第五章・二人の関係










 食堂の壁に大きな穴があいてしまった為、襲撃事件の次の日、皆で修復工事に取り掛かった。と言っても、業者に来てもらうまでの一時的なモノなので、大した事はない。
「―――取り合えずこんなものか…な?」
 一通り終った頃、手についた埃を叩きながら神敬介は言った。
 その隣に立って壁を見ながら結城丈二が頷く。
「明日には業者に来てもらうからな」
「電話したんですか?」
「ああ」
「お―――い。休憩しようぜ」
 少し離れた所からへばった様な声で城茂が呟いた。その近くで同じようにアマゾンが座っている。
 敬介と結城はその様子に微笑した。
「分った。お茶でも入れてこよう。いつも通りでいいな?」
 敬介はそう言うと食堂を出、キッチンへと消えた。
 と、ちょうど敬介と入れ代わるように風見志郎が食堂に現れた。修復されたばかりの壁を見上げ微笑む。
「なかなかじゃないか…」
「それより、風見」
 入ってきたばかりの風見の腕を取り、結城は部屋の隅へ引っ張った。怪訝な顔をする風見に顔を近付け、声を落として聞く。
「…本郷さんと一文字さんは?」
 風見は真剣な表情の結城を見た。結城のように声を落とし風見は答える。
「一文字さんの身体はもう大丈夫だ。本郷先輩も落ち着きを取り戻している。もう少ししたらこっちに来るそうだ」
「…そうか…、良かった…」
 安堵の息をもらすが、結城の表情はいまいち冴えない。
 その理由を知っている風見は、少し強めに結城の背中を叩いた。むせ返る結城。
「…〜何をするんだ―――」
 抗議の声を上げようとした結城の目に、風見の微笑が飛び込んできた。思わず面くらい、結城は言葉を飲み込む。驚きの表情の結城に風見は言う。
「大丈夫だ。一文字さんには本郷先輩が付いてるし、本郷先輩には一文字さんが付いてる。あの二人の事は心配いらない」
「………そうか…そうだな…」
 結城は今度こそ安心した笑顔を見せた。
「お茶が入ったぞ。…あれ、風見先輩も来てたんですか?」
 キッチンから、トレイを持って帰って来た神敬介が言った。

 


      ●    ●    ●

 



 研究室にしつらえたベットの上で、一文字は自分の手を見ていた。握ったり開いたりして、自由に動く事を確認する。
「どこにも違和感はないか?」
 先程まで一文字に取り付けてあったコードや機器を片付けながら本郷は聞いた。本郷に笑顔を向けながら一文字は頷く。
「ああ。もうない。ありがとう」
「そうか…良かった」
 昨日、一文字を抱きかかえたまま食堂を飛び出した後、本郷は研究室に向かった。一文字の身体の自由を奪ったのは【改造人間停止装置】だと見当をつけ、以前ショッカー基地から持ち出した【改造人間停止装置】の構造を思い出しながら、一文字の身体を調べた。どうすれば身体が動くようになるのか必死に考えた。
 結局、一文字の身体が動くようになったのは真夜中になってからだった。しかも腕一本動かせる程度。それから少しづつ身体は自由を取り戻していった。
 一文字は肩を回しながらベットから降りた。
「今回は本当に皆に迷惑をかけたな…」
 独り言のように呟く。
 その声は悲痛と疲労に満ちていた。
「気にするな、皆なんとも思っていない。下手に気にするほうが彼等に悪い」
 あらかた片付け終わった本郷が一文字の隣に立つ。本郷を見上げ、一文字は解ったと微笑した。
「さて、食堂へ行くとするか」
「本当に休まなくて良いのか?まだ辛そうだが…」
「大丈夫だよ。それに俺から見ればお前も辛そうに見える」
「…そうか?」
「ああ。一晩中俺を治す為に頑張ってたんだから、疲れがたまってるんだろう」
 一文字の言葉に本郷は哀しげな微笑を漏らした。
 その表情が引っかかり、怪訝そうに本郷を覗き込む一文字。
「どうかし―――」
「お前は本当に大丈夫なのか?」
「…本郷?」
 哀しげな表情のまま本郷は続ける。
「又、あんな事があって…、しかも今度は皆の前でだ…」
 一文字は自身の唇が震えそうになるのを感じた。
「その事か。大丈夫だよ」
「…お前は辛くても、心の奥底に押し隠してしまうからな…」
 本郷に気付かれないよう、震える唇を噛む。
「昨日のように―――…か?」
「ああ」
「気にしすぎだ」
「…昨日も言っただろ。俺には隠さなくて良いんだぞ」
 一文字は本郷から目をそらした。
(何で、本郷にはすぐバレるんだ…)
 上から本郷の声が響く。力強く暖かい、心地よい声が…。
「…隼人」
「―――っ…」
 一文字の背中に本郷の腕が回され、本郷の体温が伝わってきた。反射的にそれを振りほどこうとしたが、それは無理だった。一文字の腕に力が入らない。
 目頭が熱くなる。
(―――温かい…)
 同じ腕なのに―――構造自体は同じなのに、本郷とゾル大佐の腕は大きく違う。
(ゾル大佐の腕は冷たかった…。本郷の腕は―――温かい…)
「…すぐには忘れられないと思う。思い出してつらい時もあるだろう。そんな時は迷わず俺を頼って欲しい。遠慮なんかしなくて良い…」
 本郷の声が一文字を包み込む。その心地よさに目眩が起きそうになり、一文字は軽く頭を振った。勢いよく顔を上げ、
「本郷、だから…俺は―――」
 大丈夫だ、と念を押そうとする一文字の唇を本郷は塞いだ。
「………」
 自身のそれで―――。
「…本郷?」
 ゆっくりと離れた本郷の顔を呆然と見つめる一文字。戸惑いと驚愕で、言葉にならない息が漏れる。
 本郷は哀しみと、焦りと、愛しさとが混ざったような、複雑な表情で一文字を見ていた。―――ふと、一文字に回されている本郷の腕が、微かに震えている事に気付く。
(………お前…)
「…嫌だったか?」
「え?」
 唐突に聞かれた事が何を指すのか解らず、一文字は問い返した。本郷は少し深めに息を吸い、もう一度聞く。
「さっきの事…嫌だったか?」
 今度は本郷の方が一文字から顔を反らす。
 明後日の方を凝視する本郷の顔は、今まで一度も見た事が無い表情をしていた。なんと言うか…、
(…………可愛い…)
 さっきの事とは、一文字の唇に無断で触れた事を言っているのだろう。ゾル大佐の事があったし、自分が男なので一文字が不快に思わなかったか気になるに違いない。
「ふ…ふははははは」
 急に笑いがこみ上げてきて、一文字は本郷の腕の中で身を捩った。思いもよらぬ一文字の反応に驚く本郷は、笑い続ける一文字を怪訝そうに見た。
「隼人?…一体―――」
「ははははは…はは、嫌、悪い。笑う気は無かったんだが………っは、はははははははは」
 一文字は本郷の胸を拳で叩いた。力など全く込めず、軽く。どうしたら良いか困っている本郷。その様子が可笑しくて更に笑みを誘う。拳で胸を叩きながら、一文字は額をこつんと本郷の鎖骨あたりに当てた。
 そして―――、
「…隼人?」
 本郷の背中に腕を回す。
 軽く手を握り本郷を抱きしめる。
 顔を見ずとも本郷が驚いている事はわかった。
「…嫌じゃなかったぞ」
 囁き声で言った。
 それでも本郷には聞き取れる大きさだ。
「隼人…」
「お前はゾル大佐と違う」
「当たり前だ」
 本郷の言い方に微笑をこぼす一文字。
「怒るな。―――それから、城ともアマゾンとも敬介とも違う」
「…何が言いたいんだ?」
 諭すような、促すような声色。
「結城とも志郎とも違う」
「?」
 一文字は顔を上げた。目の前に本郷の顔がある。その顔に向かって一文字は笑った。
「お前だから嫌じゃなかった」
「………隼人…」
「はははは…」
 一文字は小声で笑うと本郷に回している腕に力を込める。
 本郷もそれに答え、一文字を強く抱きしめた。

 

 

 


 新しい絆―――。

 

 

 

 

 

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 ほら、ハッピーエンドだったでしょう?(笑)
 これは元々、「攻めが無理矢理受けを襲う」っというパターンを考えている時に思いついたネタでした。
 本郷×一文字では無理。どう考えても無理。じゃ、他に相手を見つけるしかない。そこで白羽の矢が立ったのがゾル大佐。『モグラング』の回の時、檻に入れられ鎖でがんじがらめにされている一文字さんの顎を鞭で上げてたゾル大佐です(笑)。出てきた早々、一文字さんを鞭で思いっきりしばいていたゾル大佐です(滝さんもしばかれてた)。敵だから無理矢理しか手は無い。一文字さんは改造人間だけどそれはゾル大佐も同じ。おお!いい感じ!
 でも、救いは無いとね。
 で、後輩ライダーも出てくるんだから、それぞれに見せ場欲しいしね。(一人、見せ場しょぼいけど。御免!)
 個人的には気に入ってます。仮面ライダーを良く知らない友人には「本郷猛ふがいなさすぎ!」と怒られましたが(笑)。

 

 

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