Hey, darlig〜3 






寒さに少しばかり身を縮めながら、新一はことさらゆっくりと歩いていた。
待ち人がいようと、まったくお構いなしだ。

(…寝不足なのに……こっちの都合なんて気にもしないんだから…)

身体のだるさを、両親に対して悪態をつくことで忘れようとする。
そうでなくても、次第に人通りが多くなっていくにつれ機嫌は底辺を這い始めているのだ。
待ち合わせ場所は駅のロータリーである。
賑わう都心の、人口密度が異常に高い駅前なんて、新一がもっとも避けたい場所。
派手好きで目立つことが大好きなヒトタチだから、気にもしないのだろうけれど。

(なんであんなのがオレの親なんだよ)

まるで正反対な人間なものだから、とても血のつながりがあるだなんて新一には信じ難いことであった。





「うわぁ…やっぱり休日だもんな…」
しかも天気がいいいとくればデート日和。待ち合わせのメッカともいえる駅前の人の多さは言わずもがなだ。
人ごみにうんざりしながら、とりあえず指定先の駅前広場へと向かう。
「あ…れ…?」
左右を見渡して、首を傾げる。
群集に埋没できる両親ではないから、見つけるのに苦労はしないはずなのに見つからない。
「……アイツら…っ」
見つからないのではなく、いないのだ。
両親の性格上、のんびりと待っているはずもないことに思い当たり、新一は怒りを覚えるより脱力してしまう。
帰ろうか―――そう、思わないでもなかったが。
ここまで呼び出されて人ごみのなかを必死でやって来たのに、無駄足になるのは非常に我慢ならない。
(どうしようか…)
きっと来るころを見計らっているか、様子をどこかでうかがっているかだ。それなら、新一も手近な喫茶店にでも入っていようかと考えていると。
視線を感じた。


(誰だ…?)

顔を上げると、幾つもの目と合う。
ジロジロと無遠慮に眺めてくるのから、こそこそと隠れて伺うのまで。嫌な視線の中でただ一つ。
不思議と不快にならない、やさしい眼差し。

モニュメントの像の傍らに佇む男。
年の頃合は新一と同じくらいで、視線がかち合うとにっこりと微笑んでくる。
その男の顔に、新一は目を瞠った。

(…似て…る…)

素直な驚きに支配される。
他人なのに、こうまで似たつくりの顔の人間がいるだなんて。

(ああ…でも、まるで雰囲気が違う)

人を惹きつける華やかさ。実際、彼の周囲には女性が取り巻いていて、何かと声をかけている。
けれど、彼はそんな女性たちには一瞥もくれずに、新一に向かって歩いてくるではないか。

「あ…の…?」

じっと見ていた自覚があるだけに、目の前に立たれて些か戸惑う。
ガンつけたと言われても仕方のない状況だから、さっさと謝ってこの場を後にしようかと思考をめぐらせた時。
ふんわりと柔らかな笑顔を見せた。

新一は無意識に胸に手を当てていた。
切ないまでの苦しさは、今朝みた夢と同じ。
訳がわからない自分の変化に、新一は取り繕うように男を睨みつける。

「何か用ですか?」

突っ慳貪な態度に気を悪くした風もなく、笑顔を崩さず頷いた。

「待ち人きたれりってとこかな」
「え?」
「君を待っていたんだよ。工藤新一くん」





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01.12.20 

 

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