、結局そのまま口を閉じた。
 今更、虚勢を張っても遅いし、24時間は耐え忍ぶしかないと覚悟していた。

「覚悟はいいみたいだね」
 パチンと指を鳴らすと四肢を拘束する枷が外れた。
 同時に、地面からすごい勢いで新しい4つの鎖のついた枷が飛び出し、再び両手両足を捕らえる。出てきた時と同じように、すごい勢いで鎖が短くなり、康治の体は激しい勢いでうつ伏せに地面にたたきつけられた。
「ぐうっ!!」
 石の床にぶつかる衝撃でうめき声をあげるが、その間も鎖は縮んでいき、窮屈に手足を曲げた状態で床に固定された。

「散々、わたし達の中に出したんだから、自分に出されても文句ないでしょう」
 冴貴が突き出されるような格好になっている康治の剥き出しの臀部をぺちぺちと叩く。
 自分がアナルセックスをされようとしている事に気付き、屈辱に目が眩む。それでも何も声に出さずに地面を見据えた。ここでむやみに抵抗しても仕方がない。屈辱を心に刻み付け、24時間を耐え抜く糧にするのだと自分に言い聞かせた。

「じゃ、亜衣……」
 亜衣の方を見ると、一心不乱にシモツキとシックスナインに励んでいる。
「……は忙しそうだから、マフユからね。ユキは……?」
 予想はしていたが、由貴は首を横に振った。

「あら? 私が康治クンの処女もらっちゃっていいのぉ? うれしいわぁ」
「あ、そうか。じゃ、あたしから」
「ああん、冴貴様ぁ、それはひどいですよぉ」
「わかったわよ、その代わりアナルが初めての人をイカせるのは難しいわよ」
「冴貴様、誰に向かっていってるんですか? 冴貴様の後ろの処女は私がもらったんですよぉ。ちゃんとイカせてあげたじゃないですかぁ」
「あんときは二人がかりだったじゃないの。まぁいいや、初めて」

 冴貴はどっかとソファに腰を降ろした。手にはいつの間にか缶ビールが握られている。
「サキさん、またそんなオジサンみたいに……」
 由貴が白い目で見る。
「いいじゃないの。いくらマフユでも、透視できない康治クンの体を開くにはだいぶ時間がかかるだろうからさ。ユキも飲む?」
 プシュっと音を立てながらプルタブを引く。
「いりません!! お水で結構です!!」
「相変わらず堅いなぁ」
 そう言いながらも、もう片手には由貴のための水の入ったグラスが現われた。

 マフユは四つん這いになっている康治の肛門に口をつけると、舌を出して舐め始めた。康治はその屈辱に顔を伏せて耐えている。
 最初の半時間は陰嚢を口に含んだり、舌の先で刺激したりしていたが、そのうちズップリと舌を肛門に埋めた。
「はうっ……!」
 その瞬間、声が出てしまった。口を縛られていた時は、革紐を噛む事で声を殺し、心を紛らわせる事が出来たが、今はなにもなくてひどく心細い。
 しかもマフユの舌はどんどん腸の奥まで侵入してくる。それは人間では有り得ない長さだった。長い舌を腸の中で蛇のようにくねらせ、腸壁をなぞられると、ペニスが激しく勃起する。そして長い舌をゆっくりと抜かれると、下腹から熱いものがこみ上げた。
「あふっ……」
 肛門からペニスの根元にかけて痺れに似た疼きが走る。
 それをはっきり快感と感じて、愕然とした。

 この時になって康治は初めて、自分が受身になったまま余りに多くの快感を受けすぎてしまっている事を悟った。すでに体は、与えられた快感を無視することも拒否する事も出来なくなってしまっている。これまでの一連の行為が、与えられた快感を余すことなく受け入れるようにするための下準備であった事に気付いたが、すでに遅かった。
 このまま自分がアナルセックスでも絶頂を極めてしまうかもしれないと思うと、初めて、恐怖が湧いた。

「どうしたの、康治クン。声が出ちゃってるよ」
 冴貴がソファに腰掛けたまま揶揄する。今は由貴がシモツキとセックスしていて、亜衣と二人でソファに腰掛けじゃれ合っているところだった。
「男の人の喘ぎ声って、すごいエッチですよねぇ」
「……そうかなぁ、亜衣が責め好きだからじゃないの。あたしは声を聞くなら女の子の方がいいかなぁ」
「サキさんのレズぅ!」
「うっ……そうかも……」

「そろそろいいかしらぁ」
 マフユが珍しく汗ばんだ顔を上げた。股間に細身のペニスが現われる。
「どう? マフユ? うまく行きそう?」
「冴貴様、あたしの腕を疑ってるんですかぁ? あたし達は何千年もこんな事ばっかりしてきたんですよぉ。ばっちりに決まってるじゃないですかぁ」
 自分のペニスを持って、康治の肛門に先をあてる。

 マフユが、これまでとは一転して、熱っぽい口調で康治の耳元で囁いた。
「あなたの可愛い声をきかせて……女の子みたいに鳴いてみせてね……」
 人間では有り得ないほどの色気を含んだ声と、むせるような口臭。その声に横で聞いていた冴貴までも鳥肌が立った。自分が堕落させられた日のことを思い出した。

「ううっ……」
 肛門の中に熱いペニスが侵入してくる。ダメだと思うのに勝手に体が肛門の力を抜き、マフユを迎え入れてしまう。四つん這いの姿勢で根元まで突き入れられると、自分が女になってしまったような気がした。
 諦めていたはずなのに、涙が溢れてきた。
「ないちゃうほど気持ちイイの?」
 マフユが手を回し乳首を摘むと、体がビクリ震える。
「うふふ、どうしたの? 女の子みたいに敏感になってるわよ。気持ちいいでしょう?」
 小さな乳首をクリクリと回すようにしていじる。
 康治は黙って下を向いたままだったが、尋常じゃない汗の量が切羽詰った様子を表していた。
「何も言ってくれないのね。まぁ、いいわ。そのうち自分でも声が止められなくなっちゃうから」
 そういうとゆっくりと腰を使い始めた。同時に執拗に乳首を責める。それも触れるか触れないかのギリギリのところでの巧妙な刺激だった。時折背筋がピンと反り返ってしまう。意識していないのにペニスの根元がピクピクと動いた。
「くうっ……んん……」
 康治の喉の奥から唸るような声が漏れていた。

 しばらく腰を使っていたマフユは、頃よしと見たのか康治のペニスを握ってしごいた。
「ああああ、うああ」
 いつもの何倍ものペニスの刺激に大きな声が出た。マフユは刺激し過ぎないようにすぐに手を放し、再び荒々しく直腸を犯す。
 康治はペニスへの刺激が忘れられず、束縛された不自由な両足で自分のペニスを挟んで腰を振り始めた。下半身全体から強烈な快感が押し寄せてくる。

「もう、エッチなんだから。だめでしょう、自分でそんなことしちゃ」
 マフユがそういって股の間に手を入れ、挟まれたペニスを引き出す。
「しごいて欲しいならそういわないと」

 はっと自分が何をしたかに気付いて、康治は下唇を噛んだ。目の前に底なし沼があるような気分だった。いや、既に足元なのかもしれない。いずれにせよ、飲み込まれるのは時間の問題だと思った。
 もうやめてくれと頼みたかった。
 許されるなら心でも何でも弄ってくれと、土下座したかった。
 いや、自分の願いは絶対聞き入れられないだろう。
 せめて、無様な真似はすまいと自分に言い聞かせる。
 その時、先ほどから舌の付け根に不快な感じがあるのに気付いた。
 それはこれまでの人生で始めて味わう『絶望』の味だった。
 
 自分のペニスを握られたまま腰を使われると激しく射精し、自分でも驚くほどの量の精液が、石の床に白い水溜りをつくった。

 側ではその様子を食い入るように亜衣と冴貴が眺めていた。二人とも興奮で秘芯はぐしょぐしょに濡れている。
「チンポでイかせたんだね」
「メインイベントは後に取っておこうと思いましてぇ」
「次はあたしの番ですね。サキさん早くアレつけて」
「はいはい。よっと」
 亜衣の股間に男性器が現われた。亜衣が自分のそれをうっとり眺めていると、すぐに興奮で勃起した。
「あたしので濡らしてっていいよ」
 そう言いながら冴貴が片足をあげると、亜衣が冴貴の濡れた秘所に自分のペニスをゆっくりと差し込んだ。
「あうぅ……」
 ヌチュ、ヌチュ。
「ああ、いい気持ち……やっぱりおチンチン、好き」
 亜衣は冴貴の膣内を堪能するように数回出し入れしてから、抜き取った。シモツキにあれだけ女として責められた後でもそういうんだから、よっぽどのものだと冴貴は思った。
「じゃ、行ってきますね」
 嬉々としてそういうと、マフユと交代した。

 突き出された康治の尻をみると、マフユのが入っていた跡が、大きな穴となって穿たれている。亜衣のペニスはマフユのより一回り太かったが、冴貴の愛液に濡れていた事もあって、たいした抵抗もなくズルズルと挿入されていった。
「康治さんのお尻、締りが悪いわよ」
 亜衣が年齢に似合わない妖艶な声で告げる。
 しかし、既に康治にとっては陵辱者が誰であろうと、何を言われようとたいした違いはなくなっていた。
 
 ジャラリという音がして康治の足の枷が外れた。
「その方が、腰が動かしやすいでしょう?」
 冴貴が楽しそうに言うのが聞こえる。マフユの喘ぎ声が聞こえるところをみると、マフユを抱いている最中のようだった。
 足が自由になると、亜衣を迎え入れやすいように股を開いた。
 今すぐ死んでしまいたいほど惨めなのに、それでも股を開いてしまった。

 亜衣は奥までペニスを入れると、殆どペニスを動かさなかった。しかし、入れられていること忘れさせない程度に、ちょっとずつ動かす。これは由貴とのセックスで覚えた、由貴がもっとも嫌い、そして最も淫らに腰を振る行為だった。
「ユキはすぐに泣いちゃうんだけど、康治さんはどうかしら?」
 
 康治は亜衣のその残酷な行為に声もなかった。
 しかし、亜衣をこんな風にしたのが、自分だと思うとそれも仕方がないように思える。自分の肛門を犯すのが今の亜衣の望みなら受け入れるべきな気がした。
 もっとも、受け入れないという選択肢はすでになかった。
 マフユによって掘り起こされた肛虐の快感は既に精神を焼き切る寸前まで燃え上がっている。少しペニスをずらされただけで怖ろしい程の快感が生まれた。その誘惑を無視し続けることは不可能だった。
 康治は屈辱にまみれながら、腰を振り始めた。

 康治が女のように体を波打たせながら腰を振るのを見て、亜衣は嬉しくて仕方がなかった。しかも、康治のその動作は、男が女を責めるときの打ち付ける動作ではなく、女が男を迎え入れるときの艶っぽいシナのある動作である事が、一層、心を揺さぶった。
「あーあ、自分からお尻振っちゃった……康治さんも『インラン女』だね」
 亜衣もそれに合わせて徐々に動きを加えていく。
「くぅ……はふ……ハッ……」
 康治は段々、声を出すことにも抵抗がなくなってきた。
 男の太い声で喘ぐ康治をみていると、亜衣の嗜虐心が満たされ、興奮の限界に達する。
「ふふふ、わたしもうだめ。もう我慢できないよ」
 亜衣は久しぶりの男としてのセックスの感触に耐え切れず、自分のモノを康治の中にぶちまけることで頭がいっぱいになった。
 康治のことを考える余裕もなく、淫らな腰使いで絶頂へ駆け上がる。
「だしてあげる。康治さんのおなかの中にいっぱい出してあげる……ああん!! ああん!! あん!……うぅン!……あぁ…」
 康治は自分の中に生暖かい液体が溢れ返るのを呆然と感じていた。

 亜衣がペニスを抜くと、腸が亜衣の精液を吐き出そうとして、肛門が開いた。
 その一瞬に冴貴が、自分のペニスをねじ込む。
「ああ……待って……」
 堪らず康治がうめいた。
「亜衣の精液は出させてあげないよ。中であたしのも混ぜてあげるからね」
 冴貴はそういうと激しく腰を使い始めた。
 ゴポゴポと音を立てながら、腸の中で亜衣の精液がかき混ぜられるのは快感だった。冴貴の出し入れに合わせて少しずつ外に流れ出すのも快感だった。
 何もかもが快感になっていくのを成す術なく受け入れさせられた。

 下半身が軽く痺れたようになり、ペニスと肛門の感覚以外感じなくなってしまう。
「康治クンのお尻の穴いい気持ちだよ……もう出すね」
 ジュブジュブという鈍い音と共に冴貴のペニスから精液が注ぎ込まれ、腸の中で亜衣の精液と混ざるのを感じた。
 康治がペニスに触られずに絶頂をむかえてしまうことを覚悟した瞬間、冴貴のペニスが引き抜かれ、さらにふたまわりは大きいペニスが入ってきた。
「う…あああぁぁ」
 圧倒的な充足感に声を上げる。
(き……気持ちイイ……)
 ゆっくりと出し入れされただけで、ペニスの付け根が激しく痙攣し、つま先がピンと伸びる。体を支えていた腕に力が入らなくなり前のめりにつぶれた。狂ってしまいそうな快感が駆け巡り、体がイッているのに射精しない状態に落ち込んだ。
「これ……何……やめろ……あああ……」
 絶えず喘ぎ声を上げながら、迸る快感に身をよじる。
「や……やめっ……んっ……あぅっ……んんー!!」
 その表情は男にあるまじき色気を発散させていた。

「いいでしょう?」
 頭の上から冴貴に声をかけられ、快感に震えながらも顔を上げた。目の前に悪戯っぽい瞳でこちらを覗き込んでいる冴貴と、その後ろに立っている由貴が見えた。ソファでは亜衣とマフユがこちらに意味深な熱い視線を送っている。

 康治は絶望的な気分で、今、誰が背後から自分を犯しているのか悟った。 
 
 ジャランと音がして両手首を拘束していた枷が外れた。
 枷が全部外れたのは、心に大きな枷がはまったからだった。

「やめて欲しかったら、やめてもらってもいいんだよ。やめて欲しい?」

 冴貴の問いかけに康治は拳を握り締めながら、搾り出すように答えた。

「……やめ…ないで……」

 ポタポタと涙が石の床に落ちた。

 この部屋に入ってちょうど8時間目のことだった。





終章

「どう? うちは高台だから、町並みが見下ろせていいでしょ? 月がない日はもっと星も見えるんだよ」
「いい景色ですね。うらやましい」
「サキさん、最近、暖かい日はビールとおつまみ持って出て来るんですよ」
「ふふ、オヤジみたい」
「うるさいなぁ、好きなんだからいいでしょう」

「康治さん、これからどうするんですか?」
「うーん、もう解放してあげてもいいくらいなんだけど、今日一日は泊まってってもらおうかな。あの二人が面倒見たいっていってるし」
「サキさん、これで一件落着なんでしょうか?」
「うん、康治クンはもうあたし達から離れられないよ。特にシモツキからは、ね。受身のセックスの仕方を刷り込まれちゃってるから、もう普通に女の人とセックスしてもダメなんじゃないかなぁ」
「可哀想ですね」
「そうだね……これ以上はもう誰も巻き込みたくないな……康治クンもいれてさ、4人だけで仲良くやってこうよ。彼、ちょっとあたしの好みだしさ」
「まぁた、サキさん、そんな事ばっかり言って」
「康治さんは最初に私が目をつけたんですよぉ」


「3月も今日で終わりですか。もう春ですね」
「ユキは今年受験だね。亜衣は? もう3年生でしょ?」
「わたしはエスカレーター式だから」
「そうか、そうだった」
「サキさんこそ今年は就職活動って聞きましたけど、どうなんですか?」
「うーん、不景気だしねぇ。出来れば福祉関係に行きたいだけど……。この能力、せめて人の役に立てたいからね。それにユキが医者になったら一緒に働けるかもしれないし」
「いいですね。お二人はやりたいことがあって……」
「それともあれかな。ユキが働いてあたしはユキの子を産むって言うのもいいな」
「サキさん!! もう、冗談ばっかり!」
「冗談じゃないよ。本気だよ」
「ステキですね。きっと美人な子がうまれますよ」
「亜衣さんまで!」
「亜衣もあたしのこと養ってくれるなら、子供産んで育ててあげるよ」
「えっ、ホントですか!? いいなぁ、考えちゃうなぁ」
「サキさんの冗談、真に受けちゃだめですよ」

「ねぇ、亜衣は本当にフルートやめちゃうの?」
「ええ……自分の音が出せなくなっちゃったし、一緒に吹いてくれる人もいなくなったから……」
「………ここで吹いてみてよ」
「えっ……近所迷惑ですよ。こんな時間に……」
「大丈夫。あたしが周りのヒトには聞こえないようにするから」
「……でも……」
「いいじゃない。あたしも由貴もそんなに音楽に詳しくないし。それに、それが今の亜衣の音なら、あたしたちきっと好きになるよ。亜衣だって別にコンクールに勝つために吹いてたんじゃないんでしょう? だったら飾らない音でいいじゃない」
「私も是非聞いてみたいです!」

「そうですか……じゃ、吹いてみますね……」

 しばらくして春先の夜空にフルートの旋律が響き渡った。
 亜衣は最高の友人でもあった、最愛の人を思い出していた。
 あんなに、いつも一緒に居たのに、今では永遠に手が届かなくなってしまった人を想って演奏した。
 それは、透き通った純粋な音ではないかわりに、切なく、寂しく、優しい音色だった。


 同じ頃。

(やっぱり納得できない……)
(亜衣が……ど……同性愛……なんて、そんなそぶり絶対無かったもの……)
(あの時……あたしが旅行から帰ってきた時、何だか違う人みたいだった……)
(きっと何かあったんだ……)
(何があったか知りたい……)
(このまま別れるなんてイヤ……)

(……それに、もし)
(もし、亜衣が本気なら……)
(……亜衣だったら……)
(あたしだって……)

 初めてのキスの感触を思い出し胸が激しく鳴った。

(……とにかく、何があったのか調べてみよう……)


 因果は人知の、そして人外の知の、及ばぬところで人間達を翻弄する。
 人々を巻き込み、押し流し、嘲笑う。 
 新しい犠牲者を求めながら……。
 


ゲームと指輪に続く






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