第四章・ゾル大佐の攻撃









 本郷邸のランチタイムが終わり、テーブルについて、作戦会議を開いている最中に事件は起こった。
 まだ昼過ぎだというのに、辺りは急に暗くなり、近所から聞こえていた音も消えた。驚いた本郷達仮面ライダーは、すぐさま立ち上がり戦闘態勢をとった。
 不気味な笑い声が辺りを包む。
「ふふふふふ…、久しぶりだな、諸君」
 その声に、一文字が反応した。
 それに気付く本郷。
「その声は…―――ショッカー大幹部・ゾル大佐か?!」
 風見志郎は、声が聞こえてきた方を見当付けて叫ぶ。
「ふふふ。その通り」
 すると、壁の一部が光り、そこにゾル大佐が姿を現した。
「私達七人が揃っている所へ一人でやって来るとは……気でも狂ったか?」
「そんな事は無い。神敬介」
 可笑しそうに口を歪めるゾル大佐。
 一文字の表情が固まる。
「じゃぁ、何の目的でここに来たんだ?てめぇは」
「ソウダ!」
「知りたいか?城茂。アマゾン」
 ゾル大佐の目が一文字を写す。その視線に―――あの時と同じ視線に、一文字は寒気を覚えた。思わず後退する。
 と、
 一文字とゾル大佐の間に本郷が立ち塞がった。
 突き刺さる視線をゾル大佐に向ける。
「…………」
 面白くなさそうな顔をしたゾル大佐。しかし、すぐに余裕綽々とした様子に戻ると、何もなかったように続ける。
「実はこの間、賊が侵入してある物を盗んでいってな」
「?ショッカーに泥棒が?それが何だ」
「その盗まれた物を取り返そうと思って今日は来た。結城丈二」
 首を傾げる、―――…一文字と本郷以外の五人。
「それでなんでここに来るんだ?」
「私達の所へ持ち込まれているとでも?」
「その通り!正解だ。城茂、神敬介」
 大仰に言う。その言い方が癇に障る。
「まぁ、正確には貴様達が盗んだんだがな」
「何だと?どういうことだ!」
 風見志郎が吠える。―――と。
「―――…も…もしかして」
「結城?」
 風見の隣に立っている結城丈二の顔色が次第に悪くなる。その様子を見て、風見志郎にもゾル大佐が何を言うつもりなのか検討がつきだした。
 さっぱり分らない神敬介・アマゾン・城茂の三人は、結城とゾル大佐を交互に見る。
 喉の奥に何かつっかえている様に結城はうめく。
「貴様……一文字さんを……」
「御名答!流石は元デストロン科学者だな」
顔を上げ、こちらを見下ろしながら拍手をするゾル大佐。
しかし―――嫌、更に敬介達三人の頭の上では?マークが飛び交う。
「結城さん、何で一文字さんが『ショッカーから盗まれた物』なんですか?」
「一文字さんはショッカーの所有物じゃないだろ」
「ワカラナイ???」
「くくくくく……、教えてやったらどうだ?一文字隼人」
 蛇を連想させる話し方。
 悪夢が甦る。
 一文字に視線が集まる。
「…………………」
「言ってやれ。昨日何があったのか…、どういう風にして私の物になったのか…、どうして――――」
「ゾル大佐!」
 本郷の凄みを帯びた声がゾル大佐の話しをふさいだ。
 しかし、ゾル大佐は一行に気にしない。
 本郷は少し下がり、一文字の傍までよった。
小刻みに震えているのが分る。
(一文字……)
「その様子だと……、昨日の事を知っているのは本郷猛・風見志郎・結城丈二の三人らしい。他の三人は仲間はずれか?」
「そういう問題ではない!」
「そうかな?」
 一文字の体がビクッと反応する。
 ゾル大佐は敬介達三人に向き直り聞いた。
「昨日、何があったか知りたくは無いか?」
「知らなくても良い」
 即答したのは神敬介だった。後に城茂も続ける。
「四人が隠したのならそれなりに理由があっての事さ。無理に聞く必要は無い」
「ソウダ!必要ナイ」
「…………」
 本郷と一文字は彼等に心から感謝した。
「ふん……。まぁ良いだろう」
 流石に面白くなくそうにゾル大佐。
「だが、一文字隼人は連れて帰る!」
「!?」
 ゾル大佐が勢い良くムチを振り下ろすと、本郷達を取り囲む形で戦闘員が数十名現れた!
「かかれ!」
 ゾル大佐の命令が響くと、戦闘員達はいっせいに本郷達に踊りかかった。
 戦闘員一人一人の戦闘力はさほど高くない。普通の人間の数倍の力はあるが、仮面ライダーに比べたら些細なもの。
 ――――なのだが…。
「くっ!これでは変身も出来ない!」
 十人用テーブルが置かれた食堂。小さくはない部屋だが、いくらなんでも数十人以上もいれば身動きが取れない。例えるなら、ラッシュ時の電車の中。
「本郷先輩!一文字さん!大丈夫ですか!?」
 声を張り上げて二人の無事を確認しようとする風見だが、いかんせん、戦闘員の「イ――!イ――!」と言う声に邪魔されて風見の言葉は二人に届かない。
 本郷と一文字は、何とか離れ離れにならないように頑張っていた。二人の間に割り込もうとする戦闘員の顎を、本郷は力任せに押し退ける。
(数に物を言わせると言っても、これはやりすぎだ。…ゾル大佐は何を考えているんだ???)
 と、
「!?」
 急に一文字の身体が動かなくなったと思うと、あっという間に天井近くまで浮き上がった。
「隼人!」
「一文字さん?!」
「放せ!」
 必死に何かに抵抗している一文字。
「一体どうしたんだ!?」
 ――――と、一文字を抱えるように腕が一本現れた。そして、その腕を中心に、全身が明らかに……。
「ゾル大佐!」
 どういう理論なのかは解らないが、ゾル大佐は本郷達の頭上に浮かんでいる。
「ふふふ。楽しそうだな」
「一文字を放すんだ!」
 一文字に腕を伸ばし叫ぶ本郷。
 ゾル大佐は、ろくに身動きの取れない本郷を見て笑った。
「ははは、台詞が違うのではないか?本郷猛」
「何を言っている!早く隼人を放せ!」
「『放せ』ではなく、『返せ』ではないのか?」
 そう言いながら、ゾル大佐は、動きを封じた一文字の首筋に唇をやる。
「っ…」
「隼人!―――ゾル大佐やめろ!」
 勿論、そんな本郷の言葉でやめるゾル大佐ではない。更に、首筋を舐め上げ、耳朶をかじる。
「あっ…」
「隼人ぉ!」
 本郷の悲痛な叫びが部屋を駆け抜けた。
 今まで感じた事のない怒りで血が燃え滾る。
―――…許せん。
 本郷は知らぬ間に、自身の唇を噛み切っていた。

 



      ●    ●    ●

 



 ゾル大佐から、本郷達の様子は手に取る様に分った。
 怒りに震える仮面ライダー1号・本郷猛。
 何とか出来ないかと奮闘する仮面ライダーV3・風見志郎とライダーマン・結城丈二。
 信じられないと言う風にこちらを凝視している仮面ライダーX・神敬介。アマゾン。ストロンガー・城茂。
 長い間彼等と戦ってきたゾル大佐だが、ここまで楽しい経験は初めてだった。笑みが自然ともれる。
(だが、気は抜けない。ここからが本番だからな…)
 ゾル大佐は、仮面ライダー2号・一文字隼人の首の付け根に顔を埋めた。
 ゾル大佐の背中を欲望が駆け巡る。
 一文字はあの時と、また違った反応を見せていた。
「っん…」
 今回は、ショッカー科学陣が改良開発した【改造人間停止装置】を使って動きを封じただけだ。媚薬も使っていない。
 なのに、ただ、首筋を舐めただけで鼻にかかった甘い声が聞けた。ただ身体に手が触れただけで、顔が色っぽく歪む。
(これは………)
 一度―――たった一度抱かれただけで、一文字の身体は大きく変革したらしい。それも、ゾル大佐が狂喜乱舞する方へ…。
「一文字、どうした?感じるのか?」
 耳元で、笑いを含んだ声で言う。
 一文字の顔がピクリと反応する。その顔が又そそる。
 思わずその顔に見とれていると、
「ゾルゥ!」
 本郷の叫び声が振動してきた。
(うるさい奴だ…)
 内心うんざりするも、しかし、作戦計画の為には本郷をこのままにしておくしかない。【改造人間停止装置】を使って動きを封じれば、少しは大人しくなるだろうか?
 ゾル大佐は、今朝、死神博士に呼び出された。
 渋い顔をしながらそれでも赴いたのは、『昨日の作戦』と関係が有ると言われたからだ。『昨日の作戦』とは勿論、一文字隼人強姦の件だ。一文字隼人が絡んでいるとなると、無視する事は出来ない。
 死神博士の用件は、『作戦』の続きだった。
 本郷邸に侵入し、仮面ライダー共に攻撃を加える―――…そもそも、それが『作戦』目的だから何の不思議も無かった。ところが、具体的な計画内容を聞くと、ゾル大佐は眉根を寄せずにはいられなかった。
「…一文字隼人…を奴等の前で……犯れ」
 これでは仮面ライダーを一掃するというよりも、更なる精神的ショックを彼等―――特に一文字に与える為だけの『作戦』の様だ。
(…俺よりもイカれてる)
「………………趣味だ…」
 そう言って笑う死神博士を見、ゾル大佐は思った。
 一文字の服の中に手を差し込みながら、ゾル大佐は戦闘員を押しのけて上に立とうと躍起になっている本郷を見た。
 その形相の凄い事といったら………。
(…両想いなのが一番気に食わない)
 更に、本郷が知らない、一文字の欲望を湧き出す表情を見せなければいけない事も気に食わなかった。大切な宝物を他人にあげる様なものだ。
 しかし、本郷猛―――仮面ライダー共の目の前で一文字を犯す事により、一文字が昨日見せた以外の表情を見せてくれる筈だと言われたら、断れるか?―――…答えは否。
「…ん」
 一文字の胸の突起を軽く突いてやる。動けない身体を反らそうとする一文字。
「隼人!」
「一文字さん!」
 虚しい叫び声が木霊する。
 数え切れないほどの戦闘員に囲まれては、さしもの仮面ライダーも(誰もまだ変身していないが)何も出来ない。
 一文字の肌を弄り、昨日の感触を思い出す。徐々にアドレナリンの分泌量が増える。込み上がる笑いが抑えきれず漏れた。
 一文字は声を出さぬよう必死のようだ。歯を食いしばり、口を引き結び、濡れた声を誰にも―――仲間の誰にも聞かれないように…。それは彼のプライドがさせている事なのだろう。
 一文字が着ているTシャツの裾を上げ、ゾル大佐は彼の背中を舐め上げた。
「―――――っ!」
続けてきつく吸い上げる。白い肌に薔薇の花弁が色づいた。
うっとりとそれを見、今度は一文字の向きを変え、胸の突起を吸い上げた。更に舌で弄ぶ。
「っ…あっ……っ」
「止めろぉ!」
 本郷の叫びなどおかまいなしに続ける。
 ズボンの中に手を入れながら、一文字の唇を乱暴に奪う。舌を絡めとり、弄び、吸い上げる。その間、手は彼の尻を弄った。
「隼人ぉ!」
(くくく…。楽しすぎて死にそうだ)
 一文字のふっくらとした唇を舌でなぞりながら、ゾル大佐は快楽の海の中で大声をあげて笑った。
 堪らない。
 一文字の潤んだ瞳が自分を映す。それだけで、ゾル大佐の欲望は満たされ、更に乾き、次の行為を望む。
「…………っ」
「お前は俺の物だ、一文字隼人。誰が何と言おうとな…」
 一文字の耳元で、囁くようにゾル大佐は言った。
「ち…違う…。私は…誰の物でもない……」
 息も絶え絶えにうめく一文字。その姿が又良い。
 首筋に唇を近づけ、言う。
「嫌。俺の物だ。お前の中の感触を知っているのは俺だけだからな。本郷猛には渡さない」
「……………っ」
「くそぉっ!」
 相変わらず身動きの取れない本郷は、苛立ち、喚いている。その姿がゾル大佐に優越感を与えた。
(本郷猛。貴様は何も出来ない。俺が一文字を抱くのを黙って見ているしか…な)
「っあぁ…!」
 ゾル大佐は、持参した滑剤を指につけ一文字の中に入れた。ゆっくりと動かし、音をワザとたて一文字の羞恥心を煽る。
「…っ…ん…」
 一文字の頬を一筋の涙が伝う。それを舐め取り、ゾル大佐は瞼の上に唇を落とした。
(死神博士の言うとおりだったな…。こんな一文字を見たのは初めてだ…)
 可愛い。
 一文字を綺麗だと思った事は―――何回も―――あったが、可愛いと思った事は一度として無い。それなのに、今の彼と言ったら…―――。
 一文字のズボンのボタンをはずし、彼自身に触れようとした時、ゾル大佐の手に衝撃が走った!

 


      ●    ●    ●

 



「!?」
 怒りと、悔しさと、憤りで頭の中が一杯になろうとした時、本郷猛の耳にパシィ―――という音が響いた。
 何が起こったの全く理解出来ないでいる本郷の上に、『何か』が勢いよく落ちた。本郷は『それ』を反射的に受け止めると、ようやく事態を把握した。
 本郷の上に落ちた『何か』は、なんとしても自分の腕で抱きしめたかったひとりの人間―――一文字隼人だった。
「隼人…っ」
 嬉しさのあまり声が震える。【改造人間停止装置】のせいで、動きを封じられたままの一文字をしっかりと抱きしめ、本郷は泣いた。
 と、頭上で怒りに震える声がした。
「ア……アマゾンライダー…貴様……」
 見ると、空中に浮かんだまま、ゾル大佐が一箇所を凝視―――嫌、睨みつけている。
 その先にいるのは―――仮面ライダー6号・アマゾン。
 アマゾンは怒りの形相でゾル大佐を睨み返していた。手にロープを握り締めて…。
(そうか…。あれでゾル大佐の手から一文字を開放してくれたのか…)
 ロープは、変身前でも使用可能な万能ベルト・コンドラーのバックルに内蔵されている。主に移動手段として使われる事が多い便利な武器だ。
 その便利な武器が、先程ゾル大佐の手を強かに打ったのだ。その結果、ゾル大佐に抱きかかえられていた一文字は彼の手を離れ、下にいる本郷の上に落ちた。
「よくもやってくれたな……」
「それはこちらの台詞だ!」
 高々と神敬介の声が響いた。これからという時に一文字を取り戻され怒り心頭のゾル大佐に、敬介は続ける。
「今から貴様は我々の怒りを知る事となる!」
「はっ!どうするというのだ?戦闘員に囲まれて身動きも取れないお前達が!」
「イ―――ッイ―――ッ」
 神敬介は不敵に微笑む。
「全く身動きが取れないとでも思っていたか?」
「何!?」
言葉の意味をゾル大佐が理解する前に事は起こった。
「逆ダブルタイフーン!」
 凄まじい横殴りの風が巻き起こったと思ったとたん、ゾル大佐の体は木の葉のように宙を舞った。縦横無尽に風―――嫌、小規模な竜巻に弄ばれるゾル大佐。同じように飛ばされている戦闘員とぶつかっているらしく、時折鈍い音が聞こえた。
(逆ダブルタイフーンと聞こえた…。うむ、と言う事は志郎―――v3だ!)
 一文字を庇いながら、本郷は竜巻に飛ばされないよう地面にへばり付いていた。先程まで自分の身動きを封じていた戦闘員達の殆んどは竜巻に飲み込まれ、それ以外の戦闘員は必死に本郷と同じように伏せている。
 小さな竜巻は、ゾル大佐や戦闘員と共に本郷邸の壁を突き破り外へと踊り出た。バキバキと庭木の折れる音がする。
 竜巻に巻き込まれなかった殆んどの者が呆然と見守る中、竜巻はだんだんその威力を弱めていった。それに合わせボタボタと地面に激突する戦闘員達。最後に、ゾル大佐がひときわ高い箇所から落ちた。
「上手くいったな…」
 本郷が、天井からパラパラと落ちてくる埃等を払っていると、後の方から結城丈二の声がした。振り返ると、結城は―――変身が解けたのだろう―――風見志郎の隣に立って外の様子を窺っている。
「ああ、だが、まだ一仕事残っている―――」
「イ―――ッ!イ―――ッ!」
 風見が言い終わらないうちに、竜巻に飲み込まれなかった戦闘員が七人に襲い掛かった。その数はざっと二十人。
 まだ動けないでいる一文字を抱きかかえ、本郷は襲い掛かってきた戦闘員を足で応戦する。が、本郷でも流石にそれは厳しかった。後ろから剣を振り回してきた戦闘員に対応しきれず…
 ドカッ―――。
鈍い音が響き、戦闘員が後方へ吹っ飛ぶ。
「本郷先輩!」
「茂!」
 いつの間にか、不敵な笑みをこちらに向け、茂が本郷の後ろに立っていた。
「ここは俺達に任せて、早く一文字先輩を!」
「うむ、すまん!頼むぞ!」
 茂が二人に襲い掛かる戦闘員を引き受けてくれているうちに、本郷は一文字を抱いて部屋を出た。二人が出た後ドアを閉め、茂はその前に立ち塞がった。
「ここから先は誰も通さねぇ!」



      ●    ●    ●

 



 体のあちこちが痛んで、ゾル大佐は顔をしかめた。土の味が口に広がり、ジャリと音がする。
 ゆっくりと地面から体を起こし、辺りの様子を窺う。ゾル大佐の周りで同じように戦闘員が何十人も倒れている。倒れている戦闘員で動けるのは極僅かなようだ。
(くっ…仮面ライダーV3め!)
 頭に鈍い痛みが響いた。どうやらしこたま打ち付けたらしい。
 何とか立ち上がり、何やら騒がしい方を見る。と、戦闘員が風見志郎達と戦っているのが見えた。形勢は不利のようだ。
(―――?!一文字と本郷がいない!)
 一番肝心な人物と一番気に入らない人物がいない事に気付き、ゾル大佐は嫌な予感を覚えた。
(………このままいても無駄か……)
 認めたくはないが、大幹部―――指揮官として的確な判断をしなくてはならない。組織に不利な事は出来ない。
(……奴なら時期に【改造人間停止装置】の効果を無効にするだろう…)
 認めざる得ない。本郷猛のずば抜けた能力を。何度も見せ付けられてきたのだから…。
ゾル大佐は自分を落ち着かせるように息を深く吸い込んだ。冷静になって、どうすれば一番利益があるか考える。
(取り合えず『作戦』は中止だ…)
「…ちっ」
 舌打ちせずにいられない。
 悲鳴を上げる体にムチを打ち、ゾル大佐はダメージを受けてないよう、いつものように足を踏みしめた。
「仮面ライダー諸君!」
 辺りを凌駕するゾル大佐の声に、呼びかけられた風見達だけでなく、戦闘員も振り向く。途端に静かになる本郷邸。
「ゾル大佐…」
「今日のところは引き上げる!だが、これで終わりと思うな!」
 完璧な負け惜しみとハッタリだったが、言わないよりはマシだろう。何か言おうと口を開きかけた風見達・仮面ライダーを無視し、ゾル大佐は煙幕を使いその場を後にした。それに続き、他の戦闘員達も撤退していく。
 ショッカー・日本支部本拠基地の自室に戻ると、ゾル大佐は痛みに顔を歪めた。
(…くっ、…もしかしたら肋骨の一本や二本は折ってるかもしれん…)
 と、急に机の上の通信機が光と音でゾル大佐を呼ぶ。渋々それに出ると、
『……良く…やったな……。…ふふふふふ』
 死神博士の無気味な声が響いてきた。
「………………」
『…首領には…わしの方から報告しておく…。…ゆっくり…休むが良い……』
 そう言うと、ゾル大佐の返事も待たず一方的に通信を切った。
「死神博士………」
 彼の考えている事だけは理解できない。
(理解したくも無い…)
 げんなりしながら心中で呟くと、救護班に来るよう命令した。先程、死神博士の嬉しそうな声が聞こえてきた通信機を使って。

 

 

 

 


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