「う…隼人…」
「動くな」
 厳しい口調でそう言うと、仮面ライダー2号・一文字隼人は仮面ライダー1号・本郷猛の上着に手をかけた。ヨレヨレになった服のボタンを一個一個外していく。最後の一個に手をかけた時、本郷が短く唸った。
 思わず本郷の顔を覗き込む一文字。
 眉間に心配気な皺がよる。
「痛いか?」
「……大丈夫だ」
 とてもそうには見えなかったが、ここは本郷の言葉を信じる事にし、一文字はゆっくりと慎重に最後のボタンを外した。本郷の腹部に視線を落とす。
「…これは酷いな…」
 赤一色。
「…そ…うか…」
 切り裂かれた強化皮膚から流れ出している血液により、本郷の腹部一体は赤く染まっていた。勿論、その染みは上着にもズボンにも広がり、血液独特の異臭を放っている。
 血は止まる様子もなく、着実に流れ出ている。
 改造人間である本郷の肉体は、皮膚を切ったくらいなら一瞬にして傷痕も無く治ってしまう程高い治癒力だというのに、この傷は治る気配さえない。もしかしたら、何か新しい薬品により治癒力が低下してしまったのかもしれない。
 ほんの数分前に襲撃してきた【ゲルショッカー】の合成怪人の姿を思い出し、苦々しく唇を噛む一文字。
「―――とりあえず血止めしておいた方が良いな。え〜と、血止めに使えそうな物。使えそうな物…」
 と、言ってもここは人里離れた荒野のど真ん中。
 血止めになりそうな物どころか、本郷の身体に巻きつける程長い物さえ見あたらない。
 一文字は立ち上がると、自分が着ているTシャツの裾を両手で掴んだ。
「何をする気だ…?」
 下から見上げてくる本郷に、一文字は笑顔を返す。何が何だか解らないのだろう。本郷は血色の悪い顔に?マークを貼り付けている。
「こうするんだよ」
 そう言うが早いか、一文字はたいした力も入れずに自身が着ているTシャツを破り始めた。
「隼人…?!」
「ま、こんなもんだろ」
 驚く本郷を他所に、一文字は細長い布となったTシャツを器用に使い、本郷の身体に巻きつけ止血する。血の赤が紺色のTシャツと混じり、Tシャツを黒く変色させた。
 血がちゃんと止められている事を確認し、上半身裸になってしまった一文字は微笑をもらした。
「ふぅ。流れ出る血の量は減ったみたいだが、まだ安心は出来ない。早々に帰って結城にでも診てもらおう。立てるか?」
 本郷の手を取り、自分の肩にまわす一文字。
 本郷はそれにあわせ、いまいち力の入らない両足に力を込めた。
「…う…」
「暫らくの辛抱だからな。我慢しろよ」
「解…っている…」
 と、その時―――
『わはははははー!』
 どこかから、盛大な笑い声が木霊した。
「…………」
 思わず顔を見合す本郷と一文字。
『罠にはまったな、本郷猛!一文字隼人!』
 続いて聞えてきた尊大な声。その声に二人とも聞き覚えがあった。嫌と言う程に…。
 一文字はうんざりとした表情でため息をついた。
「何でこんな時に出て来るんだ…」
 一文字にそんな事を言われている等と気付く様子もなく、声は気持ち良さ気に続ける。
『貴様達がここに来る事は分っていた!今日こそは息の根を―――』
 と、何故かそこで声が止まる。
「…な…んだ…?」
 本郷が怪訝に顔をゆがめた。
「気にしてる場合か。今のうちに帰ろう」
 本郷の腕を抱え直し、一文字は近くに置いてある愛車に向かって歩き出した。
 その時―――、
「何をやっておるのだ貴様達はぁぁぁああぁぁあぁ!!」
「いっ?!」
 いきなり目の前に現れた男に驚き、一文字と本郷は尻餅を付いた。
 どこか虫を連想させる、非常識な格好をした男=【ショッカー】大幹部の一人・地獄大使は、そんな事等おかまいなしに―――ただ単に気付いて無いだけだか―――二人の前に仁王立ちすると、眉をVの字に吊り上げ、目尻も吊り上げ、尖った歯を剥き出しに怒鳴り声を上げた。
「お前達は我れが組織【ショッカー】を倒す為に日夜を問わず邪魔ばかりしている、言わば正義のヒーローであり、子供達の英雄であろうが!そういう身でありながら真昼間から破廉恥な行為に耽るとはどういう了見だ!!事と次第によってはゾル大佐の所に送り込み、みっちりとしごき直してもらうぞ!!」
「…え?……嫌、私達は―――」
 どうやら勘違いしているらしい地獄大使の誤解を解こうと、一文字は声を上げた。が、彼は二人の前で大仰に手を横に振って見せると、更なる怒声で、一文字の口から出かかった言葉を制した。
「ええい!言い訳など聞きたくもない!だいたい不純交友だけでもけしからんと言うのに、同姓とはどういう事だ?!信頼しあう事は大事だが、行き過ぎては元も子もないんだぞ!!」
「え〜と…」
 よく見れば、地獄大使の斜め後ろに黒戦闘員が四人控えていた。四人とも困惑した様子で地獄大使の様子を窺っている。いきなり上司が〈作戦〉と関係無い―――それどころか、その〈作戦〉を無駄にしてしまうかも知れない行動を取っているのだから当然だろう。
 そんな黒戦闘員の苦労等どこ吹く風とばかりに、地獄大使は二人に説教を続ける。
「―――つまり!真に良い人間関係と言うのはだな、お互いの長所・短所を知り、それを理解する事から始まるのだ!そしてどういった状況で相手がどういう行動を取るかと言う事を、その長所・短所から導き出し、それに合った行動を取る事で―――」
 思わず黒戦闘員達に同情し、一文字はため息をついた。
「って、地獄大使に説教されている場合じゃない!本郷、大丈夫か?!」
 慌てて横にいる本郷に視線を移すと、彼の表情から更に血の気が引いていた。本郷はそれでも微笑を浮かべようと努力していたが、それは無駄な努力であった。腹部に巻かれたTシャツの変色した部分が広がっている。
 一文字の顔からも血の気が引く。
「…っく!」
 下唇を噛み、一文字はまだ説教を続けている地獄大使を睨みつけた。本郷の腕を肩から外し、静かに地面に横たえると、地獄大使に対し戦闘態勢を取った。
 腹に力を込め、叫びに近い声で言う。
「地獄大使!時間が無い!今すぐどけ!どかないと言うのなら…」
 凄まじい形相で自分を睨む一文字に、地獄大使は少々驚いた顔をしたが、暫らくしていつもの表情に戻ると、軽快に笑い出した。
「…?」
 訝る一文字を他所に、地獄大使は後ろに控えている黒戦闘員の一人に何やら命令しだした。直ぐにその場を離れた黒戦闘員は、たいした時間をかける事無く、ラベルの付いた透明なビンを持って来た。その中には、白く濁った液体が半分ほど入っていた。
「怪我をしているなら最初からそう言えばいいんだ。たく…」
 そうブツブツと呟きながら、地獄大使はそのビンを受け取ると本郷に近付きかがみ込んだ。そしてそのまま、ビンの中身を盛大にTシャツの上から傷にぶっ掛けた。
 本郷の表情が一変し、目を限界まで見開いた。
 そして、絶叫が荒野に木霊する…!
「うわあぁぁあぁあぁあぁぁぁぁ!!」
「本郷?!―――貴様…地獄大使!本郷に一体何をした!!」
 身体を戦慄かせながら身悶える本郷の肩を抱きしめ、一文字は地獄大使を詰問した。が、地獄大使は心外だとばかりに口をへの字に曲げ、不満気に言う。
「子供の手本にならんといけないお前達が、恩人にそういう口の聞き方をしてもいいんかね?」
「……恩人……?」
「そう、恩人だ」
 大きく頷く地獄大使の言わんとする事が解らず、一文字は頭の上に?マークを浮かべた。だがそんな事をしている場合ではない。とりあえず何かしなければ…と、本郷の方へ視線を移す。
 と、
「おお、隼人。一体どうしたんだ?」
「ほ…本郷ぅ???」
 そこには、体中に汗をかいてはいるものの、いたって元気な本郷の姿があった。本郷は上体を起こし、自身の血で染まったTシャツを取った。先程まで並々と血を滴らせていた傷は完全に塞がっており、その痕跡さえ残っていない。
 展開について行けず、一文字はただ地獄大使を見返した。
「ふふん。どうだ?【ショッカー】の科学力は」
 地獄大使は得意気に胸を反らすと、鼻を高くして笑った。
 流石の一文字も、どういう対処をして良いか解らず戸惑っていると、すっかり元気になった本郷が地獄大使の前にきっちりと正座をし、深々と頭を下げた。
「危ない所を助けていただき、心から感謝する」
「ははは、何、たいした事では無いが……もっと頭を下げて感謝してくれて結構だぞ♪」
「え〜と…」
 本当に心から感謝しているらしい本郷と、その感謝の言葉を心地良く聞いている地獄大使を交互に見比べながら、一文字と黒戦闘員の四人は、何も言う事が出来ずただそこにいたのだった。
「買出しの途中に【ゲルショッカー】の怪人が子供達を攫おうとしているのを見つけ、食い止めようと、奴等を人気の無い荒野まで追いやったのだが、手酷い怪我を負ってしまったんだ。どうやら元々、対仮面ライダーを想定した怪人らしくてな、その傷がなかなか治らなくて困っていたところだったのだ」
「は、そんな理由か。これはな、まだ実用段階に入って間もない新薬でな。改造人間の回復力を一時的に倍増する効果があるのだ。副作用としては、体調に少々の変化が現れるが、まぁ、気にする事はない。暫らくすればおさまるし、困るほどの変化でも無いからな。がはははは!」

 

 

 

 終


 ……うーん。自分で書いといてなんですが、「なんじゃこりゃ!?」。こっちでは本郷さんが大怪我を負っています。どうしても血を流させたかったのか、自分!!こっちは微妙なギャグですな。私が地獄大使にもっているイメージが良く解る小説です。【ショッカー】ギャグ担当大幹部。ちなみに死神博士は【ショッカー】シリアス担当大幹部(笑)。

 

 

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