第二章・インテリな求婚者

 



 ゾンネットがファンベル星から逃げて来て一週間。
 結局、ゾンネットはガイナモに引き取られ、いつかのパチンコ店の時のように、親子と言う触れ込みで彼と共に焼肉店で働いている。
 ラジエッカーが上から降って来た衝撃で、一時的に病人に陥っていた陣内恭介も、三日も経つといつもの元気を取り戻した。
 しかし―――、
「何やっとんねん、恭介」
「…何が?」
 〔ペガサス〕でいつものように雑用(今は社内を雑巾がけ)に追われている恭介の後ろに、上杉実は怒り気味の表情で立っていた。
 実にあわせ、しゃがんで掃除していた恭介も立ち上がる。
 実が何を言いたいのか解らない恭介は、間の抜けた顔で実を見返す。
「何が?…と、ちゃうやろ?」
 こめかみをピクピク痙攣させながら、実は恭介に近寄った。腕を組み、下から睨むように見上げる。
 取り合えず、実が怒っている事は解るが、一体何に対してそんなに怒っているのか、恭介には解らない。
「???」
 首を傾げる恭介の手から雑巾を取り上げると、実はそれを後ろへ放り投げた。偶然にも実の後方にいた土門直樹がそれをキャッチする。
 不思議そうに二人を見る直樹。
「どうしたんでございますか?」
「…さぁ?俺にもよく…」
 実の鋭い目が恭介を射る。
「っう……」
 思わずたじろぐ恭介。
「…恭介ぇ…」
「…はい…」
「お前、ゾンネットとあれから一度も会ってへんとはどういう事こっちゃ!」
「っうぐ…!」
 痛い所を疲れた恭介は、胸を抑えよろけた。
 落ち着かない様子で目が泳いでいる恭介を睨み、実は更に言葉を続ける。
「せっ………………かぁく、ファンベル星から来たっちゅうのに、なんで何も行動を起こさんのや!え、恭介!お前はゾンネットの事が好きなんと―――」
「わぁぁぁああぁぁぁあああぁぁぁ!」
 実の言葉に居た堪れなくなり、恭介は思わず叫び声を上げた。恭介の絶叫で、実の台詞は完全に掻き消された。
「?!」
「な…何?」
 仕事場で修理の仕事をしていた志乃原菜摘も、それを手伝っていた八神洋子も、突然の恭介の絶叫に驚きやって来た。
 不思議そうに、両手で耳を押さえている直樹と、えらく息が切れ、青ざめている恭介、それから、恭介の隣で仁王立ちしている実を見比べる。
「…あんた達、何やってるわけ?」
 不審そうに菜摘が問う。
 その隣で、洋子も疑り深い目で三人を見ている。
 最初に二人の問いに反応したのは直樹だった。
 慌てて両手を横に振り、精一杯の笑顔で答える。
「あ…!な…何でもないのでございます!」
「何でもない………ようには見えないけど…?」
 相変わらず肩で息をしている恭介と、それを凝視しているらしい実を見、洋子が言う。
「気のせいでございます。恭介さんが大声を出したのは…………、ちょ…ちょっと驚いたせいなのでございます!」
 それでも直樹は笑顔で否定する。
 そうしなければいけない気がするからだ。多分、今にも泣き出しそうな情けない瞳を直樹に向けている恭介のその目が、「絶っっ対、喋るな!」と懇願しているからだろう。
「そうなんです!実さんが、急に後ろから恭介さんをおどかしたから、恭介さんは大声を出してしまったんでございます!」
「………本当?…」
 疑わしそうな目で、直樹を睨むように見る女性陣。
 直樹は力一杯頷いた。
「勿論でございます!」
 暫しの沈黙。
 そして、
「―――その通り!」
 黙って立っていた実が、急に振り向き笑顔で言った。
 満足そうな表情で腕を組み、続ける。
「こいつがあんまり熱心に掃除しとったもんやから、なんか、こう、悪戯心が出てきてなぁ。つい」
 いつもの調子で喋る実に、菜摘も洋子もすっかり納得したらしい。ホッと笑顔になった。
「な〜んだ、そう。…って、実!あんた真面目に仕事しなさいよ!人の邪魔してないで!」
「してるがな!俺は誰よりも商売熱心やで?」
 ワザとおどけた風に言う実に野次を飛ばし、菜摘と洋子は中断している仕事を再開する為その場を後にした。
 後に流れるは気不味い雰囲気―――。
 恭介は項垂れたまま動かないし、実は実で動こうとしない。直樹は出て行くタイミングを外してしまったのでどうして良いか解らす、ただ二人を慌ただしく見比べている。
 と、最初に動いたのは恭介だった。
「…俺、ちょっと買出しに行ってくる」
 そう言うと、二人を見ようともせず出て行った。
 実は恭介が出て行った方を暫らく見ていた。
「……あの、実さん」
「あいつ…」
 おずおずと声をかけた直樹に、実の声が重なる。
「え?」
「あいつ…、財布持たんとどこ行く気やろ…」
 ふと見ると、テーブルの上には、くたびれた恭介の財布が無造作に置かれてあった。
「あ…」
「馬鹿やなぁ…あいつ」
 実の声が、妙に良く響いた。

 


      *      *      *

 


 〔ペガサス〕から程近く、一週間前ラジエッカーが不時着した公園にて―――。
「あ、財布持ってくるの忘れた…」
 服のポケットを探りながら、恭介は呆然と呟いた。
 これでは買出しに出たにも拘らず、何も買えない。
 元々、買出しというのは、あの場から逃げる為の口実なのだから、別に無くても良いといえば良いのだが…。
(うっ…。俺、実から逃げたのか…)
 流石に情けない。
「はぁ、だって実の奴。痛い所つくんだもんなぁ…」
 近くのベンチに腰を下ろしながら恭介は呟いた。
 恭介だって、せっかくチャンスが到来したのにもたもたしている自分を不甲斐ないと思っている。
「そうだよな…。実達の話しじゃ、ゾンネットは見合いが嫌で地球に来たんだ。俺と一緒に暮らしたいって言ったって…。それに、ゾンネットがずっとここにいるとは限らないし…」
 強い意志の光を瞳に宿し、恭介は、俄然やる気満々で明後日の方向を凝視した。背後に情熱の炎が燃え上がる。
 握り拳を振り上げ、恭介は叫ぶ。
「よし!俺だって、やる時はやる男だってとこ、あいつ等に見せてやる!そうと決まれば即実行だ!」
 拳を上げたまま、勢いよく立ち上がる恭介。
 鼻息も荒く、そのままゾンネットとガイナモが働く焼肉屋へ歩き出した時、又もや恭介は、空から何かが近付いて来る気配―――嫌、無視しようもない物音に気付いた。
「…何だぁ?」
 恭介以外の、普通に公園で寛いでいる方々(母子や失業中の中年男性)も怪訝な面持ちで空を見上げる。
 だんだんと近付いて来る音は、まぎれも無く機械音。しかし、轟音のわりに、音を発している筈の物は見当たらない。
 嫌な予感がし、恭介は身構えた。
(…もしかして、又、地球を爆発させようなんて考えてる宇宙暴走族じゃないだろうな…)
 暴走皇帝エグゾスを倒した後も左手首に付けたままの、カーレンジャーに変身する為の腕輪=アクセルブレスで、皆にこの事を知らせようとする恭介。
 しかし―――、
『リッチチチチー!』
 不意に聞えて来た笑い声に、恭介は立ち尽くす形となった。
「…リッチチチチィー…?!」
 途端に甦る嫌〜な記憶。
 毒入りワインを飲まされそうになった事、怪獣型ロボ・ブレーキングに攻撃され、ボーゾックにRVロボを奪われてしまった事―――。
「ま…まさか…」
 恐怖からと言うより、生理的な嫌悪感から恭介は青ざめた。
(なんだって今更…)
 先程から聞こえている機械音とは又別の音がし、見た事の無い帆船型宇宙船が東京上空に出現した。
 機嫌の良さそうな声が、その宇宙船から響き渡る。
『久し振りのチーキュの諸君!元気でお過ごしかな?』
「やっぱり、リッチリッチハイカー教授!?」
 思わず恭介は、空に向かって叫んでいた。

 

      *      *      *

 


 自動車会社〔ペガサス〕の前で、
「…ほ…ほんまかいなぁ…?!」
「嘘でしょう?!」
 真夏の青空を背に、ふよふよと浮遊している宇宙船を見上げ、実・菜摘・直樹・洋子は唖然としていた。
「突然変な音が聞こえて来たと思ったら、なんでリッチリッチハイカー教授が出て来るのぉ?」
 リッチリッチハイカー教授は元々、リッチハイカー教授と言い、カーレンジャーとの戦いに行き詰まったボーゾックが雇った悪のコンサルタントだった。
 だがある時、宇宙の邪悪エネルギーを一人で浴び、リッチリッチハイカー教授として生まれ変わったその途端、雇い主である筈のガイナモ(とゾンネット)をボーゾックから追放し、総長の座を手に入れたのである。そしてカーレンジャーに自作ロボ=ブレーキングで戦いを挑み、彼等に煮え湯を飲ませたのだ。しかし、結局は新しいロボ=VBVロボを操縦するカーレンジャーに倒されたのだった。
「って言うか、生きとったんか。アイツ」
「普通死んでるよね」
「ゴキブリ並の生命力やな」
 実と菜摘が、失礼な事をボソボソと囁いている隣で、直樹は宇宙船前方に人差し指を向けた。
 困惑気味な表情で皆に問う。
「あれは何でございましょう?!」
「んん〜?」
 宇宙船は帆船型なので、勿論、船首もある。直樹が指し示したのはその船首なのだが、その船首が……ちょっと―――問題だった。
 眉根を寄せながら、直樹以外の三人も首を捻る。
「…あれって…」
「どう見ても…」
 と、
「カーレンジャー!」
 焼肉店のエプロンをつけたままのゾンネットが、必死の形相で息を切らしながら走ってくるのが見えた。
 四人はゾンネットに駆け寄った。
「丁度ええところに!ちょっと聞きたい事があんねん!」
「私も―――ハァハァ―――言いたい事が…」
 実・菜摘・直樹・洋子が、宇宙船の船首を一斉に指差す。
 力を込めて彼等は叫ぶ。
「なんで船首がゾンネット?!」
「恭介はどこぉ?!」
 ゾンネットは、一番近くにいる実の襟を掴み上げ叫んだ。
「へ?…恭介は買出しに…、あ、違うか」
「ん?聞きたい事じゃなくて、私達に言いたい事があるんじゃないの?」
 と菜摘。
「だぁかぁらぁ〜、アイツが来たから恭介に言わなきゃいけないの!」
 段々焦りの色が濃くなるゾンネット。何かに脅えているようにも見える。
「え?アイツって、リッチリッチハイカー教授の事?」
「そうじゃないけど、そうよ!」
「…そうじゃないけど、そう…?」
「一体なんなのでございますか???」
 さっぱり訳が解らない一般市民四人。
「だから〜………」
 ゾンネットが苛立たしげに口を開いた時、又、宇宙船から声が響いてきた。先程より、心なしか浮かれている。
『見つけましたよ。バニティミラー様!』
 固まる一同。
「…バニティミラー様ぁ〜?!」
 一般市民の声が重なる。
「いやぁ〜!恭介ぇ〜」
 悲鳴を上げながら、ゾンネットは取り合えず実と菜摘の後ろに隠れた。
 いまいち自体が呑み込めず、どう対応していいのか解らない実達の耳に、リッチリッチハイカー教授の浮かれた声が更に届く。
『こんな所におられたのですね!探しましたよ!今そちらに行きますから、待っていてください!』
 と、宇宙船の船底から光線が〔ペガサス〕のすぐ前に放たれたかと思うと、次の瞬間には、リッチリッチハイカー教授が緑光の中から現れていた。
「おお!お会いしたかった!バニティミラー様♪」
 実達は首を傾げた。上機嫌のリッチリッチハイカー教授を、恐る恐るといった感で指差す。
「…なんか、リッチリッチハイカー教授………感じ変わってへんか?」
「…うん。私もそう思う…」
「……なんと言うか…、変でございますね…」
「前から変だったけど、更にグレードアップしたみたいね…」
 と、最期に洋子。
 後ろで、ゾンネットも大きく頷いていた。
 どこが変わったと言えば、体の色だろう。
 以前は黒と白を基調にした、いかにもインテリっぽい服装(?)をしていたのだが、今、目の前に現れたリッチリッチハイカー教授の服装は、形こそ以前と同じだが、基調色が白と金に変わり、銀で縁取りがしてある。
 麗しいどこかの星の姫君などが金と白を基調にしたドレスを着れば、更にその美しさも増すのだろうが、ただでさえ異様な気配を発しているリッチリッチハイカー教授が着ると、なんと言うか…、
「気色悪い!」
 リッチリッチハイカー教授は実達を無視し、ゾンネットに笑いかける。高揚とした様子で高飛車で、とにかく気持ち悪い。
「バニティミラー様、さぁ、私と共にファンベル星の御両親のところへ帰りましょう!そして、我々の結婚式の準備を進めましょう!」
「…っけ―――結婚式ィ!?」
 驚愕のあまり大声を上げる四人。
 そんな彼等を押しのけ、ゾンネットは怒りの形相でリッチリッチハイカー教授を睨みつけた。
「だぁ〜れが、あんたなんかと帰るもんですか!私は恭介と結婚するんだから!あんたはどっか行っちゃいな!」
「ははは♪何を言っておられるんですか。貴方と私の仲はもう御両親公認!そんなどこの馬の骨とわからない男と一緒になるだなんて…!馬鹿馬鹿しい」
 鼻で嘲笑うリッチリッチハイカー教授。更に気持ち悪い。
「恭介は馬じゃないわよ!猿―――…じゃなくて、宇宙一強くて格好良いんだから!」
「……ゾンネットの中では、恭介。宇宙一強い事になっとんや…」
 と、いまいちい自体が呑み込めないものの、やや呆れ顔で呟く実。その横で、菜摘が同じ面持ちで軽く頷いている。
「…そうみたいね」
「ははははは、私より強い男などこの宇宙に存在しません」
「うわぁ〜、思い上がりもいいとこね!」
「こういうタイプの方が、女性にも男性にも嫌われるのでございます」
 洋子と直樹が嫌悪感をあらわに言い切った。
「あんたより、恭介の方が強いわよ!」
 ゾンネット、怒り心頭。
「だったらそのキョウスケとやらと、勝負してみましょうか?それで私が勝ったら、大人しく私と共にファンベル星へ帰りましょう」
「良いわよ!」
 売り言葉に買い言葉―――と、そこへ丁度現れる、この場の時の人=陣内恭介。
 公園の方から息を切らしながら駆け、実達に向かって手を振っている。
「おーい、皆!さっき宇宙船から出た光線がこっちの方に来てたと思うんだけど―――」
「恭介!」
「ほほ…、彼がですか」
「リッチリッチハイカー教授!…って、ゾンネット。どうしてここに?」
 リッチリッチハイカー教授に攻撃態勢を取りながら、仲間に目顔で「どうなってるんだ?」と問う恭介の腕に、ゾンネットはしがみ付いた。
 潤んだ瞳で恭介を下から見上げる。
「恭介!私の為に勝って!」
「…はぁ?」
「さぁ!勝負です、馬の骨!」
「んんっ?!」
 頭上に?マークを浮かべながら、恭介は取り合えず、リッチリッチハイカー教授に向けた戦闘態勢を構え治した。横目で同僚に現在の状況を問う。
「……………」
 半眼で、両掌を上に向け、顔を横に振る一同。
 恭介はその場でこけそうになった。
「何なんだ、一体!?」
 恭介のもっともな質問に答えたのは、リッチリッチハイカー教授だった。
「はじめまして、馬の骨。私は『宇宙・結婚したい男性』部門一位という栄光に輝いた、宇宙一のインテリ。リッチリッチハイカー教授です」
「嫌、それは知ってるし―――って、『宇宙・結婚したい男性』部門?なんだそれ?それに馬の骨って…」
 今度の質問は黙殺された。
「私は、そこにおられるファンベル星の皇女=バニティミラー・ファンベルト様の婚約者です」
「―――こ…婚約者ァ!?」
「そうです。ところが、バニティミラー様は私より馬の骨の方が結婚するに相応しいと戯言をおっしゃって、チーキュ(地球)から離れようとしない…。そこで、宇宙一強い私がバニティミラー様を誑かした馬の骨を倒し、彼女をファンベル星へお連れする事になりました」
 と、ここで大きく息を吸い、リッチリッチハイカー教授は大声量で言い切った。
「さぁ、私に倒されなさい!馬の骨!」
「いい加減にしろ!誰が馬の骨だ!」
 流石に頭にきた恭介。
 ゾンネットを腕にぶら下げたまま一歩前に出、威嚇するように胸を張る。
「だいたい嫌がる相手と結婚なんて出来るか!結婚ていうのはな、好きな相手とするもんだ!」
 恭介の台詞に飛び上がって喜ぶゾンネット。
「じゃぁ、私のために勝ってくれるのね♪」
「ほう…、思ったより骨がありそうですね。いいでしょう」
 恭介はゾンネットを腕から離し、後方へと下がらせた。彼女を庇うようにリッチリッチハイカー教授に向き直る。
「行くぞ!」
 気合一発そう叫ぶと、恭介は懐からアクセルキーを取り出した。
 右手にアクセルキー。左手首にアクセルブレス。
「激走!」
 右手を前方に伸ばし、ピン―――という子気味良い音と共にアクセルキーの鍵部を出す。そして、一度手を胸まで引き戻し、今度は両手を突き出し、車のハンドルを切るように回す。
「アクセルチェンジャー!」
 アクセルブレスにアクセルキーを差し込みまわすと、アクセルブレスは車のようにエンジン音を響かせた。
 光が迸り陣内恭介を包み込む!
「ん?」
「きゃー♪」
 久し振りに見る愛しい人に、ゾンネットのテンションも上がる。
 その声援に答え、陣内恭介……嫌、激走戦隊カーレンジャーのリーダー・レッドレーサーはお決まりのポーズをとった。
「レッド―レーサー!」
 名乗りも上げる。
「んんん?!…レッドレーサー?…」
「待たせたな。さっさと決着つけようぜ!」
 やる気満々で、素早くバイブレードを取り出し構えるレッドレーサー。
 しかし、そんなレッドレーサーとは対照的に、先程までやる気充分だったリッチリッチハイカー教授の様子がおかしい。レッドレーサーを凝視したまま固まっている。
「ん?どうしたんだ?」
 一向に攻撃する気配のないリッチリッチハイカー教授に、レッドレーサーだけでなく、ゾンネット・実・菜摘・直樹・洋子まで、訝しげな様子で首を捻る。
「おい、リッチリッチハイカー教授?」
 どうして良いのか解らず、戸惑い気味に話し掛けるレッドレーサー。バイブレードを左手に逆手持ちし、右手を振って見せる。
 と、
「っ?!」
 悪意に満ちた視線を、真っ向から受けてしまった。
「リッチチチチチィー…。そうですか、貴方がカーレンジャーでしたか…」
 ただでさえ不気味なのに、更に不気味な声で笑い声を上げるリッチリッチハイカー教授。その気味の悪さに、レッドレーサーを含む一同は思わず後退りをした。
「……リッチリッチハイカー教授?」
「私はなんと幸運なんでしょう。まさか愛しのバニティミラー様を追ってきて、憎きカーレンジャーと再会しようとは……リッチチチチチ…」
「な…なんなの?アレ」
 尚も不気味な笑い声を上げ続けるリッチリッチハイカー教授を指差し、洋子は半泣きで言った。
「もの凄く嬉しそうでございますぅ〜…」
「私こういう奴駄目!鳥肌立ってきちゃった!」
 と、自身の二の腕を擦る菜摘。
「リッチリッチハイカー教授って、俺等の事憎んどったんかぁ〜」
「呑気にそんな事言ってる場合?!」
 少々呆れ顔で菜摘。
「そやな。どうする?」
「とり合えず、正体ばれてるの恭介だけみたいだから、私達は傍観してましょう」
 薄情とも取れる菜摘の提案に、
「賛成」
 残り三人は、いとも簡単に飛びついた。
「お前等そりゃないだろぉ!」
 あんまりな仲間に、思わずバイブレードを振り回すレッドレーサー。その後ろから、リッチリッチハイカー教授の目が光って見える。
 寒気を感じ、レッドレーサーはゆっくりとした動作で振り向いた。
 生唾を飲み込む。
「…リッチチチチ…。カーレンジャーと知ったからには、手加減無しです…」
「もとからする気なんか無かったくせに…」
 レッドレーサーの呟きを無視し、リッチリッチハイカー教授は大仰な動作で右手をかざした。
「カモーン!」
「?!」
 リッチリッチハイカー教授の合図と共に、帆船型宇宙船から、又、緑色の光線が降って来たかと思うと、その光はゾンネットを捉えた―――
「きゃっ!」
「あっ!」
 と、思った途端、彼女の身体は急上昇。そのまま宇宙船の中へと吸い込まれていった。
「ゾンネット!」
 今度はリッチリッチハイカー教授が、緑光により上昇していく。
「クッ!待て!」
 苦々しげに叫ぶレッドレーサー。リッチリッチハイカー教授は心底嬉しそうに笑い声を木霊させた。
「リッチチチチチー♪あなたとの戦いの為に素敵なバトルフィールドを用意しましょう!それまで首を洗って待っていなさい!」
「…………っ!」
 ゾンネットとリッチリッチハイカー教授を吸い込んだ宇宙船は、出てきた時と同じ音を響かせ、夏の青空に忽然と姿を消してしまった。
「…あ……」
 後に残されたレッドレーサーと一般市民四人は、宇宙船が出てきた時と同じく、呆然とその空を見上げていた。

 

 

←第一章へ第三章へ→

 

 

もどる

 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル